開拓者⑨~神の使者疑惑~
シエンナさんが所長室へ急ぎの連絡を行ないにきました。
お楽しみいただければ幸いです。
「所長! シエンナです。よろしいでしょうか?」
「どうした?」
「先ほどの少年、ジョンのことでお話があります」
「わかった。入ってくれ」
所長室へ入ってきたシエンナさんは、グリーンバーグさんへ一礼をして所長席の横に立つ。
俺は所長室の壁際に立ち、シエンナさんとグリーンバーグさんの会話を聞くことにした。
「それで、シエンナ。話というのは?」
「はい。彼の行動ですが……常に監視をしていた方がよろしいかと思います」
「ほう……それはなぜだ?」
「同じ村出身の開拓者の方がイアンさんのことは知っていても、ジョンという名前は聞いたことがないとのことなので……」
「なるほど……ジョンが偽名を名乗っている可能性もあるということか」
シエンナさんが「はい」と頷くと、グリーンバーグさんは腕を組んでうなずきながら「ふむ……」とうなった。
「ジョンの素性を調べることにしよう。彼がどこにいるのかイアンに聞いてみてくれ」
「はい」
グリーンバーグさんは俺のことを疑うような発言をして、調査をすることを決めたようだ。
俺はそれを聞き、シエンナさんが開けっ放しにした扉から所長室を出る。
そのまま集会所を出て、裏路地の人の気配が周囲にない場所で闇を解除した。
「さて、どうしようかな……」
このまま一度現実世界へ帰るのもありだが、いきなり消息不明になったら怪しまれてしまう。
イアンにも行先を伝えていないため、集会所から俺を探す人が派遣されると予想される。
まずは拠点を手に入れて、この街を中心に異界を探索しようかな。
「とりあえず、資金稼ぎでもするか」
まだ日が高いため、お金を稼ぐためにできることはたくさんある。
開拓者がお金を稼ぐのなら集会所へ行くしかない。
俺は依頼を受けるために、また集会所へ行くことにした。
「おい! ジョン!」
俺が集会所へ入ると同時に、シエンナさんと話をしていたイアンが手招きをしてくる。
おそらくシエンナさんが俺の居場所を聞いていたのかと思いながら、二人へ近づいた。
「どうかしたんですか?」
イアンへ何も知らない風に装って話しかける。
シエンナさんは一瞬だけ訝しげなまなざしを俺へ向けてきた。
「いや、シエンナさんがお前がどこにいるのか知りたがっていたんだ。ね、シエンナさん」
「え、ええ……そんなところです」
シエンナさんは表情を崩さず、俺の顔をじっと見つめてくる。
「なにか俺に用だったんですか?」
「今日の宿が決まっていなければ集会所横の宿屋をご利用ください。開拓者証を見せれば、数日間は無料で泊まれますよ」
「教えていただきありがとうございます」
「それでは失礼します」
シエンナさんは動揺したように視線を泳がせ、俺たちへ背を向けて去っていった。
残されたイアンはカウンターに肘をついて、シエンナさんの後姿を眼で追っている。
「なあ、あの子っていつもあんな感じなのかな? なんか怒ってねえ?」
「怒っているっていうより、警戒しているみたいですね」
「なんでだ?」
「さぁ、どうしてでしょう。今日が初対面なんですけど、やっぱり実技試験絡みだと思います」
俺は適当に答えてから席を立ち、人が少なくなった依頼掲示板へ向かう。
「あー、これなんていいかもな……あれ? なんだ? なんか騒がしくないか?」
俺が掲示板の前に立った時、入り口のほうから誰かが倒れるような音と叫び声のような物が聞こえてきた。
俺は何事かと思って振り返り、入り口付近で人が倒れているのを発見する。
その小さな女の子は顔色が青白くなっており、口から泡を吹き出していた。
集会所内が騒然となり、近くにいた数名の男女が慌てて少女へ駆け寄る。
「アルマ!!?? 大丈夫か!?」
駆け寄った人がアルマちゃんの体を揺らすと反応があり、呼吸をしているのを確認してホッとしていた。
ただ人垣の隙間から見えたアルマちゃんの顔が必死に何かを訴えかけるような目をする。
「おじ……ちゃんが……まだ……森の……方で……」
途切れ途切れの言葉を聞いて、周りにいた人たちは息をのんだ。
そして、皆一様に険しい表情を浮かべて視線を落とす。
「おいっ! こっちに来い!」
レックスさんが呼びかけると、数人の男女が我先にと集まってきた。
「早く担架を持ってこい!! アーミーアントの毒だ!! 急げ!! この子が死んでしまうぞ!!!」
レックスさんの切羽詰まった言葉に、集まった人たちが慌ただしく動き始めた。
その言葉を聞き、アルマちゃんがサラン森林にいるモンスターに襲われたことがわかった。
アーミーアントの毒にやられたのか……輝正くんが瑛さんを庇いながら戦えるんだけどな……。
アルマちゃんの能力に興味が無く、鑑定をしていないが、おそらく瑛さんよりも弱い。
また、他の人も同じような能力のため、大量にいるあのモンスターと戦うのは難しいと思われる。
俺の予想通り、誰も助けに行こうとはせず、アルマが助けてほしいと願う人を救出しようという雰囲気は感じられない。
「レックス……さん……お願い……おじちゃんを……」
「アルマ……サラン森林のアーミーアントは……」
アルマに駆け寄ったレックスさんの腕を、彼女が息も絶え絶えになりながらしがみついた。
すがりつかれたレックスさんは苦虫を噛み潰したように顔を歪め、悔しそうに手を握り締める。
「アーミーアントに襲われたら……もう……」
「そ、んな……」
「わかってくれ、アルマ……【ハドリー】は助からないんだ」
「うぅっ……ぐすっ……」
その場に崩れ落ちたアルマの頭を、レックスさんが優しく撫でた。
俺はその様子を見て、居ても立っても居られなくなる。
「その【ハドリー】さんって、どんな人ですか?」
「ジョン!? 止めろ! いくらお前でも——アルマ!?」
俺を止めようと立ち上がったレックスさんの足を、顔から血の気が薄れているアルマがつかんだ。
「おじちゃんを助けて……ジョンに話しかけた大きな人だよ……」
アルマがおじさんと呼んでいる人は、俺の代わりに依頼書を取ってくれようとした、親切な人のことだろう。
わかったという風にうなずくと、レックスさんがアルマの手を振り払って俺を詰め寄ってくる。
「アルマ! 離せ! 誰かジョンを止めるんだ!! 有望な少年を死なせるな!!」
「お願い!!!! 助けてぇええええええ!!!!!!!」
死にそうになりながら悲痛な叫びを上げるアルマを見て、俺は思わず飛び出していた。
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次の投稿は12月27日に行います。
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