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従魔証と商業長

 冒険者ギルドでギルド長に会いたいことを伝えると、狙って受付してもらったドーンには・・・


「今度はどんな爆弾抱えてきたんだ?あ、俺は聞かんぞ」


 といわれ、追い払われるようにギルド長室へ。ぞんざいな扱いだけど、まぁしょうがない。

 南端の街にとって僕の起こしたことが話題だけで済まない話なのは、さすがに自覚はしている、狙ってやってるわけじゃないけど。

 ある程度は律をもってやるけど、ゲームとしても楽しみたいから、その境界が難しい、でもそんな難しさも実は楽しい。

 今のところ街を追放みたいなことを言われてないし、むしろ街にいてほしい感じみたいだから、律を守れてるかはともかく、印象は悪くないはずだ。

 多少は自信を持ってギルド長室に入ろう。こういう場所に入る時のノックは3回がいいんだっけか。


「失礼します。」


「ぬ、大丈夫じゃ、入ってよいぞ。」


 ドア向うから少し張った声が聞こえたので入らせてもらうと、書類の山を左からとって、何か書き込んで右の山にと積み上げていた。


「すまぬ、すこしまってくれるかの。」


「はい、大丈夫です。」


 あれ、勝手に行っていいってドーン行ってたけど、忙しかったんじゃん。ちょっと申し訳ないことしたけど、待ってほしい感じだったので待つことにする。

 すごい速さで左から2つ目の山を崩していくけど、時折何も書き込まずに左の端の山に乗せていく。

 そんなこんなで残った50枚以上はありそうな山を、あっという間に片づけてしまった。


「ほほっ、待たせたの。」


「いえ、全然大丈夫です。すごい作業速度ですね。」


「ぬぅ、一応儂はギルド長じゃからの。やっていることは、この冒険者ギルドの決算への署名だの、受けた依頼、達成した依頼、失敗した依頼の確認署名だの、やっとることは儂の名前を書くくらいのことじゃ。もちろん、確認の通らない書類、通せない書類もこれだけあるのじゃが」


 ギルド長がちらりと左を見る。右の100枚以上はありそうな二山みたいにはなってないけど、左の一つの山も30枚以上はありそうに見える。あれだけ署名しちゃいけない書類があるのも大変だろうに。


「まぁそんな儂のぐちはよい、今日は何の用じゃの?」


「はい、実は従魔証について聞きに来たんですが。」


「ぬぅ、従魔証か、あれを手に入れるのはかなり厳しくてのぉ。そもそも従魔契約をしてるものなぞ、王都にも数名しかおらぬ。魔物を使役するというのは、周囲にも自身にも危険が伴うからの。

 一応は魔物に名を付け、自身の縛り名で契約を縛るらしいのじゃが、従魔としてもほとんどのものが使い捨ての駒として使っていると聞いての。

 従魔証などを使うのは、脅威度認定されているような、強いために永久に縛っておきたい魔物。

 危険度認定の魔物でも亜竜ともいわれるワイバーンなる魔物のような、移動能力に長けている魔物に使うもの。

 わざわざ街に魔物を入れるなら、価値あるもののみにすると、王国は考えているようじゃの。それでも、儂の古い友人から何とか一つだけ用意したのじゃが。」


 うーん、なんか従魔証入手するのかなり難しいんじゃない?イリハアーナ様はなんか簡単に入手できる感じに言ってたんだけどなぁ。まぁ神も万能じゃないらしいし、しょうがないか。


