extra 4
続きです。
ほのぼの回後編です。
本日2話目ですのでご注意を。
麻衣子がはっちゃけています。
よろしくお願いします。
残念ながら響子さんは私を待ってはいなかった。すっかり寝入っているようだった。その寝付きの良さに感心してしまうけれど、私は心を鬼にして響子さんの寝ているベッドに腰掛けた。
私の作戦はもう決まっている。要は響子さんがお手洗いに行きたくなればそれで解決するのだからとても簡単なことなのだ。
私はそっと頭を響子さんのお腹の辺りに乗せた。そして響子さんの身体が動かないよう押さえ込むために右腕を回し、響子さんとベッドの間にぐっと入れた。響子さんがうーんと唸ったけれど気にしない。私の体勢が整ったからだ。
それから私は左手の指先を鳥の嘴の様にして、響子さんのお臍の10センチほど下をつんつん、つんつんと突き始めた。効果は絶大だった。
「あうっ。ちょっと麻衣子何してんのっ」
「きょうちゃんお手洗い行って来て」
「私は寝てるんだから、あうっ。邪魔しないでっ」
「じゃあお手洗いに行く?」
「いっ、かないっ」
「ふーん。ならやめない」
あうっとかうっとか唸っている響子さんが私の頭や背中をぽかぽか叩いてつんつんをやめさせようとしていて地味に痛い。けれど、それでも私のつんつんは止まらない。響子さんがお手洗いに行く気になるまで止めるつもりは私には無い。だってこれは響子さんのためだから。
「やめてよ麻衣子。我慢出来なくなったらどうするのっ」
「お手洗いに行けばいいじゃない」
「いかっ、ないっ。やめてよ」
「やめてもいいけれどその代わりお手洗い行く?なんならキャミの鼻水の件は怒らないことにしてくれてもいいよ?」
「うっ。この卑怯者っ。やめないと怒るよ」
「いいの。どうせ怒られるんだから、どっちかうんて言うまでつんつんは終わらないのよ」
私の目的は響子さんをお手洗いに行かせることだけれど、ついでにキャミの鼻水の件も許してもらおうと思いついてしまったのだ。
ヤバい、私、絶対超天才だわと思ってつんつんしていると、ついに響子さんが根を上げてくれた。
「うっ。わかった、わかったからもうやめて」
「何がわかったの?」
「キャミよキャミ。許すからもうやめてってばっ」
「じゃあいいよ。やめてあげる」
私は身体を起こしてベッドに腰掛けた。響子さんを見るとかなり怒っている様に見える。きっと仕返しされるだろうけれど、取り敢えず今はキャミの鼻水は許されたと思うことにした。
けれどそれはそれとして肝心のお手洗いがまだ残っているのだ。私は響子さんに聞いてみた。
「きょうちゃん。お手洗いは?」
「行かないっ。私はもう少し寝るのっ」
響子さんは私に背を向けて丸まってしまった。プンスカと怒ってそんなことを言い放っているけれど、目はもう覚めている筈だからさっさと行ってまた眠ればいいだけなのに、この人はどれだけこのまま寝たいのだろう。
それは私には全く理解出来ない意味不明の行動だった。お前もなと突っ込まれそうだけれどそれはそれ。考えることはしない。
このままでは埒があかないと思った私は再び心を鬼にして次の一手を打つことにした。
「ふーん。わかった」
私は背を向けて横になっている響子さんを強引に仰向けにしてやった。それからマウントを取るようにお腹の辺りに素早く跨った。
「もうっ。いい加減にしなさいよっ。本当に怒るよっ」
そう言った響子さんは鬼のようで凄く怖かった。今すぐにでも謝りたくなってしまうくらいの怒りを発している。けれど今の私もまた同じ、心は鬼なのだ。つまり私たちは鬼同士、鬼が鬼に怯むことなどあってはならないことなのだ。それは鬼の沽券に関わるとても大事なことだから。
私は心の中で負けちゃ駄目よと自分で自分を叱咤した。
