ダンジョン作成
チュンチュン
「うーん」
星夜は、鳥の鳴き声で目を覚ました。
「もう朝?なんで?」
ナイアルラトフォテップに夢の世界に呼ばれ、本とかを受け取って帰されたはず。
なのに、次に起きたら夜を飛ばしていきなり朝。
星夜は、状況の変化についていけなかった。
星夜はしばらくの間、寝ぼけた感じで状況把握を行った。
そうしていると徐々に頭の中がはっきりしてきて、ナイアルラトフォテップに呼ばれる前の自分の状況について思い出していった。
「そういえばスライムポット達を錬成した後、魔力を消費し過ぎて気を失ったんだっけ。意識が身体に戻されても、身体が魔力不足だったから、そのまま寝ちゃったんだな」
星夜は、今の自分の状況をそう推察した。そして、視線を周囲に向けると、自分の傍に鎮座しているスライムポットを見つけた。
「ああ、ちゃんと傍に居てくれたのか。あれからも守り続けてくれたんだな、ありがとう」
星夜は、魔物がいるここで自分が無事だったことから、夢の世界で見た後もスライムポットが自分を守ってくれたことを理解し、スライムポットに礼を言った。
スライムポット?は、星夜の言葉に一度だけ震えて答えた。
「さて、もう次の日になってるんだよなぁ。ラビットやハーブラビットを捜すのは明日にするか。スライムと薬草は昨日集めているから、あとはムーングラスを採取すれば昨日請けた依頼は全部達成出来るな」
星夜は、昨日の予定を思い出しながら今からすることを決めた。そして、マップを見ながらムーングラスのもとへ向かって移動を開始した。
むろん、スライムポット?も忘れずに持って行った。
「これだな」
今星夜の目の前には、ほのかに淡く光草がいくつも生えていた。
現在マップ表示で黄色いカーソルが出ているのは、これだけなので間違いないだろう。
星夜は、依頼分と自分で錬成する分を採取した。
「これだけ採れば十分だな。さて、次はダンジョンだな」
そう言って星夜は、スライムポット?を見た。
「さすがに魔物を持って帰って街には入れないからな。そうそうに錬成した魔物を置いておくスペースを確保しないと。まずは取説を読むことからだな」
星夜はムーングラスを全てポケットの中に入れると、ナイアルラトフォテップから受け取ったダンジョンコアとダンジョンについて書かれている本を取り出し、読み始めた。
パタンッ
それからしばらくして、星夜は本を閉じた。とりあえず今必要な部分が読み終わったのだ。
「だいたいわかったな。だけど、何処にダンジョンを作るかな?取説によれば、場所はどこでも良いんだけど」
星夜の読んだ取説によれば、ダンジョンコアを設置すると亜空間が発生。その中にダンジョンが出来上がると書かれていた。その為、奥行きなどは関係なくダンジョンを作ることが出来る。
通常のイメージの、洞窟や地下に伸びるタイプ。既存の建物をダンジョンにすることも可能。
さらに取説によれば、普通はダンジョンにしないようなものまでもダンジョンの入口に出来るらしい。具体的に言うと、紙や布などの日用品。影や水などの自然物。生物の身体にもダンジョンの入口を作れるらしい。
本当に何処でもダンジョンに出来る。
が、だからこそ何処をダンジョンにするのか星夜は迷っている。
ダンジョンコアの使用可能範囲が広すぎるのだ。
星夜は、何処が一番安全か悩んでいた。
フワッ
星夜が悩んでいると、突然星夜の目の前に一枚の紙が飛んできた。
「なんだこれ?ええっと、ダンジョン作成の依頼?」
飛んできたそれには、ダンジョンを作成する依頼内容が書かれていた。
【依頼】
ダンジョンコアを使って夢の世界にダンジョンを作成せよ。
【報酬】
ダンジョンで出現させられる魔物をランダムに一種類追加。
「早速神様からの御依頼か。だけど、夢の世界にダンジョンを作成しろって、可能なのか?」
星夜は、早速の依頼にもう来たのかと思うと同時に、依頼内容の一部が理解出来なかった。
なので、もう一度取説を取り出してそれが可能なのかどうかを確認した。
「可能みたいだな。ドリームの魔法で自分の中に夢の世界を形成すれば、その夢の中にダンジョンを作成出来る。原理とかはわからないけど、出来るんだからただやれば良いか」
