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第五話。アノ日と矜持と二個目のぼたもち。 その4

「それで、ニャ」

 一つ頷いてなにかを話し出そうとしてる。

 サラちゃんは、数回目をまばたかせてから腕から力を抜いた。

 俺と同じく、急展開に頭が追い付いてないと見える。

 

「それで、って。いったいなにを言い出す気なんだ?」

「イオハの方から目的地に直接乗り込める機会をくれたんだし、

リーダー。ここは乗っかるべきじゃニャいかと思うニャ」

 俺の呟きは聞こえてなかったらしい。

 

「仕事の話だったーっ」

 話に脈絡なさすぎだろ、やっぱりこいつ酔っぱらってるわ。

 

 で、そんなニャーニャーした提案に僅かの間を置いて、

 そうですねとサン・イラーヌリーダーこと、我らがマスコット

 サラ・ブレットちゃんは頷いた。

 

「よし、決まりだな。って、どうしたみんな。

変な顔してこっち見て?」

 

「いえいえ」

「ニャんでも」

「ない」

「です」

 

「台詞割るなよ……」

 かくして、方針の決まった俺達は、

 昨日のうちに冷蔵庫から取り出しておいた朝食をいただきながら、

 ゆっくりと馬車に揺られることになった

 

 今回は、今回こそはやられんぞ!

 

 ってことで、眠気覚ましだと、全員の口ん中に

 例のアレをぶっこんでやったのだった。

 

 クックック。

 一様に苦虫を噛み潰したような顔になったのは傑作だったぜ。

 少しは俺の苦しみを思い知ったか!

 

 ……アイシアの表情がはっきりかわったのは、

 俺どころか車内が騒然となったけどな。

 

 

***

 

 

「ザワザワして来たな」

 あれから暫く。

 雨は止んだもののまだ曇り空、そんな様子の路を行くイオハ商隊だ。

 

 風の音に比べると少しノイズが混じったような音が、

 風に乗って流れて来るようになって来ている。

 たぶんこれ、人が動いたり話したりの音なんじゃないかなって思うんだ。

 我ながらよく聞き分けられるな。

 

「そろそろ付くんじゃないでしょうか?」

 俺の右前にいるエレナが、俺の独り言に

 チャラリと鎖を小さく鳴らして、足の間で手を組んで答えた。

「で、相変わらずカグヤさんは落ち着かない、と」

 

 相変わらずカグヤさんは落ち着かない。

 なんだかラノベのタイトルみたいだな、なんてどーでもいいことが、

 今脳裏を光の速さで過って行った。

 

 俺の真左、アイシアの少し左から小さくカタカタカタカタと、

 小刻みに音がしている。

 この止まない貧乏ゆすり、俺に伝染して来て二重奏になったんだけど、

 左からアイシアが 右からエレナが俺の足を押さえつけていたおかげで

 今はカグヤのソロゆすりである。よく平気だなこいつら。

 

「しょーがニャいのよ。こうしてニャいと、

ほんとにおちつかニャいんだから」

 朝に比べれば大分テンションの落ち着いたカグヤ。

 でも、なんだか言葉に含まれる、ニャの量が増えてるような?

 

「ん、速度が緩んだな。どうしたんだ?」

「門番さんから、町に入る許可を取ってるんだと思うです」

「なるほど。だからか」

 

 納得の頷き。五号車はかなりゆっくりにはなったけど、

 最終的に止まることなく速度をゆるりと上げ始めた。

 どうやら手続きが終わったらしい。

 

「騒がしい」

 分厚くでかい門をくぐって、それを閉じる音が背中でしてから少しして、

 アイシアが疲れたような声色で言った。

「そうか?」

「人、いっぱいいる。苦手」

 

「ああ。なるほど。人込み駄目そうだもんな」

 外をちらりと眺めてみたら、露出の高い服を着た女性が

 高級そうな服を着た男性に、

 

 色っぽいって言うか艶っぽいって言えばいいのか、

 そんな表情で話しかけてるのが見えた。

 

 勿論露出の高い人は、それ相応の見た目をなさっておられます。

「っ、いってぇなぁ。なにすんだよアイシア?」

 スパンとゆすりストッパーの右手で、

 太腿を叩かれた。

 

「顔、赤い、だらしない」

「え? そんな顔してたか俺?」

「してた」

「そうだったのか」

 どうやら、外の人に意識を持って行かれてたらしい。

 

「よだれ出そうだったニャ~」

 アイシアの更に横から、顔見なくてもわかるほど

 露骨なからかいボイスの追撃がっ。

 

 

「っあぁもぉこの口調っ!」

 そうかと思えばビュンっと風を切る音と同時のいらいら声。

 本人的に、このニャ口調はいただけないらしい。

 

「わたしはかわいいと思うですよ」

「わたしもです」

「わたしも」

「お前もかい」

 

「で、ニャんたはどうなの?」

「なんでじとめなんだよ?」

「答えニャさいよ」

 こっち向いたままで顔をズイっと寄せて来た。

 

 って言ってもアイシアの前に顔突き出してる状態だから、

 とっても俺のとこには届かないけどな。

 

「ああはいはい。違和感すごい」

「そう」

 あれ、なんだか……残念がってる?

 って言うかまだ言い終えてないんだけど。

 

「でもな」

「え?」

「違和感はすごい。すごいんだけど」

「うん」

 なんだ? なんだその期待するような目は?