「いいよ怒っても。私はきょうちゃんを起こしてお手洗いに行って貰うんだから。その為ならドクターにだってなれるんだから」
「ドクター?何言ってるのよ?」
「こうするのよ」
アメリカのとある大都市の病院を舞台にした大ヒット医療ドラマ。私はあのドラマが大好きでよく見ていた。シリーズ最後の方は長寿海外ドラマ特有の何とも言えないぐだぐだ感もあったけれど、医療ドラマとしてはもちろんのこと、話としては少し強引ながらレズビアンのことを描かれていたシーズンもあったし、登場人物それぞれのヒューマンドラマとしても見応えがあった。
私は何度も見たあの緊迫した場面の真似をして響子さんをベッドから出して絶対にお手洗いに行かせるつもりでいるのだ。
「心マするぞっ」
「はい」
響子さんはこの訳の分からない展開について来ることが出来ずに呆然として私を見ていた。その呆けた響子さんの隙をついて私のひとり芝居が幕を開けた。
まずはその掛け声とともに私は左手の甲に右手の平を重ねて指を絡めて手を丸めた。テレビとかで見る心臓マッサージをやる時の手の形だ。それを響子さんの胸に置いて数を15まで数え始めた。
「いち、に、さん、よん……………」
その数字に合わせて置いた手で響子さんの胸をえいえいと押す。当然余り力は入れていない。それでも突然胸を圧迫されて顔を顰めた響子さんが私の数えるリズムに合わせてうっうっうっうっと声を出しているけれど私は気にしない。一刻を争う緊急時にはそんなことに一々構っていられないからだ。
私はドラマでは必ずやっていた気道の確保のための挿管を他のドクターに指示していない。ひとり芝居だからさすがにそこまでは出来ないのだ。なので本当はこの心マの後に私自ら人工呼吸もしたかったけれど、響子さんの寝起きの口にそんなことをしたら私の身が本当に危ないし、響子さんが本気で嫌がるのでやめておいた。もう既に充分嫌がっているように見えなくも無いけれど。
「どうだっ?」
「駄目です、フラットラインッ」
「くそっ。電気ショックだっ。急げっ」
「はい」
響子さんは私の下でなんとか逃れようともがいているけれど私はそれを許さない。跨がる足に力を入れて響子さんを逃さないようにしつつ、私はパドルを渡されたフリをして、それを両手に持って塗られたジェルをパドルを重ねて擦り付けるフリをした。
「100にチャージ」
「ピピピピピッピー」
「離れてっ。響子っ、戻ってお手洗いに行って来いっ」
「ばちーんっ」
私は両手をもがいている響子さんの左右の脇腹、肋骨のある辺りに指を立てて触り、それからばちーんっと声を出し、指に力を入れて左右に細かく揺らす。要はくすぐったのだ。すると響子さんがうひゃーと暴れ出したけれど、私は一度で戻ることにはしない。そんなに簡単にはいかない。だってドラマもそうだったから。
「どうだっ?」
「駄目ですっ」
「くそっ。150にチャージッ」
「ピピピピピッピー」
「離れてっ」
「ばちーんっ」
私は少し強めで長めに響子さんの脇腹をくすぐった。チャージする電圧が上がればより強くなるのは当たり前のことだから。思った通り一度目よりも大きな声でひゃー、うひゃひゃという声が聞こえてきた。
私がこうして遊ん…懸命に響子さんを起こそうと頑張っている間、響子さんは私が跨っている身体をばたばたとさせて起きるから起きるからと騒いでいた。私の響子さんは無事に戻って来てくれたのだ。
私の目的は果たしたのでどうしようかなと思ったけれど、私はもう、200までチャージしたくてうずうずしていた。こうしてやってみたらかなり楽しくなってしまったのだ。だからあと一回だけやっちゃおうかなと思って、にんまり笑ってそれを繰り返しちゃったのだ。
