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第233話 決戦! 最強の勇者 vs 最強の魔王!!

 戦いが始まる前に魔王と言葉をわす勇者アラン……魔王を討ち倒して自分の世界を復興させる事が目的だと話す。


 ザガートは勇者の言葉が強がりから出たもので、彼の本当の望みはそれとは別にある事を見抜く。

 相手に図星を突かれて答えにきゅうしたアランは、直接過去に何があったかは語らなかったが、自分の人生が思い通りに進まなかった後悔の念を口にする。

 魔王は勇者が胸に抱いた深い悲しみを知り、続きを聞くのは戦いが終わってからにしようと思い立つ。


「アラン……どちらが真の勝者となるか、白黒ハッキリさせよう!!」


 勇ましい口調で勝負の始まりを宣言する。

 ここに最強同士の二人の戦いの火蓋が切って落とされた。


「ザガート、何度やったとしても結果は同じだ。貴様は俺には勝てない。この聖剣エクスカリバーがある限り、俺に敗北は無い」


 アランは挑戦的な台詞セリフを吐くと、左腰にしてあったさやから一振りの剣を抜いて、両手で握って構える。彼の手に握られたのは前回と同様、美しい氷の剣のような見た目をした聖剣エクスカリバーだ。相変わらずの光を反射してキラキラ輝く。


 彼の言葉に呼応するように、左の二の腕にめられた腕輪が一瞬だけ赤く光る。前回の戦いでは装備していなかった代物しろものだ。


(常に敵対する相手と同じ速さで動けるという『神速の腕輪』……亡きクリムトから受け継いだという訳か。そうなると速度強化スピード・ブーストで相手より速く動き回る戦術は使えない事になる。やれやれ、ますます厄介やっかいな相手になった……)


 アランが二の腕にめていた腕輪を見て、ザガートが憂鬱ゆううつそうに溜息ためいきを漏らす。一撃でもクリーンヒットすれば致命傷になりかねない剣を持った男が、自分と同じ速さで動き回れる状況に、厄介さのあまり気が遠くなる。


「行くぞ、魔王ッ! その首頂戴ちょうだいする!!」


 アランは死を宣告する言葉を吐くと魔王めがけて一直線に駆け出す。近接戦の間合いに入ると剣を横ぎに振って相手を一刀両断しようとする。


 魔王は後ろにジャンプして相手の攻撃をかわす。アランは何度も距離を詰めて相手を斬ろうとしたが、魔王はそのたびにピョーーン、ピョーーンとジャンプして後ろに下がる。本人は至って真剣なはずだが、はたから見ると遊んでいるようだ。


「どうした魔王、そうやって逃げ回るだけか? お前らしくもない」


 魔王が避けに徹する姿を見て、アランがあおるような言葉を吐く。

 相手を攻めに転じさせたい挑発の意味合いもあったが、「お前らしくない」という発言には彼の本音が見え隠れした。

 慎重に行動する魔王の戦い方を見て、それが戦術的に正しい事だと分かっていても、正面からぶつかって欲しい思いがあったようだ。


「そうか……ならば、お前の望み通りにしてやる」


 そんなアランの気持ちをみ取って、ザガートが逃げに徹するのをやめる。

 相手からの挑戦を受ける意思を明確に伝えると、自分の真横に生まれた空間の裂け目から、さやに収まった一振りの剣を取り出す。鞘から剣を抜いて鞘を地面に放り投げると、つかを両手で握って構える。


 ザガートの手に握られたのはロングソードのような片手で振り回せる剣であったが、柄の根元から刃の先端に至るまで血のような赤色に染まっており、見るからに禍々(まがまが)しい。エクスカリバーが見た目だけでも聖剣だと分かるのに対して、この剣は魔剣と呼ばれるに相応しいものだ。


「この世界で語りがれし伝承の魔剣ラグナロク……アザトホースの城が地上に墜落してバラバラに砕け散った後、瓦礫がれきに埋もれていた宝箱の中から見つけたものだ」


 ザガートが自ら手にした剣の出自について語る。大魔王の城が墜落して木っ端微塵になった後、何か掘り出し物は無いかと瓦礫の山を漁っていて見つけたもののようだ。本来は大魔王の城を探索中に拾って使うべき剣だったと思われるが、魔王はそれを大魔王撃破後に入手した事になる。


