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第99話 山に棲む悪魔

「……オノレェ」


 残り五体のデーモンのうち一体が怒りをにじませた。仲間が殺された姿を見て全身をわなわなと震わせて、割れんばかりの勢いで歯ぎしりする。はらわたが煮えくり返り、爆発寸前になる。


「ヨクモ……ヨクモヤッテクレタナァッ! ユルサン! 絶対ニ許サンゾ、貴様ラ! ジワジワトナビュ……ナブリ殺シニシテ、バラバラニ引キ裂イテ、二度トサカラエナイヨウ、拷問シ続ケテクレルワァァァァァァアアアアアアアアボビャロレラアアアアアア!!」


 胸の内に湧き上がった憤激を声に出してブチまけた。感情のおもむくままに喋ったあまり呂律ろれつが回らなくなり、途中で噛んでしまう。最後は何を言っているのか分からなくなる。


 同族を殺された事に対する怒りは凄まじく、一分一秒たりとも敵を生かしておけない心境になる。どんな手段を使ってでも相手を殺さなければ気持ちが収まらなくなる。


「ウオオオオオオオオッ!!」


 大声でわめいていたデーモンが駆け出すと、他の四体が彼の後に続く。五体の悪魔が包囲の中心にいる魔王に向かって一斉に走っていく。他の少女には目もくれない。


「地より生まれし者腐れ落ち、大地にかえらん……致死風デッドリー・エアッ!!」


 ザガートが右手をかざして魔法の言葉を唱える。彼の手のひらから黒いもやのようなものが放たれて、デーモンにまとわり付く。靄に触れられた途端、悪魔の肉がドロドロに溶け出す。


「ギャアアアアアアアアッ!!」


 体を溶かされる痛みに悪魔が悲鳴を上げる。空気感染型バクテリアの集合体である黒い靄は、敵の肉を秒速で融解させて真っ赤なトマトジュースと化す。

 最初の一体が白骨化した死体になると、靄は別の悪魔に襲いかかる。


「ギャアアアアアアッ!」

「ドグワァァァァアアアアアアーーーーーーーーッ!」

「アビャアアアアアアアアッ!!」


 靄にまれて、悪魔が次から次へと硫酸を浴びたように溶けていく。わずか十秒とたないうちに四体のデーモンが溶かされて骨だけになる。地面にかつて彼らであったモノが無惨に転がる。


「ヒッ……ヒィィィィイイイイイイイイッッ!!」


 一体だけ靄との接触をまぬがれていたデーモンが、情けない悲鳴を漏らしながら慌てて逃げ出す。一行に背を向けて、山頂に向かって一目散にダッシュする。


「まさか、ザガートが敵をち漏らしたのか!?」


 即死魔法で敵が全滅しなかった事にレジーナが血相を変える。いつもなら一匹残らず仕留める場面でそうならなかった事に、敵が何か凄い術でも使ったのかとかんる。


「いや……わざと逃がしたのだ」


 慌てる王女にザガートがニヤリと笑いながら答える。意図的に悪魔を全滅させなかった事を明かす。


「このままボスの居場所まで案内してもらおう……行くぞ!!」


 そう口にすると逃げたデーモンの後を追う。少女達は彼の言葉に従い、数秒遅れて走り出す。そうして一行は敵を見失わないよう一定の距離を保ったまま山の大地を駆けていた。


  ◇    ◇    ◇


 デーモンが向かった山の頂上……そこはき出しの岩がゴロゴロ転がる、草木の生えない岩場だった。四方を切り立ったがけのような岩壁にかこまれた、闘技場のようなスペース……さらにその中央にテーブルのような平べったい岩が置かれている。


 巨大な『何か』が中央の岩に腰掛けていると、岩壁の唯一の入口からレッサーデーモンが慌てて駆け込んでくる。


「ハァハァ……ゴ報告申シ上ゲマス! ヤツラガ……異世界ノ魔王ガメテ来マシタ!!」


 敵が山に侵入した事を、ゼェハァと息を切らせながら伝える。


「……ソレデノコノコト、ココマデ案内シテキタトイウワケカ?」


 部下の報告に巨大な何かが言葉を返す。まんまと敵の思惑に乗せられた配下の無能さに愛想を尽かした口ぶりだ。


「ヘ?」


 何の事か分からずレッサーデーモンがポカンと口を開けた瞬間、彼の背後から煌々(こうこう)と燃えさかるなしくらいの大きさの火球が飛んでくる。火球はデーモンを直撃して一瞬で火だるまにする。


「ギャアアアアアアアアッ!!」


 炎に包まれた悪魔が悲鳴を上げて倒れる。全身を駆け回る痛みから逃れようとミミズのように体をのたうち回らせたが、十秒とたないうちに黒焦げの焼死体になる。死体は完全に炭化しており、一陣の突風が吹き抜けると、ボロボロと崩れ落ちて風に飛ばされて散っていった。


 火球が飛んできた方角から魔王一行が姿を現す。地面に残った灰を、レッサーデーモンの死を侮辱するようにクシャッと踏む。

 魔王が顔を上げると、目の前に巨大な『何か』がいる。


 背丈六メートルほどにもなる、背中にコウモリの羽を生やした全裸の悪魔……皮膚は暗めの青色に染まっており、首から上はミノタウロスのような牛頭になっている。

 だが何より特徴的なのは、全身の筋肉がムキムキに盛り上がっていた事だ。日々の鍛錬を欠かしていなさそうな屈強なはがねの肉体は、魔法戦だけでなく、肉弾戦においてもトップクラスの実力に見える。さしずめ悪魔界のボディビルダーといった所か。


 見るからに強そうな風貌は、レッサーデーモンより格上である事が一目で分かる。


「……お前が山に棲む魔物のボスか」


 巨大な悪魔を前にしてザガートが口を開く。

 魔王の問いに、デーモンが意気揚々と答える。


「イカニモ……ワレコソ、山ニ棲ム悪魔ヲ統率スル者……グレーターデーモン!!」

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