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第204話 勇者パーティの恐ろしい自爆

 勇者パーティの連携で深手を負った魔王……体力を五分の一ほど失う。

 異世界を救った彼らの実力は本物だったと悟り、それにより自身の死が逃れられないものだったと覚悟を決めるのだった。


 むろんここで敗れる事は当初の計画通りであり、勇者はそれを知るよしも無いのだが……。


(だがこのまま大人しくやられる気は無い……命を失うついでに腕の一本くらいは持っていかせてもらう!!)


 それでも魔王は勝負を完全には捨てておらず、命ある限り戦い抜く決意を固める。最後まで死の運命にあらがい、相手の戦力を少しでも削る事……それこそが次なる勝利へと繋がると確信を抱く。


「ゲヘナの火に焼かれて、消しずみとなれッ! 火炎光弾ファイヤー・ボルトッ!!」


 正面に右手をかざして攻撃魔法を唱える。魔王の手のひらに大量の炎が集まっていって、凝縮されて一つのかたまりになると、相手めがけて一直線に撃ち出された。煌々(こうこう)と燃えさかるなしくらいの大きさの火球が勇者に向かって飛んでいく。直撃すればさしもの彼でも無傷ではいられない。


「フンッ!!」


 ツェデックが魔王を侮辱するように鼻息を吹かせながら、勇者の前に立つ。左の手のひらを正面に向けると、火球は小さくなっていって手のひらへと吸い込まれた。

 相手の魔法を吸収すると、ツェデックの全身が一瞬だけ赤く光る。やはり火炎光弾ファイヤー・ボルトの分の魔力を取り込んだようだ。


「フフフッ……何度やっても同じじゃよ。ワシに魔法は効かぬ」


 老魔道士が勝利の確信に満ちたふくみ笑いをする。二度も攻撃魔法を吸収される失態を犯した魔王を、学習能力の無い男だと心底からあざける。


(確かに攻撃魔法は全く効かないようだ……ならばやはり、物理攻撃で致命傷を与えるしかない)


 ツェデックに魔法を吸収された光景を見て、ザガートが魔法で深手を負わせるのは諦めるしかないと冷静に思い直す。雷属性以外の魔法なら通用するかもしれないといちの望みを抱いたものの、ろうに終わる。


ときよ、加速せよ……速度強化スピード・ブーストッ!!」


 両手でいんを結んで魔法の言葉を唱える。全身がオーラのような青い光に包まれると、十倍に跳ね上がったスピードでビュンッと猛ダッシュする。

 残像を残しながら凄まじい速さで大地を駆け抜ける。常人の視点では、青い影のような物体が銃弾を超える速さで高速移動しているようにしか見えない。


「お前達に能力低下の魔法は効かない……だが、俺が自らを強化する魔法を邪魔も出来まい!!」


 ザガートが思い付いた戦術を声高に叫ぶ。相手を弱体化させるのではなく、自らの身体能力を底上げして優位に立とうという算段だ。


 魔王は相手を翻弄ほんろうするようにジグザグに動いた後、五人の周りを円を描くようにグルグルと走る。相手に攻撃するすきが生まれるのを待つ。


 このまま走り続けていれば、連中はしびれを切らすだろう……そう男が確信した瞬間。


「……!?」


 我が目を疑うような光景が視界に飛び込んでくる。


 これまで沈黙をつらぬいていた僧侶クリムトが、突如として走り出したのだ。だがそれだけではない。魔王と全く同じスピードで忍者のように大地を走っていた。

 高位の聖職者らしき法衣をまとった、見るからに動きが遅そうな老人が、残像を残しながらシュタタタッと高速で大地を駆ける姿はシュールと呼ぶ他ない。

 魔王は一瞬、この老人が忍者だったのではないかと錯覚した。


「ワシはころもの内側に神速の腕輪を装備しておる! しかるに魔王よッ! 貴様がどれだけ速くなろうと、ワシはその貴様と同じ速さで動ける!!」


 クリムトが自身の能力の秘密を打ち明ける。かつてデスナイトとなったアドニスが装備していたのと同じ宝具を装備していたと教える。


 老人は目にも止まらぬ速さで魔王に追い付いて、両手でガッとしがみ付く。凄まじい握力でつかんでいて、決して離そうとしない。

 この老人の何処にそんな力があるのかと、魔王は心底驚かされた。


「Go to hell with me!! ……僧自爆メガ・グランテッ!!」


 クリムトが呪文の詠唱らしき言葉を叫ぶ。他の四人が何が起こるかを察したように慌ててその場から離れる。

 カッとまばゆい光を放った瞬間、老人の体が体内に爆弾を仕込んであったように爆発する。耳を裂くような爆音が鳴り、辺りが一瞬にして巨大な炎に包まれた。


「うぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおーーーーーーーーッッ!!」


 爆発に呑まれたザガートが大きな声で叫ぶ。至近距離で自爆されたため逃れるすべがなく、爆風を百パーセントの威力で喰らう。超高熱の嵐に全身の皮膚を焼かれるような痛みを覚えて、凄まじい破壊力の衝撃波を受けて、四肢がバラバラに千切ちぎれそうな感覚に襲われる。


 爆発の威力は核爆熱閃光エクス・プロージョンどころの比ではなく、まともに喰らえばバハムートでもチリも残らず蒸発する、超高威力の爆発だ。それをザガートはその身に受けた形となる。


 ……数分が経過し、辺りに吹き抜けていた爆風がむ。天高くまで噴き上がっていた炎が消えて無くなり、モクモクと黒煙が立ちのぼる。そこから一人の男が歩いてくる。


「メガ……ンテ……だとぉ!?」


 爆風をまともに受けたザガートが驚きの言葉を発する。元いた世界の神話で知られた魔法だったらしく、それを喰らった事に心底驚嘆する。


 衣服はボロボロで、全身の皮膚は黒焦げだ。足元は老人のようにふらついている。核爆熱閃光エクス・プロージョンを受けたのと同じ状態になる。

 だがさっきと違って、いくら時間が経過しても自己修復機能が全く働かない。もはや受けたダメージは五分の一どころでは無くなり、まともに戦える状態ではない。

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