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15:予知夢の無い世界

本日は2回更新します。

2話目は20時更新。

 わたくしが一応の夫である陛下を庇ってから本日で1ヶ月と半月が経過致しました。パフェム様を夢現で見たような気がしていましたら、現実でございました。パフェム様のギフトの相手がわたくし、なのだそうです。確かあの方のギフトは……誰かが危ない目に遭ったら知ることが出来る、というものではなかったでしょうか。確認したら、その通りだと頷かれて唖然としたのは、きちんと意識を取り戻して直ぐですから……かれこれ1ヶ月以上前のことですわね。陛下を庇って暗殺者の凶刃に倒れたわたくし。良く一命を取り留めたと思いましたら、それもパフェム様のお陰でした。王族ですから毒による暗殺の危険性を考えて様々な毒の知識を取り入れていらしたそうです。さすが、パフェム様ですわ。


 そのお陰で命は助かったわたくし。ただやはり毒が体内に入ったわけですから体力回復はとても難しく、現在、ようやくベッドから起き上がれました。そういえば、わたくしが倒れてから陛下の命で離宮から陛下やロナ様達が暮らす王宮へと住まいが移されました。別に離宮でも良かったのですが、パフェム様が激怒された、らしいですわ。最初は離宮に連れて行こう、と陛下は思ったようですが、救護室から離宮へ移すのなら、それだけ設備が整っているのか、とパフェム様は思われたようで、一緒にわたくしが与えられた部屋を見た瞬間、治療の設備も無いのも当然ながら。そもそも窓も無く、外からしか鍵の開閉が出来ないので、物静かなはずのパフェム様が大声を上げたそうですわ。まぁそれも仕方ないのかもしれませんが……。


「あの寝室、火災に遭ったら死ぬだけでしたものねぇ……」


 誰も居ないので移された部屋の窓から外を覗きながらポツリと呟く。正にパフェム様はその事に怒りを抱いたようですわね。パフェム様に指摘されてようやくその可能性に気付いた、と後から陛下に伺った時には、周りが見えないにも程がある、というか。思い込んだら一直線なのかしら……と呆れました。顔には出なかったでしょうけれど。どう考えても気付くと思いますわよね。

 ですので、ついうっかり「あら……適当な所で離宮に火を放って火災による事故としてわたくしを殺すおつもりなのかと思っておりました」と溢してしまったのは、わたくしの失敗ですわね。全くそのような事を考えておられなかったのでしょうね。わたくしのその皮肉に陛下もロナ様も、ついでにロゼルさんもラナもゼスも顔色を真っ青にしてましたわ。……誰も考え付かなかったのかしら。もし誰も考え付かなかったのだったとしたら、相当視野が狭いことの現れですが。


 まぁ何にせよ、もうわたくしは離宮から移されたわけですし、体調を回復するのが先だと思いまして忘れることにしました。ベッドから起き上がれるようになったのもここ数日ですし、まだまだ体力は回復しておりません。わたくしが寝込んでいる間に、パフェム様含めた使者団を丁重にお迎えして何とか他国から認められるようになったことを知ってわたくしも安堵致しましたわ。パフェム様は一旦帰国された後、近いうちにまたわたくしを訪ねて来る、と仰っておいででしたが。そのお気持ちだけで充分です、と伝えましたら……


「あなたを妻に迎え入れるために準備を整えております」


 と求婚されてしまいました。わたくし、お飾りとはいえ、夫持ちの王妃なのですが……と伝える前に


「いつまででも待ちます。我が国が恋愛結婚推奨のお国柄とご存知でしょう? 私はシアノ様を恋しく思っていますから。王族である私の妻でも、臣下に下った私の妻でも、貴族籍から抜けた私の妻でも、あなたが望むままに準備をしておりますから。2人だけで生きていくのも良いと思いませんか?」


 などと仰って。これはもしや、本気なのでは……とわたくし、思いました。てっきり同情心だとばかり思っていたわたくしにとっては驚きでしたわ。わたくしが離婚しないならそれはそれで構わないそうです。一生独身でいるだけだから、と。でも、もし離婚したのならパフェム様の妻になることを考えて欲しいと言われ……わたくしは、お返事を保留させて頂きました。なにぶん先ずは自分の身体が優先でしたから……。いつもと変わらない生活を出来るようになったら、と先延ばしにしております。


