他校交流戦①~白間くんの話~
白間輝正が澄人へ父親の件を伝えます。
お楽しみいただければ幸いです。
部活が始まる前、俺は白間くんに呼び出されて天草姉妹がアルバイトをしているハンバーガー屋さんへ来ていた。
白間くんが誰もいないところで話がしたいということだったので、開店時間前だというのに天草先輩がお店を使わせてくれたためだ。
(もう少しで全部のテーブルを拭き終わるな)
話が終わったあとは白間くんを帰して、俺と天草先輩でお店の掃除をしている。
店主から早くお店を開けた代わりに掃除をしてほしいということ言われたため、快く引き受けた。
「澄人くんは本当に白間くんと仲が良くないの?」
天草先輩が水を絞ったモップで床をこすりながら話しかけてきた。
布巾でテーブルを拭いている手を止めずに言葉を返す。
「そうですね……境界適応症のことは真友さんから聞きましたし、彼とはほとんど話をしたことがないですよ」
白間くんとまともに会話をしたのが昨日の会議の時だけだったので、軽く首を振った。
そうと小さくつぶやいた天草先輩も俺の方を向くことはなく、またしばらく無言が続く。
先ほどの話で、彼は俺と天草先輩へ自分の父親がゲートを修復する条件を緩和してほしいと考えていることを伝えてきた。
天草先輩に同席してもらったのは、俺と2人きりで話をする仲ではないと自覚してのことらしい。
「2人ともありがとう。十分きれいになったし、もうすぐ部活が始まるから行くと良い」
天草先輩のおじさんがカウンターでコーヒーカップを磨きながらこちらを見ていた。
「ありがとうございます」
持っていた布巾を手渡すと笑顔でおじさんが受け取り、モップ掃除を片付けようとしていた天草先輩を呼び止めた。
「瑠璃も片付けはこちらでやっておくからいいよ」
「おじさん、ありがとう」
お店を出るためにカウンターの椅子へ置いていたリュックを背負う。
横に少し離れたところに荷物を置いていた天草先輩がちらりとこちらを見てからバッグを手に取る。
「今日はありがとうございました」
天草先輩のおじさんへ頭を下げて立ち去る前に天草先輩と目を合わせた。
視線に気づいた天草先輩は急ぐように荷物を手に取り、おじさんに向かって微笑む。
「片付けよろしくお願いします。いってきます」
「いってらっしゃい」
天草先輩と一緒にお店を出て、歩き始めると同時にスマホを取り出す。
「白間くんの話を理事長に確認するのって、ありだと思いますか?」
「どうだろう。なんて連絡をするつもりだい?」
「相手に交渉の余地があると思われていそうなので、条件を釣り上げるつもりです」
白間くんから聞いた話では、彼の父親が塞がっているゲートの関係者であることが濃厚であった。
また、俺の予想では皇立高校が関与しているかもしれないので、草根高校の価値を高めるための条件を追加するのも悪くない。
どんな条件を追加しようか悩んでいたら、自分の父親の首を絞めることになった白間くんが頭に浮かぶ。
(白間くんは父親を憎んでいるからこの話を俺にしたんだろうか?)
条件を緩めろと言われてその通りのことをするわけもなく、逆に譲らなくなることがほとんどだろう。
「こちらとしては異界が今まで通り使えるのが一番嬉しい……けど、協会からの協力金も魅力なんだよね」
「部活で使っている共用の装備が新しくできるからですか?」
俺が条件を譲歩しないことをわかりつつ、天草先輩はばつが悪そうに苦笑いを浮かべる。
学校からも部費という形でお金が出ているものの、異界で活動を行うには圧倒的に足りていないのが現状だ。
「まあ……それもあるし、回復薬も結構使うから……」
「1人3本は毎回持たせていますもんね」
「私と澄人くんだけだと支援が追い付かないからね」
聖奈でも異界では攻撃にリソースを振り切っているので、その分負傷することも多い。
ただ、そうすることで他の部員の負担を軽くしているため、聖奈なりに考えてのことだと思われる。
(聖奈が攻撃すると収集品の損傷が大きいから、大体の物が安く引き取られちゃうんだよね)
大型モンスターの毛皮が相場よりも8割以上安く買い叩かれたことを思い出す。
「共同の装備品も卒業生からの寄付でなんとか回せているけど、1人1セットくらい確保しておきたい……かな……」
去年よりもモンスターを倒せてはいるが、収入がそれに見合っていないのが今の部活の現状だ。
ミスリル製の装備品を買おうとすると最低でも3桁万円はするため、買い揃えるのは難しい。
そんなことができるのは、国か大企業がバックアップをしてくれている人たちだけだろう。
そのため、今回の協力金で装備を買いたいという天草先輩の気持ちもわかる。
(俺が埋めなかったら協力金の話もなかったよな)
部活を円滑に運営するため、このまま相手の異界が使えないのがミス研にとっては一番の理想だ。
「それで……澄人くん、どうするつもりなの?」
「ハンター協会の出方次第ですね。近日中にこのまま協力金だけ払うのか、俺の条件をかなえてくれるのか決めてもらいます」
「そ、そう……」
俺の返事を聞いて天草先輩は複雑そうな顔になった。
話が一区切りついたので、ハンター協会か直接師匠へ連絡しようかと悩んでいたらスマホが震え出す。
(先生?)
立ち止まって確認をしたスマホの画面には《平義先生》と表示されていた。
天草先輩へ先に学校へ向かってもらい、俺はその場で電話に出る。
「澄人か? 今どこにいる?」
「あと10分ほどで着きますよ」
前を歩く天草先輩の背中を眺めつつ先生の質問へ答えると、電話から小さく唸るような声が聞こえてきた。
「第2校舎の職員室へ来てほしい……埋められているゲートの件で話がしたい」
「わかりました」
電話を切り、先生が待つ学校へ向かって歩を進める。
先生は俺がゲートを埋めたことを知る唯一の人なので、応じないわけにはいかない。
こうなることは予想していたので、あとは先生が他の人へこのことを言っていないことだけを祈るだけだ。
スマホをポケットへ入れてから天草先輩との距離を縮めることなく、先生の待つ学校へ向かって歩き始めた。
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次の投稿は5月16日に行う予定です。
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