第二十九話 過干渉
十九時くらいに葉菜ちは帰った。
すると影兄が十九時半くらいに夜ご飯を作りに二階から降りてきた。
「美味しい★」
そして今は、影兄と一緒に夜ご飯を食べている。
「よくもまあ、あんなにお菓子食っといてそんなに夜飯も食えるな」
「別腹ってやつだよ★」
「へー」と影兄は聞いてきたくせにちょっとそっけなく答えた。
「…………ところで、今日はどこに出かけてたの?★」
「ちょっと、用事がな」
「もう❢それじゃあ答えてないの同じだよ❢」
あたしはほっぺを膨らましてそう言った。
「ああ…………まあ、趣味がうまくいってるだけ」
ここで仕事と言わないのは、何かのプライドか、こだわりだろうか。
「作曲の?★」
「まあな」
すごいじゃん、と言いたくなったが、おそらく影兄はいい反応をしないだろう。きっとストレスをためるような言葉だ。
「名前とか変えたんだっけ★」
「一応全部変えたつもりだけど、まあ、勘のいい奴は気づいてるよ」
それもそうだ。
影兄は自称しないだろうけど、これでもそれなりにファンのついていたボカロPだった。
過去形なのは…………よくないかな。
「もしもイベントとかあるなら教えてね★★」
「機会があったらな」
これは多分教えてくれないやつだ。
まあ、じいに調べさせれば分かるだろうけど。
「てか、お前
今日、原さんに俺の跡つけさせてただろ」
「あ❢★★ばれた?★★」
「ばれた?じゃねえよ
原さんのことも少しは気ぃ使ってやれよ」
「そんなんだからあの人たちに嫌われるんだよ☆彡」
あの人たちというのは、満月家の老人どもだ。
「お前もそっち側だったな」
影はそう言うと、少し顔を険しくした。
まあ、当たり前だ。
あたしも意地悪で言ったし。
それにあたしだって影兄が満月に合った人間じゃないことくらい理解してる。
「お盆。あの人たちこっち来るんでしょ?★」
「多分な
毎年なんやかんやで来てるし世間体気にしてんだかねぇ」
世間体。
影兄のお母さん。つまりあいさんのことは気にしていなくて、ただ息子、はたまた血縁者の嫁が死んだ。ということに火がつかないように、はた目から見たら悲しんでいるようにお墓参りしに来る。ということ。
「葉菜ちにいろいろ聞いたけど、お酒とか、お墓のこととか、よく言ったね★★
随分珍しいじゃん★」
「仕方なかったんだよ
お前が聞いたであろうこと以上は言ってない」
「そう。一番大切なとこをね?★」
そういうと影兄は大きな一口で晩御飯に食らいついた。
「いう必要ねえだろ?
それとも言った方が都合がよかったか?」
「いや★結果的に葉菜ちのことを守ってることになってると思うよ★★」
「そうかよ」
影兄はそのまま「ご馳走様」と言って食器を片付けに行った。
ーーーーー
あたしは夜ご飯を食べ終えた後、部屋のベッドに寝転がっていた。
部屋は毎年来るたび決まって選ぶ部屋だ。
残念ながら影兄の隣の部屋はいつも断られてしまうので、そのもう一つ隣の部屋である。
ある程度、情報が集まった。
先日は影兄が葉菜ちのことをどれくらい知ってるか。
今日は葉菜ちが影兄のことをどれくらい知ってるか。
そして、葉菜ちのある程度の情報と、二人の今まで。
分かったことは、あの二人は互いに干渉しすぎない。
いや。干渉しようとしてしたもののほうが少ないのかもしれない。
多分、今互いに持っている互いの情報は事故で知ったことのほうが多いのだろう。
実際、ふつうは気になるようなことを互いに聞いていなかったし、知りたがっていなかった。
不思議の多い関係だ。
というかあたしも気になっていることはいくつもある。
その最たるものは出会いだ。
じいは、春にお墓でと言っていたが、そもコミュ障で人と関わらない影兄があんな陽キャ的な子を家に居座らせるだろうか。
「いやいやないない☆彡」
あたしは顔をふってその考えを否定した。
そもそも、影兄は人と仲良くなれば普通にため口になる。
今までで影兄が葉菜ちにため口だったことはなかった。ずっと敬語だ。
きっと、葉菜ちが何か約束を結ばせたんじゃないか?
「でも…………☆彡」
あの時の会話の仕方。
影兄が帰ってきた時のあの、敬語なのに自然な会話。
どこか変だ。
…………あたしも変だ。
あの時、影兄のお母さんのことを言ったら、きっと葉菜ちと影兄の関係を断てたかもしれない
あることないこと、できる限りのひれというひれをつけて、伝えてしまえば、葉菜ちはここに来ることもなくなるかもしれなかった。
あたしの望みそのものだったのに。
なんか、ないかな~~~。
影兄からあの虫を引きはがす方法。
「…………あ★★★」
あたしはアクロバティックにベッドから降りて、部屋から飛び出た。
ーー影視点ーー
「あ~~~~~疲れた」
今日は久方ぶりにまともに外に出た。
しかも都市圏まで行ったから、もう人並みに揉まれまくって体がだるい。
でも、いい疲れ方だ。
満足感がある。
明日からはもうちょい忙しくなるだろうが、くだらない悩み事を酒でぶっ壊してる日々よかマシだ。
「影兄~~~~~~~❢❢❢★★★★」
そう考えながら前新調したゲーミングチェアでぐーたらしていると、星がすごい勢いでドアを開けてそう叫んできた。
「な、なんだよ…………びっくりした」
俺はヘッドホンを取って星のほうを向いた。
「夏祭り、行かない?★★」
「は?」
きらっきらに目を輝かせながら星はそう言った。