「ありがとうございます。とりあえず早めに一つ欲しかったので助かります。えっと、今いただけるんですかね?いくらくらい払えばいいんでしょう。」


「ぬっ、やはり何か起きたようじゃな。兎殿以外に従魔契約をしたものがいる、という感じかの?」


 おぉっと、見事に言い当てられちゃった。別に隠すつもりもなかったし、むしろ相談するつもりだったけど。


「はい、その通りです。実は東の森で狼をテイムしました。種族は確か、インヴェードウルフですね。」


「インヴェ・・・そなたは本当に爆弾を抱えてくるのじゃの。」


「えっ。」


 なり行きでテイムになったベードだけど、また何か問題が?レイトみたいにとんでもない魔物ってことはないと思ったんだけど。


「インヴェードウルフならば群れでいたはずじゃろう?一つでいいということは一匹しか従魔契約してないはずじゃ。

 そなたの言うテイムとやらが従魔契約なのじゃろう。そしてテイマーは従魔契約者の職業であろうということは、ドーンからすでに聞いておる。」


「はい、テイム、つまり従魔契約したのは一匹ですね。」


 ギルド長があごひげを何度もこすりながら何か呻いている。なんだろう、大丈夫だろうか。


「従魔証の取引に、面倒なやつを呼ばなければいけなかったのじゃが、先に従魔契約した狼の話を聞かせてもらってもいいかの?どのように契約したのじゃ。」


 面倒なやつを呼ぶ?ギルド長と僕だけでは取引できないのか。まぁ今は説明しないとね。


「初めに見つけたのは大きなけがをした状態でした。見つけたときに、どうにも見捨てることができないと感じて、治癒を施しました。それが昨日の話です。

 そして今日、僕がレッサードッグの群れに苦戦してたところ、助けに入ってくれたんです。そこで従魔契約を交わしました。」


「ぬぅ、もう少し詳しく聞いてもよいかの。まずは治癒を施した、といったがそなた癒術が使えたのかの?」


「いえ、癒術は持ってません。えっと、別のスキルの力ですね。」


 ギルド長相手なんだから、ほんとは隠さなくてもいいのかもしれないけど、こういう情報は相手に問わず不用意に出すものじゃないはずだ。

 さて、愛でる手について話しちゃっていいものなんだろうか?なんで隠そうとしてるのかもちょっとわからなくなってきた。


「ふぅむ、スキルについて話すかどうか悩んでおるか。それはよい心がけなのじゃが、すまんができうる限り話してくれぬか?もし話したくない内容であれば、これ以上は言えぬといってくれてよい。」


「いえ、すいません。なんか必要以上に隠してしまった感じですね。

 スキルは[愛でる手]というスキルです。その手の力で直したいと思いながら撫でていたら、癒しのスキルアーツが発現しました。」


「ぬぅ?すまぬ、なんといったのじゃ?後の説明から察するに、手というのが入っておるのかの?」


「え、ちゃんと伝わってない・・・?」


 どういうことだ?なんか普通にもらったスキルだし、イリハアーナ様がどんなスキルか説明してくれたから、珍しくても別に普通のスキルだと思っていたのに。

 というか、住人に伝わらないようなスキルがあるってことか。この愛でる手だけってことはないよな?うーん、そもそも住人に伝わらない単語は、プレイヤーみたいな和製英語の一部が伝わらないんじゃなかったのか?


「難しい顔をしとるが、大丈夫かの?いや、儂も同じような顔じゃったかの。」


「あ、すいません。ちょっと考えこんじゃってました。えっと、手は伝わってるんですね。では愛でるは伝わりますか?」


「愛でるは理解できるの。なるほど、愛でると手を組み合わせて発現しておるだけなのかの?つまり[アドマイアハンド]ということじゃな。これで伝わらなくなるとは、来訪者との言語の壁は不思議じゃわい。」


 うーん、正しく伝わってないです・・・まぁハンドは手という意味だから、アドマイアが愛でるって意味なんだろうけど。


「すいません、アドマイアハンドという風に聞こえました。」


「ぬぅ?こちらからも正しく聞こえぬのか・・・まぁ儂がスキルの効能を理解したのでそれでよい。言語の壁については今は口論するときではないからの。」


「そうでしたね。」


 脱線しちゃったけど、今はテイム経緯を話してるんだった。

 あ、でももしかしたら、愛でる手について言いたくなかったのは、ゲームシステム的に言語の壁が発生しちゃうから、システムの影響で愛でる手を言うことに不安感を感じたのかな?さすがに違うか、まぁこれ以上は気にしてもしょうがないな。


「話を戻すと、そのスキルにより癒しを使えたということじゃな。ちなみに、今使うことはできるかの?」


「今は、少し難しいですね。戦闘で消耗した魔素が結構多かったので、できれば控えたいです。」


 これは嘘偽りなくほんとの話だ。別に愛でる手の癒しを見せるのは構わないけど、今はちょっと勘弁。


「なるほどの、戦闘で消耗したというのはレッサードッグにかの?」


「いえ、主な原因はレッサードッグの前に対峙した、グリーディードッグですね。思っている以上に火術の対処がうまくて苦戦しました。

 最後に最大威力でファイアボールでとどめを刺したため、灰すら残っていなかったと思います。

 ただ、ちゃんと確認する前にレッサードッグ6体と連戦になってしまいまして、2体はファイアメモリーによって焼け落ちて、炭にはならなかったんですけど焦げた状態で見つかりました。

