神の使者⑥~神官長の言葉~
澄人が異界の指導者と対面します。
お楽しみいただければ幸いです。
「さあ、使者さま。行きましょうか」
リリアンさんから逃げるようにして、ヨルゼンさんが先に歩き出した。
俺はヨルゼンさんの後ろ姿を追いかけるように足を進める。
しばらく廊下を歩いていると、ヨルゼンさんが立ち止まって俺のほうへ振り返った。
その表情は先ほどまでの弱々しいものではなく、何か覚悟を決めたようなものになっている。
俺はその表情を見て、思わず背筋を伸ばしてしまった。
ヨルゼンさんは俺の目をまっすぐに見ながら、ゆっくりと口を開いた。
「この先に、私たちの指導者であるクサナギさまがいらっしゃいます」
「神の使者であったクサナギの名を継ぐ方ですよね?」
「はい。使者さまには御一人で会っていただくことになります」
ヨルゼンさんが足を止めた場所の奥には両開きの扉があり、脇に門番のように武装をした人が立っていた。
俺たちが近寄っていくと、その人たちが敬礼をして道を空けてくれる。
「では、使者さま、どうぞお入りください」
道を譲ったヨルゼンさんが重厚感のある扉を示し、俺へ入室するように促してきた。
俺はヨルゼンさんにうなずき、扉の前に立つ。
その瞬間、背後にいるヨルゼンさんとリリアンさんが緊張したことが伝わってくる。
「お会いするのが楽しみです」
俺は二人へ聞こえるように声をかけてから、目の前にある大きな扉を押し開けた。
部屋の中へ入ると、そこは10畳ほどの部屋になっており、正面には窓がある。
壁際には本がぎっしりと詰められた本棚がいくつもあり、天井まで届きそうなほど高い。
奥には豪華な装飾が施された机が置いてあり、椅子には誰かが座っているようだ。
「よく来てくれました、神の使者よ」
俺が部屋に入ってきたのを確認したのか、椅子に座っていた男性が立ち上がり、こちらへ向かって歩いてきた。
その男性は身長が高く、白髪の混じった黒髪を後ろに撫で付けており、白いひげを蓄えている。
「私が今代のクサナギです。あなたにあえて光栄です」
手を差し出してくるクサナギさんはヨルゼンさんと同じような神官服を着ており、胸で青いブローチが輝く。
俺が差し出された手を握り返すと、握手をしていた手を離すことなくクサナギさんがじっとこちらを見てくる。
その瞳が他の人と同じように安堵の色を浮かべていた。
「あのっ——えっ?」
クサナギさんへ声をかけようとした俺の目の前へ、視界を遮断するように青い画面が現れた。
【異界ミッション6 達成】
スキル【神気創造】を付与します
【異界ミッション7】
解放条件:ユニークモンスター【???】の討伐
(これは……)
「どうかされましたか?」
画面を見つめて黙った俺を心配したのか、クサナギさんが心配そうに顔を覗き込んできた。
俺は慌てて顔を上げ、なんでもないと答えつつ出てきた画面を消した。
「あっ……いえ、僕もお会いできて光栄です」
なんとか笑顔を作り、クサナギさんへ挨拶をする。
それを見たクサナギさんは安心したように微笑み、来客用らしいソファーへと案内してくれた。
俺はクサナギさんと向かい合う形で座り、テーブルを挟んで話を始める。
「まずは、ここまでご足労頂きありがとうございます」
「いいえ、俺も目的があってここまできたのでお気になさらないでください」
お互いが頭を下げあい、あいさつを終えると、真剣な表情になったクサナギさんがゆっくりと話し出した。
「早速ですが、今この世界に起きようとしている危機についてお話をさせていただきたいと思います」
「はい、お願いします」
リリアンさんからそれとなくこの世界に危機が迫っていると耳にしていたが、詳しい内容までは聞いていなかった。
どんな内容なのか聞き逃さないように、姿勢を正す。
「この世界では結界石で生活圏を維持、確保しております」
「青い結界石で開拓、赤い結界石を用いた生活圏の維持ですよね?」
「はい、それを我々は維持するだけで精一杯の状況になっています」
俺が確認すると、クサナギさんがうなずいて肯定する。
リリアンさんの話を思い出し、クサナギさんが何を言いたいのか予想してみる。
「結界石の効かないユニークモンスターによる赤い結界石の破壊活動が問題ということですか?」
俺が質問を投げかけると、クサナギさんが苦虫を噛み潰したような顔になり、重い口を開いた。
「さらに、近年はモンスターによる死亡事例も多く、年々増加しております」
「……原因は不明なんですね?」
「ヨルゼンの話では、各地のユニークモンスターが一斉に生活圏を転々とし始めたようです」
「なるほど……モンスターの生活圏がユニークモンスターによってかき回されているんですね」
「おそらく……」
灰色の湖が活動を始めたとき、他のモンスターが大量に移動したことを振り返る。
あの時はミス研の部員で対応をしたが、先輩たちが経験したこともないような量と終わったときに言っていた。
同じようなことがこの大陸で何十ヵ所と起きているのなら、その影響は計り知れない。
「クサナギさんは俺へユニークモンスターを討伐してほしいんですね?」
「その通りです」
クサナギさんが真剣な眼差しのまま、俺の顔を見てうなずいた。
そんな時、たくさんの人の声が窓の外、遠くの方から聞こえてくる。
「ん? なんだか外が騒がしいですね」
「確かに……まあ、予想はつきますが。ご覧になりますか?」
俺は立ち上がって窓際へ行き、窓枠に両手をついて外の景色を見る。
その瞬間、窓の向こう側から歓声のような声が響き渡ってきた。
窓越しにでもはっきりと聞こえるほどの大音量がここまで届き、ガラス窓が震える。
「みな、使者さまに会えることを心待ちにしていたのです」
俺の横へ来たクサナギさんが嬉しそうに言いながら、同じように窓から下を見下ろす。
そこには大勢の人たちが集まり、まるでお祭り騒ぎになっていた。
「すごい人数だ」
「すみません。使者さまが降臨されたという噂が広まってしまいまして……このような事態になってしまいました」
口とは裏腹にクサナギさんの表情は明るく、誇らしいものを眺めるような目を向けた。
窓の下に広がる光景は、大きな広場を埋め尽くすほどの人で溢れかえっている。
その全員が、ここにいる俺のことを見ているようだ。
「期待に応えられるように……ん?」
俺の存在がどれだけ待望されていたのかが分かり、少しだけ照れてしまう。
そんな中、視界の端に気になるものが映った。
「あれって……」
「どうかされましたか、使者さま……あれはっ!?」
俺が下ではなく、上へ視線を向けていることに気付いたクサナギさんは、驚いた様子で窓に両手をついて目を凝らす。
空の奥にはまだ微かしか見えないが、空を覆いつくす量の何かがこちらへ迫ってきていた。
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次の投稿は2月22日に行います。
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