 そんなことを考えながら、身体が疲れて来たのでまたベッドに横たわった時でした。


「側妃」


 陛下がいらっしゃいました。


「陛下、何か?」


 わたくしは、陛下の名前を伺ったのですが、呼ぶ気は有りません。陛下がわたくしの名を呼びたいと仰った時は、命令で無いのなら拒否致します、とお断りしております。わたくしをお飾りにする、と決めた陛下への細やかな抵抗ですわ。陛下の名前を呼ぶことも陛下に名前を呼ばれることも、嫌ですの。


「体調は」


「少しずつ良くなって参りましたが。申し訳ないのですが、結婚1年目の暁に離婚は出来そうも有りませんわ」


「その事なのだが」


「はい」


「その……今までのことを水に流せとは言わない。いや、言えない。それだけ愚かな言動だったと思っている。やり直しも何も、何も無いのだから無理だとも解っている。だから、新たな関係を築いて欲しい」


「と、仰いますと?」


「側妃として、至らない王である私を支えてくれないだろうか。かの国から使者を迎えるにあたり、マナーや語学等、あなたから様々に教わった。教わって初めて解った。私は望んでいなかった国王の座に嫌々着いて。嫌だからこそ、何も見てこなかった、と。あなたが私を支えてくれれば、この国にも私にとっても良い方へ向かう。どうだろうか」


 あらまぁ。ご自分の罪悪感を消すための謝罪を口にせず、今後について展望が見えた事はかなりマシかもしれませんね。ですが。


「それはお断り致します。もう、わたくしは予知夢の無い世界……つまり皆様と同じで予測出来ない未来を歩み始めました。わたくしが陛下の元に嫁いで来ましたのは、予知夢で知った未来だったから。わたくしの予知夢は外れませんもの。だから、予知夢通りに陛下からの結婚の打診を受け入れました。支援金付きで。でももう、未来は判らない。それならば、わたくしの自由に生きたいですわ。陛下と離婚し、国に帰るにしても、真っ直ぐに帰らず寄り道をして帰る、そんなことも出来ますもの。ですからお断り致します」


「そう、か。それなら。それならばあなたの体調が戻るまで。それまでの間、ロナに王族としての心得や私とロナの為政者としての足りない所を教えて欲しい」


 わたくしの発言を切って捨てるのも簡単なはずなのに。そのような事を仰る陛下は、視野が広がったのかもしれません。わたくしは少々考えさせて欲しい、とお答えしました。学ぶ心と機会を持ったならば、その期待にお応えしたくも有りますが。正直、疲れてしまいましたので。陛下の話はまた後日ということに。それまでには返答出来ますかしら。


 そうしてまた何日か後。

 わたくしは懐かしい方からの手紙を手にしていました。

 アルザス様から、です。


 そこには、ソイーナ様が魅力のギフト持ちだったことが書かれてあり。しかし、付け入られたのは己が責任、と。また魅力のギフトが発動されたとしてもソイーナ様が可愛く思えたのは確かだ、と。とはいえ、ソイーナ様の言動は他者から見れば異常性を覚えたとかで、どうやら修道院に幽閉の処分のようです。


 あらまぁ。

 そしてアルザス様は、王都追放。爵位継承権剥奪。生涯独身の罰だそうです。粛々と受け入れておられるようですが。手紙には、わたくしに行き場が無いのなら……頼ってもらいたい、と最後に締められました。

 どうやらわたくしの知っているアルザス様に戻られたようです。ですが、この申し入れはお断りさせて頂きます。


 だって、自由なんですもの。アルザス様の庇護下にでも入れば自由が無くなりますわ。でも、わたくしの知っているアルザス様は、どなたに対してもこのように誠実さと優しさをもって真摯に尽くしておりました。魅力のギフトに振り回されても己を貫く事は出来たはずですので、あの頃のアルザス様も、彼自身の意思だったのでしょうけれど。わたくしの知っているアルザス様はこちらですから、何となくやっとアルザス様と再会した気が致しました。これからアルザス様は大変な日々を送られるでしょうが、1日でも多く幸運だと思える日々を送って欲しい、と思いますわ。


 そんなわけで、なんだか色々有りましたが。気付けば書類のみの結婚から1年を迎えておりました。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

今夜8時にエピローグを更新して完結です。

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