 残りの4体はファイアメモリーの対処をしてきました。おそらくグリーディードッグの戦い方を見ていたのではないかと思います。」


「ふむ、なるほどの。それだけ術法を使えば魔素消費量もなかなかのものじゃな。して、残りの4匹を狼に助けられたのかの?」


「いえ、再度ファイアメモリーしたときに、二匹がほぼ火達磨のまま突っ込んできたので、何とか近接戦闘で対処したのですが、その際に大きく体勢を崩していて、追撃の二匹が襲い掛かるというときに弾き飛ばしてくれました。ただ、弾き飛ばした後とどめを刺したのはレイトだったんですけど。」


「きゅ。」


 僕の頭の上でどこか自慢げにしているように感じる。


「なるほどの、ちなみに兎殿や狼の助けがなかった場合、そなたのみで勝利出来ていたと思うか?」


「・・・正直なところ、いけたと思います。」


 レッサードックの攻撃は痛かったけれど、耐えられないほどではなかった。あの二匹に直接食いつかれないよう、無意識に杖を前に出してたし。助かったは助かった、楽に仕留められたから。でも助けられなくても、残り二匹はなんとか倒せていただろう。


「ふむ、誇張なしにそう思えるようじゃの。ならば兎殿が最後に手を出したのは、お前が助けるまでもなかったという意思表示なのかの。」


「おそらく、そして上下関係の明確化を図ったんだと思いました。」


 すごい雷鳴音がした割に、まぶしい感じはしなかった。おそらく雷術にとんでもなく長けているんだろう。レイトだけは敵に回せないな、今日も帰ったらノビルを上げておこう。


「まぁ、助けられたのは事実じゃし、それが最後のきっかけとなり従魔契約したのも事実というわけじゃな。して、狼を街中に入れるつもりかの?」


「街中に入れるかどうかより、他の冒険者がむやみに襲ったりしないようにはしたいですね。」


「なるほどの、それは大切じゃな。では、面倒じゃがあいつを呼ぶかの・・・これから呼ぶ奴じゃが、面倒ではあるが他者に秘密を漏らす奴ではない。信用が必要な職についておるし、契約事については儂よりも厳しいぞ。」


 どう面倒なのだろうか、というか結構偉い人呼ぶんだな。ギルド長が机の下から双三角錐の形をした水晶を取り出した。そしてその水晶を二回指で突いてから話しかけた。


「聞こえておるかの?儂じゃ、アーバーじゃ。例の件で商談者がギルド長室まで来ておる。待っておるからはよこい。」


 それだけ言ってまた2回突くと、すぐに机の下にとしまいこんだ。

 ギルド長の名前、アーバーを出す必要がある人ってこと?どんな人が来るんだろうか・・・



 しばらく待っていると扉からノック4回の音がした。ギルド長が入れというと一人の女が入ってくる。丸い眼鏡と漆黒の肩まで伸びる長髪が特徴的だ。


「失礼します。呼ばれたので来ましたよ。」


「ふん!おぬしなしで商談したいところじゃが、従魔証を金銭取引するとなると、おぬしぐらい必要じゃろ!」


「そうでしょうね、私くらいの権限は必要でしょう。ところで、お客様に自己紹介しても、よろしいでしょうか?」


「すきにせい!」


 えぇ?なんかギルド長の口調が急に荒々しくなったんだけど、この人となんかあったの?


「お初にお目にかかります。私はトレビス・テイワーカーというものです。生業として商業者ギルドの取り締まりを行っており、普段はトレビス商長と呼ばれております。」


 えぇ!?この街の商業者ギルド長ってこと?そりゃ、大物だわな・・・


「僕はリュクス・アルインといいます。よろしくお願いします。」


「噂はかねがね聞いておりますよ、今回は従魔証の取引ということで、よろしくお願いします。」


 うーん、やっぱ僕は噂されてるのか?


