それぞれの試験①~草凪ギルドの関与~
話が長くなってしまったため、『運命のテスト』というサブタイトルを『境界への客』と変更しました。
今回から襲撃犯についての話になります。
お楽しみいただければ幸いです。
天草先輩から草凪ギルドの件で電話を受けた翌日の太陽が昇る前。
俺は庭で雷の親和性が高められないのか、持っているミスリルの剣を使って試行錯誤していた。
雷に変換した魔力を武器に帯電させることで、攻撃に属性を付与することができる。
(ここまではなんてことはないんだけど……ここからは慎重に行わないともったいない)
さらに、ミスリルの剣へ魔力を流し込んで、斬撃の特性を持った雷を空に向かって放つ。
空気を切り裂きながら雷が空に向かって走り抜けてゆき、俺は視線を下げて持っていたミスリルの剣を見る。
(壊れちゃったか……うまくいかないな……)
ただ、これを行うと武器の耐久力が低いものでは、1度使うだけで刀身が破損してしまう。
ため息をつきながら、壊れたミスリルの刀身と柄をアイテムボックスへ入れて、【修理】を選択する。
【修理対象:ミスリルの剣】
5000ポイントで修理可能です
実行しますか?
武器が壊れた時、購入するポイントの半額で実行できる修理という機能を発見した。
今はこれしか自分の武器が無いため、ミスリルの剣の修理を実行する。
(これが普通に武器として使えたら便利なんだけど……)
雷を形成して剣の形を作って、両手で握って構えた。
ただ、雷を剣の形にすることはできても、質量を持たないため武器として非常に使い難い。
普通の人が相手ならそれでも十分に戦えるのだが、一部の人にはまったく意味が無く、特に俺の周りでは使い道に困ってしまっていた。
剣の親和性で魔力を帯びた剣を振るってくる聖奈やお姉ちゃんと戦う時、この剣はただの飾りになる。
(魔力を断ち切れる人たちにこの剣で立ち向かえないからな……)
朝のトレーニングをしていたら、玄関に誰かが近づいていると雷で探知したため、タオルで軽く体を拭き始めた。
俺が汗を拭いていたらインターホンが鳴るので、縁側から家に入り、対応に向かう。
(あ、誰か行ってくれた。身長的にお姉ちゃんかな?)
事前にお姉ちゃんへ人が来ることを知らせていたため、玄関で対応してくれている。
俺が玄関に着くと、お姉ちゃんが緊張を隠せない天草【姉妹】と話をしていた。
「先輩おはようございます。それに、紫苑さんですよね? 今日はよろしくお願いします」
「お……おはよう澄人くん。こちらこそよろしくお願いします」
これから話をする内容を考えればそうなると思うが、まだ事情を聞くだけなので、俺はいつも通りの対応を心掛けた。
しかし、それでも2人の緊張は解せず、表情が硬い先輩に挨拶を返され、妹の紫苑さんは顔を真っ青にして頭を下げる。
「じゃあ、お姉ちゃん。よろしくお願いします」
「わかったわ。なんにもないと信じていきましょうか」
玄関から出るお姉ちゃんに連れられて、俺たちは師匠の家へ向かっていた。
不安にさせる一言をお姉ちゃんが口にしていたが、昨日の今日なので何があるかわからない。
影渡りというハンターは自分の姿を視覚的に消すことができるため、雷による気配探知には引っかかる。
師匠の家の周辺で誰かが見張っている場合を考え、お姉ちゃんも用があると言っていたのでついでに護衛を頼んだ。
徒歩で数分もしない場所にある師匠の家に着き、周囲を探るが誰もいないことを確認できた。
そのことを伝えるため、お姉ちゃんに向かって首を振る。
「まあ、そうよね。そんなにわかりやすいことしないか……」
つまらなそうにバッグの中に入っている剣から手を離したお姉ちゃんは、師匠の家のインターホンを鳴らす。
「よく来てくれたな。入ってくれ」
4人とも何も話さずに待っていたら、インターホン越しではなく、師匠の声が直に聞こえてきた。
早朝にもかかわらず外まで出迎えてくれた師匠は、俺たちを家へ入るようにうながしてくれる。
そんな中、踵を返す師匠に駆け寄ったお姉ちゃんはバッグから封筒を取り出して、両手でそれを差し出す。
「師匠、私はこれを提出に来ただけなので、受理していただけると助かります」
「ふむ……まあ、これが良いのかもしれん……確かに受け取った」
「ありがとうございます。では、失礼します」
お姉ちゃんはギルドの休止届をハンター協会の会長である師匠へ提出し、活動をしなくなるという申告を行なっていた。
天草姉妹は何が起こったのかわかっていないままそれを見つめていたので、軽く説明をする。
「うちのギルドが活動休止するので、その申請をしているんです」
「えっ!? 清澄ギルドが休止!?」
俺は小声で話をしていたのにもかかわらず、紫苑さんが驚きながらお姉ちゃんを見ていた。
それをお姉ちゃんと師匠は無表情で聞き流してくれたので、俺がそれを咎める役になる。
一応人が周りにいないことはわかっていても、その都度このように反応されると困るので自分の人差し指を口に当てた。
「紫苑さん、静かに。朝早いですけど、誰が聞いているのかわからないですから」
「ご、ごめんなさい」
紫苑さんが申し訳なさそうに謝っており、驚くのも分かるためそれ以上は言わない。
お姉ちゃんが俺たちにじゃあねと言いながら立ち去るので、師匠が再度こちらへ向かって手を振る。
「来なさい。中で冷たいお茶でも飲みながら話をしよう」
「はい」
今の師匠は穏やかな口調だが、昨日天草先輩から草凪ギルドが襲撃に関与していると聞いた後にかけた電話では、かなり狼狽えていた。
じいちゃんがいた時には師匠も所属していたギルドなので、少し思い入れがあるのだろう。
(うーん? でもおかしいな)
1周回って落ち着いたのかと思っていたら、思考分析で【混乱】となっているので、そんなことはなかったらしい。
リビングにあるテーブルを囲うように座り、出されたお茶を飲もうとした時に師匠が話を始めた。
「それで、天草紫苑さん。きみの友達が草凪ギルドの人から、境界の襲撃を条件に装備や治療を融通してもらう話を受けた。ということで間違いないんだね?」
「はい……間違いありません。電話で直接聞きました」
師匠は片手で何かを操作するようにテーブルの下にある手元を見ている。
俺も草凪ギルドが関与しているとしか聞いていなかったので、これからどんな話がされるのか興味があった。
ご覧いただきありがとうございました。
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