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第59話 ハウザー卿との面会

 表通りが騒がしくなった時、騒ぎを聞き付けたように一頭の馬がやってくる。馬の上に一人の男性が乗っている。

 その男性は長身のせ型で、執事の格好をしていた。歳は五十代から六十代くらいに見え、頭髪は白く染まり、鼻の下にカイゼルひげを生やす。見た目は知的な老紳士という印象を与える。


 男性は一行の前まで来て止まると、すぐに馬から下りてその場に平伏する。


「王女殿下、こちらにおられましたかッ! 貴方様が町を訪れたと門番の者から聞き、探しておりましたぞッ!!」


 そう言ってレジーナに頭を下げる。かしこまった態度から察するに、領主の使いのようだ。


「グスタフ、グスタフじゃないかっ! 相変わらず元気そうで何よりだ! ハウザーきょう殿はご健在であらせられるか!?」


 レジーナが開口一番に駆け寄る。男性の前にしゃがんで目線を合わせると、親しげに言葉を掛けた。


あねさん、このお方は誰ッスか?」


 なずみが、王女の顔なじみであろうと思われる男性の素性を問う。


「ああ……彼はグスタフと言って、グラナダ領主ハウザー卿に長年仕える執事だ。私が幼い頃から何度も顔を合わせていて、信頼できる人物だ」


 仲間の疑問に王女が答える。領主の忠実な臣下であった事、長年の付き合いがあり、互いによく知った間柄である事を教える。


「それでグスタフ、ずいぶん慌てていたようだが、私に何か急用か?」


 王女は執事の男に自分を探していた理由を問う。


「はっ! 王女殿下並びに異世界の魔王様、そのお仲間の方々! ハウザー様が、至急貴方がたを屋敷にお連れするようにとの事です! 何分なにぶん急をようするので、ここで立ち話している時間はございませぬ! どうか私めに付いてきて下さいませぬか!!」


 グスタフが早口で用件を述べる。領主から一行を連れてくるよう命じられた事、そのために彼らを探していた事、詳しい理由を話す時間は無く、黙って付いてきて欲しい事などを伝えた。


「分かった。事情は館に着いてから改めて聞く事にする。今は先を急ごう」


 ザガートが男の頼みを二つ返事で了解する。一刻の猶予ゆうよもならない事態らしかった事、執事が信用にる人物であった事などをかんがみて、彼の頼みを聞き入れた。


 執事が感謝するように深く頭を下げると、一連のやりとりを見ていた町の兵士が人数分の馬を用意する。全員が馬の背に乗り、づなをしっかりと握る。

 屋敷に向かう準備が整うと、グスタフが「ハイヤーー!」と叫んで馬を走らす。一行は彼の後ろに付いていく。五頭の馬が砂ぼこりを立てながら、街中を力強く駆ける。


 表通りから去ってゆく彼らを、街の住人は手を振って見送った。


  ◇    ◇    ◇


 町の中央にそびえ立つ、三階建ての大きな洋館……ホラー映画に出てきたら確実に舞台になってそうな建築物は、一目で領主が住む屋敷だと分かった。

 正門の前には初代領主と思しき銅像が建てられており、足元に文字の書かれた石碑が置かれている。


 屋敷の正面にいしだたみの大きな広場があり、中央に噴水がある。噴水を取りかこむようにベンチが置かれており、街の住人が座って休んだり、本を読んだり弁当を食べたりしている。彼らにとっていこいの場のようだ。


 一行は広場に到着すると、馬から下りて屋敷へと歩き出す。馬はさくに繋がれて、広場にいた兵士が見張っている。


 大扉を開けて屋敷の中へ入ると、一人の男が早足で階段を下りてくる。

 その者は四十代から五十代に見える男性だが、老いを感じさせない精悍せいかんな顔付きをしている。オールバックの長髪は暗めの茶色で、ひげは生やしていない。

 王侯貴族の服を着ていたが、引き締まった体格は日々の鍛錬を感じさせるものがあり、年中椅子に座っていた訳では無さそうだ。魔物が襲撃すれば、剣を手に取り鎧を着て、自ら戦場におもむく勇猛かんな人物であるように思えた。


「おお、レジーナ王女殿下……それに異世界の魔王様ッ! よくぞ……よくぞ参られた! 貴方がたの到着を心よりお待ちしておりました!!」


 ハウザー卿であろうと思われる男は歓迎の挨拶あいさつをして、一行をこころよく出迎える。よほど彼らの来訪を待ち望んだのか、表情に満面の笑みが浮かぶ。


「お久しぶりです、ハウザー卿! けいも変わらぬ壮健ぶりで!!」


 レジーナが再会の感動を言葉にしながら、ガッチリ握手を交わす。しばらく会っていない旧友が無事だった事を心から喜ぶ。


「ハウザー様、ご命令通り、異世界の魔王様がたご一行をお連れいたしました」


 グスタフが使命の遂行を報告して頭を下げる。


「ウム……ご苦労であった」


 領主もねぎらいの言葉を掛けて満足げにうなずく。


「積もる話もあるだろうが、急をようするのだろう? 俺達をここに呼んだわけを聞かせてくれ」


 ザガートが早速さっそく用件を切り出す。理由を知らされずに連れて来られたため、すぐに本題に入ろうとする。


「分かりました。娘の部屋に案内しましょう」


 ハウザーは一礼いちれいすると背を向けて歩き出す。一行は黙って彼の後に付いていく。六人の大所帯がゾロゾロと屋敷の中を移動する。

 階段を進んで二階へと上がり、廊下の突き当たりにあるドアをノックしてから開けて中へ入る。

 娘の部屋と思しき一室は床にワインレッドの絨毯じゅうたんかれてあり、中央にカーテン付きのベッドが置かれている。ベッドのすぐわきに勉強用の机がある。


 中央のベッドに一人の少女が寝かされている。年は十二歳くらいで、長めの髪は金色に染まり、顔立ちは整っている。庶民離れした、フランス人形のような美貌がある。

 だが目を閉じて眠ったままウンウンと声に出してうなされており、目覚める気配が無い。熱を出しており、顔が赤く、呼吸は荒い。ひたいからは滝のように汗が流れ出る。不治の病にかかったのか、虫の毒におかされたのかは分からないが、かなり重病のようだ。


 娘のそばに、三十代から四十代に見える大人の女性がいる。貴族令嬢のドレスをまとい、長めの金髪は後髪が縦ロール、前髪がツインドリルになっている。胸が非常に大きく、体はムッチリしており、くちびるに赤い口紅を塗っている。年はそれなりだが、かなりの美貌を保った女性は領主の妻であろうと推測できたが、見た目だけなら一国の女王のような雰囲気すらあった。


 彼女は娘を心配そうな表情で見守り、額の汗をタオルでく。あえて下々の者に任せず、付きっきりで看病したようだ。

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