草凪澄人の選択①~神器授与へ~
澄人が異界で最後の神器を手に入れます。
「ん? なんか寒気が……」
異界でリリアンさんと合流した俺は、クサナギさんに会うために大聖堂の廊下を歩いていた。
そんな中、急に妙な予感と悪寒を感じたため、立ち止まって自分の体を見回すが特に異変は無いように思える。
「どうされました?」
隣にいるリリアンさんが立ち止まったことに気付いて声をかけてくるけど、特に気になることはない。
ただ単に風邪をひき始めたのかと首をかしげながら歩みを再開する。
「なんでもないようです。気のせいでした」
「そうですか……少しでも気になることがあればすぐにお申し付けください」
以前にも増してリリアンさんの俺に対する態度が丁寧になったような気がする。
(こそばゆいから止めてくれって言っても、畏れ多くてと言われて断られたからな……)
本当に俺のことを神様だと思って対応をしているかのように感じてしまう。
大聖堂の地下にたどり着いた俺たちは踏みしめるように祭儀場へ足を進める。
中に入ると既に正装をしているクサナギさんが奥の祭壇で待っていた。
クサナギさんに寄り添うようにヨルゼンさんの姿もあり、元気そうな顔を見ることができて安心する。
「ご足労いただきありがとうございます」
祭壇に近づくとクサナギさんが笑顔で会釈をしてくれる。
クサナギさんにはミュルミドネス討伐後の異界を任せたので、俺も頭を下げた。
「いえ、こちらこそ復興の指示をしていただきありがとうございます」
挨拶をして、お互い向かい合うようにして立ち、用件を口にする。
「約束通り、勾玉をいただきに来ました」
早速本題に入ることにした。
クサナギさんもわかっていたのか、「はい」と重く返事をして深くうなずく。
「準備はできております。始めてもよろしいですか?」
「はい、お願いします」
俺の言葉を聞くや否や、クサナギさんは祭壇に置かれていた豪華な箱に手をかけた。
そして、蓋を開けると同時に、眩く光る小さな石を取り出す。
「これより勾玉授与の儀を執り行います」
両手で大切に勾玉を持ったクサナギさんが高らかに宣言すると、勾玉が強い輝きを放ち始める。
「我が神よ。どうかこの者へ御魂の力をお与え下さいませ」
その言葉と共にクサナギさんは手に持っていた勾玉を俺に差し出してきた。
強く光る勾玉を受け取ってみると不思議な温かさを感じる。
(これが勾玉……)
手の中で淡い青白い光が放たれていた。
まるで命が宿っているかのような存在感がある。
「ありがとうございます」
勾玉をアイテムボックスへ入れると、儀式を終えたクサナギさんが深く息をつく。
これですべての神器の所有者が俺になったはずだ。
「それでは私は失礼致します」
クサナギさんは軽く一礼した後、祭儀場から出ていこうとする。
ヨルゼンさんも後に続いて歩き出した時、突如祭儀場内に凛とした声が響き渡った。
『よくぞ神器をすべて集めましたね』
声とともに天井の一部が白く輝き、そこから一人の女性が姿を現す。
長い髪に美しい顔立ちをした女性が白い翼をはためかせながらゆっくりと降りてくる。
身に着けている衣服は、白を基調とした布地に金色の刺繍が施されている豪奢なもので、一目見ただけで特別な存在だとわかる。
(守護者……今現れるのか……)
青き草原の鍵を使った時に訪れた守護者が再び俺の前に現れた。
守護者は優雅な仕草で祭壇の前に降り立つと、ゆっくりと俺の方へと視線を向けた。
「草凪澄人、あなたに神域への道を示しましょう」
守護者の一言によって祭儀場内は静寂に包まれる。
祭壇の上に降りた守護者は優しく微笑みながら、俺に向かって語り掛けてくる。
「神域とは全ての始まりにして終わりの場所。あなたはそこへ至るための資格を得ました」
守護者は右手をそっと差し出すと、手のひらから光の粒子が溢れ出して床一面に広がる。
同時に俺を中心に魔法陣のような模様が浮かび上がり、強い光が周囲を包み込んだ。
「うわっ!?」
「草凪澄人よ、貴方にすべてを託します」
守護者の言葉が終わると同時に、視界が真っ白に染まり何も見えなくなる。
光が収まると徐々に目の前の風景が鮮明になり始めていく。
「すごい……映画みたいだ……」
視界が晴れると、先ほどまでいた場所とは全く異なる景色が広がっていた。
空は青く透き通るような色をしており、地面がどこまでも続いているように見える。
周囲には大小様々な大きさの岩が点在しているだけで他には何もない。
「ここが神域……普通じゃないことだけはわかるな……」
特に、自分が立っている足元が透明になっており、下を見ると地球が丸く見える。
異界から宇宙に飛ばされたのかと考えていたら、背後に気配を感じて振り返る。
「ようやく来たな」
そこに立っていたのは、危機になるたびに俺の脳内へ語り掛けてきたあの男性だった。
男性の年齢は30代後半に見え、身長180センチの筋肉質で、黒い短髪をオールバックにしている。
「あなたは誰なんですか? ずっと俺を見ていましたよね?」
「まあ、そう焦るなって」
俺が質問をしても、男性は軽い調子で返してくるだけだった。
この場所に足を踏み入れてから妙に気分が落ち着かない。
それはきっと、目の前にいる男性が発している威圧感が原因だと確信した。
警戒しながら男性を見つめていると、フッと一瞬だけ笑って俺に背を向ける。
「答えてやってもいいが……まだお前には話を聞く資格がない。ここを登り切ったら教えてやる」
男性が足を上げると、透明な地面から白い螺旋階段が生えるようにして現れた。
現われた螺旋階段を男性は一段ずつゆっくりと上がっていく。
「頂上には神格が【10】でないと辿り着けない。ポイントを稼ぐために一旦帰るんだ」
俺へ顔だけを向けて微笑んでいる男性は、そう言い残して姿を消した。
しばらく呆然としていた俺は我に返って慌てて周囲を確認する。
「いない……本当に消えたのか」
白い螺旋階段の前に立つと、本当に俺がこの階段を登れないのか確かめたくなる。
試しに一歩踏み出して一段登ってみたが、普通に上ることができた。
「うっ!? 体が!?」
だがしばらく登っていると急に上から押さえつけられるように体が重くなり、息苦しくなっていく。
それでも歯を食いしばって上り続けていると、誰かが俺の肩に手を置いてきた。
「神格が【6】のきみはここまでしか登れない。諦めるんだ」
見上げると、先ほどの男性が困ったような顔をしながらこちらを見ていた。
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