第四十一話 盆④ 紙
「ふう…………」
しばらくして、俺は家に帰ってきた。
親父は俺を送った後、家に入ることもなくどこかに行った。
「にしても」
俺はその紙を机に置いて頭を抱えていた。
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満月家の第十二代目当主を引き継ぐ者。
拒むのならば以下二つの条件を満たせ。
一つ「高校を卒業すること」
主が高校三年生に進級すると同時に、高校との契約書を破棄する。つまり、主は高校の一般学生となり一定の単位と成績を満たさなければ留年となる。
この条件は主が高校を留年なしに卒業することを示す。
二つ「結婚すること」
主の恨むを買ってしまっては、この家を任すことはできなくなってしまう。そこで、もし主が高校卒業までに結婚したのならば引継ぎは行わない。
この条件は主が思い人と結ばれ、籍を入れることを示す。
注意:この紙の内容は現当主と次期当主間でのみ共有されている。理由はほかの者たちからの反発や主を手助けするのを防ぐためである。よって、この紙の内容を無暗に口外することを禁ずる。
第十一代当主満月 悠雲
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「あんのじじい…………つまるところ、互いに諦めをつけようってか?」
ありとあらゆる文言がムカつく。
どちらも、今の俺に合わせたように無理難題だ。
一つ目に関しては、今進んでいる企画がとん挫しかねない。
個人で活動してやっと来たものなのに…………
二つ目に関しては、俺にかかわらずみんなムズイ。
そもそもこの結婚は普通に学生結婚だ。
しかも俺は人との関係が極めて薄い。女性関係はなおさらである。
今からどうやって結婚なんて話が出てくるんだか…………
「影兄~~~❢❢★★」
「おっと」
俺はその声を聴いてから、すぐにその紙を折り畳み、テレビの裏に投げた。
すっかり星に帰ってきたと連絡したことを忘れていた。
「?★
どうしたの?そんなボウリング投げた後のプロみたいな姿勢して★★」
「いや、別に何でもない」
危ない。
昔俺がトランプ投げにはまっていなかったらばれていた。
ばれたら、この条件を破棄するとか言われかねない。
俺は体勢を普通に戻して椅子に座りなおした。
「今年はどんな感じだったの?☆彡」
星は、向かいの椅子に歩きながらそう言った。
後ろには大量の荷物を持った原さんが二階の階段に向かう様子がある。
「別に変わんねえよ
いつも通り面倒でうざったらしい」
実のところは色々あったわけだが。
「へー★」
星はそう言いながら椅子に座った。
「でも今年はちょっと終わるの遅かった?★★」
時間はもうすでに午後四時過ぎ。
いつもならおやつの時間までには確実に帰ってきていたため、何かあったと予想できるのだろう。
「当主の爺と少しな」
「喧嘩でもしたの?★★」
星はなんかにやにやと笑いながら聞いてくる。
「喧嘩だったらもうちょい単純なんだけどな…………」
喧嘩なら言い合い殴り合い、結果勝者が出る。
俺はそうではなく、謎の無理難題を吹っ掛けられただけであり、勝者が決まるのはあと一年半後…………いや、そもそも俺はもう負けているのではなかろうか。できるはずのない課題を押し付けられた時点で、もう負けているのではないか。はあ、もうほんと無理。
「はあ…………」
「…………随分疲れてるね☆彡」
星は少し笑いにほころびが出た。
今までこいつと夏祭りとかに行かなかったのは、毎回俺が疲れてたりして星が後ろめたさを感じていたからなのもあっただろうか。
「夏祭りには行くよ
せっかく服も買ったからな」
「え…………あ、うん❢❢」
らしくないことを言っただろうか。
まあ、今日ぐらいはいいだろう。
最近見た中で一番の笑顔を目の前のやつがしてるんだし。




