清澄ギルドの今後⑥~新しいギルドメンバーについて~
ギルド加入希望者について澄人が香澄と話し合いをしています。
お楽しみいただければ幸いです。
「今まで断っていたんじゃなかったっけ?」
「ええ、そうよ……ただ、今回はね……」
お茶を口に含むお姉ちゃんは俺から目をそらし、言葉を濁した。
清澄ギルドは人数を多くして大々的に活動するよりも、フットワークを軽くする少人数で動くことを優先的に考えていた。
そのため、入りたいという希望があっても断ってきた。
「今までの希望者とはちょっと違うのよ。とりあえず今度その人たちの面接をする予定だから、澄人もきてくれる?」
表現をぼかすように抽象的な言葉を口にしたお姉ちゃんは俺も面接に参加してもらいたいようだった。
直接希望している人と話をする機会をふいにはせず、俺は快く引き受けることにした。
「分かった。聖奈は?」
「ライブが終わったら話をするけど、面接には呼ばないわ」
お姉ちゃんが頭を抱えながら、聖奈がいたら話にならないからと小さく口にする。
希望者が誰なのかわからないのでそのつぶやきについては追及しない。
ただ、先ほど、お姉ちゃんが口を滑らせて、希望者が数人いることがわかっているので、それについて聞いてみることにした。
「希望者は何人いるの? 1人じゃないよね?」
「3人よ……詳しい資料は面接の前には用意しておくわ」
お茶を飲み終わり、夜の勉強を行なう時間になったので、コップを持って立ち上がる。
「どんな人たちなのか楽しみにしておくよ。おやすみお姉ちゃん」
その場を後にした俺は、一旦希望者の人たちのことを頭の片隅に追いやり、勉強を始めた。
ライブ当日の朝、俺は参加する人たちの様子を見るためにハンター協会が用意してくれた病院へ向かっていた。
(あ……患者さんに渡そうと思っていた回復薬のセットをギルドハウスに忘れた……)
境界適応症の患者さんは体力が減り続けるので、回復薬を常備させてあげなければならない。
回復薬の投与を行なわなければならない人は今回のツアーには参加していないので、それぞれが飲む分の回復薬があれば事足りる。
そのために作っておいた、回復薬を入れたホルダーを丸々ギルドハウスへ忘れてしまった。
(まあ、ワープを使えば大した手間じゃないから別にいいけど)
ワープを使っているところを見られないように、人通りの少ない道を探し、さらに脇道へ入ってから永遠の闇を発動させた。
他人の視覚から完全に消えた状態でワープを使ってギルドハウスへ移動し、ホルダーが置かれている部屋を開ける。
(立花さんありがとうございます)
ホルダー作りは事務員の立花さんが担当してくれて、頑丈な布製の物を19本完成していた。
回復薬ホルダーをアイテムボックスへ入れてからワープをしようとしたら、ギルドハウス前に人が集まっているのを察知した。
(なんだ? あきらかにうちの前……だよな?)
日が出てから間もないというのにもかかわらず、20名程度の人たちがギルドハウス前で集まっている。
面倒事だと思いつつも、うちのギルドハウス前でなにかをやっているのなら様子を見に行った方が良い。
(永遠の闇で俺の姿は見えないから、偵察をするくらいなら余裕だ)
人の真上に移動しても困るので、ギルドハウスから少し離れたところをイメージしながらワープを行なう。
(……あの人たち何をしているんだ?)
まだほとんど誰も出歩いていない中、清澄ギルドの所有するビルの前にだけ人だかりができていた。
100メートルほど離れたところからギルドハウス前の様子を探ると、異様な風景が広がっている。
黒のスーツを着た男性が肩で風を切るように玄関前をうろつき、その後ろを数十人の男女が並ぶ。
玄関前を歩く男性には見覚えがあり、草壁武正というハンター協会の役員だと思われる。
その人たちは俺たちのギルドハウス前に陣取り、近づこうとする人を威嚇するように睨む。
(これは明らかにうちを妨害しているな……でも、うーん……目的がわからない)
迷惑をこうむるとすれば、中で作業を行う俺たち清澄ギルドのメンバーだけだ。
ただ、ハンター協会の役員が表立ってうちのギルドと対立する意味が分からず、俺はここでどう対応すれば良いのが正解なのかわからずにいる。
(面倒なことは先生へ任せよう)
このような状況を口だけで説明しても十分に伝わらないと思うので、ギルドのビルへ近づいてスマホで数枚の写真を撮影した。
写真を先生へ送信してからその場を離れつつ、少し間を置いてから電話をかける。
先生はスマホを持っていたのか、1コール目が鳴り終わらないうちに電話に出た。
「これはギルドハウスの前だよな? こいつらはなにをしているんだ?」
人が立っているだけなので、写真だけでは何をしているのか詳しくわからない。
しかし、目の前でこの人たちを見ている俺でも何をしたいのかわからないため、見ていることをそのまま先生へ伝える。
「玄関を閉鎖するように陣取っているだけですね。特になにか騒ぐとかはしていませんよ。警察呼びます?」
「警察……それが一番か。俺が連絡をするから、お前は境界適応症の方を頼む」
「わかりました。ギルドハウスのことよろしくお願いします。あと、立花さんにも連絡してあげて下さい」
この騒動が収まるまでは立花さんが出勤しても困ると思うので、メールで状況を説明してもらうことにした。
「ああ、そうだな。分かった……はぁ……部活は草矢さんに頼むか——」
電話が切れる前に先生の大きなため息としんどそうな独り言が聞こえてきた。
心の中で再度先生へお礼を言ってから病院へ行くためにワープを行なう。
(もうバスが来てる。余裕を持って出たはずだったんだけどな……師匠?)
病院の前には今回ツアーで使う大型バスが来ており、前方にあるスイングドアの前には師匠が立っていた。
「師匠、おはようございます」
「おはよう澄人、参加者全員がバスに乗ってくれているぞ」
まだ出発時間前にもかかわらず、お姉ちゃんと夏さんも中で座っており、俺が遅れてしまっていたようだった。
いち早く出発したい気持ちを抑え、師匠へさっきまで俺が見ていたことをお姉ちゃんたちに聞こえないように伝えなければならない。
「師匠、このバスが出発したら平義先生へ電話をかけていただけますか? 俺からと言えばわかるはずです」
「なにがあったんだ?」
「ここでは少し……ですが、必ず連絡してください」
師匠が手であごをなぞるように腕を組み、バスの中にいるお姉ちゃんたちを見ずに俺へ聞いてきた。
鋭いまなざしを俺へ向ける師匠はバスの中にいる人へ声が届かないように背を向ける。
「必ずか……そんなことなら、あの2人には伝えなくてもいいのか?」
「このツアーを成功させたかったら伝えられません……護衛なしで決行することになります」
お姉ちゃんたちが大切にしているギルドハウスの前で妙な集会が行われていることがわかれば、居ても立っても居られなくなるだろう。
2人の集中力が欠如して怪我や事故に繋がる可能性は大いにある。
(教えるのはツアーの後でもいい)
このツアーはかかっても5時間と予想しているので、すべてが終わった後に師匠か平義さんから2人へ説明してもらう。
「それなら、澄人はこっちを頼む。わしは平義へ連絡をしよう」
俺の意図を汲んでくれた師匠は一度だけゆっくりとうなずき、スマホを取り出して駐車場へ向かっていった。
師匠を見送ってからバスへ乗り込み、もの言いたげにこちらを見るお姉ちゃんたちの視線を無視して車内用マイクを持った。
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