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制限時間 - タイムリミット -  作者: 八神
Scene 1 【あなたとは、違うんです】
1/8

S1-1

いつからだったかな。


…そう、確か高校に入りたての頃からだった。

私は、高校デビューもそこそこに。


ろくに友達も作ることもなく、彼氏も作れずに。

私の家は病院ここになった。



それからの数年間。

私、小鳥遊たかなし 鈴蘭すずらんはずっと入院している。





- 1 -





「へっくしょん!」

やっぱり雪国の冬は格別に寒い。

12月。 俺は仕事の関係で都会の本社から、この“やたら”と寒い雪国に異動となり

住むところも、こちらに親戚の叔母さんが居たこともあり

今はそこの家の部屋を借りて生活をしている。


―--引っ越しも終わり、生活も落ち着いてきた頃。

慣れない雪国の環境にてられたのか、俺は風邪をひいてしまった。

22にもなって、未だ自分の体調管理が出来ない。

と、叔母さんは呆れていた。


とはいえ、ひいてしまったのは仕方ないので俺はとりあえず

医者に診てもらおうと、近くにある大きな総合病院に来ていた。

大津雫おおつだ総合病院” それがこの病院の名で

大津雫というのは、この地名のことである。



・・・・・・。


野村のむら あつしさん、2番の受付にどうぞ」

「あ、はい」

そう、俺の名前を呼んだのは茶髪で綺麗な女性だった。

「今日は、どうなされました?」

「ええっと、ですね・・・風邪をひいてしまって」

「風邪ですか、最近寒いですものね」

そう言うと、受付の女性はニッコリと笑った。


ドキッ。 なんか可愛いじゃないか。

多分歳は俺と同じくらいだと思うんだけど。

「どうしたんですか? 風邪、酷いんですか?」

そんな不純な事を考えていた俺の顔を心配そうに覗き込んでくる。

「え、えっと・・・なんでですか?」

「だって、なんだか顔が赤いです」


それは・・・あなたが可愛かったからですよ。

なんてことは、口が裂けても言えない。



・・・・・・。

・・・。



「お大事に。」

俺を診察してくれた、少し歳のいった風の男性に軽く会釈をして診察室を出た。

やはり、俺は風邪をひいていたようだった。

でも、軽度なので薬を飲んで2~3日安静にしていれば

すぐに治るとのことだった。

大したことなくて良かった と胸を撫で下ろしつつ受付に戻る。


受付に戻ったが、先程の女性は居ないようだった。

ちょっと残念だったような気がしなくもないが、まぁ仕方ないか。


受付の人に聞いたら、どうやら薬の処方は隣の薬局で受けられるらしかった。

外は寒いのであまり出たくなかったが、仕方なく外に出る。


・・・・・・。


薬局で薬を受け取った俺は、用事も終わったので帰ろうと三度外に出た。

それにしても大きな病院だよな と何気なく病院の外観を眺めていると。

―ふと、3階のベランダに一人の女の子の姿を見つけた。


パジャマみたいなピンク色の入院服、どこか虚ろげな瞳。

長くて、漆黒のように黒い髪の毛を風になびかせながら

どこか、遠くをボーっと見つめているようだった。

「なんだろ、あの娘。」

顔立ちは若い感じだ、多分高校生くらいじゃないだろうか。

そして、この病院に入院しているのだろう。

それは、3階は確か病室棟のはずだし、服装を見れば明らかだった。


「・・・・・・」 彼女は何かを呟くように、口をゆっくりとパクパクさせていた。

でも、すぐにやめて口をつぐむ。

頭をふるふると横に振って、またどこか寂しげな瞳を空に向ける。


「・・・?」

分からない、分からないけど気になった。 だから俺は。


「ねぇ、キミ。 そんな所居たら風邪ひくよ~っ」

出来るだけ病院に近づいて彼女に話しかけていた。

「っ!!」 彼女は最初ビックリしたように目をパチクリさせていた。

でも、ハっと我に返ったように「誰ですか?」と警戒を瞳に宿らせて見つめてきた。

「ああ、驚かせてごめんね。 俺は今日ここに通ったものなんだけど。

 君はずっとここにいるのかい?」

「・・・・・・」 彼女は無言で頷いた。

「どこくらい居るの?」

「・・・数えてない」 虚ろげな瞳を向けると、そう言った。


「そ、そっか・・・」 なんか、表情が上手く読み取れないな。

まだ警戒されてるのか? いや、当たり前か。

見知らぬ男が話しかけてきてるんだから。


「逆に訊いてもいいですか?」 予想外に、それは彼女からの言葉だった。


「え、ああ、うん」

「貴方は、何故私に話しかけてくれたんですか?」

「何故って…自分でもよく分からないけど…

 多分君が寂しそうに見えたから。」

「寂しそう…ですか?」

「うん、ああでも馬鹿にしてる訳じゃないよ? ただなんか、放っておけなかったんだ」

「・・・ふふ」 ふいに彼女が微笑んだ。


ドキッ・・・。 先程受付の女性から感じたのとは違う胸の高鳴りを、確かに俺は今感じていた。

下心とかはなく。 本当に、その表情が可愛いと思ったのだ。

「貴方って、変な人ですね」 クスクスと彼女は笑っていた。

「変…かな?」

「変です、すっごく」 クスクス、こんな表情で言われたら

“変”って言われるのも、なんだか悪くない感じがするな。


「もう一ついいですか?」 一頻ひとしきり笑った彼女が問う。

「何故、今日は病院に?」

「ああ、風邪をひいちゃって。 この前まで都会の暖かい所に居たから。

 慣れない環境で体調崩しちゃったんだよね」

苦笑い気味に、俺はそう答えた。

「・・・風邪」

ふと、彼女の表情が曇った気がした。


「あれ、なんか変なこと言っちゃったかな?」

「・・・いいえ、なんでもないんです。」と彼女は苦笑いした。


ビュゥー・・・と一陣の冷たい北風が吹いた。


「…風が出てきましたね、寒いので私はそろそろ中に入ります。」

「あ、うん。 分かった、お大事にね」

「…はい」 また曇った。

いや、彼女は笑っているけど。 心の底から笑っていないような感じがした。

先程の笑顔とは、なんか違う気がした。



「では…」 彼女が背を向けたとき、俺は呼び止めていた。

「あの!」

「なんですか?」 彼女は振り向いて微笑んだ。

「名前・・・訊いてもいいかな?」

「名前…ですか?」

「うん、ダメ…かな?」

「・・・・・・」 沈黙されてしまった。

「いや、ダメならいいんだ」 と言いかけた時。


「小鳥遊…鈴蘭です。」

「鈴蘭ちゃんか・・・あ、俺は淳。 野村 淳。」

「淳さん・・・ですね。 覚えておきます。」

彼女、鈴蘭は再び微笑むと部屋の中へと戻っていった。


「小鳥遊 鈴蘭」その名前をそっと口にする。

「不思議な娘だったな。」


そう思いながら、俺も寒くなってきたので病院を後にした。

「は・・・は・・・はっくしゅん!!」

派手にくしゃみをしながら。

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