第四十二話 夏祭り① 浴衣って、やはり良い
午後四時半ごろ。
わたしは優愛と凛を夏祭り会場の少し手前で待っていた。
この夏祭りは河口近くの河川敷から神社、平野の公園まで続いているかなり広めの大大的なものだ。
祭りは今日を含めて三日間。各日夕方の5時から夜の10時まで行われている。
花火は海の上で上がったり、砂浜から上がったり、いろいろなところから上がると評判だ。
ちなみに花火は最終日三日目にしか打上がらないので、毎年三日目がごった返しらしい。
「葉菜ちゃ~~~~~~~~~ん!!!!!!!!!!!!!!」
「ぐふっ!!」
わたしがスマホを見ながら待っていると後ろからすごい勢いで抱き着かれた。
勢いのせいで何か柔らかいものが固くなってわたしの背中に押し付けられている。
「久しぶりだな~~葉菜ちゃんのこの匂いと肌感と…………」
「優愛…………ちょっとキモイ」
「はう…………!」
すると優愛は抱き着いたまま、ガーン、とショックを受けていた。
「よう、久しぶりだな」
優愛の後ろ側から、凛が歩きながら手を振ってきた。
「凛、久しぶり
…………優愛と一緒に来たの?」
凛はある程度こっちに近づくと立ち止まった。
「ああ…………さっきばったり優愛と会ってな、適当に時間つぶしてから来たんよ」
「なるほどね」
二人とも、なんで時間つぶすほど早めに出発していたのだろうか。
「はあ、葉菜ちゃんだーー。えへへ」
「…………優愛、お前そろそろ離れたほうが」
「やだーーー、離れたら死ぬう…………」
優愛はそう言って、わたしのお腹に顔をさらに押し付けた。
「…………わたし、優愛にもうちょっとちゃんと浴衣見てほしいなあ」
「はっ…………!!」
優愛はそう鳴いて、やっとわたしから離れた。
「うんうん!やっぱりあのお店で選んでよかった!めっちゃいい!!」
優愛は首を大きく振りながら、グッチョブと親指を立てた。
わたしが着ているのは白地に淡い黄色と水色の花柄が付いた浴衣。
帯は藍色だ。
「ちょっと下駄がきついけど」
下駄も買ったのでせっかくだから着たけど、やはり少し怖い。
「よく一人で着れたな」
「ちょっと手伝ってもらったんだよね」
実はおやつの時間くらいに、星ちゃんがうちに来て着替えていった。
その時、着るのを手伝ってもらったのだ。
「むむ…………お母さんに?」
優愛がちょっとわたしを怪しんで聞いてきた。
「ん?うん、そ。着方質問しながらね」
「へー」
優愛の信用は得れてない様子だ。
「そんなことよりも、優愛もかわいいね?」
わたしはそう言って、優愛の浴衣を見た。
凛もそっちに目線が行き、確実に話をそらした。
「でしょ~」
優愛はゆっくり回って見せてきた。
優愛の浴衣は同じく白地で、黄色の波紋が広がっているような感じだ。
帯は白色。
いつもピンでとめている髪は和風なピンクの花の形をしたヘアピンになっていた。
「そのヘアピン、あの店に置いてあったやつか?」
「そうなの!昔あそこの人たちがくれたんだ~~」
優愛はそう言って、ヘアピンを少し触った。
くれたということは作ってくれたのだろうか。
さすがご令嬢だ。
「さてそろそろ行くか」
凛はそう言って、歩き出した。
はて。
「凛~~、逃げちゃだめだよ~~」
そう言ってわたしは凛のわきに後ろから手をまわして、持ち上げ、優愛に見せつけるようにした。
「ちょ、何すんだよ!やめ…………」
「ん~~~!!!!凛たんも似合ってるぅ~~!!」
優愛は声高にそう言った。
すると凛の抵抗が収まり、代わりに顔が赤くなっていった。
凛はこういう素直な誉め言葉が一番効くのだ。
そうしてわたしも凛を下ろして、優愛の隣に並んで凛を観察した。
凛の浴衣は淡い紫を基調にした紫陽花の柄。
帯は黒に近い色で、少し模様が入っている。
髪はいつも通りポニーテールだが、浴衣に合わせて紫色のシュシュでまとめている。
「いいじゃん、柄にもなく化粧もしてるんだし、別に恥ずかしがらなくてもいいのに」
「うぐ…………」
「そうだよ凛たん
変に避けるからこうなるじゃん」
「う…………た、たんじゃねえし…………」
顔を真っ赤にしてかすかな小声でしか反論できないくらいに、凛は弱ってしまった。
「それよりも早く行くぞ…………!」
凛はくるんと後ろを向いて、歩き出した。
「行こうか」
「うん」
そうしてわたしたちは夏祭り会場に歩き出した。
そのときに優愛の手首についている一緒に買ったイルカのアクセサリーが揺れて、私の手さげの中に入ったお揃いのアクセサリーをつけるのを忘れていたことに気が付いた。
つけるのは、あとででいいや。