「200にチャージッ。よし離れてっ。ばちーんっ」
「どうだっ?」
「戻りましたっ。バイタル安定しています」
「ふぅ。よかった。取り敢えず危機は脱したなっ」
私は最後に今回最大の電気ショックを響子さんに与えたことにとても満足して、よいしょと響子さんの上から降りてベッドの端に座った。響子さんは200のチャージが余程きつかったらしく、かなり暴れながら一際大きな声でうひゃうひゃーと叫んでいた。
そして今響子さんは、はぁはぁと荒く呼吸しながらぐったりして横たわっている。私はその姿を優しく見守っていてふと気が付いてしまった。これは多分アレだ。私を誘っているのだ。
なるほど響子さんは私に優しくて甘い。きっと、麻衣子がとても楽しそうだったからもう一回してもいいわよと、わざと元気無く横たわる姿を見せることでそう伝えているのだ。
そうと分かれば私のやるべきことは決まっている。だって響子さんがそうしていいよと、自らの身体を犠牲にするつもりでそう伝えてくれているのだから、私はそれに乗っからなくてはならないのだ。
ありがときょうちゃん大好きよと、私は心の中でお礼を言ってからまたセリフを口にした。
「250にチャージ」
「起きるってば。もうやめなさいよっ」
「なーんだ。起きちゃったの。残念」
がばっと起き上がった響子さんに私が身体を寄せおはようと言いながら抱き締めると、凄く不満そうな響子さんはちゃんと抱き返しておはよう麻衣子と言ってくれた。それから頬にキスをしようと唇を寄せていくと、私がキスをしやすいように頬を向けてくれた。私にちゃんと応えてくれる響子さんは本当に優しい。それが嬉しくて私の顔に微笑みが広がっていった。
それから私は立ち上がって、響子さんの頬を撫でてからドアに向かった。
「じゃあ早くお手洗い行って来て。私は朝ご飯作るからね」
「うるさいっ。バカ麻衣子」
ベッドから出た響子さんが寝室を出て行こうとする私に枕を投げたけれど、それはカスリもしなかった。
やはり響子さんは私に優しくて甘い。当然後が怖いなとは思っているけれど、今の私は目的を達成出来たことにとても満足していて、足取りも軽くキッチンへと向かった。
「ねぇねぇきょうちゃん。私はいつまでこうして居ればいいの?」
「うるさいわね。たくっ、まだ反省してないのかしらこのアホの娘は」
「でもね。アレはきょうちゃんのためなのよ?アレのお陰できょうちゃんは助かったのよ?」
「黙りなさい。この似非ドクター」
「ひっどーい」
「私のためはともかく、助かったの意味がわからないわ。麻衣子は何を言ってるよ」
あの後響子さんは無事ベッドから起きてお手洗いに行った。そして朝のお手入れを終えてリビングに戻って来た響子さんはいつもの優しい響子さんだった。私を怒らなかったのだ。
私は凄く怒られるだろうと恐々としていただけにそれを不思議に思ったけれど、それならそれでいいかと思って敢えてそのことには触れなかった。寝てる子を起こす必要はないのだから。まぁ、私がそれを言うのはどうかと思うけれど。それくらいの自覚は私にもある。
それから私たちは洗濯物を干して、その後に朝ご飯を食べた。
洗濯物は響子さんがぱんぱんとシワを伸ばし、それを私が干すという仲睦まじい共同作業だった。
朝ご飯も腕を絡めてお互いにあーんとかやって、その姿は側から見ればまさに付き合い始めの仲のいい恋人同士そのものだった。
食後にふたり並んで洗い物をしていた時も、その合間にキスとかハグとかいっぱいしていた筈なのに、それが終わってコーヒーを飲んでソファで腕を絡めてくっついて一息ついていたら、響子さんがそう言えばとか言い出して説教をし始めてしまったのだ。
