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第194話 人類を創造した神……その名はヤハヴェっ!

『結局……此奴こやつは諸悪の根源でも何でもなく、ただ神の命令で動いただけの操り人形でしか無かったという訳か』


 ブレイズがこれまでの流れを総括そうかつするように口を開く。数多あまたの惨劇を引き起こした黒幕だとみなした相手が、単なる黒幕の配下に過ぎなかったと知らされた喪失感は大きく、何とも言えない気持ちになる。


 虚無感にとらわれたのは他の者も同じだ。みなが大魔王が黒幕でなかった事実に落胆する。ラスボスを倒した達成感からは程遠く、今までやってきた事は何だったのかという思いにすらなる。

 しかも彼を裏で操っていたのは、他ならぬ人類を創造した神だというのだ。その事実が皆を不安にさせた。


 大魔王から言われた言葉にショックを受けたあまり、誰もが放心状態になっていると……。


「……ムッ!?」


 ザガートが何かにかんいたように辺りを見回す。次の瞬間城がゴゴゴッと音を立てて揺れだした。


「何だ!?」


 城が激しく揺れだした事にレジーナが血相を変える。まだショックから立ち直れていない時に起こった異変に、とても冷静ではいられない。


 城を揺るがす地震の規模はこれまでに無い大きさで、城が倒壊しかねない勢いだ。王女はてっきりもう神の攻撃が始まったのかと、そう考えた。


「この城は大魔王の魔力で浮いていた……その大魔王が死んだために浮力を失い、城が物凄い速さで落下しているんだ! このまま脱出しなければ、あと数分と持たずに城は地表に激突する!!」


 ザガートが一連の出来事について語る。大魔王の魔力によって宙に浮かんでいた城が、支えを失って地上に向かって落下しているというのだ。


「そそそ、それなら早く脱出しないと我らは全員死んでしまうではないか! ままま、魔王ッ! はよう何とかせい!!」


 鬼姫が顔を真っ青にしてパニックになる。眼前に迫った危機を知らされてとても落ち着いてなどいられず、魔王に一刻も早く状況を打開するよう懇願する。


 ザガートが転移の呪文を唱えようと思い立った瞬間、部屋の壁がドガァッ! と音を立ててブチ破られて、巨大な何かが飛び込んでくる。


「皆さん、早く私の背に乗って下さい! ここから脱出します!!」


 部屋の中に飛び込んできたのは、一行を浮遊城まで連れてきた巨大な鳥ガルーダだ。障壁を破るのに体力を使い果たして休憩していたが、すっかり全快したのかピンピンしている。今どうなっているのか状況を把握済みらしく、一行に自身の背中に乗るよううながす。

 一行が言われるがまま背中に乗ってつかまると、ガルーダは床を猛ダッシュで駆け抜けて加速し、その勢いに任せるように空へと飛び立つ。


 神鳥が離れてから二分とたないうちに浮遊城は地表に激突して、爆発音のような轟音を立てながら木っ端微塵に砕けた。大魔王の城の最期だ。


「危ない所でしたね……皆さんが無事で良かった」


 ガルーダが飛び続けたまま、背中に乗る一行に声をかける。彼らの身を案じていたようで、犠牲者が一人も出なかった事にホッと一安心する。ひとまず手頃な地面を見つけて、そこに降り立つ。

 神鳥が地面に着地すると、一行は彼女の背から一人ずつ順番に降りる。全員が地面に降り立つと、危機が去った実感が湧き上がり、胸が安心感に包まれる。


「ありがとう……おかげで助かった」


 ザガートが命を救ってくれた感謝の言葉を口にした時……。




 何も無い空が突然ピカッと光りだす。何度も点滅するように白く発光した後、雲一つない青空だというのにゴロゴロとかみなりのような音が鳴る。


「我が名はヤハヴェ……天地を創造した神なり」


 何者かの声が空から発せられた。マイクしに発したようなくもった音声は世界中に聞こえるようにするためなのか、声量がかなり大きい。声がとどろいただけで天地を揺るがしかねない勢いだ。


 空に巨大な人の全身像が浮かび上がる。その者は中世の騎士のようなフルプレートの鎧を着た、マッチョな大柄の男性だ。頭部はフルフェイスのかぶとで覆われており、素顔を覗く事は出来ない。腰回りにはひざ下まで伸びたたけの長いスカートを穿いており、背中には左右に六枚ずつ、合計十二枚の天使の翼を生やす。

 頭上に天使のっかは浮かんでいないが、背後に太陽をしたギザギザの光輪が浮かんでおり、そこから常に後光がしている。白銀の鎧に身を包んだ姿は、とても戦いに強そうに見えた。


 神と言えばゼウスのように白い衣に身を包んで木の杖を持った老人をイメージしがちだが、このヤハヴェという神は大柄な男性の騎士のようだ。


 空に映し出されたヤハヴェの姿は山のように大きかったが、半透明にけており、空を飛ぶ鳥がスゥーーッと通り抜ける。立体映像を空に投射したものであり、これが本来のサイズという訳では無さそうだ。


 神の姿は遠く離れた場所からでも視認する事ができ、ソドムの村からも見えた。


「おお神よ……魔族にしいたげられし我らに、救いの手を差し伸べたまえ」


 村の住人達がひざまずいて祈りを捧げる。この混沌の世に降臨した神の姿を見て、自分達を救いに来たのだろうと安直に考える。当の神が魔族を差し向けた黒幕だという事実など知りもしない。


