開拓者⑥~開拓者実技試験~
ジョンとなった澄人が実技試験に挑みます。
お楽しみいただければ幸いです。
石畳が敷き詰められた地面は広く、周囲はすり鉢状になっている。
中心には木製の的があり、1メートルほどの高さがある。
「ここは訓練所になっておりまして、定期的に試験を行なう予定となっております」
「なるほど……」
俺は周囲を見回しながらうなずく。
闘技場に一人の男性が立っていた。
革製の胸当てとズボン、手に持っているのは槍だろうか?
背中しか見えないが、俺はこの人をどこかで見たことがあるような気がしている。
「お待たせしました。レックスさん、よろしくお願いします」
「おう! シエンナも朝早くからご苦労さん」
シエンナさんが訓練所で待っていたレックスさんへ駆け寄り、俺たちのことを紹介してくれた。
その間、俺はレックスさんが開拓者のまとめ役のようなことをやっていたことを思い出す。
あの時に俺が付けていた人か。それなら背中を覚えているはずだ。
頭でつっかえていた物が取れ、うんうんと小さくうなずく。
すると、レックスさんが俺とイアンへ近づいてきた。
「今日は新人の試験に立ち会わせてもらう。俺はレックスだ、よろしく頼む」
レックスさんは俺たちへ挨拶を済ませると、持っていた槍を構える。
「それじゃあ、まずは実力を見せてもらおうか。いつでもかかってきてくれ」
「わかりました。ジョン、戦えるか?」
「ええっと……」
イアンは俺へ呼びかけてから、背中に背負っている大剣を抜いた。
俺もマントを地面へ置き、イアンとレックスさんを注意深く観察する。
レックスさんは槍を構え、いつでも動けるように備えている。
「準備ができたらかかってこい!」
「わかりました。レックスさん、最初は俺がやります。やあああ!!」
イアンがレックスさんに向かって走り出し、勢いのまま剣を振り下ろす。
だが、レックスさんは槍の柄で難なく受け止め、力比べが始まった。
「なかなか強いな。やるじゃないか」
「まだまだこれからです」
「そう来ないと……な!」
レックスさんは槍を押し込み、そのまま連続で攻撃を始めた。
イアンはなんとか槍を剣の柄で弾きながら、少しずつ後退していく。
「はあ!!」
「なにが!?」
レックスさんがイアンの攻撃の合間を縫い、突きを放ってきた。
イアンは間一髪のところで避け、距離を取る。
「今のを避けられるとは、なかなかやるな」
「それはどうも」
白熱している2人の勝負を眺めていると、草根高校普通科所属の学生を思い出す。
ほとんどスキルを使わない力による勝負で、俺にはステータス比べにしか見えなかった。
イアンとレックスさんのステータスを見ている俺は、思わず腕を組んで顔をしかめる。
【名 前】 レックス
【年 齢】 28
【神 格】 3/3
【体 力】 1700
【魔 力】 700
【攻撃力】 D
【耐久力】 E
【素早さ】 E
【知 力】 E
【幸 運】 D
【名 前】 イアン
【年 齢】 19
【神 格】 1/2
【体 力】 400
【魔 力】 250
【攻撃力】 F
【耐久力】 G
【素早さ】 F
【知 力】 F
【幸 運】 E
このあとレックスさんと戦うことを考えると頭が痛くなってきた。
レックスさんがここの集会所で一番強いとのことなので、手加減をしようものなら目立つし、圧倒的に勝ってしまったらさらに目立つ。
ただ、わざと負けるのも気分的によろしくない。
「さて、次はお前の番だぞ」
イアンとの打ち合いを終えたレックスさんがこちらを向いてくる。
俺はイアンに視線を送り、予想通り消耗しきって負けたことを察した。
「ふー……ふー……」
「イアンさん、大丈夫ですか?」
「問題ない……大丈夫だ……はぁ……はぁ……」
息を切らせながら汗を流しているイアンは、ゆっくりと呼吸を整えようとしている。
イアンを見ていたら、俺の実力を隠したままレックスさんに勝つ方法を思いついた。
俺は剣を地面へ置き、拳を握り締めて少し腰を落とす。
「剣を使わないのか? 俺は構わないが……負けたら開拓者にはなれないぞ?」
レックスさんは構えを解いて槍を下ろした。
そして、腰のポーチから小瓶を取り出し、緑色の液体を飲み干す。
液体は体力回復薬だったのか、半分以下になっていたレックスさんの体力が全回復する。
「御忠告ありがとうございます。ただ……あなたとの勝負に武器は必要なさそうです」
「……そうか。せいぜい怪我をしないようにな。こい」
俺が駆け出すと同時にレックスさんは腰を落とし、両手で槍を構えた。
俺は地面を蹴り上げ、一直線にレックスさんへ向かっていく。
「速いな……」
レックスさんは1割も本気を出していない俺の速さに驚きながらも、冷静に対処する。
槍の穂先を横へ向け、俺の顔面を狙ってきた。
俺は槍の柄を踏み台にして飛び上がり、空中で体をひねる。
槍を足場にしたおかげでレックスさんの後ろに回り込むことができた。
「なに!?」
「終わりです」
俺はそのままレックスさんの槍を持っている手を目掛けて回し蹴りを行なう。
槍はレックスさんの手を離れ、回転しながら遠くへ飛んでいった。
俺は地面に着地して、レックスさんへ振り返る。
レックスさんは呆然と立ち尽くしていた。
「槍が……」
「まだ続けますか? レックスさんの武器はこちらです」
「……降参だ」
俺が拾い上げた槍をレックスさんへ見せると、レックスさんは首を横に振る。
その表情は悔しそうでもあり、妙に期待を込めた視線を俺へ送ってきていた。
予想通り、レックスさんを無力化することで試験が終わる。
イアンはシエンナさんに肩を貸してもらいながら立ち上がり、俺のもとへやってきた。
「まさか俺がこんなにあっさり負けるとはな……開拓者の代表としてイアンとジョンの実力を認める」
「俺もいいのか!? 負けたぞ!?」
「ああ、俺と打ち合えたんだ戦える力はある」
「ありがとうございます!」
イアンは満身創痍になりながらも、レックスさんに認められたことが嬉しいのか満面の笑みを浮かべていた。
俺はそんなイアンを見て、自然と口元が緩む。
「それと、ジョン」
「なにか?」
「きみのような実力者が開拓者になってくれて嬉しい。また機会があれば戦ってくれ」
「はい、もちろんです。これをお返しします」
レックスさんは槍を受け取りながら俺へ顔を向け、感心したようにうなずいていた。
「それではお二人とも、中で手続きをするので、戻りましょう」
俺はレックスさんへ頭を下げてから、イアンとともに訓練所を後にする。
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次の投稿は12月18日に行います。
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