第二話。ヨロズヤとタナボタと温泉回。 その2
「まぶしい」
中身を改めたアイシアの感想がこれだ、ギュッと目をつぶってしまっている。
こいつ、こんなリアクションするんだな。
何事も淡々と、平坦にこなしてる印象だったから意外だ。
最低限背負えるようにしただけの頭陀袋。
その中の一つには、貨幣と思われるコインが金銀銅と三種類。
金はほぼなく、銀と銅が主だな。けっこうな重み。
鍛冶屋、儲かってるんだな。
「これか」
資金袋を漁ってると、形の違う物が手に当たったから取り出してみた。
薄い鉄板みたいな物で、イオハ・ザードーバの名前がパっと見えたから、
どうやらこれなんだろう。
が、なにが書いてあるのか見ようとしたら、お腹さまが
やめろと言わんばかりに攻撃して来たので、
しかたなく袋に戻した。
他の四つは全部衣装の分だ。ゴテゴテと宝石のあしらわれたうるさい服。
女子の服は、なぜかアイシアがガードしてて、
ちゃんとは見せてもらえなかった。
「たしかに。これは、目に痛いな」
これを着た自分を想像したら、あまりにも似合わなすぎて
変な笑いが出た。
「で、オッサン。スティアスって歩いてどれぐらいだったかしら?」
袋のひもをキュッと閉めながら、カグヤが聞いた。
さりげなくやってるのが、悔しいけどさまになっててかっこいい。
「そうだなぁ。三人の足なら、
今から出てギリギリ夜にはつくんじゃないか?」
「え、あ、あの。まだ太陽が半分も上ってないんですが?」
「そっか。じゃあ、アクト本人も言ってたことだし。
お腹直り待ちで作戦の最終確認しようじゃない」
無視されてる?!
「うん」
「そうですね」
「よし、わかった。行動指針を確認しよう」
俺そっちのけで着々と話が進んでいく。
おかしいな、俺が中心人物のはずなんだけど、
直々に頼まれたしあぐにゃんから。
「よし、それでいいな。確認完了」
少し後。ジョージのオッサンは、なにやらとても満足そうだ。
目的地までは万屋スタイルで行き、マリスガルズに入る時に
着替えるということになった。
その方がサラちゃんたちが動きやすいからだそうだ。
「後は少年の状態だけだが、どうだ?」
「どうやら。大丈夫みたいだな」
最終確認中、俺のお腹の虫さんは、お通じに
ダイレクトアタックな鳴き声を上げなかった。
だから、もう大丈夫だろう。
「よし、バッチリだ。それじゃ行ってこい!」
オッサンに、背中を派手な音でぶっ叩かれて、派手にむせた。
それを見てみんなが笑ってる。おひさまが笑ってるかは知らん。
子犬などもってのほかだ、犬娘は笑ってるけど。
「じゃ、わたし着替えてきますです」
言うなりサラちゃんとアイシアは二階へダッシュ。
「ちょっぴり暇ね、この間」
「だからでかける時でよかったんじゃないかって言ったろ?」
「そうね」
やることないのでぼんやりしてたら、
カグヤが急にほっぺた赤くし出した。
「どうした? 熱でもあるのか?」
「あるわけないでしょっ。に ニャんたと、みつめあってるって、思ったら……なんか。……こ、こっぱ」
「こっぱ?」
「こっぱずかしくなったのよっ!」
「だからって、太腿を左足の内側でリズミカルに蹴るなっ!
じわじわいてーからやめろっ!」
「っ!」
「ぎゃっ! 今パァンって小気味いい音が……」
「なに? ニャんた蹴られて気持ちいいの?」
「ちげーよ! 音の話をしたろうが音の話を!
そのゴミを見るような目をやめろ!」
「どうだか」
「信じろよ! お前の信じる俺を信じろよ!」
「ニャたしの中に、ニャんたなんていないわよ」
「さ……サラリとした答えだな。梅酒もびっくりだぞ」
「なにそれ? 異世界冗句のつもりなら面白くないわよ。
ぜんっぜん」
ガタッ、少し乱暴に椅子を引いて立ち上がったカグヤ。
「ひとこと余計だ。って、あれ? マントなんか羽織ってたっけ?」
「おまたせしましたです」
「いこう」
着替えて戻って来た二人。なるほど、
カグヤがユニフォームだと言っただけはある。
サラちゃんが着てるのを除いて、二人は
まったく同じデザインの鎧風の衣装だ。
いや、魔力があたりまえに存在する世界だ。
きっと本当に革鎧なんだろう。でも、鎧って重厚な響きに反して、
コスプレ衣装の如く平然と着こなしている。
しかも違和感をまったく感じない。
でも、なんでサラちゃんだけデザイン違うんだ?
それに一人だけ長物持ってる。ってサラちゃん剣士だったっけ。
「よ、よし。いくか」
蹴られた左太腿をさすりながら言う。
まったく、おでかけ前になんてことしてくれやがった。
「そうね」
「じゃ、いってきますです」
俺が言うと、次々にいってきますの挨拶をする万屋三人娘。
「女神からの任務。ちゃーんと達成してこいよ」
「了解であります!」
ビシッと敬礼。
「お前らがマリスガルズで一悶着やってる間、この剣塚亭はこの
ジョージ・エヌ・カーターが引き受けた!」
吹き出しちまった。
おいおいなんだよ、その異世界物にありがちな
アメリカナイズされたような名前は?
「じゃ、改めまして。いってきます!」
お土産よろしくね~、っと言うガルミンたちの声を背中に、
俺達は剣塚亭を出発した。
話し聞いてたのかあいつらは?