 

「その半酔っ払い状態。嫌いじゃないぞ」

「……そう」

 じわーっと口角が緩んで行くカグヤ。

 

 ーーあれ? なんか、目の色。ちょっと違うか?

 うっすら赤が入ってるみたいな……?

 

「その表情の動きは、怖い」

 怖いのkを強調して、怖いって気持ちを前面に押し出してみました。

「いいのかいやニャのか、どっちニャのよっ!」

 

 シュバっと空気が動いたと思ったら、

「うおわっ!」

 勢いよく俺は右に倒れていた。

 そのせいで右肩ちょっと痛い。

 

「いっつぅ」

 左の脇腹を左手で抑えて顔を顰める。

「右拳。カグヤ。まだ、自制、効いてる」

「か……解説どうも」

 体勢を戻しながら言う。

 

「まだ、お昼にもなってニヤいんだから平気よ」

 今、ニャがゆっくりだったな。ひょっとして……ニャって言うのに抵抗したのか?

「みなさ~ん! ヨロズヤギルドに到着しましたー!」

 お久しぶりの小太りさんの声だ。

 

「点呼を取りますので、戦闘車に集まってくださーい!」

「あれ、馬車 止まってたのか。気付かなかったわ」

「そうね」

「あの人。実は、声、大きい?」

 

「そういやそうだな」

 意外な思わぬ発言で、言葉に笑いが混じった。

「それじゃ、エレナさん。失礼しますです」

 ペコリと頭を下げた我らのリーダーちゃん。

 

 

「いいんですよ、そんな挨拶なんてしてくれなくっても。

わたし、商品ですから」

 そういうけど、その表情も声色も寂しさを帯びている。

 

「これ以上『人』として接されたら、わたし。

覚悟が……乞われそうで。だから。早く。行って。ください」

 顔を伏せて、なにかを堪えた声で言う。

 

「いこう」

 いたたまれなくなって、慌てて馬車を降りようとした俺は、

「いってぇっ!」

 ガツンっと、ドアに思いっきり顔面ぶつけちまったのだった。

 女子から笑いが起こる。必然である。

 

「……かっこわりぃっ」

 そりゃ上ずり声のボリューム控えめになるわ。顔も真っ赤になるわ。

 恥ずかしゲージ上昇中の俺をスルーし、

 サン・イラーヌは馬車から次々と降りて行く。

 

 一瞬だけエレナの方を振り返って、でもなにも言わず

 俺も馬車から降りた。

 なんだかドアをガチャっと閉めてしまったら、

 この先エレナの身にいいことが起きないんじゃないか、

 そんな気がして。

 

 だから半ドアにして万屋少女たちを追いかける。

 その道中、他の馬車のドアも密かに半ドアにしておいた。

 

 

 

「さて。答えを聞こうか」

 点呼を終えて万屋ギルドに入ったイオハが戻って来た。

 それぞれに報酬を配り終え、俺達以外の万屋たちを散らした後が今だ。

 

 本来、報酬はあらかじめギルドに預けて置くって話だったけど、

 今回は護衛の数が定まらないからイオハが

 報酬分の金を別に保管してあったってことで、

 それぞれに規定の額を渡す方式だった。

 

 

「勿論、続けて護衛させていただきますです」

 やはりな、そうイオハは頷く。

「あの顔。やっぱり、わかってたんだな」

「当然だ。これほどうまい話し、飛びつかない理由もないだろう」

 そうだな、俺は微笑で答えた。

 

「乗ってくれ。一路馬車をうちの商会に置く」

 腕で一号車を示して言う。

「馬車で会場に行くわけじゃないのか?」

 

「今からでは早すぎるからな。それに彼女たちに

自由時間を与える必要もある」

「そうなのか?」

 

「ああ。会場に入るまで自由を与えないのは三流のすることだ。

それでは本当に、彼女たちを『物』として扱ってしまっている。

彼女たちは商品ではあるが、物ではない」

 

「もしかして、エレナを連れて来る時に

一日猶予をあげたのって?」

 驚いた調子のカグヤからの質問に、イオハは一つ頷いた。

 やっぱりさらっとしている。

 

「交渉のうちであり、彼女の意志を尊重するためだ。

いやだと言ったのなら、わたしはおとなしく手を引いた。

その時にはな」

 怪訝そうに小さく「ん?」と音を出したイオハ。

 もしかして、カグヤの瞳の色がかわってるのに気が付いたのか?

 

「諦めるってわけじゃニャいのね」

 こっそりとカグヤの瞳を見てみたら、

 さっきよりも少し赤が濃くなってるように見えた。

「彼女はいい値がつく容姿をしているからな」

「そこはしっかり商売人ってわけか」

 

「そういうことだ。少しでもこちらに入る金額は、多い方がいいからな」

「奴隷商ってしつこいのね。目を付けられなくてよかったわ。ところでさ」

「なんだ、猫憑きの娘」

 カグヤ、一つ頷くと、少し息を深く吸ってから切り出した。

 いったいなんだ? 物おじしないカグヤが、これだけ溜める内容って?

 

「セリって、いったいいつからニャの?」

 なんだ、そんなことかよ。

「今日の夜からだ」

「マジかよ」

 

 

 その答えに、俺達は全員で顔を見合わせた。

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