「エクスカリバーとラグナロク……どちらが最強の剣か、ハッキリさせよう!!」


 魔王はそう叫ぶやいなや、勇者めがけて一直線に駆け出す。回避による受け身の戦術を捨てて、魔剣による近接戦に持ち込もうとする。


「望む所だッ!」


 勇者は勇ましく言葉を返すと、数秒遅れて魔王に向かって走り出す。


 両者は互いの間合いに入ると、ザガートは剣を横ぎに、アランは縦一閃いっせんに振って相手を斬ろうとする。両者の剣が激突して『十』の字を描くと、ギィンッ! とけたたましい金属音が鳴る。両者はそのまま力ずくで相手を押そうとしたが、パワーはほぼ互角であるらしく、どちらか一方が優勢とはならない。


「ヌゥゥゥ……」

「グゥゥゥ……」


 二人の口から気迫に満ちた声が漏れだす。両者共に眉間みけんしわを寄せて、全身を踏ん張らせた阿修羅のような顔をしており、イケメンでありながら戦国時代の猛将のようなオーラを漂わせた。

 二人は剣を握る腕にギリギリと力を込めたものの、どれだけ力を入れても相手を押す事が出来ず、互いの剣を重ね合わせた状態のまま銅像のように固まる。そのまま全身をぷるぷる震わせた。


 数十秒間力で押し合っていた二人だったが、このままではらちが明かないと感じて、二人がほぼ同じタイミングで後ろに飛び退く。数メートルの距離を保ったままにらみ合っていたが……。


「「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」」


 突如腹の底から絞り出したような雄叫びを発すると、荒野の何も無い場所に向かって全力でダッシュする。ザガートは黒一色、アランは白一色の影のような物体となり、ビュンッと残像を残しながら高速で移動する。


 二つの影は車のレースのように併走しながら追いかけっこしたかと思うと、途中で立ち止まって正面からぶつかり合う。ドガッドガッと激しい衝突音を立てて後ろに弾かれたかと思うと、今度はすれ違いざまに斬り合ったようにXエックス字に交差する。それを何度もやった後は再び追いかけっこに移行する。その繰り返しだ。


 神ですら視覚でとらえ切れない影同士の激闘は数分続いたが、やがてスタミナが底を尽きたのか突然走るのをやめる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

「ハァ……ハァ……」


 ザガートとアランが数メートル離れて向き合ったまま呼吸を荒くする。肩でゼェハァと激しく息をさせて、表情に疲労の色が浮かび、ひたいからドッと汗が噴き出す。パワーとスピードが同じな事もあって、肉弾戦はほぼ互角に見えた。


 しばらく互いに疲れ合ったままその場から動かずにいたが、疲れがえたのか、魔王が真っ先に動き出す。勇者めがけて全速力で走っていき、近接戦の間合いに入ると両手で握った剣を高々と振り上げる。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」


 気迫のこもった雄叫びを上げると、そのまま一気に剣を振り下ろして相手をたたっ斬ろうとした。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁああああああーーーーーーっっ!!」


 アランも負けじと大声で叫びながら両手で握った剣を横ぎに振る。両者の剣が激突すると耳をつんざくような衝突音が鳴り、辺り一帯の空気がビリビリと震えた。




 一瞬の静寂の後、ザガートが手にしていた剣の刃がガシャァーーーンッ! と音を立ててガラスのようにもろく砕けた。


「なにっ!!」


 剣同士の衝突でラグナロクが打ち砕かれた事に魔王が深く動揺する。咄嗟とっさに後ろに飛び退いたものの、勇者の一撃を完全にはかわしきれず、胸を浅く斬られる。

 魔王の胸の部分の衣服がビリビリッと横に裂けて、あらわになった胸の肌に一本の赤い線が入る。そこから一滴の血がしたたり落ちる。傷口はすぐにふさがったが、衣服は元通りにはならず、胸の肌は露出したままだ。


「……エクスカリバーの方が性能は上だったな」


 アランがそう口にしてニヤリと笑う。

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