***
「剣塚亭って、けっこう町はずれにあったんだな」
昨日の大車輪へのプチ旅行が嘘のように、
俺達はあっさりとオハヨーの町門から外へ出ていた。
太陽は余裕で昇り途中である。
「はいです。町がわたしだとして」
足を止めて、サラちゃんはなにやらジェスチャーを始めた。
「剣塚亭はこっちにありますです」
「ほ……北東かよ」
まさか剣塚亭が町の鬼門にあるとは思わなかったぜ。
……ひょっとして。
何度も何度も青汁もどきを飲まされたのは、
これが原因か?
「運命の大車輪がここです」
自分の心臓、鎧のデザインで唯一違う部分。
でかでかと描かれた白い星をポムッと叩く。
「それで、町門がこっちです」
北東に伸ばした右腕をそのまま左へスライドさせ、
少し上に動かした。
「直線距離なら大車輪からの方が近いです。
でもいろいろ建物があったりするので回り道になっちゃうから、
剣塚亭からの方がずっと近いですよ」
「なるほどな。ダイナミックジェスチャーありがとう」
一瞬首をかしげたものの、すぐにこやかに
いえいえですと頷くサラちゃん。
それを合図にして俺達は歩き出す。
おそらく、意味がわかる言葉にだけリアクションしたんだと思う。
一瞬でその判断ができるのか、サラちゃん すげー頭いいな。
俺がサラちゃん ーー 見た目から推定した年齢は十から十二程度 ーー
ぐらいの時なんて、勢いと脊髄反射と欲求だけで生きてたからなぁ。
道場主の娘って環境のおかげなんだろうな、
この頭の切れと落ち着きは。
「ねえ? 北東に反応してたけど、なんかあるの?」
整備された街道を行く俺達。背中に背負った荷物のおかげで
さながら遠足だ。
馬車越しにこっちを見る人たちは、さして気にする風でもない。
よく見る光景なんだろうか?
「ああ、北東は俺の国だと縁起の悪い 不吉な方向って言われてるんだよ」
平然を装ってるけど、正直な話。想像以上に荷物が重くて、
筋トレウォーク状態
……きついっす。
「ふぅん。ニャたしたちは逆だけどなぁ」
「そうなのか?」
「うん。ほら、東から北を通って太陽って動くじゃない」
「え? あ、ああ。うん」
……あれ? たしか太陽って南中が頂点だよな? 南だよな?
「その通り道の東方向には、よどみのない魔力が幸運を巡らせる
って言われてるのよ」
「そうなのか。面白いな、それ」
「おかげで剣塚亭は繁盛中でしょ?」
「そういうことなのか?」
そこは疑問符だけど、そういうことなのよ、
と言いきられてしまっては反論の余地がない。
「味、お店、大事」
アイシアが……突っ込んだ、んだよな?
「カグヤさんとアクトさんって、よくお話ししてますですよね」
「そうか?」
「言うほど話してるかしら?」
「あったばっかりとは思えないぐらい仲良しさんです」
「そこまでか? それ言うなら、ガルミンとかもそうだろ?」
「同世代、いないから。みんな。アクト。めずらしい」
お、アイシアが会話に混ざって来たぞ?
どういうわけだか早口だけど。
「そうね。お客さんは基本ニャたしたちより年上だし。
それにこいつ、客でもないから気を遣わなくていいしね」
「お前……」
一応は客になるんじゃないのか、俺は?
「ところでさ。なんで徒歩なんだ? 送迎馬車とかないのか?」
危うく送迎バスって言いそうになった。あぶねえ。
「送迎馬車ならありますです」
「あるのか、それならなんでわざわざ」
「資金の節約よ。歩いて行けるのに、わざわざお金出すの
もったいないもの」
「歩いて行けるったって、ものすごい距離じゃねーか」
「そう? 歩き通しで日をまたぐような距離でもなきゃ、
大したことないでしょ」
「あ……歩いて半日ぐらいかけないと往路が終わらないような場所を、
あたりまえにしてるのか……」
恐ろしい。この世界の生き物のタフ差が恐ろしい。
「聞いたことがある」
「なんだ、ずいぶん積極的に会話に入って来るな」
「送迎馬車は貴族のたしなみ」
でも、こっちに視線が来てない。昨日のケダモノ発現からするに、
アイシアって男嫌いなんだろうな。
しかもかなりの。
「ああ、そうなんですか」
言われてみれば、今横を通り過ぎた馬車の中にいたのも、
服がどことなく高そうだったような?
「ところでアクトさん」
「なんだ?」
「アオイさんって、どんな人なんです?
知ってる人みたいですけど」
「稲妻か? そうだなぁ。趣味の合う友達だな。
ただあいつ事態は積極的なタイプじゃなくて、
俺がダチとダベってる時に視線を感じてそっちを見たら、
あいつが俺のこと見てたみたいで、
顔真っ赤にして下向いてた。そんな奴だ」
「なに言ってるのかはよくわかんないです。でも、
アオイさんがとっても恥ずかしがりやさん
ってゆうのはわかりましたです」
「話す時はだいたい本越しだったしな。
あいつがどうにも顔見られたくないらしくってさ。
なにが恥ずかしいんだか」
本って言ってもラノベだけどな。
「で、ニャんたはそんな恥ずかしがりの女の子から、
名指しで召喚要求されてここにいるのよね?」
「あぐにゃんの話によりゃ、そういうことだな。
なんで俺なんだろな?」
あの性格だ、助けてやらにゃとは思うけど、
そこはどうにもわからない。
「さあね。なんでかしら」
「なんでお前に呆れかえられなきゃいけねえんだ?」
「ニャんたにゃ絶対わかんないでしょうね」
「ま、まあまあカグヤさん。おちついてくださいです」
そんなこんな雑談しながら、俺達は第一目標、
宿場町のスティアスを目指した。




