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桜桜にして咲く櫻  作者: nor
第二章 蓮(高二夏編)
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第二十三話 勘違い

 優愛が帰った翌日、わたしは久しぶりに影の家に向かっていた。

 

 なんだかんだ夏休みも四日目、あと数日で七月も終わってしまう。

 この田舎は比較的気温が低い立地になっているがそれでもうなるほど暑い。

 最近は晴れの日が続いてるし、今年はなんだかすごく蒸し暑い。

 あるところではもうすぐ猛暑日が来るとか言ってるし、できれば勘弁してほしい。


ピロン


 わたしが墓場への坂道を上っていると、スマホが鳴った。

 昨日の宣言通り、優愛はすごい頻度で連絡してくるようになった。

 ほんとに冗談なしで。


 多分連絡したくなったら脊髄反射で送っているのだろう。

 今まで「わるいかな~」とか「うざいかな~」とかを考えていたのが一切無くなった結果、おそらく寂しさを一瞬でも感じたら何か送られてくる。


 大体スタンプ一個とかのことが多いのだが、今回はうるうると泣き顔な感じの猫ちゃんのスタンプだった。

 これで既読をつけないと、次は文章がスタ爆みたいに送られてくるのだが、既読をつけると、小一時間は音沙汰がなくなる。

 それでも一時間なのだが、既読をつければいいだけなので、まあ最悪の状態ではない。

 今回も既読をすぐにつけたので、しばらくは大丈夫だろう。


 わたしは画面を切って、スマホをポケットにしまった。


 最近、ずっど一人の時間がなかなか取れなかったので、影の家に行くのが意外と楽しみだったりする。

 今は昼過ぎなのでワンチャンご飯を少し恵んでくれるかもしれないし、そもそもベッドとかがふかふかなのでストレス値が激減するし、スマホの充電も勝手にできる。

 なかなか居心地がいいのだ。

 

 言っても優愛のお出かけくらいしか、今のところ予定がなかったので、今日からはたいてい影の家に通うことになりそうだ。


 わたしはそのまま葉緑の墓場を抜けて、例の山道を下っていった。


ーーーーー


 数分後、わたしは影の家に到着した。


 試しにドアノブに手をかけて回していた。


ガチャッ


「え?」


 なぜか、ドアにカギはかかっておらず素直にノブが回った。


 いつもなら鍵はかかっているはずだ。

 まあこういうこともあるか。


「おじゃましま~す」


 わたしはそう割り切って、そのまま家の中に入った。


 特に返事もないので、二階に籠っているのだろう。

 残念ながら、ご飯のお恵みはなさそうだ。

 

「あれ?」


 わたしはドアを閉めてから二つのことに気が付いた。


 一つ目は、

 「私」になっていないこと。

 いつもならこの家に入ると、スイッチするはずなのだが、特に何も変わらない。


 二つ目は、

 靴が、いや訂正しよう。

 とてもおしゃれな厚底の黒いブーツが、つまり確実にこの家のものではなく、()()()()だ。

 そんなものが、確かにそこに存在していた。


 つまりそれは、ここに影以外の人間がいるというわけで、それは女性であるわけである。


「はは~ん」


 確かに影の口から女性関係の話で、()()()()()()なんて聞いたことはない。

 いくら影といえど、恋人くらいいる物なのか。


ピロン


 すると、スマホがまたなった。

 また優愛からかなと思うと、影からだった。


今日も部屋で待ってる♡♡


「…………おえ」


 吐き気を催す文章であった。


「ちょっ…………なにやって!!」


「別にい~じゃ~~ん★」


 二階から、そんな二人の声が聞こえてきた。


 なるほど。

 察するにこの文章は彼女さんが書いたものなのだろう。


 わたしは靴を脱ぐ前に、少し思考した。

 行くか行かないか。

 

 行けば面倒なことになるのだろうが、向こうから来いと言われては…………行かねばなるまい。

 もしかしたら彼女さんが、やきもちしていたり、何か勘違いさえていては、たまったものではない。


「よし…………」


 わたしは靴を脱いで二階へ階段を上り始めた。


ーーーーー


「早くそれ返せ!!」


「も~~、別にいいじゃん★★❢❢」


 わたしが影の部屋の前に立つと、中からそんなじゃれついた喧嘩声が聞こえてきた。


「は~~~~~~~」


 わたしは深く息を着いてから、そのドアを開けた。


「「え?」」「あれ~~★★??」


 そこには影が女性のことを押し倒している情景ができていた。

 よくもまあその体勢でも影の髪は動かないものだ。顔が見えない。

 

 すると影は慌てて立ち上がり、


「葉菜さん、なにか勘違いをしていらっしゃいませんか…………?」

 

 と手をこちらに伸ばしてきた。


「幸せそうで何よりでございます」


 わたしはにこやかに、祝福の意をたっぷり込めて、ドアを勢いよく閉めた。


「いった~~~~~~~~~~~~い!!」


 ドアに手を挟んだ影の声が、森の木々たちによく響いた。



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