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異世界に若返り転移したおっさん。ハズレ職と笑い者にされたので無双して見返します。  作者: 仁渓


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第60話 俺たちはルゴルフだ

「ヘレン!」


 ケイトリンがヘレンを呼んだ。


 如何にもやさぐれた様子で飲んだくれていたヘレンは軍隊さながらのきびきびとした動きで立ちあがるとテーブルを回り込んでケイトリンの前に立った。酒の影響はまるで感じられない。


「座ってくれ」


 ヘレンは空いている席にどさりと腰を下ろした。


「ギンも」


 俺も隣のテーブルに移動した。


 ケイトリン、ハンドリー、ヘレン、俺だ。


 俺の背中には相変わらず三本の恨みの視線が刺さっている。


 ケイトリンが強い口調で宣言した。


「ギンの昇格試験参加に当たり本ギルドとしてはヘレンを王都行きの付き添いにつける。Bランク試験の経験者であり王都ギルドにも顔が利く。地理にも明るい。役に立つだろう」


 ヘレンがパッと明るい顔になった。


「お任せください」


 待て待て待て待て。絶対にケイトリンの変な思惑が入っているだろう。


 ハーレムパーティーもつらいが女子との二人旅もなかなかつらい。前世で職場の女性と二人で出張なんて日帰りでもつらかった。もちろん何もあるわけないが気を使った会話をするだけでもしんどい。一緒に飯を食いに行くレベルとはハードルの高さが違う。


 どうしてもと言うのであれば現地集合現地解散にしてほしい。


 ルンヘイム伯爵領都から王都までは乗合馬車も出ているから一人で行ける。俺にとっては異世界自体が見知らぬ土地なのでどこへ行こうとどうせ馴染みなどない土地だ。


 とはいえ、それ以前の話として、


「俺まだこの街のダンジョンにすら潜ってないんで単純に試験なんか嫌なんだが」


「ダンジョンは逃げん」


「試験だって逃げないだろう」


「試験は逃げる。担当する試験官次第で難易度が変わるからな」


 それは昇格試験としてダメだろう。


「そこでこれだ」


 ケイトリンは渡された俺がテーブルの上に置いた封筒をトンと叩いた。


「今の試験官は私の友人だ。黙ってギンを合格にしろと推薦しておいた。行けば受かる」


 もはや試験ではないのでは? 完全な出来レースだ。


 何でも王都のギルドマスターはそろそろ人事異動の時期らしい。


 俺は天を仰いだ。ケイトリンは本気だ。


「なぜそんなに俺のランクなんか上げたがる?」


 ケイトリンは白い目で俺を見た。


「お前が分別ある人間ならば問題ないんだ。残念ながらちょっとやりすぎちゃう側の人間だろう?」


 思い当る節がない。


「いや。歳の割に落ち着いてるねって言われるほうだが。分別の塊だと思う」


 なにせ中身は肉体年齢の倍の歳だ。


 ケイトリンは深く息を吐いた。


「分別ある人間は普通、騎士団や領主の屋敷を一人で鎮圧はしないんだ。そういうことが実際にできてしまう化け物はAランク以上に認定されている。探索者ランクは裏を返すと権力者から見た危険度の認定ランクだからな。Aともなればどこの権力者も逆鱗に触れるのを恐れて距離を置く。Bまでは金と権力で何とかできるつもりの馬鹿が寄って来る。まだCランクでそんな力があるお前は無名だからな。どこかでお前の存在を知った王族や貴族が積極的にちょっかいをかけてきても我慢できるか? 無理なら、さっさとAになってくれ。お互いの平和のためだ」


 うん。無理だ。


 貴族絡みの理不尽な言いがかりに自分が黙っていられるとは思えない。嬉々として黙らせたくなるだろう。


「わかったよ」


 俺は分別のある返事をした。


 ケイトリンはハンドリーと顔を見合わせて、ほっとしたような息を吐いた。


「でな」とハンドリー。


「ルゴルフが目を覚まさん。起こせるか?」


「お前の同僚?」


「ああ」


 そういえばそんな奴がいたな。


「寝かせておけばそのうち起きるんじゃないか?」


「ギルドのベッドをずっと占領するわけにはいかんだろう。運び出すのは面倒だからな。自分の足で静かに(・・・)歩かせて帰らせたい」


起こして(・・・・)から黙らせろ(・・・・)ということか?」


 ハンドリーは頷いた。


「できるか? 連れて帰って領主に処分を決めてもらう」


「まあ乗りかかった船だからやるよ」


 実際のところ領主は私兵たちにどのような処分を下す気だろう?


 悪ければ物理的に首を切り、良ければ組織的に首を切るといったところか?


 俺はその場の思いつきをハンドリーに伝えた。


「もし領主が私兵たちをそのまま追放するようなら希望者には全財産の九割没収で『沈黙』の『解除』を俺が請け負うと伝えてやってくれ。いつかは分からないが、いつか『沈黙』の効果が切れるまで貯めてきた金で静かに生きていくか。さっさと魔法が使えるようになってまた稼ぎ直すかだ。もちろん『解除』後に逆恨みをしてくるような奴は永久に黙らせるが」


 俺の視界の『地図』の光点は意識すれば相手が誰であるか特定できた。マーキングも可能なので、もし『解除』後に俺を狙って密かに近づいて来るようならば返り討ちだ。


 ハンドリーもケイトリンもヘレンも俺の提案に唖然とした。


 背後で聞き耳を立てているだろうカイルパーティーの様子までは分からない。


「えぐいな」とハンドリー。


「捜索基金の積み増しの原資だよ。せっかくの機会だから先輩探索者様たちには後輩のために一肌脱いでもらおうぜ。それでお互いにウィンウィンだ」


 そうと決まれば、


「ヘレン、こいつは俺の担当職員として預かっててくれ」


 俺はテーブル上の封筒をヘレンに持たせた。


「ケイトリンはやさぐれた酔っ払いたちの相手を頼む」


 俺は財布から小金貨を何枚も出してテーブルに積み上げた。


「カイル、支払いは任せたぞ」


 俺は振り返ってカイルに叫ぶと、そそくさと立ち上がった。


「ハンドリー、俺たちはルゴルフだ」


 脱兎のごとく俺は酒場から逃げ出した。

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