 ヤハヴェはしばしあごに手を当てて物思いにふける素振りを見せたが、住人の声が届いたのか、空に映し出された幻影のまま村があった方角へと振り返る。


「……駄目だめだ」


 開口一番、村人の要求にノーを突き付けた。口調は重く、村人を見つめる瞳は兜しでも伝わるほど冷たい。まるで地べたをうアリを見るような目をしており、我が子に対する慈愛の感情は一ミリも感じ取れない。


「聞くがいい、我が子らよ……もはや百万回祈ろうと、なんじらの声は我が耳には届かない。罪でけがれた魂の言葉を、我が聞き入れる事は決して無い……汝らに現世での救済がもたらされる事など、もはや無いのだと知れ」


 人類に対する失意の言葉を次々と投げかける。もはや完全に人に愛想をかしており、いくら祈りを捧げても、それを聞き入れる気は無いのだと告げる。


 村人からすれば訳が分からない話だ。罪で穢れた魂だと言われても、何の事だかサッパリ分からない。事情を知らない彼らからすれば、神がいきなり怒りだしたようにしか見えない。


 神の意図がサッパリ読めず、村人がポカンと口を開けたまま棒立ちになった時……。


なんじ、地獄の炎にその身を焼かれて、死後の世界にておのが罪を悔いるがいい!!」


 ヤハヴェが目をグワッと見開いて、揺るぎない殺意に満ちた言葉を吐く。村人を殺そうと思い立った意図を隠そうともしない。


「ザラズズール・ギラズズール・ディルケイム・ザザートマ……天の光よ、裁きのいかずちよ。ゆるされざる罪を犯した我が敵に、永劫えいごうの苦痛を与えたまえ!!」


 両手でいんを結んで攻撃呪文の詠唱のような言葉を唱え出す。極大呪文を放とうとしているようだが、かなり威力が大きい技なのか、詠唱が非常に長い。


「……聖絶アナテマッ!!」


 呪文名らしき言葉を大声で叫び終える。すると次の瞬間、ソドムの村のはるか上空に巨大な円形の魔法陣が浮かび上がり、そこから一筋の光線のようなものが地上へと放たれた。ソドムの村に向けて発射された光線は地表に着弾すると、天が割れんばかりの轟音と共に巨大なドーム状の爆発を巻き起こす。


「なっ……!!」


 村人は何が起こったのか分からないまま、白い光に飲まれて意識が途絶えた。


 爆発の規模は凄まじいものだ。大地は裂け、空気がビリビリと振動して、地球を三周しても消えないほど大きな爆発音が鳴る。爆発の衝撃が伝わっただけで、半径十キロメートル圏内の木々がバキバキにぎ倒される。衝撃をまともに受けた動物達がショックのあまり気絶する。

 最後はダイヤモンドを一瞬で融解させる超高熱の嵐が、村があった場所へと吹き荒れた。


 その魔法の威力は、ザガートが元いた世界の原子爆弾二万発分に相当するものだった――――。




 ……数分が経過して、着弾地点に吹き荒れた炎の嵐がむ。爆発が治まって視界が開けた時、そこには半径一キロメートルにも及ぶ巨大なクレーターが出来上がった。村があった痕跡は一ミリも残っておらず、ただかわいた砂漠の荒野だけが広がる。生存者は一人もいない。


 ソドムの村は神の裁きのいかずちによって、跡形もなく燃やし尽くされたのだ。


「聞くがいい、我が子よ……今一つの村が地上から消えた。だがこれは終わりではない。むしろ始まりに過ぎない。これから全ての村や町が、同様の裁きを受ける。神の裁きは最後の一人が死ぬまで終わる事は無い。人類はみな等しく裁きを受けるべきだと……そうわれが決めたのだから」


 ヤハヴェはソドムの村を焼き払った事を全世界に向けて告げると、他の村にも同様の仕打ちをすると伝える。全人類を滅ぼす意思を固めた事を明確にする。


「裁きが下る最期の瞬間まで、せいぜい自分の罪深さを悔いるがいい……」


 死刑宣告のような言葉を吐くと、空に映し出された立体映像がスゥーーッと薄れて消えていく。最後は何も無いただの青空へと戻り、元の静寂が訪れる。


「……何という事だ」


 村が滅ぼされた光景を見て、ザガートがぜんとなる。目の前で起こった出来事をにわかに受け入れられず、頭が真っ白になる。村人が皆殺しにされた事へのショックは大きく、全身をわなわなと震わせた。

 こっちの世界に来てから大抵の事に驚かなかった彼が、これまでに無いほど深く動揺する。頭を強く殴られたような衝撃があった。


 ソドムの村は一行の現在地から離れた場所にあったが、村を焼いた爆発の規模が大きかったため、遠くからでも肉眼で確認できた。それにより村人が全滅した事実を把握するのは容易だった。


 ザガートは村があった方角へとダッシュして途中で足を止めると、さっきまで神の姿が映し出されていた空に向かって大きく口を開けて叫ぶ。


「神よ……神をあがめた教会よッ! 七つの大罪に傲慢ごうまんという罪があるのなら、神がしでかしたこの行いこそ、傲慢と呼ぶ他ないではないかぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーーーッッ!!」


 ナイカーーーーッ、ナイカーーッ、イカーーッ、カーーッ……。


 ザガートの魂の叫びは残響音となって荒野にむなしく響いた。

 彼の疑問に答えられる者などいない。

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