こうなることは分かっていたとは言え、私は響子さんの長い説教が始まってからかれこれ一時間近く正座をしているので流石に足が痺れてかなり辛い状況になっていた。
だからそろそろ勘弁してくださいと思ってそう声を掛けてみたけれど、響子さんは私の言葉をばっさりと切って捨てて、私を似非ドクターと罵った。
「助かったでしょ?私のお陰できょうちゃんは将来的に病気しないで済む身体になれたのよ。私はね、きょうちゃんの身体を守ったの。助けたの。それくらいわかるでしょ?」
「はあ?まだまだ反省していないのね。麻衣子、まだ暫くそのままよ」
「えー。私はきょうちゃんの恩人なのよ?それなのにこんな仕打ち。あぁ、この世には神も仏も居ないんだわ」
「居ないわよ。居るのはあの世なんだから」
「あ。なるほどね」
どうにも私の煙に巻く作戦は失敗に終わったようだった。けれど、いい加減に解放してくれないと足が痺れて辛い。お尻を少しだけ上げて足にかかる体重を減らしながら次はどう説得しようかなと考えていると、怖い顔をしていた響子さんが不意に頬を緩めた。
「ま、いいわ。もう頃合いだから正座はやめていいわよ」
「ほんとっ。ありがときょうちゃん。もう足が限界だったの。あー助かったぁ」
頃合いとは一体何のことかと思ったけれど、私が正座をやめていいと言われたことにほっとしながら足を崩そうとお尻を持ち上げた瞬間に、もの凄い痺れが一気に襲って来た。
私がそれにあぁぁぁと身悶えていると、響子さんは悪い顔をして立ち上がれずに四つん這いになっている私の足の方へと近づいて来た。
「仕方ない。辛そうだからマッサージしてあげる」
「だ、駄目よきょうちゃん。こ、こういう時はね、触れたりしたらいけないの」
「遠慮しないで。私がマッサージ上手いの知っているでしょ?」
私は分かってしまった。響子さんはこれをしたくて私に長い時間正座をさせていたのだ。今悪い顔をして私を見下ろして笑っている響子さんの方が私より何倍も鬼だったのだ。
私は迫り来る鬼女、響子さんから逃れようとして四つん這いになった手や膝を動かそうとした。けれどその振動が足にきて、それがまたもの凄く辛くて動くことができないでいる。もはや私は為すすべもなくやめてと声にすることしか出来なかった。
「い、嫌。きょうちゃん。触らないで。お願い」
「えい」
「ひゃぁぁぁぁぁ」
響子さんはとても嬉しそうに私の足に触れた。容赦無いマッサージが私を襲い、それから暫くの間、うあぁぁぁとかひいぃぃぃとかまったく言葉にならない私の悲鳴が部屋に響いていたのだった。響子さんの部屋だけにね。
「麻衣子。ここはどう?」
「だあぁぁぁぁぁ」
「そう、気持ちいいの。じゃあこっちは?」
「やあぁぁぁぁぁ」
「うふふ。面白い。えい」
「おぉぉぉぉぉぉ」
その後、響子さんはにこにこと楽しそうにしながら、私は痺れが無くなったとはいえ弄ばれて疲れた体を引きずって話し合いのテーブルに着いた。そこで行われた会談の結果、お互いにがっちりと握手をして友好平和条約を結ぶに至った。それは私が響子さんにちょっかい出してから大体四時間後のことだった。
「きょうちゃんきょうちゃんっ。すっごく面白かったねっ」
「そうね。面白かったわね。それに楽しかったわ」
「ねー」
「ね」
そう言って私たちが一緒にふふふと笑ってから、私は空いている腕を伸ばして響子さんを抱いてキスをした。私がそっと入っていくと響子さんは優しく絡んでくれて、私も優しく絡んでいた。長めに絡んだ私たちのキスはとても甘かった。
私たちは再び腕を絡めてくっついて座っていて、響子さんが絡んだ腕を抱えて私の肩に頭を預けている。目一杯遊んだ私たちは、今度はのんびり楽しくお喋りをするのだ。
読んでくれてありがとうございます。




