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第79話 魔王城にて

 何人なんびとたりとも立ち入れぬバリアに覆われた異空間に存在する呪われた城、魔王城……その最新部にある玉座の間に、多数の魔族が集う。


 大魔王へと続く道の両脇に黒い人影がズラッと立ち並ぶ。ザッと数十人はいるようだ。目だけが赤く光っており、正確な姿を見る事は出来ない。魔王軍十二将もこの中に混ざっていると思われたが、それ以外の者もいるようだ。

 各地域を任された支部長クラス、それに仕える副長、末端の兵士を統率する小隊長……魔王軍のありとあらゆる階級の幹部が、ここ玉座の間に招集されていた。


 彼らのあるじたる大魔王アザトホースはフワフワと宙に浮かんでおり、全ての目がグワッと開いている。「オオオッ……」と呼吸音かうなり声か分からない言葉を常時発している。


 大魔王の左脇に城の警備隊長であるオークロードが立っており、ビデオデッキのような横長の四角い鉄の箱を両手で抱え込む。箱には小さな穴がいており、そこから部屋の壁に向かって光が照射された。

 光が当てられた壁に、長方形の大きな映像が映し出される。映像は鮮明で、ヌルヌルとなめらかに動く。幹部達はそれを食い入るように見る。さながら映画の上映会だ。


 壁に映し出された映像……それはザガートのこれまでの戦いを記録したものだ。彼の存在を脅威とみなした大魔王が、部下に命じて何らかの方法でらせたのだ。

 大魔王が彼の存在を知覚したのは最初にケセフが撤退した後なので、それ以前の記録は残っていない。


 ヒルデブルク城でのレッサーデーモンとの戦いに始まり、極大魔法『隕石群落下メテオ・スウォーム』によるオークの大群十万の殲滅せんめつ、森でのスライムとの戦い、その他多くの下級魔族との戦いから、魔王軍十二将との対決に至るまで……それらの映像が一秒も漏らさずに紹介される。

 映像は亡霊ファントムケルベロスが倒された所で停止し、上映会が終わった事を告げるように光の照射が途切れる。


「……以上が、これまで部下に集めさせた魔王ザガートの詳細な記録となります」


 映像が終わると、オークロードが話をまとめるように口を開く。役目を終えた鉄の箱を一旦部屋のすみに置くと、再び元の場所へと戻る。


「この私の見立てが正しければ、魔王ザガートの魔力は上級悪魔アーク・デーモン本来の強さであるアスタロト様のおよそ十倍……いや二十倍はあると思われます。えて無礼を承知で言わせて頂くなら、アザトホース様と互角に渡り合える力を持つ猛者もさだと感じました」


 魔王の強さについてけんを述べる。主君の不興を買う恐れがあったとしてもものじせず、ありのまま分析結果を話す。かつてザガートに倒された大悪魔の名を引き合いに出して、魔王がどれほど力を持っているかを分かりやすく伝える。


「アスタロトの二十倍……だとぉ!?」


 豚頭の発言に謁見の間がにわかにざわつく。それまで静かだった場が一転して騒がしくなる。


「魔界大公爵の二十倍はおお袈裟げさすぎではないか?」

「だが映像を見た限り、嘘だとは思えん……」

「魔界No.2のバハムートが倒されたのもうなずける話だ……」

「異世界から来た魔王という肩書きにいつわりは無いという訳か」

「我々はそんな相手と戦わねばならんのか……」


 となりにいる者同士が互いに顔を見合わせて、ヒソヒソと小声で話す。魔王の強さを知らされてみなが戦々恐々となる。


 オークロードの発言を一笑にすのは簡単だ。以前の彼らであれば、そうしたかもしれなかった。

 だが今彼らは魔王の強さをまざまざと見せ付けられたのだ。それは豚頭の言葉に信憑しんぴょう性を持たせるものだ。魔王軍十二将のうちすでに四人が倒された事も、彼の言葉が真実かもしれないと思わせるのに拍車を掛けた。

