開拓者⑤~開拓者登録のためにギルドへ~
澄人がジョンとして開拓者登録を行ないます。
お楽しみいただければ幸いです。
途中、屋台を開いている人がいたり、リヤカーを引いている人や、大きなリュックを背負って歩いている人など、様々な人たちを横目に進んでいく。
物珍しいのか、イアンが街にある様々なモノを見て、歩みを遅くする。
「あれは?」
「あれは行商人たちですね。この辺りで採れる果物とか野菜を売っています」
「へえー、あのリヤカーに積まれているのって野菜かい?」
「そうですよ。あと、肉類も売っていますね」
「あれって食べられるのかな?」
「どうでしょう? 僕も食べたことはないのでわからないです」
イアンが聞いてきたモノへ鑑定を行ない、知らないという言葉を使わずに会話を交わしている。
「ここを曲がるとすぐなので、先に開拓者ギルドへ行きましょう」
「そうだな。色々見るのは後でもできるもんな」
他の物を見たそうにしていたイアンは自分を納得させるように、うんうんとうなずいていた。
大通りから路地に入り、しばらく進むと目的地である【開拓者集会場】が見えてきた。
前回は深夜だったため、建物を見るような余裕がなかったのだが、こうして眺めるとかなり大きい。
石造でできており、正面に観音開きの大きな扉が付いている。
「ここが開拓者集会場か、大きいな」
「そうですね。ここら辺では一番大きな建物になるとおもいます」
「教えてくれてありがとな。行こう」
イアンはそう言いながら、集会場の入口へ向かっていく。
俺はその後ろ姿を見送り、少しだけ時間を置いてから中に入った。
朝だからなのか、中にはまだ人がまばらにしかいない。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」
俺が入ると、イアンがシエンナと呼ばれていた受付嬢とカウンター越しに会話をしている。
建物の中ではマントを脱いでいるようなので、俺もそれに合わせて黒いマントを脇に抱えた。
ハンターの装備なら開拓者集会場にいても目立つことはなく、好奇な目を向けられることなくイアンの横に立つ。
イアンは俺が来るのを待っていたのか、目を合わせて軽くうなずいてからシエンナさんへ顔を向けた。
「開拓者の登録に来ました」
「かしこまりました。そちらの男性も開拓者の登録を希望されますか?」
「はい。僕もお願いします」
「わかりました。お二人とも、こちらの用紙に記入をお願いいたします」
シエンナさんが渡してきた茶色がかった用紙には、名前・年齢・性別などを書き込む欄がある。
カウンターに羽根ペンのようなものがあり、それを使って用紙へ書き込んでいく。
翻訳スキルを使いながら自分の書きたい文字を思い描くと、用紙へ半透明に浮かび上がってきてくれる。
それをなぞっていると、横にいるイアンが苦い顔をしていることに気が付いた。
「もしかして、文字が書けませんか?」
「はい、こういうことはしてこなかったもので……」
「では、代筆いたします。私の質問に答えていただけますか?」
シエンナさんは文字が書けないイアンのために代筆を始めた。
その間に俺は項目を埋めつつ、どちらがこの世界の常識なのか考えてしまった。
俺の世界でも識字率が低い国はたくさんある。
学校に行けない子どもが文字の読み書きを習う機会がないまま大人になるため、識字率が低くなるという傾向が発展途上国を中心に多く見られる。
イアンとシエンナさんのやり取りを見ている限り、異界はそんなに識字率が高くないようだ。
「ありがとうございます。これで“申込”が完了になります。実技試験はすぐに受けられますか?」
「はい、今すぐにでも大丈夫です」
「かしこまりました。準備ができ次第お呼びしますので、あちらにある待合所でお待ちください」
「わかりました」
「はい」
シエンナさんに言われた通り、俺たちは入り口近くにある待合所へ向かった。
椅子やテーブルがいくつか置いてあり、他にも武器を持った人たちが数人座って待っている。
「さすがに朝早いから、あまり人がいないな」
「そうですね。ここで待っていれば良いみたいですけど……」
イアンが周りを見ながらつぶやくと、俺は同意してうなずいた。
しかし、まだ朝も早く、ここにいるのは俺とイアンを合わせても数人だ。
「もう少ししたら他の人も来るんじゃないですかね?」
「そうだといいんだけどな」
イアンはそう言いながら、近くにあったイスに腰を下ろす。
俺もその向かい側のイスに座り、これからのことを話し合うことにした。
「イアンさんはどんなことができるんですか?」
「俺? そうだな……俺は剣が得意かな。昔教えてもらったんだ」
「そうなんですか。その剣で戦うんですか?」
「ああ、そうだけど、それがどうかしたのか?」
「いえ、なんとなく気になっただけです」
俺が聞くと、イアンは背中に背負っていた鞘から剣を抜き、刃を見せてくれた。
普通の両手持ちのロングソードで、特に変わったところはない。
素材が鋼で使い込んでいることがよく分かる。
「ふーん、これがどうしたんだよ?」
「いえ、なんでもありませんよ」
「そうか。お前はなにができるんだ?」
「僕も剣を使います……これを」
用意する剣をイアンの剣に合わせるため、昔使っていた鉄の剣をアイテムボックスから探す。
あたかも最初から持っていたかのようにマントの陰から剣を取り出した。
「良い剣だな。ちゃんと手入れもされている」
「ありがとうございます」
イアンは俺の手にある剣を見て、ほめ言葉を口にしてくれた。
これは師匠からもらったもので、アダマンタイトの剣を買うまでずっと使っていた。
しばらくすると、シエンナさんが待合所へ現れ、俺たちに声をかけてきた。
「お待たせいたしました。実技試験の準備が整いましたので、こちらへ来てください」
「わかりました」
イアンは立ち上がり、返事をしてから歩き出した。
俺はその後ろについていき、シエンナさんの後を追う。
建物の中を進み、階段を上ると、そこには闘技場のような場所が広がっていた。
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次の投稿は12月15日に行います。
次回も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。




