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第216話 魔王の考えた作戦

 ザガートが決闘の舞台として選んだ場所……それは昨日彼が勇者パーティと戦ったのと全く同じ荒野だった。魔王が命を落とした大地にはまだ血痕が残っており、激しい戦いがあった事実を物語る。


 勇者一行が約束の場所まで来ると、二人の男と四人の女が彼らを待ち構えていた。それは言うまでもなく魔王ザガートと不死騎王ブレイズ、そして鬼姫ら女の仲間達だ。勇者に送り付けた果たし状に六人の名前が書かれており、相手に素性は知れ渡っている。


「ムホホ……かわいい女子おなごがたくさんおるわい。どれから手を付けたらいいか、迷うのう」


 四人の美女を前にしてツェデックが鼻の下を伸ばす。じゅるりと口かられたよだれをゴクリと飲み込む。ようやく女の冒険者と対面できた喜びはひとしおで、何としても彼女達にいやらしい事をするのだと息巻く。


「今度は四対六ってワケか……ワクワクするぜ」


 バルザックが強敵を前にしてニタァッと笑う。えた獣のように瞳がギラギラする。

 敵の方が数でまさっている事にものじする様子は全くなく、むしろ前回よりも激しいバトルを体験できそうな予感に胸をおどらせた。一刻も早く戦いを始めたそうに体がウズウズしている。


「……」


 ザムザは相変わらず黙り込んだままだ。他の仲間が流暢に話している状況でも、一言も喋らない。


「ザガート……まさか本当に生き返ったとはな。正直言って驚いたよ。どうやって生き返ったか、方法を聞きたいくらいだ」


 最後を締めくくるようにアランが口を開く。確実に息の根を止めたにも関わらず魔王が生き返った事実に心底驚嘆しており、どんな方法を使ったのか興味が湧く。


「だがもし不死身だったとしても、百回生き返ったお前を、俺は百回ころ……」


 何度再生しようと魔王を倒す決意を、勇者が述べようとした瞬間……。


「空間の裂け目よ、開け……異層次元転移アナザー・ディメンションッ!!」


 ザガートが唐突に握った右拳を高々と振り上げて、呪文の詠唱らしき言葉を叫ぶ。するとブォンッと奇妙な音が鳴り、アラン達の真下にある地面に大きな丸い影のような物体が生まれる。

 影は真上に立っていた四人を、底なし沼のようにズブズブと引きずり込んでいく。それは異空間に繋がるゲートのようだ。


「うおおおおおおおおッ!!」


 アランが思わず大声で叫ぶ。手足を激しく動かして吸い込みから逃れようとしたが、なすすべなく地面に吸い込まれる。他の三人も必死の抵抗をこころみたが、どうにもならず全員が転移魔法の餌食えじきになる。

 如何いかに百戦錬磨の彼らと言えど、この初見殺しの技に対処できなかったようだ。


「さて……では俺達も行くとしよう」


 四人が吸い込まれたのを見届けると、ザガートがタタッと走っていって穴に向かってピョーーンとジャンプする。穴は自ら飛び込んできた魔王をズブズブとみ込む。

 他の仲間達も次々に穴へと飛び込んでいき、全員が影に吸い込まれた状態となる。


 荒野にいた全ての者を呑み込むと、穴は閉じるように縮小していって、消えて無くなる。


 そして誰もいなくなった。


  ◇    ◇    ◇


「うっ……」


 数秒ほど意識を失っていたアランが目を開けると、数メートル離れた大地にザガートが立っていた。

 周囲を見回すとそこはさっきと変わらぬ荒野だったが、少し様子がおかしい。何処を見ても彼と魔王以外に人の姿が見当たらないのだ。地面にあった血痕も、最初からそこに無かったかのように消えている。


「ここは……さっきとは違う場所なのか!?」


 アランが頭の中に湧き上がった疑問を口にする。いくつかの情報をもとにして、自分が先程さきほどとは異なる空間に転移させられたのではないかと気付く。


「ほう……さすがは勇者。察しが良い」


 ザガートが勇者の言葉を肯定しながらニヤリと笑う。


「そうだ……お前の言う通り、ここはさっきまでとは異なる空間に存在する、俺が用意したバトル・フィールド!! 四つに分断されたエリアは如何いかなる者の侵入も許さず、俺が組み合わせを決めた対決が、どちらかが死ぬまで繰り広げられる!! 勝者は元の空間に帰還でき、敗者はこの世界に取り残される!! まさに俺達の勝敗を決めるのにうってつけの場所!!」


 自分達が今いる世界が、現世から隔絶された空間であると伝える。空間を越えてする事はかなわず、魔王が決めたカードで対戦しなければならないという。


 魔王は勇者パーティの能力を分析して対策を立てるだけではらず、自分が対戦の組み合わせを決める事によって、勝利を確実なものとしようともくろんだようだ。


「お前に一杯食わされた……という訳か」


 まんまと相手の思惑に乗せられたと知り、勇者がフフッと愉快そうに笑う。不利な展開に追い込まれたにも関わらず、この状況を心の何処かで楽しんでいるようだった。


  ◇    ◇    ◇


 勇者が魔王と話していたのと同時刻、別の空間ではバルザックが一人の男と対面していた。

 狂戦士の前に立っていたのは彼と同じ二メートルほどの背丈がある、忍者を彷彿ほうふつとさせる細身の体格の黒騎士……不死騎王ブレイズだ。


「アンタが俺の相手をしてくれるってのか。これはこれで面白おもしれぇ」


 狂戦士は激闘の始まりを予感してニタァッと口元をゆがませた。


  ◇    ◇    ◇


 老魔道士ツェデックの前にいるのは、赤い着物を着て頭にツノを生やした女……鬼姫だ。

 性にふしだらな女と、飄々(ひょうひょう)とした性格のエロじい……ある意味似た者同士の対決となる。


「ムホホッ……これまで数々のおなごをとりこにしてきたじじいのテクニック、見せてやるわい」


 老魔道士はあからさまにいやらしい笑みを浮かべて、女と戦える事を喜んだ。


  ◇    ◇    ◇


 ザムザの前には三人の女が立つ。それは鬼姫を除いた残りの女連中……ルシル、レジーナ、なずみだ。

 他の組み合わせが一対一であるのに対して、ここだけは一対三になっていた。魔王が戦力を分析した結果そうなったのだ。


(弱小組でも、三人集めれば俺に勝てると踏んだか? だとしたら随分ずいぶんめられたものだな……)


 ザムザは内心自分の力をかろんじられたのではないかと不満を抱く。


「自分だけ余り物を押し付けられたんじゃないかと不満があっただろう……だが何も心配する事は無い」


 レジーナはそんな人斬りの心情を見透みすかしていた。自分達が他の強豪連中より劣る認識をされていたのは、とうに把握済みだ。


「私達が単なる寄せ集めの集団でない事を……お前はすぐに知る事になる!!」

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