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第258話 皇帝の治世

 ――――建国宣言を行ってから三ヶ月がった頃。



 帝都の表通りに広がる街並みを、背丈四メートルで人の形をした魔物が、のっしのしと誇らしげに歩く。魔物は二体いて、それぞれ外見が異なる。

 彼らは街の治安を守るための巡回を行っているらしく、ゆっくり歩きながら街の隅々(すみずみ)までめるように観察して、異常が無いかどうか確かめる。道端にゴミが落ちていたら、拾ってゴミ箱に入れる。


 彼らが表通りを巡回していると、魔物の姿を見かけた住人の一人が声をかける。


「レッサー様っ! ミノス様っ! 今日もお疲れ様ですッ!」


 魔物の名を短縮形で呼びながら、彼らの労をねぎらう。


 ……人の形をした二体の怪物はレッサーデーモンとミノタウロスだ。牛頭は終戦前から魔王に付き従っていたが、中級悪魔は生命創造クリエート・ライフで創造し直された個体だ。当然復活前とは異なる優しい心を持っている。


「フム……何か街におかしな点は無いか? もし少しでも事件のにおいをぎ取ったら、どんなさいな事でも教えてくれ」


 中級悪魔が住人の挨拶あいさつに言葉を返す。街に不審な点が無いかどうかを聞いて、もしあったら報告して欲しいむねを伝える。


「お二方ふたかたが日夜巡回なさっているおかげで、街は平和そのものです……何しろ強盗や傷害が起きれば、何処であろうと貴方がたが一瞬で駆け付けて、犯人を捕まえて牢屋にブチ込んで下さるのです。今となっちゃ、この街で犯罪を起こそうとするやからなどおりませぬ」


 最初に話しかけた男性のとなりにいた老婆が深々と頭を下げる。魔物達のおかげで街の治安が守られている事を伝えて、自分達が安心して暮らせる環境を整えてくれた事への感謝の気持ちを言い表す。


「アンタらと陛下サマのおかげで、俺達は安全に暮らせてるんだ。感謝するぜ」


 少し離れた場所にいた中年男性がゆっくり近付いてきて、老婆と同じように感謝する。


「ミノおじちゃん! 今度ボクのウチに遊びにおいでよッ!!」


 みなの会話を聞いていた小さな子供がタタタッと駆け寄ってきて、牛頭の獣人に抱き着く。筋骨隆々とした大男を憧れの眼差しで見ながら、家に遊びに来るよう提案する。


「おお、構わんぞ。今度休みが取れたら遊びに行ってやる……と言っても、俺の体じゃ人間の家は小さすぎて入れないがな。ハハハハハッ」


 ミノタウロスがニッコリ笑いながら少年の頭を優しくでる。招待の申し出をこころよく受けながらも、自分の巨体では家に入れないと冗談とも本気とも付かない言葉を口にして大きな声で笑う。

 その場にいた他の者達も釣られて一緒に笑い、周囲がなごやかな空気に包まれる。


 そうしてみなが楽しそうに笑っていると、ブワッと一陣の突風が街に吹き抜けた。


「ああ、あれはッ!!」


 会話に参加した一人の男性が大声で叫びながら空を指差す。

 彼が指差した方角に皆の視線が向けられると、とてつもなく巨大な鳥らしき物体が、翼を羽ばたかせながら街へと飛んでくるのが見えた。

 空を飛んでいたのはティラノサウルスより大きなオスの孔雀の外見をした鳥、神鳥ガルーダだ。背中に大人の男性らしき人物を乗せている。


「ザガート様だッ! 領内の視察からお戻りになられた!!」


 鳥の背中に乗っていた人物を見て、レッサーデーモンが大きな声で叫ぶ。外での用事を済ませて帝都への帰還を果たした主君の勇姿を皆に知らせる。


 鳥が大通りの真上まで来ると、この場に集まっていた人々がサッと後ろに退いて、円状のスペースが出来上がる。鳥はそこを着地点と見定めて、ゆっくり降下していって地面に着地する。

 鳥が地面に降り立つと、背中に乗っていたザガートがぴょーーんとジャンプして華麗に着地する。スタスタと数歩進んで獣人達の前に立つ。


「陛下、よくぞご無事にお戻りになられました」


 ミノタウロスが主君の帰還を歓迎しながら、片ひざをついて頭を下げる。レッサーデーモンも彼と同じ動作を行い、その他の民衆達は地べたに両手をついて土下座するようにひれす。


「フム、治安を守るための巡回ご苦労……諸君らはこのまま巡回を続けてくれ。俺は王宮に戻ってやらなければならない事がある」


 ザガートは配下の魔物にねぎらいの言葉を掛けると、自分の用事がまだ残っている事を伝えて、部下に仕事を続けるよう命じる。別れの挨拶あいさつを済ませると、ガルーダの頭を数回でてから王宮がある方角に向かって全力で走っていく。


 魔王が去りゆく姿を見届けると、ガルーダは翼を羽ばたかせて大空へと舞い上がり、王宮があるのとは別の方角へと飛び去る。


「神鳥ガルーダ……なんと勇ましく、強そうな鳥だ。俺ら程度の力では足元にも及ばない」


 ミノタウロスが空のはるか彼方を見ながら鳥の迫力ある姿に見惚みとれる。見る者を圧倒させる大きさの鳥が、優雅に空を舞う光景に憧れの感情を抱く。


「当然だろう……ガルーダ様はかのバハムートに匹敵する強さを持ち、終戦後は鬼姫様、ブレイズ様と並ぶ帝国三騎将にれっせられたお方なのだからな」


 レッサーデーモンが、何を今更いまさらと言いたげに言葉を返す。神鳥が竜王と同等の強さを持ち、世界が平和になった後はザガート配下の幹部の一人になった事実を述べる。



 ……かくして帝都の平穏な日々は今日も過ぎてゆくのだった。

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