「そやつの情報網は噂話の域じゃない!心配せんでよい。」


「な、なるほど・・・」


「はい、私達南端商業者ギルドは情報集めが命。南端の低級魔物に囲まれた田舎と言われないようにするには、この街の情報に限らず、他の周辺の街の情報も網羅しなくてはいけません。」


「田舎街を目指すのは街長の意向じゃ!何も問題はない。」


「私に言わせればそれは逃げているだけなんですがね。」


 おう、なんか僕おいてかれてるよ、どうしよ。


「おっと、いけません、お客様をお待たせしてしまいましたね。従魔証の取引について、先にアーバー様に質問があります。今回アーバー様が用意したのは穴あけ型イアーカフスですね?」


「そうじゃが?」


「私の情報が正しければ、リュクス様の従魔は兎。本日新たに狼の従魔と契約したはずです。

 どちらも耳に穴をあけることを嫌うタイプの魔物ですね。そちらの従魔証はお勧めできません。」


「ちょ、ちょっと待つのじゃ!おぬしいつ狼の情報を仕入れたのじゃ!?」


 まったくだ、ベードについては僕はギルド長に初めて話したのに。


「お客様の情報はいち早く仕入れるのが私の仕事です。どのようにして入手しているかは、他のお客様との関係性維持のために言うことはできません。

 さて、そんなことよりも、私たち商業者ギルドでは現在5つほど従魔証を所持しています。軟式ネックバンド型が2つ、可変式チョーカー型が3つです。どちらも従魔に人気のモデルですよ。

 軟式ネックバンドはとても柔らかい素材でできていて、長さ調節機能も付いているいるため、兎からクマくらいの首の大きさまでなら装着可能です。不安面を上げますと魔術固定を行うのですが、大きすぎる衝撃によっては従魔証が外れる可能性もあります。

 可変式チョーカー型は可変式素材によってつくられた首輪です。大きさは自在、苦しすぎないように調整するも簡単です。外れる可能性もほぼありませんが、魔素結合させておけば外れるときは、つまり死んだ時と言えるものができます。とても便利なのですが、お値段はとても高いです。私達から買っていただければ、こちら5つをセットで販売いたしましょう。」


「ぐぅぅぅ!おぬしやはり用意したのか!従魔証なんぞ用意できぬと思ったのじゃが、まさか5つもとは!しかも儂のつてに頼んでも入手できなかった型を用意しとるとは・・・」


「つての差ですよ、私たちは堅実に動いていますので。」


 なんというか、すごいものを用意してくれてるはずなのに、二人の会話ですごみが台無しって感じだ。


「私のほうは5つセットで25000リラでお譲りしますよ。とても良心的な価格設定になっております、いかがでしょうか?」


「おぬし、なぜ金銭面の情報はいつも仕入れておらぬのじゃ・・・イアーカフスは3000でよい、嫌がるかもしれんが持っていけ。」


 うっ、セットを買いたいと思っていたけど高すぎる。僕の現在所持金は5464リラだぞ。ここは嫌がるらしいけどイアーカフスにするしかないか。


「あなたにしてはとても良心的な価格ですね。いつものあなたならもっと大きく出るはずです。イアーカフスの従魔証は確か元値1800リラでしたっけ?あなたなら5000を提示するものだと思ったのですが。」


「ほかの者ならその値段を提示しておったじゃろうの。しかしドーンが気にかけておることもあるし、儂も気にかけるべき相手じゃからの。それよりおぬしのほうの値段はどうにかならぬのか・・・認めたくはないがの、確かにイヤーカフスはあまり好ましくはないのじゃ。」


