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制限時間 - タイムリミット -  作者: 八神
Scene 1 【あなたとは、違うんです】
2/8

S1-2

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *



本当に変な人・・・。



今まで、ベランダでボーっとしている私に話しかけてきた人なんか居なかった。



なのにあの人、淳さんって言ったっけ?


わざわざ話しかけてくるなんて。


私になんか、構わなくてもいいのに。


どうせ私は・・・。 でも・・・。 



“君が寂しそうに見えたから”


あの人の言葉が、何故か頭の中から離れなかった。

寂しい? のかな、私。


それはきっと、自分でも気づいていなかった気持ち。



よく分からないけど、また淳さんに会いたいと思った。


なんでだろう、本当によく分からない。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *






- 2 -




【12月10日】



あれから数日、俺の風邪はすっかり良くなり職場にも見事復帰する事となる・・・

はずだったのだが、治ったのが昨日の金曜日で今日は土曜日。

昨日1日仕事に行ってすぐ土日に入ったので休みになってしまった。


今日は特別予定も入っていない。

そして、越してきたばかりで友人も居ない。

知り合いといえば、職場の人かお世話になっている叔母さん。


あとは・・・。


「鈴蘭ちゃん…か」


実は、あの日からあの娘のことが気になっていた。


ずっと入院してるのかと問うと、コクリと寂しげに頷き

俺が風邪をひいたと知ると、何故か表情を曇らせた少女。

あんな顔されたら、気になるじゃないか。



「会いに行って・・・みようかな」 ポツリ、そう呟く。


いや、でも一回話しただけの俺が面会とかおかしいか?

今度こそ、怪しまれたり警戒されたりしないだろうか?


「・・・考えてても仕方ない、行ってみよう」

行って拒まれれば、それで諦めがつく。

諦め? 一体何のだ?





・・・・・・。

・・・。




俺の家から病院はさほど遠くは無い。

ただ、寒さの所為で徒歩15分の距離が30分くらいに感じてしまう。

日中でも気温は一桁、吐く息は白い。


病院に着いた俺は、この前彼女が居た3階の部屋のベランダに目をやる。

「・・・居たし」

少女はこの前と同じ様子で、ただボーっと遠くを見つめているようだった。


「そんな所に居たら風邪ひくよ、鈴蘭ちゃん」

この前と同じような台詞で、彼女に話しかけた。

「・・・あ」 少し間を置いて気がついた様子の鈴蘭。

「まだ風邪治ってなかったんですか?」

「あ、いやいや。 風邪はもう治ったんだけどね」

「だったら、今日はどのような用件で?」

「んとね、キミに会いに来たんだよ」

「へ? 私ですか?」

自分を指差して、目をパチクリさせている。


「そうだよ、キミ」

「え、でも。 なんで?」

「えっと、なんとなく気になっちゃって」

「なんとなく・・・ですか?」

「あ、うん・・・。 気になっちゃって」

「・・・・・・」 鈴蘭は少し黙り込んだ後、遠慮がちにベランダのドアを開いて

「そこは寒いでしょ? 良かったら、部屋に入ってください。

 302号室ですから。」

そう言うと、部屋の中へと姿を消してしまった。



「入って、いいのか?」 予想外の展開に少し固まる俺。

とりあえず、本人が良いっていうなら良いんだよな・・・?



さて、面会の申請をしようと受付に行くと。



「あら、この前のお兄さんじゃない?」

「あ、どうも。 ご無沙汰してます」

風邪で病院に来ていた時、受付に居た美人な受付の女性が居た。

「まだ風邪治っていないんですか?」

「いや、もうそれは良いんですけど」

「それじゃ、今日は面会とかですか?」

「ええ、そうです」 勘が鋭いな、この人。


「面会ですね? どなたにですか?」

「ええっと、302号室の小鳥遊 鈴蘭っていう人なんですけど」

「・・・え?」 その名前を聞いた女性は動きを止めた。

「えっと、どうかしました?」

「いや、なんでもないんです。 小鳥遊さんですね?

 ちなみに、あなたとはどのようなご関係で?」

「関係…ですか、知り合いというか。 なんというか。

 外で何回か話しただけなんですけど、さっき会ったら部屋に来てもいいと言うもので」


やっぱり、こんな理由じゃ不自然か?

