制御に向けて
ポーン!
【依頼達成。報酬贈呈。ユニークスキル:昇華を獲得しました】
星夜が不安を覚えた直後、依頼達成のメッセージが流れた。
神様の側で気を利かせてくれたのだろうか?
星夜は微かにそう思ったが、今はその疑問を棚上げすることにした。
急いで彼らのスキルの暴走を止めないと、彼らの身がまずいからだ。
『依頼が達成された。今からその暴走の沈静化を補助する』
「「「「!?」」」」
星夜がそう伝えると、外套の人物以外は内心安堵した。
しかし、続く星夜の言葉に再び緊張が戻って来た。
『ただ、空転のキャスターが傍にいる為、この状況での魔法の解除は出来ない。だから、今からするのはあくまで補助だ。スキルの制御は自分達で頑張ってくれ』
星夜のこの言葉に四人は、自分達の受難はまだ続くのかと、内心落胆した。
『そう気を落とすな。ちゃんと補助はしてやる。それに、スキルの暴走を制御出来れば、今度からは自分達の意思で今暴走しているスキルを使えるようになるぞ』
四人の落胆したという思念を感じた星夜は、そう言って四人を慰めた。
これには四人にもある程度の反応があり、気持ちが僅かだが上向きになった。
『良し。なら、今から今暴走しているスキルの説明を始めるぞ』
星夜はそう念話で四人に伝えると、ポケットから一冊の本を取り出した。
『は、自分達を殺すスキルの正体を知らずに逝くのも憐れだな。せっかくだ、これも冥土の土産にするが良い』
星夜はそう言うと本のページをめくり、五人にスキルの名称や効果を話しはじめた。
星夜はフューネラルをかけた時に暴走させたスキルの名称を把握していたので、後は神様製の本で調べれば、正しい情報を彼らに与えることが出来た。
『まずは光剣のブレイバー、貴様のスキルからだ』
星夜が深剣を名指しすると、深剣は星夜の言葉を一語一句聞き逃さないように耳をすませた。
『現在暴走している貴様のスキルの名は【光剣】。本来は光を剣の形に収束させて武器とするかなり攻撃的なスキルだ』
「【光剣】。・・・攻撃的とはどういうことですか?」
深剣はスキルの名前を口ずさみ、星夜の言葉の意味を尋ねた。
『【光剣】のスキルで形成した剣は、使用者の意思一つでサイズや形状を変化させることが出来る。その為、近距離戦闘だけではなく中距離、遠距離戦闘にも対応出来る。しかも、形状変化は光の速さで一瞬で行える。さらには収束させた光の密度で威力が変わるが、最低でも鉄板の一枚や二枚は一刀両断出来るだけの威力がある。取り回しも最低の威力でもこれだ。光属性に耐性がなければ、まともに打ち合うことも出来ない』
「うわー、たしかにかなり攻撃的ですね」
深剣は、自分のスキルの強力さに唖然とした。
『さて、それで貴様の現状だが、この光を収束させるという箇所を暴走させた結果が今だ。光が剣の形に纏まらず、周囲に拡散する。そして、その光に含まれる熱が周囲のものに影響し、発火温度に到達したものが燃え上がっているのだ』
「なるほど。ということは」
『そうだ、光を剣の形に収束させられればスキルを制御出来たということだ』
星夜から答えを聞いた深剣は、さっそく光を剣の形にする為に行動を開始した。
『剛腕のバンデット、次は貴様だ』
星夜は深剣がスキルの制御をはじめたのを確認し、次のスキルについて調べた。
『貴様のスキルの名は【剛腕】。本来は自身の腕の筋肉の密度を上げ、腕力を強化するという単純なスキルだ。しかし、単純である分強化率はかなり高い。使用者の元々の腕力にもよるが、最低でも三倍近くの腕力上昇は見込める』
「おお」
『現在暴走しているのは、この筋肉の密度を上げるという部分だ。本来なら筋肉を圧縮して密度を上げる為、腕がそんな巨大になることはない。貴様がその腕を元に戻せれば、そのスキルを制御出来たと言えるだろう』
「そうか」
盗野は、腕を押さえながらスキルの制御をはじめた。
『次は貴様だ、氷爪のバーサーカー』
星夜は次に氷室の方を見た。
『今暴走している貴様のスキルの名は【氷爪】。本来は氷の爪を形成するスキルだ』
「それでこれか。くっ!」
氷室は手を上げようとしたが、相変わらず手から広がる氷で地面にくっついていて上げられなかった。
『スキルとしては氷の爪を形成するだけの単純なものだが、これも【光剣】同様なかなか攻撃的だぞ』
「どういうことだ?」
『このスキルも【光剣】同様、一定のラインまでは大きさや形状を変えられる。ただし、【光剣】とは違ってこちらは氷の為、あまり大きくすると重量が嵩んでまともに振れなくなるがな。その為、遠距離戦闘は無理だ。あと副次的な効果としては、氷爪で攻撃したものの熱を奪ったり、凍らせたり出来ることだな』
「たしかに【光剣】よりは扱いにくいスキルだが、攻撃的ではあるな」
『そうだ。そして貴様の現状だが、触れたものを凍らせる能力が貴様の制御を離れて暴走している。光剣のブレイバーのように氷爪の形を収束させるか、凍結がこれ以上広がらなくなれば、制御出来たと言えるだろう』
「理解した」
氷室も早速自分のスキルの制御に取り掛かった。
『次は貴様だ、迷走のノーマッド』
星夜は今度は迷地の方を向いた。
『貴様のスキル名は【迷走】。空間指定型のスキルで、その指定した空間内にいるものの方向感覚などを狂わせることが出来る』
「つまり、先程から視界がクルクル変わっておるのは」
『貴様の方向感覚などが狂わされた結果だ』
「・・・どうすれば良い?」
『これといってない』
迷地が問い掛けに、星夜は今までと違ってそう返した。
「なっ!?どういうことじゃ?」
『現在貴様を苛んでいるのはスキルの通常の効果の方なのだ。効果が真ともである以上、これ以上制御のしようがない』
「真とも。たしかにスキルの効果はお前さんが言った本来のものと変わっておらんが・・・。なら、儂のスキルは何が暴走しておるんじゃ?」
迷地は自分のスキルがどう暴走しているのか検討もつかなかった。
『あえていえば作用している範囲か?貴様のスキルの暴走は、勝手に発動したことを除けばそれくらいだ』
「つまり?」
『スキルを停止させるか、作用範囲を自分からズラせれば制御出来たということになる』
「・・・わかった」
迷地は移動を諦め、スキルの停止を目標に行動をはじめた。
『最後は貴様か、空転のキャスター』
星夜は最後の相手を見た。しかし。
『が、貴様には我の声はもう届かぬか』
空転のキャスターの状態を確認し、星夜はそう判断した。
現在外套の人物は、回転が極まりもう意識が朦朧となっていた。
『まあ、良い。貴様のスキル名は【空転】。【迷走】同様空間指定型の能力で、指定空間内の重力の向きを操作出来る能力だ。現在貴様の能力は、この重力の向きの指定が暴走している。本来ならその重力の向きを安定させられれば制御出来たと言えるのだが、今の貴様では不可能だろう』
星夜は一応の説明をした。
まあ、外套の人物が聞けていないだろうが、流れ的な感じで説明している。
『これで説明は終了だ。貴様らがスキルの暴走を止めるのが早いか、スキルの暴走に殺されるのが早いか、ゆっくりと見物させてもらおう』
星夜はそう締めくくり、五人の様子を見守った。




