第二十五話 分家
満月家というのは、世界大戦中にもかかわらず、様々な国への輸出業で栄えた一家である。
その前から、厳密にいえば江戸末期からも、武士を従えた貴族として代々、様々な家業が受け継がれてきた。
その中で、別れてできていったいくつかの分家が如月家だ。
「ねえ、影兄★★」
「んだよ」
そんな如月家長女こと、あたし如月星は
本家、満月家長男次期当主である満月影に
「夜ご飯も作ってほしいな❤︎★」
ゾッコンである。
「部屋籠るわ」
影は有無を言わさず、あたしをリビングに残して階段を上がっていった。
あたしも上に行こうと思ったが、そうはせずに、テーブルの上のコップを手に取って一口飲んだ。
コトっとそのコップを置いて、一息ついてから、あたしはとりあえず脱衣所に向かうことにした。
毎年、夏休みになるとあたしは影兄の別荘に来ている。
それはもちろん、普段家の老人たちのせいで影兄から離されてしまっている分、影兄を補給するためである。
もちろん影のくそおやじには会いたくないので、帰ってきそうなら帰り、影との二人っきりを楽しむんだけど…………
あの、波島葉菜とかいう女には警戒しないといけない。
あたしは脱衣所に着くと、おいてあるタオルを確認していった。
影は家事をよくする。使用人に家事を禁止するくらい。
だからこそいくつか癖がある。
大抵の場合影はタオルを同じやつを使う。
しかもお風呂から上がって手に取りやすいように風呂場に一番近いところに固定で置いてある。
そのほかのタオルは大体半年くらいで一回まとめて洗ってるって言っていた気がする。
もしも葉菜ちがこのお風呂を使ったことがあるならきっと…………
影は恥ずかしがり屋だから、つかわれたタオルを使わないように、お風呂場から遠めのところに置いてあるはずだ。
そして、影はお気に入りの柔軟剤があって、洗ったとしたらその匂いが濃いはず。
わたしは、明らかにモフモフしているタオルを手に取って匂いをかいでみた。
「ラベンダー…………」
影のおきにの柔軟剤だ。
影の父親はこの風呂場を使わないはず。
つまり葉菜ちはこの風呂場を使ったことがある可能性が高い。
そう、可能性が高いだけだ。
でも、この可能性があることが重要なのだ。
夏休みが終わるまでに何とかしないと…………
ーー影視点ーー
「ふう…………」
俺は部屋に入るなり、ベッドにダイブして脱力していた。
またこの時期になった。
星はこの時期になるといつもうちにやってくる。
いつもは連絡をよこしてから来るのだが、今年はほぼ凸られたみたいな感じだ。
一体どうやってあの大人達を説得してうちにやってきてんだか。
「昔のほうが、無邪気でかわいかったのに…………」
今ではませたクソガキのようなものである。
高校に入る前から化粧とかが大好きで、いくつか化粧道具のために俺の金が消えて行ったりしていたころはまだよかった。
今となっては変に自立したせいで、とがめることのできない無限の自由人になっている。
まあ俺のせいなこともなくはないが。
今年は"葉菜"という異例もあるしなかなか面倒ごとになりそうだ。
「とりあえず明日。なんとかしねえとな~」
俺は大きくため息をついて、現実から逃げるように目をつむって寝に入った。