特に用も無い、そして深い間柄というわけでもない。

そんな男が一介の少女に面会とかやっぱり変だろうか。


「あの娘が・・・そう・・・」 なにやらブツブツと女性は呟いていたが

何かを自己完結したように頷くと

「分かりました。 病室はエレベーターで上がって右の通路の右から二番目です。」

そう言って、一枚のICカードを俺に差し出した。


「これは?」

「この病院は、セキュリティーの関係上このカードがないとエレベーターに乗れない仕組み

 になっているんです。 だから、それは入室許可書も兼ねているんで

 失くさないようにお願いしますね。 帰るときは受付に戻してください。」

「分かりました、ありがとうございます。」

軽く会釈をして、俺はその場を後にした。


「・・・」 俺の去っていく姿を見つめる女性の視線には全く気づかずに。




・・・・・・ポーン。

カードを専用のパネルにタッチすると、エレベーターはすぐに降りてきた。

いつの間にか、俺の知らない間にこんなハイテクなものが出来ていようとは。

そんな事を思いつつ、エレベーターに乗り込み3階のボタンを押す。


・・・2・・・3。 ポーン。


3階なので、すぐに着いた。

確か部屋は、右の通路の右から2番目だったよな。

301・・・結城ゆうき りん。 302・・・あった。

確かに302号室のネームプレートには“小鳥遊 鈴蘭”と書かれていた。



コンコン。 病室の白い扉を軽くノックをする。

「・・・はい」 間違いない、鈴蘭の声だ。

「俺だよ、淳」

「あ、はい。 鍵あいてるんで中に入ってください。」

ドア越しに、こもった声が聞こえた。

「じゃぁ、入るよ」

ドアを横にスライドさせる。 少しの力でスっと開いた。

これはか弱い女の子でも、らくらく開くことが出来そうだ。 そのくらい軽かった。



部屋に入ると、前と同じピンク色の入院服を着た鈴蘭がベッドに腰掛け

窓の外をじっと見つめていた。



「あの・・・えっと、改めてこんにちは」

こうやって少女と近くで話すのは初めてだったから正直何を話していいか分からない。

だから、とりあえず挨拶をしてみた。

「うん、こんにちは。」

少女は応えたが、視線を窓の外から外さなかった。

あれ、もしかして、警戒されてる?


「鈴蘭ちゃん・・・だったっけ?」

すずでいいよ。」

「そっか、分かった」

「その代わり、私も淳って呼ぶけど。 いいよね?」

「いいけど…俺一応年上」

「てか、いくつなの? 淳は」

「一応、これでも22」

「嘘?!」 少女はいきなり驚愕の視線を俺に向けてきた。


「私と同じか、少し上くらいかと思ってた!」

「ちなみに、鈴ちゃんはいくつなの?」

「・・・・・・女の子に歳を訊くのはどうなんです??」

ジト目気味に、鈴は言った。

「いや、それはそうなんだけどね」

「・・・いいです、淳には特別に教えてあげます。 私は17歳です」

「17歳か、なら高校三年生くらいかな?」

「え・・・まぁ、そう・・・ですね」 途端、彼女の表情が曇っていくのが分かった。



「ごめん、なんか俺マズイこと言った?」

「そうじゃないんです、ただ。 私も普通の生活が出来てたら…そうだったかなぁって…」

えへへ、そう言って鈴は苦笑いした。

「・・・ごめん」 その切なげな表情に、心が少し痛んだ。

「謝らないでいいよ、こうなったのは淳の所為じゃないんだから」

「うん、でも・・・ごめん」

「・・・ぷっ、あははは」 申し訳なさそうに謝る俺に、彼女は吹き出して笑った。


「やっぱり、淳って変な人。 すぐ謝るし、私こんな人始めて見たよ」

「そ、そんなに変なのか?」

「うん、でも」 彼女は微笑んで。

「変だけど、私は嫌いじゃないよ」



ドキッ・・・。 まただ、この前感じた胸の高鳴り。

なんなんだ、この娘の微笑みを見ていると鼓動が早くなる。

一体、どうしたというのだ・・・。



「どうしたの? 淳、顔赤いよ?」

ふと気がつくと、鈴が俺の眼前にいた。 少し距離を縮めたらキスできてしまいそうな。

そんな近距離。

「な、なんでもない・・・」 俺は静かに鈴から顔を離すと部屋を見渡した。


病室だけあって、部屋はシンプルで。 これと言って遊ぶものもない。

ベッド横にあるカラーボックスに少しの雑誌と少女漫画。

あと歯ブラシなどの日用品があるだけだった。


「それにしても、鈴みたいな若い女の子が暮らすには何も無い部屋だね」

「そうかな? 私はずっと、こんな部屋で生活してきたから。

 漫画だってあるし、私最近はボーっとしてることが多いから」

そういえば、ベランダに居たときも、さっき俺が部屋に来たときも

どこか遠くを見つめてボーっとしていたような気がする。


「・・・何か考え事でもあるのか?」

ギシッ、俺は鈴の少し間を置いた所に腰掛けた。


「考え事? ううん、その逆」

「逆って? 何も考えてないとか?」

「そう、何も考えてないの。 正確には考えたくないの」

「なんで?」

「考えても、仕方ないこと。 あるでしょ? この世の中」

「そりゃ、あるけど・・・何も考えないってのは違うんじゃない?」

「・・・そう?」

「そうだよ、だって何も考えなかったら何も生まれないじゃないか。

 行動も出来ないし、本当にただそこに居るだけ。

 全てを放棄してるようなものだもの」


「全てを・・・そうかもしれないです」

鈴は俯き、蚊の鳴くような声で言った。



「私は、全てを放棄することにしたんです」と。






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