モイザの染色体験
宿に戻るとモイザは製薬と合成に精を出してるようで、染色体験するとしても明日以降にやることになった。
なので今日の残りは僕も合成のほうを一緒にやってみたり、夕飯はジャガイモの薄焼きとかを作ったりした。
ジャガイモの薄焼きはパリパリで美味しいんだけど、スライサーがないから千切りがちょっと大変だったな。切っちゃえばあとはこんがり焼き上げるだけでいいんだけど。
今日お店行ったときにスライサーも探せばよかったな。品ぞろえ良いんだからあったかもしれない。まぁ雨の間は濡れるの避けるなら行動は絞られるし、また店によればいいだけなんだけどね。
翌日はモイザもあらかたスキルレベルが上がって満足したのか、染色のほうに移れるならうつることになった。
とりあえず受付に行くと店員の人はいなかったので、水晶に染色スキルを教わりたいと声を入れると、少々お待ちくださいと文字が浮かび上がった。少し待てば受け付け奥から昨日の店員さんが出てきてくれた。
「おまたせしましたー、やっぱり昨日のお客さんだね。染色桶は買ってきてくれたかな?」
「はい、購入してきました。あと、僕が教わりたいわけじゃなくて、蜘蛛の従魔のモイザに教えていただきたいんですけど、大丈夫ですか?」
足元のモイザを紹介すると、店員さんが受付越しにモイザに視線を向ける。モイザも足を一本あげて挨拶。
「そ、そうですね、従魔に教えたことはないのですが、方法は普通に教える方法しかできませんが、大丈夫ですか?」
「多分大丈夫だと思います。製薬と合成も普通に教えてもらって、今使いこなしていますので。」
「なるほどー、でしたら大丈夫ですかね。では奥の部屋にどうぞー。」
誘われるままに受付奥にと入っていく。いくつもの染色桶と染色瓶、そして長い布かけが置かれた作業スペースと、料理セットの置かれたスペース、そしてベッドだけの生活スペース。
「結構な数の染色桶があるでしょ?普通は水洗いしちゃえば染色後の桶もきれいになるんだけどね。僕はあえて洗わずに、同じ色を継ぎ足してより味わいのある色にしたり、違う色と組み合わせて新しい色を作ろうとしたりしてるんだよね。そのせいで放置してる桶も多いけど、どれがどれだかわからなくなっちゃってるから買ってきてほしかったんですよ。」
「なるほど、それでこんなに多いんですね。」
「おっと、僕のことはどうでもよかった。さっそく染色体験に入るけど、蜘蛛さんだけがやるのかな?」
「そうですね、今回僕は見てるだけにします。」
「了解ー。では蜘蛛さんはこちらにどうぞ。」
染色桶の並べてあるスペースの近くで、唯一広めのスペースにモイザは案内される。僕もそこまでついて行って、染色桶だけ出しておく。
「おっと、染色桶出してもらうの忘れてました。申し訳ないです・・・今からやるので汚れることはあまりないのですが、見ているだけならば、少し離れておくといいかもです。」
「わかりました。少し離れておきますね。」
エプロン汚れまくってるのであんまり説得力ないけど、まぁ初級の染色なら平気なのかな。店員さんも自分用に染色桶と染色瓶を並べた中から一つ、手元まで引き寄せた。
「ではさっそく始めますねー。まず基本色瓶について教えますね。この瓶の中が3色の入った空間に分かれていて、2回振るごとに赤、青、黄色が出てくるようになってますよ。基本色は色も付けやすく便利なのですが、量が少なくて1色ごとに1回分しか使えません。
あと、混ぜて他の色にすることのできない素材ですので、他の色を使用したい場合は、それぞれの色瓶を買っていただくか、僕みたいに混ぜられる色瓶を使用して色を作るといいですよ。」
「あ、すいません。混ぜられる色と混ぜられない色の区別ってどうされているのですか?」
「混ぜられる色はこの混赤色のように、混るという文字が頭にあるので、そちらで確認してくださいねー。」
近くの染色瓶の一つを僕に見せてくれた。瓶に混赤色というラベルが張ってある。識別してみても混赤色とでて、混ぜることができることがわかる。
「では続きです。本当は先ほど教えた基本色瓶のほうが、きれいに染め上がる時間が短いのですけど、スキルを習得するならば、回数をこなしたほうがいいので、この赤色瓶をつかってこちらの布切れを染めてみましょうね。たくさん用意しているので、ガンガン使用してください。
実践して見せますけど、やり方は簡単、染色桶にまずこの線まで水を入れます。そしたら赤色瓶をすべて入れたらかき混ぜてください。かき混ぜるときにこちらの棒を使ってもいいですよ。
