表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/272

第95話 デーモンに呪われた村

 鬼姫を仲間に加えたザガート達一行は一旦ゼタニアの町へと戻る。冒険者ギルドのおさドーバンに事の顛末てんまつを説明すると、宿に一晩泊まって決闘の疲れをいやす。

 ギースから決闘の申し出があったため一旦保留になっていた依頼を改めてこなす事に決める。魔物にたびたび襲われた村を救うため町を離れるのだった。


 町を出たザガート達が南に数キロ歩いて森を抜けると、目の前に大きな山が立つ。そのふもとに小さな村があるのが視界に入る。

 村へと近付いていき、村を覆ったさくの唯一の入口から中に入る。入口に門番はいない。


 ザガート達が中に入っても、出迎える者はいない。これまで救世主が訪れるたびに歓待を受けた事を思えば異例なほどだ。むろん村人が一人もいない訳ではなく、彼らが外にいる姿を見かける。にも関わらず、誰も一行に駆け寄ろうとしないのだ。


 子供から大人、老人に至るまでみなが下を向いたまま意気消沈している。悲しい出来事があったようにガックリとうなだれたまま落ち込んでおり、表情に元気が無い。時折ときおり「はぁーーっ」とため息が漏れているのが聞こえる。

 ザガート達の姿を見て落胆した訳ではない。一行が村を訪れた時、彼らはすでにそうなっていた。


「これは一体……」


 村の異様な姿を目にして、レジーナが声に出していぶかる。明らかに他の村とは異なる状況に、異変を感じずにはいられない。


「なんかこの辺一帯の空気が、どよーーんとしてて重いッス。比喩ひゆ表現なんかじゃなく、本当に風がにごってて、吸ったら気分が悪くなりそうッス」


 なずみが思わず口元を押さえながら、自分が覚えた違和感を口にする。村に吹き抜ける風がよどんでいて、それが村の異変と関係しているのではないかと推測する。


「フン……邪悪な術の気配がプンプンするわい。村全体を覆うように呪いが掛けられておる。大方おおかた魔族の連中とやらが、セコい嫌がらせをしたのじゃろう」


 鬼姫が気に食わなそうに鼻息を吹かせながら、村に呪いが掛けられた事を伝える。普通の人間には空気が汚れた事しか認識できないが、彼女ほどの魔力持ちともなれば、何が起こったかを正確に把握できるようだ。


 一行が言葉をわしながら表通りを散策していると、通りに面した小屋の一軒から幼い少女が出てくる。年は七歳くらいに見え、赤いエプロンドレスのような服を着て、茶色の髪をツインテールに結んでいる。


「お姉ちゃん達、ここにいちゃダメ……」


 少女が警告の言葉を発しながら、よろよろと歩いてくる。表情は死人のように青ざめており、足取りはおぼつかない。体に変調をたしているのが一目で分かる。

 それでも少女は力を振り絞って歩いていたが、ザガート達まであと数歩の所でバタッと倒れてしまう。


「おい、大丈夫か!!」


 レジーナが血相を変えながら慌てて駆け寄る。他の者も後に続く。

 ルシルが少女を抱き起こす。少女は目を閉じたままウンウンうなされており、何らかの病気におかされているように見えた。このまま放っておいたら、半日と持たずに命を落としてしまいそうだ。


「精霊よ、傷をいやせ……治癒魔法ヒール・ウーンズッ!!」


 ルシルが少女の胸に手を当てて回復の呪文を唱える。青い光が少女の体を優しく包み込む。

 だが癒しの光に包まれたにも関わらず、病気は一向に治る気配が無い。少女は目を閉じたまま苦しそうにうなされているだけだ。やがて病気の治療を諦めたように光が消えてなくなる。


「そんな……どうして!!」


 病気を治せなかった事にルシルが困惑する。魔法で治癒できると確信を抱いたにも関わらずそうならなかった事に、自分の力が至らなかったのではないかと胸が激しくざわついた。

