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94話:話し合い4

 サリアンによって、ウォーラスの教会へと魔王は隔離された。

 その際に逃げ遅れた鳩が一羽、梁の上で小さくなっている。

 気づいたアンドリエイラは微かに口の端を上げると、逃げ遅れた覗き魔を鼻で笑った。

 その視線でわかった魔王も、牙を見せつけるように口元を三日月に歪める。


 少女二人は笑いながら鳩を追い回し始めた。

 そんなことに気を回してられない人間たちは、この事態を招いたサリアンに詰め寄る。


「おう、ここに連れてこないまま森に放置して森が消滅するのと、なだめすかして魔王にお帰り願うのどっちがいい?」


 サリアンも必死に考えた安全策だ。

 すでに暴れた後という話も聞かせて、魔王を連れ込んだことを謝りもしない。


 カーランも森への被害が生活に影響しすぎるとわかっているが、渋面だ。


「だが、敵対関係なんだろう? ここで暴れれば結局は危険に変わりはない」

「いや、まだ微妙なラインってことにしてある」


 サリアンも抵抗した上で、命の危機の中引き出した情報だ。

 それを知ったからこそ、話をしようという方向にかじを切った。


「お嬢は魔王と勇者の戦いに関係するつもりはないし、巻き込まれたら撃退する。その上で、四天王に関しては自己防衛だってことを伝えた。さらに、神とはいっそ敵対関係だ。ただこの教会の神とは協力もしてると伝えた」


