第226話 勃発! 狂戦士 vs 不死騎王!!
四つに分断された空間……その三箇所めの対戦カードは不死騎王ブレイズと狂戦士バルザックだった。両者はいくつか言葉を交わすが、険悪な雰囲気は無い。私怨を抱かぬ武人同士の決闘のような爽やかさを感じさせる。
不死騎王と狂戦士……互角の力を持った強者の対決がここに勃発する。
「楽しいケンカの始まりだぜ……ミスター・ニンジャナイト!!」
バルザックは戦いの始まりを宣言すると、相手めがけて一目散に駆け出す。武器の重量を物ともせずにドガドガと音を立てて走っていく。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーッ!!」
近接戦の間合いに入ると化け物のような咆哮を上げながら剣を横薙ぎに振る。ブォンッ! と風を切る音を鳴らしながら豪快にスイングされた剣の刃が触れようとした瞬間、不死騎王の姿がワープしたようにフッと消える。
「何ッ!?」
敵の姿を見失った事に狂戦士が慌てる。反射的に後ろを振り返ると、男から数メートル離れた大地に不死騎王が刀を構えたまま立つ。
『素早さはそれがしの方が遥かに上……であれば、勝機は我にあり!!』
ブレイズが自身の優位性を口にする。男の一撃をかわした事によってスピードでは自分の方が優っていると感じ取り、それによって勝利への揺るぎない確信を抱く。
『我が最大威力の一撃を以て、この勝負を終わらせる!!』
戦いの終わりを告げると、バルザックめがけて一直線に駆け出す。
『断滅奥義……虚空閃ッ!!』
技名らしき言葉を口にした瞬間、またしてもブレイズの姿がワープしたように消えた。
一陣の突風がバルザックの真横を吹き抜けると、脇腹にドガガガッと何かがぶつかったような衝撃が伝わる。男の背後数メートルに刀を振り終えた構えのブレイズが姿を現す。男は攻撃を受けた姿のまま微動だにしない。
この技はブレイズにとって渾身の切り札だ。今までこの技を受けて生きていられたのはザガートだけだ。魔王には掠り傷しか負わせられなかったが、それ以外の者は命を奪われた。本来、生ある者でこの技を受けて生きていられた敵など存在しないのだ。
不死騎王にとって最高威力の奥義……それが命中した事実に、胸を躍らせた彼であったが――――。
『……!?』
後ろを振り返り、視界に映り込んだ光景に唖然となる。
刀で斬り付けた脇腹に目をやると、タンクトップが横一文字に裂けて鋼のような肉体があらわになっていたが、皮膚には傷一つ付いていないのだ。ザガートですら掠り傷を負ったというのに、男の体は全くダメージを受けていない。
(馬鹿な……!!)
男が無傷であった事に不死騎王がガラにもなく慌てる。想定外の事態にショックを受けたあまり、戦闘中である事も忘れて茫然自失になる。
それは彼にとってあってはならない事だ。刀の一撃は宇宙最硬物質アダマンタイトを豆腐のように切り裂き、鋼より硬いドラゴンの鱗を物ともしない。今まで平気でいられたのは魔王の体だけだ。それを魔界のデーモンでもなければ、オーガでもない、肉を食べて体を鍛えただけの、ただの人間に防がれたというのだ。
魔力でブーストされた訳でもないただのマッチョな肉体が、アダマンタイトより硬い事実は、男の理解を完全に超えていた。
不死騎王が呆気に取られた棒立ちになった隙を見計らい、バルザックが敵に向かって全速力で駆け出す。
「オラァッ!」
ケモノのような雄叫びを発すると、両手で握った一振りの剣を横薙ぎに振る。
戦闘中にも関わらず物思いに耽ていた事に気付いたブレイズは咄嗟に相手の一撃を刀で受けようとしたが、両者の剣がぶつかると不死騎王の体がフワリと宙に浮く。
『ぐぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおッッ!!』
次の瞬間、男は鼻息で吹き飛ばされたホコリのようにあっけなく吹き飛んだ。放物線を描くように飛んでいって墜落するように地面に激突すると、そのまま十メートル以上押されて豪快に大地を抉り上げた挙句、体が半分大地にめり込んで倒れたまま止まる。
男を吹き飛ばした衝撃はかなりのものだが、それでも彼の右手にはしっかり刀が握られていた。
(なんというパワー……万全の状態でなかったとはいえ、受身すら取れないとは。スピードはこちらの方が上だが、パワーは向こうの方が上だというのか)
ブレイズが地面に埋まったまま相手の強さに思いを馳せた。パワー重視タイプなのは見た目だけで伝わるほどだが、それでもこれほどとは考えもしなかった。完全に想定を上回る能力の高さに、相手の実力を舐めていたのではないかと後悔する思いに駆られた。
(この男……本当に人間か?)
思わずそんな言葉が頭をよぎる。あまりに常人離れした身体能力に、「俺は人間だ」と自己申告した相手の主張を疑いたくなる。ただ体を鍛えただけでここまで強くなれたなど、俄かには信じがたい話だ。
不死騎王は人間を捨てた事によって超人的な強さを手に入れたが、目の前にいる大男は人間であり続けたまま、それに匹敵する強さを手に入れたのだ。その事実に不死騎王はある種の敗北感すら覚えた。
狂戦士自身は勇者の仲間に過ぎないが、生まれた世界が違っていたら、彼こそが魔王と戦う勇者になったかもしれない……不死騎王はそのように考えた。少なくともその資格は十分にあると感じた。