 どうすればいいか分からず、少女を抱きかかえたままうろたえる。助けを求めるようにキョロキョロと周囲を見回す。このまま彼女を死なせてしまうのではないかと焦りがつのりだす。


 慌てる仲間に助けぶねを出そうとザガートが前に一歩踏み出した時、少女が来たのとは別の方角から一人の老人が歩いてくる。六十代から七十代に見える、背が曲がった白髪の男性だ。時折ときおりゴホゴホッと苦しそうにき込む。


「また一人、犠牲になってしまったか……」


 老人は倒れた少女を目にするやいなや、そう口にする。彼女の未来を悲嘆したように顔をうつむかせた。


「老人……この村で何が起こったか、詳しく話してくれないか」


 明らかに事情を知っているらしきじいにザガートが問いかけた。


「おはつお目にかかります、旅のお方……私はこのカザーブ村の村長カルタス。その少女はメイと言います。この村へようこそおいで下さいました」


 老人が挨拶あいさつがてら自己紹介する。村の名前と自らの身分、少女の名前を明かす。特に言及は無かったが、目の前の旅人が異世界の魔王である事は外見的特徴で知っているように見えた。


「以前この村に魔物が攻めてきた時期がありました。襲ってきたのはゴブリン、オーク、スライム……いずれも低級の魔物です。彼らは群れをなして襲ってきましたが、我々も武器を手に取り戦い、彼らを撃退しました。自分達の力で村を守ったのです。その時はそれでカタが付くと、そう思っていました」


 カルタスが村の事情について説明を始める。村に魔物の群れが襲来した事、それを自力で撃退した事を伝える。


「……ですがある日、彼らのあるじだという山にむデーモンがやってきて、村に呪いを掛けたのです。それ以来、村はごらんの有様です。何か重い物がのしかかったように体がだるくなり、せきが止まらなくなり、ある日突然高熱にうなされて倒れたまま死んでいく……そのような病気が流行りだしたのです」


 魔物のリーダーであるデーモンがやってきた事を口にする。村全体を覆うように掛けられた呪い、それにより村の住人が体に変調をたした事、それらが全て悪魔の仕業だと明かす。


「このままでは村が全滅すると踏んだ我々は、ギルドにつかいを出しました。冒険者を雇ってデーモンを討伐してもらおうと考えたのです。これまで腕の立つ冒険者が何人も村を訪れて、山へと登っていきました。ですが魔王軍の幹部を自称するデーモンはとてつもなく強い……山に登った半数が殺されて、残りの半数は逃げ帰りました。生き延びた一人はこう証言します。あれは世界を救う勇者でなければ倒せない、伝説級の魔物だと……」


 冒険者ギルドに討伐の依頼を出した事、しかし誰も魔物を倒せなかった事、それらの事実を無念そうに語る。

 村長の口ぶりから察するに、ギルド長ドーバンが予想した通り、デーモンが魔王軍の幹部である事は間違いなさそうだ。


「結局、デーモンを倒せる者は一人もいませんでした。このままでは、我々は死を待つだけになってしまう……ですがもう、どうする事も出来ないのです……ゴホゴホッ!」


 村長は悲しげに顔をうつむかせると、村の未来を悲嘆した言葉を吐いて話を終わらせた。最後は病気に侵された事実を生々しく伝えるようにき込む。

 ガクッと肩を落とす老人の姿は何ともみじめだ。八方手を尽くしてもどうにもならなかった絶望、これまで多くの同胞を失った悲しみ、それらがひしひしと感じられた。


「………」


 話を聞き終えて、ルシル達が思わず黙り込む。村長にかけるなぐさめの言葉が見つからず、誰も一言も発しない。みなが沈痛な表情を浮かべて下を向いたまま口をつぐむ。

 村人が味わった苦しみを知らされて、彼らがどれだけ辛い思いをしたか想像し、胸が痛んだ。罪なき人々をしいたげるデーモンに怒りを覚えると同時に、何としても彼らを助けねばならない使命感に駆られるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