 アンドリエイラの対応は、柔軟と言える。

 その上で直接敵対しなければ放置で構わないと。

 協力が必要になれば、相応の報酬も用意する前例は神核の譲渡で作っている。


「それを証明するために連れて来た」


 事の成り行きを語るサリアンに、ホリーが半眼になって告げた。


「状況はわかりましたけど、危険は変わりないですから」


 妹分から不満をぶつけられるサリアンに、ウルは天井を見上げて呟く。


「うーん、魔王って思ったより子供らしい感じだよね」

「子供らしい? 教会の天井を駆けまわるのがか?」


 モートンもウルの視線の先を見て呟いた。

 鳩が逃げ回るのを、軽やかに笑いながら追い駆ける様子だけなら少女らしくもある。

 しかし空中でやっているのは、どう考えてもおかしい。

 よく見れば、鳩を嬲るように手を抜いて追い駆けていることもわかった。


 ただサリアンは、ウルの発言に生存に関する勘が働いてることに気づいて聞き返す。


「子供くらいに扱えそうだってことだな? 魔王相手にそう言えるなら、これはチャンスだ。あれで、魔王は弱体化してるそうだ。追い払うなら今しかない」


 サリアンの真剣な声に、冒険者たちは揃って空中を走る魔王を見る。

 その中でヴァンは素直に浮かんだ疑問を口にした。


「ねぇ、もしかして魔王の本当の姿、あれじゃないの?」

「あぁ、本来は大人の姿だったらしいが、弱ったまま魔王やってるそうだ」


 答えるサリアンに、ルイスが椅子の上に寝ころんだまま言う。


「弱った状態だから、勇者もあんな半端な感じから育てる余裕があるってことか」


 サリアンが見ると、目をつぶって寝たふりを続行。

 サリアンは無言でルイスの額を叩いて話を続けた。


「で、魔王は以前、神の介入でお嬢と敵対したらしい。その上で、今回お嬢を味方に引き入れるつもりはないそうだ」

「どうして? 弱ってるなら味方欲しくないの?」


 当たり前の質問をするヴァンに、サリアンは遠い目をして聞いたことを教える。


「…………以前引き入れた神は、すでにお嬢に殺されてるらしい」


 魔王がアンドリエイラを味方にしない理由に、全員が納得して頷く。

 盗人の神という存在と争ったのは今日のこと。

 それ以前に勇者を派遣した神が殺されていることも知っている。


 魔王の決定に、否定的な意見など出ない中、カーランは呆れた声を漏らした。


「なんというか、放っておいたほうが確実に良かっただろう、あのお嬢」


 濁したが、神の不手際に心底げんなりしている。

 実際アンドリエイラを組み込んだことで、おかしくなった争いだ。


 実際はその前にサリアンが連れ出したために、神の目論見が外れているのが最初だが。


「で、お嬢が勇者だ魔王だに興味がないことを、理解してもらう。そのために屋敷だとかオーブンだとか見せて、お帰り願う」


 疲れから雑にまとめるサリアンに、ホリーはもう一人忘れてはいけない存在を挙げる。


「ですが、勇者とは敵対しています。勇者がいるウォーラス自体への攻撃を回避することにはつながらないのでは?」

「いや、勇者は時と共に去るだろう。そもそも隣国の所属だ」


 モートンがそもそもの身分について指摘した。

 隣国の王女も同行しており、聖女も権威として隣国が手放すはずもない存在。

 勇者はいつまでも片田舎に滞在し続けるわけではない。


 ウルは欠伸を噛み殺して思い浮かんだことを言った。


「じゃあ、早く帰ってくれるにはどうするの? ダンジョン落ち着けば帰る?」


 勇者の滞在は、森を封鎖して荒らした上に、ダンジョンの内部に異変が起きていることから。

 今は率先して危険なダンジョンの状況を調べることをしている。

 贖罪としての行為であるため、ウォーラスで今の勇者の活動を邪魔する者はいない。


 ダンジョンの正体を知っているサリアンは、軽く手を振って見せた。


「そこはさっさと神託ださせれば解決だ」

「出せなくなりそうだから止めたほうがいいんだけどね」


 サリアンに応じて困り切った声を出すルイスは、片目だけ開いている。

 見上げているのは天井。

 そして天井すれすれを逃げる鳩の姿だった。


 最初は知らなかったが、何度もその気配を感じれば、ルイスも鳩の正体に気づく。

 改めて見たモートンも、アンドリエイラと魔王が執拗に追い回す鳩が、ただの鳩ではないことに気づいた。


「そう言えばあの鳩、神聖な気配がないか?」

「あ、だから邪悪な二人に追い駆けられてるんだ」


 そのままズバリ核心を突くウル。

 その瞬間、捕まる鳩。

 少女たちの白く細い手に掴まれた程度では問題なさそうに見える。

 しかし鳴き騒ぎ、羽根も足も必死に動かして抵抗する鳩は、逃げられない。

 それを抑え込んで何ごとかを話すアンドリエイラと魔王は、姿は美しいが意地の悪い表情と相まって邪悪さが漏れ出ていた。


「鳩相手に喋ってるってことは、普通の鳥じゃないな」


 神聖さなどわからないカーランだが、人外二人の行動から確信を得る。

 ホリーは他との違いなど分からない鳩に首を傾げた。


「もしかして、神の使いだったのでしょうか、あの鳩」

「それって、すごくまずくない? この教会に派遣されてたんじゃないの?」


 ヴァンは息を呑んだ。

 教会には孤児院が併設されており、そこで育ったからには教会は家も同然だ。

 そこにいる神の使いである鳩を害して、孤児院にいる弟妹に等しい者たちにどんな不都合があるかわからない。


 実際は除き魔なだけで、なんの影響もなく、そもそもウォーラスを守る気さえない。

 それを知ってしまっているサリアンは微妙な顔をしていた。


「まぁ、いつまでも遊ばせておいても話進まないか。おーい、お嬢。オーブン見せるか屋敷見せるか、どっちにするんだ?」


 サリアンの呼びかけで、わかりやすく興味が移ってアンドリエイラは手を放す。

 魔王の手も緩んだ隙に、鳩は逃げだしたが、もう追われない。


 アンドリエイラが床に戻ると魔王もその後を追った。


「ルイス、屋敷の改修はどれくらい? あら、そう言えば持ち帰ったオーブンは?」


 寝たふりをするルイスの額を指先で突きながら、アンドリエイラは質問を重ねる。

 無駄な寝たふりを続けるルイスに代わって、カーランとウルが答えた。


「オーブンなら、馬車から下ろして屋敷のほうに運んでおいたぞ」

「あたしたちも手伝って見たけど、屋敷のできは半分くらいかな」

「オーブンの据え付けは後日、台所を整える時に改めてとのことだ」


 手伝ったモートンは、アンドリエイラに聞かれるとわかっていて予定も確認している。

 ヴァンは屋敷の出来が半分と聞いて首を傾げた。


「じゃあ、今行っても屋敷は解体されてるんじゃない?」

「ふ、亡霊令嬢の半端な城か? 面白い見てやろう」


 ところが魔王は興味を示した。


(いや、森の館も似たようなもんだろ)


 サリアンは思ったが言わず、目まぐるしい日々のために幽霊屋敷がどうなったのかを見ていないことに思いをはせ。

 アンドリエイラは自慢する気満々なので気にせず応じる。


 やる気の人外と厄介ごとに辟易する人間たち、それらを見送るのは一羽の鳩だった。


定期更新

次回:話し合い5

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