第191話 明かされた真実
「蜘蛛がアザトホースの正体とは、一体どういう事だ! ちゃんと説明しろ!!」
魔王の言葉が俄かには信じられず、レジーナが物凄い剣幕で食ってかかる。さっきまで激闘を繰り広げていた大魔王が、ただの一匹の蜘蛛になったと聞かされても到底納得が行くはずもなく、詳細を教えられなければ合点が行かない。
他の仲間達も彼女と心情は同じであり、皆魔王が真実を話してくれるはずだと期待する。
「俺も全てを把握した訳じゃないが、この蜘蛛から微弱ながらもヤツと同じ魔力の気配を感じる……こいつが大魔王の正体である事だけは疑いようがない」
声を荒らげた王女の問いにザガートが口を開く。微かに残っていた魔力の残滓から、蜘蛛がアザトホースと同一の個体であると見抜く。
「推測ではあるが、この蜘蛛が長い年月をかけて魔力を蓄えると、あの醜い化け物の姿になるのだろう。それが勇者に敗れて力を失うと、小さな蜘蛛となってそそくさと逃げる。そして数百年かけて力を蓄えて、巨大な化け物へと戻る……それをこれまで二度行った。これが大魔王が勇者に倒されても、数百年ペースで復活を遂げるカラクリだった訳だ」
仮説だと前置きしながらも、蜘蛛がこれまで取った行動について語る。正体を見抜かれなかったため止めを刺されずに生き長らえた事、長い年月をかけて力を取り戻した事、それによって何度倒されても復活した事……それらの事実を語る。
もしここで蜘蛛を殺さず取り逃がしていたら、数百年の年月を経て復活していたかもしれない……という事になる。
「さすがザガート……これまで我を倒した勇者は二人いたが、我の正体まで見破れたのはお前唯一人だけだ。褒めてやろう」
ザガートに指で摘まれていた蜘蛛が流暢な人間の言葉を話す。以前はマイク越しに発したような曇った音声だったが、今は聞き取りやすいハッキリとした声で喋る。見た目はただの蜘蛛でしかないが、人語を解する辺り高い知能を持っていたようだ。
「アザトホース……お前は一体何者だ? お前ほど高い知能を持った蜘蛛が、いきなり無から生まれたとは到底考えにくい。お前を影で操っていた黒幕がいたはずだ。知っている事を全て話せ」
ザガートが事の真相を問い質す。人類抹殺計画は彼による単独の犯行ではなく、裏で計画を主導していた真のラスボスがいたはずだと、そう考えた。
「正体を知られた以上、私の運命もここで終わりだ……貴様らに全て教えてやる」
大魔王が観念したように口を開く。正体を見抜かれて捕まえられた以上、もはや死を逃れられる状況では無くなり、口を閉ざしていても無意味だと悟ったようだ。
「私を影で操り、人類抹殺をもくろんだ者……それはこの世界を統べる神、ヤハヴェだ」
自分を裏から操っていた黒幕の正体を明かす。
「うっ……嘘だぁぁぁぁぁぁああああああああーーーーーーーーっっ!!」
レジーナが喉が割れんばかりの大きな声で叫ぶ。あまりにショッキングな事実を告げられて冷静ではいられなくなり、頭の中が混乱してグチャグチャになる。大魔王の言葉がもし真実だったとすれば、とても正気ではいられない。
「ヤハヴェと言えば、人類を創造されたお方……全ての人を我が子のように愛する、慈愛の神だぞッ! そもそも人類を助けるために二度も勇者を異世界から呼んだのは、他ならぬヤハヴェじゃないか! そのヤハヴェが人類を滅ぼそうとしたなんて、信じられるか!!」
神が人類抹殺をもくろんだ黒幕だとする大魔王の言を即断で否定する。神がそのような事をするはずがないと考える根拠を早口で並べ立てた。
「お前達が信じようが信じまいが、紛れもない事実だ……」
アザトホースが王女の言葉に反論する。この期に及んで嘘をついても仕方がなく、自分の言っている事が真実だと伝える。
「アザトホース……お前の言うヤハヴェとは、旧約聖書に名を記された、あのヤハヴェか?」
ザガートが冷静な口調で問いかける。真相を知らされても王女のように取り乱したりしない。この世界を治める神が、自分の知っている神と同一なのか聞いて確かめようとする。
「そうだ、ザガート……お前が元いた世界において最も名を知られた神……それがヤハヴェだ。モーセに十戒を授けなされたお方であり、全人類の祖たるアダムとイヴを生んだ、人類の創造主に他ならぬ存在……」
大魔王が男の質問に答える。この世界を治める神であり、人類抹殺をもくろんだ黒幕こそ、紛れもなくザガートが元いた世界において信仰された一神教の神であったと伝える。
「貴様ら人間に教えてやろう。アダムとイヴ……人類の祖たる二人が神と交わした契約、その真実を」
アザトホースは原初の人間が楽園を追放された経緯について語りだす。




