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邪神が夢見る異世界  作者: 中野 翼
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正体不明

『話を戻そう。カーバンクル、俺が人間じゃないとして、じゃあ何と認識しているんだ?』


星夜は話をカーバンクルの方に戻した。


『ベネフィット』

『ベネフィット?恩恵?』


カーバンクルが言った言葉は、向こう側の世界の言葉で恩恵を意味する言葉だった。


星夜が人間ではなく恩恵というのは、いったいどういうことだろうか?


『アドベント。プレヤー。フェイス。オラクル。ゴスペル。アポスル・・・』


星夜が自分の正体に疑問を持っていると、カーバンクルから恩恵以外の言葉も紡がれていった。


『ちょっと待て!』


星夜は慌ててカーバンクルに待ったをかけた。そして、今カーバンクルが言った言葉の意味を確認した。幸い全部英語だったので、なんとか意味は理解出来た。


最初から順番に訳すと次のようになる。


降臨、祈り、信仰、神託、福音、使徒。


カーバンクルの言葉を訳した結果、やたら仰々しい内容が出てきた。


というか、恩恵も含めるとやたら宗教っぽいラインナップだ。


大部分はなぜ星夜をそう表するのかわからないが、使徒という言葉だけは予想がついた。

おそらくだが、カーバンクルは星夜を神の使徒と言いたいのだろう。


使徒かどうかはわからないが、星夜が神様の意向を受けて行動していることはたしかだ。

なので、カーバンクル達が星夜を神の使徒と判断しても間違いではない。


『続キ、良イ?』

『え?ああ、良いぞ』


そんな風に考えていた星夜に、カーバンクルは続きを言って良いか聞いてきた。


星夜はすぐに許可したが、内心はまだあるのかと思っていた。


『オリジン。イグジスタンス。ハーモニー。ケイオス。オーダー。ライフ。デス。フェイト。ウィッシュ。ホープ。ディザイア。ハピネス。アビリティー。マインド。ハート。ソウル。メモリー。ドリーム。アイディアル。ファンタジー。ウィル。アンコシャス。オブリウ゛ィオン。アウェイクニング。ネイチャー。ユニウ゛ァース。マター。エレメント。ワールド!』


が、残りは先程の数倍近くあった。

いつも片言のカーバンクルのどこにこれだけの単語が眠っていたのかという感じである。


ちなみに、後の分も全部英語だった。

訳と次のようになる。

原初、存在、調和、混沌、秩序、生、死、運命、願望、望み、欲望、幸せ、能力、精神、心、魂、記憶、夢、理想、幻想、意思、無意識、忘却、覚醒、自然、万物、物質、元素、世界。


抽象的というか、人を指す言葉ではないのがほとんどだった。というか、真逆の単語もそこそこあって、星夜はカーバンクル達が自分をどう見ているのか完全にわからなくなった。


それほど内容が目茶苦茶だったのだ。


やっぱり幻獣と人間の感覚は違うものなのだろうか?