「いえ、もちろんそのあたりも含め私には考えがありますよ。」


「ほぅ、リュクスよ、そなたこやつの考えを聞くかの?」


「はい、聞いてみたいです。」


 僕のための商談のはずなのに、あんまり口を出す暇がない。今のもなんか言うように促された感じ。

 そもそも従魔証の適正価格なんてわからないし、口出ししてもあんま意味ないけど。


「では、私がリュクス様に提案するのは、リュクス様のみが知る情報をお売りいただくことです。

 商業者ギルドで扱ってもよいという状態でお売りいただければ、相応の額をお支払いする予定です。

 具体的にはノビル、レモングラスという、新しい食材となる素材の情報。そして突撃兎の炭の制作過程の情報です。」


「ぬぅ!?ノビルとレモングラスは儂から買うといっておったろう!」


「アーバー様よりも、情報をもたらした本人から聞くほうが、当然付加価値も高いです。

 そしてアーバー様にわたってしまう料金も本人がすべて取得できます。どちらのほうが良いかは言うまでもありませんね。」


「なるほど、それはそうですね。」


 別に独占するつもりもないので、情報を教えるのは構わない。売るってなるとちょっと不思議な感じはするけど。


「ぐぬぬ、確かにその通りじゃな。しかし炭の情報については、儂が情報料も含めて素材を買ったのじゃが。」


「情報料も含めて100で10000リラですか?少なすぎますね。あなたは火を知る街に炭の情報を、いくらでお売りになったんですか?」


「そなた、そこで付けた額まで知っておると言いださぬじゃろうな!?」


「どうでしょうか、ただ私は火を知る街とは良好な仲なので。」


「くっ!リュクスよ!持ってくが好いわ!」


 なぜかギルド長がやけくそ気味に金貨を2枚差し出してきた。


「えっと、これは?」


「半分じゃよ、売った情報額のじゃ。それだけあればすでに従魔証を買うこともできるぞ。そやつに何も教えんでもな。」


「40万ですか。

 まぁ火を知る街から流すならば、可もなく不可もなくという額ですね。リュクス様はそちらですでにお支払いできるようですので、私のほうには情報はいただけないということになるのでしょうか。」


「え、あ、えっと、いえ、僕の情報売りますよ。大丈夫です。」


 つまりこの金貨2枚で20万ってこと!?石貨が1リラ、銅貨が10リラって聞いてたけどさ。銅板は50リラだと思ってたんだけど、桁が上がっていくのか。

 確かに金貨を見ると10万リラだということがわかる。なんか不安になったので、すぐに証明の中にと入れておいた。所持金205464リラとなってしまいました。


「それはありがたいです。ここでお話になりますか?それとも商業者ギルドに移動しますか?」


「ここで話してよいぞ、儂はもうすでに情報を知っておる。ただ、申し訳ないのじゃが冒険者ギルドからは、そなたから得た情報に対してこれ以上の額は出せぬ。炭の情報収入の半額だけしか渡せぬことを詫びよう。」


「え、えっと、大丈夫です。ではここで話してしまいますね。」


 なんか謝ってもらったけど、正直もうこの金額でお腹いっぱいです。


「わかりました、ではよろしくお願いします。」


「はい、まずはノビルとレモングラスについてですね。情報といっても、どちらも南兎平原の雑草に混ざっていた植物です。僕はそのどちらもが食用として使えることをしっていて、たまたま見つけることができたという程度です。」


「なるほど、リュクス様は確か来訪者の方でしたね。他の来訪者の方もさまざまな食の革命を起こしているので、この新しい食材を発見されたのもわかります。食用といっても、どのような用途なのか教えていただいても?」


「えっと、ノビルについては根と葉の部分で切り分けて使います。根はほのかな青青しい苦味とその食感がいいので、料理のアクセントとして付け加えたり、味噌を付けてそのまま食べたりもしますね。葉は焼くと風味がいいので、炒め物に入れるといいと思います。」


 他の使い方もあるとは思うけど、ノビルなんて料理したのはこっちが初めてだからこのくらいだな。


「なるほど、ノビルは風味と食感を楽しむ食材ですね。」


「そんなかんじです。レモングラスはより風味付けの強いものですね。程よい酸味が特徴的で、僕は主に肉の味を高めるのに使っています。ほかの用途ですと、乾燥させ、粉末にしてスープに入れたり、粉末をお茶にもできると聞いたことがあります。後は料理だけでなく、葉の油を使った香水があった記憶があります。この匂いは虫の嫌う匂いらしく、虫よけにも使われるそうです。識別結果でも、虫型の魔物はこの草に近寄らないそうです。」