星夜は、自分の頭の中にダンジョンが出来ることを深く考えないことにした。所詮ここは神様の見る夢の世界。ある意味この世界自体がダンジョンなんだから、夢の世界にダンジョンが作れても不思議ではないと思うことにした。第一、その辺は多分ご都合主義が発揮されているので、自分の常識が通用するわけがないとも思っていた。
「それでは早速、《スリーブ》、《ドリーム》」
星夜は、適当に魔物が居ない場所に移動し、身体を横にしてから自分にたいして眠りと夢の魔法を発動させた。
ZZZ
そうして星夜は、再び夢の世界に旅だって行った。
「ここが俺の夢の世界。まだ何も無いな」
星夜が次に目を開けると、何も無い空間に一人ぽつんと浮かんでいた。
上も下も無く。右も左も無い。その空間に色は無く、ナイアルラトフォテップと会っていた空間のように、真っ白でも真っ黒でも無い完全な無色透明。
ただただ何も無い場所。下手すれば発狂しそうなくらい色も、音も、臭いも、触れるものも無い。
だが、星夜はとくに不安を抱いていなかったし、問題もとくに感じていなかった。
理由としては、この場所が見知らぬ場所ではなく、普段から自分の中にあった場所だったからだろう。あるいは、いつでも自分の意思でこの場所を塗り替えられるとわかっていたからかもしれない。
何故ならここは星夜の夢の世界。自分の記憶と想像が形作られる場所。
ついでに言うと、夢の魔法の効果でこの夢が明晰夢であることも確定していた。
「さすがにこれはないな。やっぱり夢とはいえ、背景なんかは必要だよな」
星夜がそう言うと、世界に色が付きはじめた。
星夜の頭の上が黒く染まっていき、その中にいくつもの光源が出現していった。最終的には、都会では見られないような綺麗な星空が出来上がった。
次に、星空の足元から無数の植物が生え出した。それはすぐに小島程の範囲まで広がり、一斉に花を咲かせていた。
小島が出来上がると、小島を中心に水が何処からか流れ出し、あっという間に小島の周囲を海に変えた。
「こんなものか。さすがは夢の世界、俺の思った通りになるな」
星夜は、自分が作りだした光景に満足し、一つ頷いた。
「それじゃあ、ダンジョンも作ってしまうか」
星夜はポケットからダンジョンコアを取り出し、今作ったばかりの小島にそれを置いた。
すると、ダンジョンコアから見えない何かが周囲に延びていき、星夜が形作った世界に浸透していった。
ポーン!
【依頼達成!報酬贈呈!】
少しすると、そんなメッセージが頭の中を過ぎって行った。
「ダンジョン作成って、これで良いんだ。すごく簡単だったな。てっきり壁とか出てきてこの場所がダンジョンチックになるかと思ってたのに。まあ、いっか。さて、報酬は何かなぁっと」
その場合は今の景観が壊れるということなので、変化がないならそれで良いということにした。
星夜は、足元のダンジョンコアに触り、現在ダンジョンで出せる魔物を確認した。
【現在生成可能な魔物】
スライム
仮称・錬成スライム
スライムポット
仮称・錬成スライムポット
ハングリードッグ
レモラ
「おーいるいる、このレモラってやつだな。あー、これはハズレだな。こいつたしか海の魔物だから」
星夜は、現在ダンジョンで出せる魔物を確認してそう判断した。
星夜が読んだ取り扱い説明書によると、ダンジョンで出現させられる魔物は、通常はそのダンジョンのダンジョンマスターと繋がりのある魔物となる。
ダンジョンマスターが魔物の場合は、スライムのダンジョンマスターなら最初に出現させられるのは同じスライムとなる。ダンジョンの規模が拡大してくると、それに比例して出現させられる魔物の数も増えていく。
ダンジョンマスターがスライムなら、スライムの上位種や近縁種が出現させられるということだ。
ダンジョンマスターが人間種。ヒューマンやエルフ、ドワーフなどの場合は、ダンジョンマスターやその配下の魔物が倒した魔物を出現させられる。また、契約や星夜のように錬成で魔物を仲間にした場合も、出現させられる魔物が追加される。
今回の場合、スライムは星夜が倒したから、スライムポットは取引をしたから出現させられる魔物として表示されている。仮称二体は星夜が錬成したから、ハングリードッグは仮称スライムポットに倒されているからだ。なので、脈絡なく表示されていたレモラが、今回の報酬だと星夜にはすぐにわかったのだ。