 今となっては、魔王が大魔王と互角に渡り合える力の持ち主である事を疑う者はいない。


「……ナゲカワシイモノダナ」


 皆が魔王に恐れをしていると、それまで沈黙を貫いていたアザトホースが言葉を発する。何処に口があるかも分からないのに、部下に失望したように「フゥーーッ」とため息を漏らす。目を閉じたまま首を左右に振って、見るからにガッカリした様子をあらわにする。


「ケセフガ最初ニ逃ゲ帰ッタ時、オ前達ハ奴ヲ侮辱シタナ。ニモカカワラズ、ソノテイタラクハ何ダ? コレナラ、魔王ニ戦イヲ挑ンデニシタ奴ノ方ガホドマシトイウモノダ。今ノオ前達ニ、奴ヲ笑ウ資格ナド無イ……ソノザマデ、ヨクモ魔王軍ノ幹部ガ名乗レタモノダ」


 かつて仲間を侮辱した行為を引き合いに出して、配下の臆病ぶりに心底落胆する。魔王と戦って討ち死にしたケセフの勇ましさをたたえて、その勇気すら持てない彼らを激しく糾弾きゅうだんした。


「……」


 主君にののしられて、部下達は一言も言い返せない。以前は魔王の存在を軽く見ていたのに、その強さを知った途端手のひらを返した事を指摘されて、ぐうのも出ない。

 上司の皮肉にあれこれ言い訳したりもしなければ、魔王の討伐を勇ましく志願する者もいない。誰もが親にイタズラをしかられた子供のように顔をうつむかせて口をつぐむ。

 魔王になんて勝てる訳が無い……そんな無力感が場に漂う。


「誰モ……魔王ヲタント名乗リ出ル者ハナイトイウノカ」


 大魔王が失意の言葉を口にした時……。


「ホッホッホッ……何ですか貴方達は。そろいも揃って、情けないですねぇ」


 何処からか笑い声が発せられた。声が聞こえた方角に一同が振り向くと、謁見の間の入口に一人の男が立つ。影に包まれてハッキリとは姿が見えないが、かなりの小男だ。

 男は遅れてこの場に駆け付けた訳ではない。ずっとそこに立ったまま話を聞いていた。


最初はなから力だけで挑もうとするから、圧倒的な力の差を知らされておくしてしまうのですよ。策をろうすれば、格上の相手を倒す方法などいくらでもあるというのに……」


 男は持論を展開しながら歩き出す。魔王を倒す手段をドヤ顔で力説しながら、大魔王へと続く道をのっしのしとガニまたで歩く。


 部屋の中央まで来ると、それまで影に包まれていた男の姿があらわになる。

 男はトランプのジョーカーのようなピエロの格好をしていた。背丈も、顔も、声も、口調も、ケセフにうり二つだ。

 一見彼が生き返ったようにも見えた。だがよく見ると服の色が違う。ケセフが赤色の服を着ていたのに対して、男は緑の服を着ている。ゲーム風の言い回しをするなら『色違いモンスター』と言った所か。


「大魔王様、お久しゅうございます……その魔王ザガートを討つ任務、わたくしにご命じ下さい。絶対に彼奴きゃつめの首を持って帰る事を約束しましょう」


 ケセフそっくりの格好をした男は、大魔王の前まで来ると、丁寧な物言いで挨拶あいさつしながら頭を下げる。自信に満ちた口調で魔王討伐を志願する。


「オオッ、オ前ハ……ヨシ、良イダロウ。魔王討伐ノ任、貴様ニ託ス! カナラズヤ吉報ヲ持ッテ参レ!!」


 男の言葉を聞いて、アザトホースが目を輝かせた。配下が魔王討伐を志願した事に気を良くして、邪魔者の抹殺を強い口調で命じる。

 上司の命令を受けて、ピエロ風の男がニヤリと笑う。胸の内に策謀を秘めたようにククッと声に出す。


「必ずや使命を果たしてごらんに入れましょう……このケセフの弟、カフカめが!!」

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