星夜は少しだけそんな現実逃避をした。


『まあ、今度他のカーバンクルにも聞いてみよう』


星夜は、とりあえず今は結論を出さないことにした。


このカーバンクルだけがこうなのかもしれないからだ。

まあ、他のカーバンクル達の様子を考えると、同じような答えが返ってくる可能性が高いが。


『さて、そろそろ帰るとするか』

「もう帰るんですか?」

『ああ。さすがに長いしすぎたからな』

「そうですか。それじゃあさようなら。明日会えるのを楽しみにしています」

『ああ』


星夜は深剣にそう返すと、盗賊達のアジトをあとにした。



「あっ!?結局盗賊達のアジトについて聞いてない!」


帰る途中、影の異世界で星夜はそのことに気がついた。


「まあいっか。盗賊達のアジトくらいマップで探せば良い。もし見つからなかったとしても、スライムでも大量に呼び出して人海戦術に切り換えれば良いしな」


星夜はそう結論し、今は気にしないことにした。


「そういえば空転のキャスターのこともほおってきたな。まあ、依頼を達成した時点でもう用はないんだけどな」


星夜はもう一つ忘れていたことを思い出したが、そちらの方は本当にどうでも良さそうだった。




「消えちゃいましたね」

「ああ」


星夜が去った後、深剣達はしばらくぼおっとその場に立っていた。


「これからどうします?」

「みんなを起こしたら良いんじゃないか?」

「そうですね。盗野さんはどうします?」

「俺も手伝おう」


深剣が盗野にどうするか聞くと、盗野は二人を手伝うと言った。


そして三人は、仲間の冒険者達の介抱をはじめた。


「うん?」


ぴょん!


深剣達が仲間の冒険者達に近づくと、冒険者達の傍で彼らを治療していたポーションスライム達が一斉に移動を開始しだした。


「この魔物って?」

「あいつが呼び出した連中だな。あいつ、こいつらを忘れて帰ったな」


深剣と氷室は、残っているポーションスライム達を見てそう判断した。


実際、星夜はポーションスライム達を回収することもころっと忘れていた。


深剣達三人が見つめると、ポーションスライム達は洞窟の出口に向かって移動を開始した。


その姿はあっという間に見えなくなり、その場には深剣達が取り残される形になった。


「一気にいなくなりましたね」

「逃げ足が早いんだろう」

「だな」


ポーションスライム達を見送った深剣達は、あらためて冒険者達を介抱していった。


「それにしてもあの人はすごかったですね」

「ああ。俺達なんてまるで相手にならなかったな」

「だな。あいつは攻撃のタイミングを俺達に教えてくれたりと、かなり手を抜いてくれていたのに、俺達はあいつにまともに攻撃をすることも出来なかったからな」


冒険者達を介抱しながら、深剣達三人は去って行った星夜について話をした。


「同じ転生者のはずなのに、なんで僕達はこんなに弱いんでしょうね」

「たしかにな」

「いや、多分逆だろう。あいつが転生者の中でも飛び抜けているんだ」

「そうなんですかね?」

「どうだろうな?」


盗野の意見に、深剣と氷室は判断がつかなかった。


「あいつが教えてくれた俺達のスキルは強力だ。が、あいつに通用すると思うか?」

「・・・無理ですね」

「・・・無理だな」


少し考えた後、深剣と氷室は盗野にそう答えた。


「だろう。俺達は五人もいたが、手も足もでなかった。逆にいえば、俺達の方が転生者としては平均的なんだ」

「まあ、数からするとそうなりますよね」

「そうだな」

「だろう。それに、あいつには気になる点がある」

「気になる点ですか?」

「ああ」

「何が気になるんだ?」

「あいつに依頼を出している主が、だ。さらに言えば、スキルや魔法を報酬に出来る存在が何かについてだ」


盗野の答えに、二人は納得がいったようで頷いた。


「たしかにそれは気になりますね」

「さっき聞いた時は濁されたしな」

「ああ。名前を聞いたら発狂するかもしれないと言っていたしな。あいつの主はいったい何者なんだろうな?」

「発狂するとなると、精神的に酷い存在でしょうね」

「まあ、そうなるだろうな」

「悪魔とかの類いでしょうか?」

「わからん。が、あいつからはその手の嫌な感じはしなかった」

「そうだな。口は悪かったが、悪魔に力をもらうタイプには見えなかった」

「たしかに」

「そうですね」


それからも三人は星夜の主の正体について、お互いの推理を話し合った。


そして、冒険者達の介抱が終わり、冒険者達が全員目を覚ますと、盗賊達を全員討伐し、捕われられていた人々を救出。


冒険者達と転生者達は全員盗賊のアジトをあとにした。


その際、冒険者達に盗野の正体がばれることはなかった。


星夜の記憶処理は、無事に成功していた。



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