水の色が全部変わったら、布切れを沈め入れると、そのまま放置でも2刻ほどで染め上がるはずです。染め上がり時間はスキルの上達で短くなりますよ。
今回は数をこなしたいので、布を入れた後にさらにかき混ぜてください。そうすると早く仕上がりますよ。ただ色にムラができやすいので、きれいに作りたい場合はお勧めしませんけどね。
染めた後の乾かすのは、こちらの布かけをお使いください。ただ、乾燥時間は染色スキルの影響はありますが、発現や上達には関係ないので、こちらの破棄空間に入れちゃっても構わないです。この布切れは端材ですので、色確認用なんですよね。なので乾かしたのもそのまま置いて行って構わないですよ。
色を変えて染色したい場合や、基本色瓶を使用するときは、染色が終わったら廃棄空間に桶の中身を捨てて、桶を水洗いしてくださいね。そのあと新たに水を入れるところからになります。
今回は色を変えないので、10回までは洗う工程は省いて大丈夫ですよ。瓶一本で10回分染色できますからね。以上になります、どうぞやってみてくださいねー。」
店員は染色の実践を見せてくれた後に、10本の赤色瓶と僕の両掌くらいの大きさの真っ白い布切れ100枚、さらに染色の混ぜ棒を用意してくれた。モイザはさっそく見ていた工程通りに染色を開始する。
「あ、蜘蛛さんはそのまま続けていいですよ。お客さんちょっとお話があります。」
「はい、なんでしょうか?」
「染色は見ての通り、普通にやれば混ぜるときに使うものが汚れるくらいなのですが、染色の失敗が発生すると桶の中の色水が飛び出てきます。十分に注意してください。染色できる布面積の大きさはスキルの上達によって大きくなります。今使ってもらってる布の大きさより大きいのは、しばらくやめたほうがいいですよ。」
なるほど、今使ってるのが初級レベルの限界の大きさなのかな。モイザならスキルを覚えれば、感覚でどの大きさまでできるかわかるだろうか。
「そういう点も含め、失敗時に他の生産具を汚さないように充分離してあります。もしお客さんが生産セットを同時に2,3個使うようでしたら、あの部屋のスペースですと、失敗時に他の生産具に飛び火するのでお気を付けください。」
「なるほど、わかりました。ありがとうございます。」
多分製薬の話をしておいたから、同時に生産セットを使った場合のデメリットを教えてくれたんだろうな。匂いうつりとかしないから気にしてなかったけど、今後は気を付けるべきかな。
「では、僕も染色を始めますけど、闇の刻をすぎない限りは、蜘蛛さんの気のすむまでどうぞ。もし闇の刻を過ぎそうになったらこちらから声をかけますね。」
「わかりました、とりあえずスキルの発現までにしますよ。」
「了解しました、とりあえず講師料として5000リアになりますが、今お支払いしますか?受付の水晶にしますか?」
「ではここでお願いします。」
お互いの証明を重ねて5000リアをお支払い。今までいろいろ無料でスキル講師を受けてたのがおかしいと思う。まぁ対価として物はあげてたりするけど。
「ありがとうございます。終わりましたら染色桶だけでなく、余った布切れや赤色瓶はお持ちください。そちらも料金に入っていますので。」
「わかりました、ありがとうございます。」
それで対応終了したのか、店員さんはモイザの作業してるスペースとは違う狭い場所で、染色桶をいろいろいじり始めてしまった。いつもあんな感じなんだろうというほど、手際よくいくつもの染色桶の中を確認している。
モイザや僕のことももう気にせずという感じなので、こっちはこっちでやっておこうかな。
ちょうど染色桶から布を取り出す工程のところだったようで、混ぜ棒にひっかけた布から少し色水が垂れるけど、ずっとぼたぼたとなってるわけじゃない。乾かしてる布からも濡れてるのに水は垂れてない状態だ。不思議だなと思ってみてたけど、1刻ほどで完全に乾いたようで、触っても平気になっていた。
ただ、ほんとに端材のようで、赤い布切れはもう水気も吸わず、ハンカチ代わりにもならないようだ。形もいびつなので飾りとしてもあまり価値は出ないだろう。
むしろ染色練習として使えるだけでもすごいことなのだと思う。端材で料理しようとしたらとんでもないことになったもんな・・・
20枚作ったところでモイザが手を止めて僕に何か伝えようとしてくる。ステータスを見れば染色のスキルが追加されていたので、一応ありがとうございましたと伝えてから自分の部屋にと戻ることにした。
ただ、スキルレベル上げに布切れ使うまではいいけど、フレウドのハチマキとか染めるのは乾燥用の布掛け買ってからだな。




