第四十三話 夏祭り② 夏祭りの約束事項
わたしたちはすぐに夏祭りの屋台ゾーンにたどり着いた。
「うわーすごい人の数」
優愛は少し前のめりになってそう言った。
今日は最終日で花火が上がる日だ、いつも以上に人が多い。
「会場で待ち合わせにしなくてよかったな」
「そうだね」
こうなることは大体知っていたので、少し外れたところで合流するという話だったのだ。
「葉菜ちゃん!行こ?」
優愛がわたしの手を握ってそう言ってきた。
「別に手はつながなくてもよくない?」
「いいや!
人ごみの中で葉菜ちゃんとはぐれちゃうかもしれないじゃん!!」
そう言って優愛はさらに強く手を握ってきた。
「私はいいのかよ」
凛がじゃあ私は?ともっともな疑問を浮かべた。
「凛たんは背が高いからダイジョブ」
「お前絶対そんなこと思ってねえだろ!」
優愛が棒読みにこたえると、凛が怒った。
この場合。まるでわが子を気にしている親のような感じに見えるが。
実際のところは優愛のわがままであり、だとしてもわたしが親の立場に近いだろう。わたしのほうが背高いし。
「まあまあ、ほら!いこ!」
優愛はそう言ってわたしの手を引いて走り出した。
「ちょっと…………!」
わたしも浴衣の褄先を少し上げて足を動かした。
「おい!わたしのこと忘れてねえか!?」
凛も叫びながら、わたしたちの後を追ってきた。
ーーーーー
わたしたちは、屋台の通りを歩き出した。
「どの屋台行く~?」
優愛は相変わらずわたしの腕に巻き付いてそう言った。
「う~~ん。どうしようかな~~」
とはいうものの、わたしはあまり屋台で何か買う気はまだなかった。
なぜならばそう、お金である。
昔していたバイトの給料と晴斗からもらったお金の残りを持ってきてはいるが、油断はできない。
こういうとこの屋台。特に広い場所だと同じ商品を異なる値段で売ってることが多い。
「あ、焼きそば」
凛が少し先にある屋台を見て言った。
あそこの焼きそばは太麺と書いてある。
しかし先ほど通った屋台には普通の焼きそばがおおよそ50円安く売ってあった。
わたしにとっては太麺など関係がない。つまりただ他より高い焼きそばをつかまされる危険性がある。それがこの、屋台というものなのだ!!
ゆえにわたしはいったん全体を見てから、値段を覚えてから、買うものを選りすぐってから買いに行く……………………
「はあ…………おいしい」
…………はずなのだが。
わたしはなぜか、階段に座ってさっきの焼きそばを食べている。
「葉菜ちゃん、昔から屋台の焼きそば好きだもんね…………あむ、あちっ」
優愛は隣でタコ焼きを食べていた。熱かったようで、二つ目に行く前にふうふうと冷ましている。
「うるさい…………逆らえないんだもん…………」
一口食べて。
「葉菜は意外と食い意地強いからな」
「うるさい…………!」
一口食べた。
屋台は確実にスーパーのよりいろいろ劣っているはずなのに高値だ。
でもなにか、悪魔でも取りついたかのような引力を発している。
それに…………太麺だよ!?人類が好きじゃん!
有名なUF〇も・うまい・ふとい・おおきい、を名前の由来にしてるじゃん!!
だってのに引かれていかないわけがない。
わたしは少し怒って、頬を膨らませながら焼きそばを平らげた。
ーーーーー
「ごみ、捨てに行こうか」
買ったものを食べ終わった後、わたしはそう言って立ち上がった。
「そうだな」
「ジュースも買いに行こうよ」
優愛と凛も、よいしょ、と階段から立ち上がった。
「いいね」
わたしたちはそう会話しながら屋台通りに出た。
すると向こう側から、えっほえっほと言いながら何かが来ていた。
「あれ何?」
優愛がそう言って立ち止まった。
わたしもそっちを見ると、神輿をマッチョ男たちが担いでいるようだった。
でも神輿はそのまま止まってマッチョ男たちは下ろした。
「みんな~~!!○○○○だよ~~~!!!」
神輿の上にアイドルらしき女の子がそうやって手を振りながら出てきた。
センターにいる子は、藍色の髪で小顔で愛嬌のある美少女という奴だった。
「「うお~~~~~~~~~!!!!!!」」
見惚れてるうちにそんな雄たけびが聞こえたのでわたしたちは後ろを振り向いた。
そこには大量のファンたちがこっちに向かってくる姿があった。
「あ、ちょっと…………!」
わたしたちはそのままその大群に飲まれてしまった。
「葉菜ちゃん!!」
流されないように耐えていると、優愛が人ごみの合間に手を伸ばしてきた。
おい、私は? と凛の声が聞こえたのは気のせいだろうか。
「優愛!」
わたしはその手をつかもうとしたが、そのまま空を切った。
「あっ!」
わたしはそのままファンたちの波にのまれて行ってしまった。
「葉菜ちゃ~~ん!!」
優愛の役者さながらの呼び止めが聞こえた。
「おい!私は!?」
次はちゃんと聞こえた。
ーーーーー
流されてしばらくすると、やっと、足を止めることができた。
「ここは…………」
なんだかんだアイドルの周りからはじき出されたようで、わたしは神社がある丘の下にある雑木林近くに来ていた。
「まったくどうしたものかな~~」
結局三人ともはぐれてしまった。
合流するにも、あの人ごみを抜けるのは厳しいので回り道をすることになる。
かなり時間がかかるし、そもそもみんなの居場所がわかんない。
ピロン
思考しているとスマホが鳴った。
優愛からグループに、だいじょーーぶーー?、だそうだ。
わたしはラインを開いて返信しようとした。
「ん~~!ひっぐ…………ひっぐ、うう…………」
すると後ろから、何やら泣いている女の子の声が聞こえた。
振り向くと、ベンチの隣でうずくまって泣いている子がいた。
わたしはスマホの画面を切って、その子に近づいた。
「大丈夫?」
「迷子か?」
わたしがその子の前にしゃがんで問うと同時に隣から、聞きなれた声が聞こえてきた。
「「あ…………」」
わたしたちは顔を合わせてそう感嘆した。
案の定、影だった。