「ほぉ、虫よけの香水ですか!それはそれはとても重要な用途となりそうですね。

 どの程度の虫型魔物に聞くのかは不明ですが、場合によっては馬車のルートが新たに開拓されるかもしれませんよ。」


 おぉう、そこまで期待していいのか?まぁいろいろ実験するのは僕の仕事じゃないはずだ。


「うぅむ、レモングラスは儂も見たのじゃが、料理後で内容が変わっておったのかの。

 そのような用途があるとは。」


「おそらく素材に熱が加わっているので、アーバー様の分析眼にも異なる表示がされたのでしょう。」


 分析眼って何のことだろうか。でも今聞いたら話脱線しちゃうな。空腹感もあって、早めに従魔証をもらってお暇したい気持ちに傾いてきた。


「では、最後に兎炭についてですね。おそらく、という話になってしまうのですが、火術でないと突撃兎は炭にならないようです。

 それも威力を抑えてしっかり焼かなければ、炭の質は落ちてしまうようですね。

 また、ファイアボールでは黒焦げで何も残らなかったので、ファイアメモリーのような火力の低い技がいいと思います。」


「なるほど、それでほとんど炭が質落ちしているか、炭にもならず燃え落ちたという報告が多かったのですね。むやみに強い技を使うのは冒険者ならではですからね。なかなか難しそうですね。

 私達のほうから冒険者兼任の方に依頼を受けてもらっていたのですが、依頼を受ける方をパーティーにして、初期火術を練習してる方と組ませてみることにしましょうか。」


「おぬしのとこが依頼を受けているのは知っておったのじゃが、そこまですることなのかの。確かにあの炭はアイテムポーチの素材として優秀じゃが。」


「ポーチ製作を行っていない冒険者ギルドにはわからないのですよ。私達も少ない数ですがポーチ製作を行っています。あの炭を使うことで使う魔素量がぐっと減るのですよ。まだまだ補給してほしいところです。」


「なるほど、そんな現状なんですね・・・」


 思ってるよりも兎炭は役に立っているということか。もっと僕が集めるべきなんだろうか。


「リュクス様だけが集めるのでは限界がありますし、そもそも一つの依頼だけを行うなど、冒険者としてはよくありません。

 むしろ、他の方に回していただいたほうがいいので、情報をいただけただけで十分ですよ。では、今回の報酬になります、証明をお出しください。」


 言われた通り証明を出して、トレビス商長が証明を重ねてくる。ちらりと僕の証明を見たけど、440464リラ?ははっ、バグかな?


「あの、もらいすぎなんじゃないかと・・・」


「いえ、お渡ししたリラはすでに従魔証のお値段、25000リラを引いた額となっております。

 不安なのでしたら、分別としてはノビルの情報に3万、レモングラスに7万、突撃兎の炭に12万の計22万リラです。レモングラスは虫よけとしても使えるという情報が高くつきますね。開発に成功すれば安価に大量の虫よけが製作できます。

 兎の炭につきましては、初めから10万は超える額を付ける予定でした。想定より良い情報をいただけたので色を付けさせていただきました。」


「な、なるほど・・・」


 決してもらいすぎな額じゃないという雰囲気だな。


「ふぅむ、そうじゃな。例えばマヨネーズを開発したものは20万じゃかを受け取ったようじゃし、決してもらいすぎな額ではないはずじゃの。」


「そ、そうですか、わかりました。」


 うーん、他の来訪者もそのくらいもらってるなら納得するか。それよりも、なんか食材の話ばかりしててお腹すいたんだよね。


「では、こちらが従魔証5つになります。」


「ありがとうございます。」


 受け取ったのは、馬の蹄のような形をしたネックバンド2つ、そしてレザー製の首輪が3つだ。

 ネックバンドは引っ張るとどんどん長くなる、押し込むと縮む。グイッと曲げれば丸形にもできるようだ、これならはずれないかな?

 首輪は留め具のところをからどんどん出てくる。ボタンを押すと収納される、スプリングメジャーみたいだなこれ。

 留め具が小さすぎて明らかに入ってる量がおかしいから、そこらへんはファンタジーだけど。とりあえず二匹とも首輪かなぁ。


「それを付けていると、一目で従魔だということがわかります。例えば、従魔証が毛で隠れてしまっていてもわかるのでご安心ください。ただ、できれば従魔証を付けた状態で冒険者ギルドに登録をしてください。」


