第235話 エクスカリバーの秘密
剣同士の戦いでラグナロクを打ち砕かれたザガート……魔法での卑怯な戦術へと切り替える。勇者をまんまと欺いて一撃必殺の技を叩き込む事に成功したが、エクスカリバーが数回光ると、粉微塵になったはずの勇者がすぐに復活する。
魔王は勇者が復活した原理を突き止められず、勝負はふりだしに戻った形となる。
「もうさっきの手は通用しないぞザガートッ! 覚悟しろ!!」
アランは勇ましい言葉を吐くとシュタタタッと走っていって、魔王を剣で斬ろうとする。勇者が横一文字に振った剣を、魔王は後ろに大きくジャンプしてかわす。
魔王は両足で着地すると、今後の作戦について一秒間だけ考える。勇者が復活した原理を突き止めるべきではないかと思い悩んだが、今はあれこれ考えている余裕は無く、目の前の敵に意識を集中すべきだと結論付けた。
「全身メッタ刺しにされて息絶えるがいい……針千本地獄ッ!!」
正面に右手をかざして魔法の言葉を唱えると、彼の前にある空間にバレーボールくらいの大きさのブラックホールが生まれる。そこから細長い金属の針のようなものがプププッと無数に発射された。
ガトリングの弾のように発射された針はアランめがけて一直線に飛んでいく。詠唱の言葉通り千本の針で彼を突き殺そうとする。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」
アランは腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、剣を縦横無尽に振り回して針を叩き落とそうとする。キンキンキンッと激しい金属音が鳴り、剣に弾かれた針が雨あられのように地面に落下する。
アランは千本のうち九百九十七本を正確に叩き落としたが、それでも右の二の腕、左脚の太腿、右の脇腹の合計三箇所をブスブスと針で刺される。針は鎧の装甲を貫通し、傷口からボタッ……ボタッ……と赤い血が滴り落ちる。
だがさっきと同じようにエクスカリバーがチカッチカッと光ると、刺さっていた針が肉に押し出されたように独りでに抜け落ちて、皮膚も鎧の破損箇所もみるみるうちに修復されていって、攻撃を受ける前の状態へと戻る。
(エクスカリバーがある限り、俺に敗北は無い……か……)
またも勇者の傷が塞がった光景を目にして、魔王が戦いが始まる前に聞いた台詞を思い出す。剣が光るたびに勇者の傷が癒される事実に目を向けて、彼が死なない理由について、頭の中にある憶測が浮かび上がる。
(……試してみるか)
仮説を実証するために賭けに打って出ようと思い立つ。
「考え事をしている暇は無いぞ、ザガートっ!!」
魔王が物思いに耽ていたのを見て、アランが腹立たしげに叫びながら正面へと駆け出す。剣を力任せに振ると、魔王はまたしても後ろにジャンプして相手の一撃をかわす。
「……ううっ」
着地した瞬間、魔王が大袈裟に疲れた顔をしながら片膝をつく。そこからゆっくり立ち上がろうとする。
相手の攻撃を誘い出すためにわざと疲れた演技をしたのだ。
(チャンスだ!!)
そうとも知らずに勇者が千載一遇の好機に胸を躍らせた。この機を逃してはなるまいと息巻くと、剣を大地に振り下ろした状態のまま敵に向かって走っていく。
「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」
近接戦の間合いに入ると、両手で握った剣を下から上に向かってスイングするように振り上げた。
魔王は右に避けて相手の一撃をかわそうとしたが、完全にはかわし切れず、左腕を切断される。肩から先の左腕が地面に転がっていって、切断面から血がドクドクと流れる。
「……左腕は頂いたぞ」
アランが剣を振り上げたポーズのままニヤリと笑う。敵に深手を負わせられた事実に大きな喜びが湧いて、もう自分は勝ったのではないかという気にすらなる。
「……腕の一本で済むなら安い犠牲だ」
勇者の喜びをあざ笑うように魔王がほくそ笑んだ。一連の流れが彼の目論見通りであった事実を言葉によって伝える。
「ふんっ!」
気合を入れるように鼻息を吹かすと、左足を高く蹴り上げて、アランが両手で握っていた剣の柄の底面を足のつま先でガッと蹴る。
「ぐっ!」
手にビリビリと衝撃が伝わり、アランが柄を握っていた手をうっかり離す。彼の手から離れた聖剣が、キックの衝撃でポーーンと空高く舞い上がる。
剣は上空十メートルほどの高さまで打ち上がり、地面に落下するまで数秒かかる。
ザガートは間髪入れずにジャンプすると、聖剣と同じ高さまで飛び上がる。
「うおおおおおおおおッ!!」
気迫の篭った雄叫びを上げると、刃の側面の真ん中に、右手による水平チョップを叩き込んだ。
手刀が直撃して鈍い金属音が鳴った瞬間、エクスカリバーがボッキリと真っ二つに折れる。上と下半分ずつに分かれてそれぞれ別の方角へと落下していき、ガランッガランと地面に転がり落ちる。ザガートはそれから数秒遅れて着地する。
アランは二つに分かれた剣を全速力で走って回収したが、剣はみるみるうちにくすんだ灰色へと変わり、石の剣のような姿になる。かつての氷の剣のような美しさは見る影も無くなり、魔力を失ってただの石ころになった事が傍から見ても分かる。
「……なんという事だ」
聖剣が力を失った姿を見てアランが失意の言葉を漏らす。これまで彼の強さを支えてきたであろうと思われる剣を失った事実に深く落胆の表情を浮かべて、絶望の奈落へと突き落とされたようにガクッと膝をついた。