「登録?従魔登録みたいなものですか?」


「そうじゃ、従魔登録じゃの。そなたが何という種族と契約したのか、なんという名前を付けたのか、そういう情報と従魔証を付けた魔物を見せてくれるだけでよい。」


「そうですか。レイト、今やるか?」


「きゅ。」


 頭の上にいるレイトに声をかけたら降りてきた。


「おや、ずっと頭の上にいたのですか?気が付かなかったです・・・」


「ほほっ、兎殿はしょうがあるまい。儂でも今日も一応いるじゃろうと思っておったが、しっかりと認識しておらぬと連れてきてるのかあやふやな感じじゃ。こうして存在を主張しなければ、ほかの者は見ることすら難しいじゃろうの。」


「ほら、言われてるぞ。まぁ僕としては、そのほうが騒ぎにならないだろうからいいんですけどね。それで、どっちつける?」


 一応首輪とネックバンドを選ばせる。意外にもネックバンドのほうに顔を付けたので、レイト用に小さめに縮めて首につける。まえを少しだけ折り曲げて、外れにくいようにはしておく。


「えっと、従魔に選ばせるんですね、ちょっと不思議な光景です。普通は主人が勝手に付けるものなんですが。」


「ほほっ、兎殿は特別なのじゃよ。そうじゃろう?」


「いえ、特にそういうわけじゃなく、自分で選んだほうが不満もないかなと思いまして。」


 ベードにも選ばせるつもりだったんだけど、変だったかな?まぁ気にしない、僕は従魔と仲良くやりたいからな。


「なるほど、それはすまぬの、そなたの考えを尊重するぞ。して、兎殿の種族、名前をもう一度伝えてくれぬかの。名前は縛り名も含めてじゃ、書類はこちらで書いておこう。」


「ありがとうございます。種族はサチュレイトフォーチュンラビット。名前はレイト・アルインです。」


「ふむ、しかと受け持った。明日までには登録しておくが、普段通りで問題ないぞ。」


「了解しました。」


 僕がしゃがむとレイトが再び頭に乗ってくる。従魔証が付いているはずだが、頭に当たる感じはないのでうまく乗っているのかな?


「種族を聞くと、少しあれですが、そうして頭の上に上るのはかわいらしいですね。すでに私からはいるように見えてないのですが。」


「もうですか、あぁ、寝てしまったようですね。」


 いつの間にかスースーと寝息を立てている。こいつ寝るの早いんだよな、そして寝てるとおそらく他の人には見えない。

 僕もいることを忘れてるときがあるくらいだ。どういう風にそうしているのだろうか、不思議だ。


「ほほっ、それにしてもだいぶ遅い時間になってしまったの。これから帰宅して料理するには時間が遅いのではないか?」


「え、えっと・・・」


 まぁ確かに、今からじゃ遅いとは思う。


「ちょうど冒険者ギルドには料理スペースがある。この時間ならさすがに誰もいないじゃろうて。いたとしても追い出すがの。」


 あぁ、僕に作らせる気ですね、理解しました。


「おや、では私も当然、一緒にいただけるのですよね?」


「ぬぅ!?そなたはギルドに帰れば食えるじゃろう!」


「実はこんなこともあろうかと、醤油を持ってきているのです。」


「よし、リュクス、3人前頼めるかの?」


 おい、ギルド長!まぁ僕も醤油をもう一度使いたいと思ってたからいいけど。

 そうして冒険者ギルドの料理スペースに移動。誰もいなかったので追い出しがなくって安心したよ。

 料理スペースの食材も使っていいといわれたのだが、あったのは兎肉と豚肉、あと見たことある調味料。一応白パンも一緒にあったので、豚肉を醤油で焼き上げてサンド。

 量も欲しいし、兎肉もせっかくなので作ってみた。兎肉は塩だけでシンプルにしたけど、多分醤油よりもこっちのほうが合うな、なかなかうまい。そして豚は醤油がよく合う、パンに味がしみて最高だな。あぁ、でも米が食いたくなる味だ。あと生姜焼きにしたい。

 トレビス商長に帰る前に醤油を一瓶押し付けられた。そして何かぶつぶつ言っていたのだけど、さすがに闇の刻に回ってしまったので帰宿した。

なんかすごい長くなっちゃったんだけど・・・

あとリラの計算間違ってないかが不安です。

途中でいくつかリラを表記しない出費もあるからなぁ・・・

まぁいいや!たぶん来年に会いましょう!

良いお年を!

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