表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/100

47話:四天王の誤算2

「くそ、あいつら!」


 サリアンはアンドリエイラのお守りを押しつけられ悪態をつく。

 さらには封鎖された森の中、闇に鳴る梢の不穏さにも顔を顰めた。


「なんでまた飛ばなきゃいけないんだ。しかも夜に。あんな経験一回きりでいいってのに」

「だって、ウォーラスからだと見つかるでしょ。それに人目を避けての移動なら夜が最適じゃない」


 夕方の影が濃くなるころにウォーラスを出て、森を迂回。

 人目がなくなると、アンドリエイラは容赦なく飛行を行い森の奥へ。

 またサリアンは強風に当てられながら、異常なスピードで月明りも届かない森を疾走させられたのだ。


 速度も相まって、誰に目にも止まらず即座に森の奥の中には着いたものの、サリアンは愚痴が止まらない。

 そんな男の頭上の梢に、笑いながら白い鴉が飛来した。


「クカカ、戻ってたか。いきなり森の上で燃やすもんだから、危うく焼けかけてたぞ」

「おい、何が焼けかけたんだ?」

「森」


 嫌な予感に確認するサリアンに、白鴉のラーズが笑って答えた。


 命を燃やす炎とは言え、高温になれば者は燃える。

 青い炎とは別に発火した、燃える拳大の虫の死骸が降り注いだのだ。

 森が惨事に見舞われるのは、想像に難くない。


「あぁ、そういえば燃えなかったのね」

「おい、縄張りだろうが。もっと気にしろ」

「気づいたら消火するわ。でも」


 アンドリエイラが腕を出すと、ラーズが細腕に舞い降りる。


「羽虫の音がすごかったから、俺が様子見に言ってたんだよ。落ちて来た火の粉は全部森の外に吹っ飛ばした」


 そう言って一つはばたくラーズは、大きさ自体は何処にでもいる鴉だ。


(それで、あの炎どうにかできるわけか)


 サリアンは慄く。

 しかし、神の末裔を名乗る白鴉が、おかしいのはわかっていた。

 だからサリアンは言わない。

 森が燃えていない以上、気をつけるよう言っても得ない。


「ウォーラスに、勇者来てるのは知ってるか?」

「あぁ、うるさいのいたな」


 少しでも駅のあることを聞くサリアンに、ラーズは興味なさげに応じる。

 アンドリエイラも、散策するような軽い足取りで歩きながら説明をした。


「森を封鎖してるのよ。元はドラゴンを倒しに来たそうなのだけど。今は他にも危険な存在がいるとか言ってるらしいわ」

「どう考えてもお前狙ってるだろ、それ」


 ラーズにアンドリエイラは高慢な笑みを浮かべる。


「私があんなのに負けると思ってるの?」

「だが、一生懸命神に弄ばれてジタバタしてる人間がやって来て、本気で相手するか?」


 ラーズにそう言われたアンドリエイラは肩を竦めた。


「しないわね。馬鹿みたいだもの」


 本気だからこそ、サリアンは苦笑いが浮かぶ、


(勇者が聞いたらジタバタ文句言いそうだな)


 魔人が現れた時には、人々の前に出ていた。

 その様子から、サリアンは、ドラゴン退治も勇者は本気でやるつもりだったのだということはわかる。


(ただ退くこともしろよ。ねじの取れた戦闘狂でもないようだが)


 そうなれば動く理由は使命感、もしくは善意。

 だからこそ正論で同情も感謝もないモートンに怒りを覚え、ただひたすらにお門違いな要求をしていたのだ。


(お嬢もわかってて、勇者の相手はしないのか。…………ってことは、俺は?)


 面白半分にゴキブリ駆除に巻き込まれたサリアン。


「…………俺にも同情を寄こせ」

「えー、反省するほど殊勝じゃないでしょ」

「えー、欲得ずくの図太さしかないくせに」


 アンドリエイラと、真似するラーズは、どちらもサリアンに同情の余地はないと見做していた。


 そんな話をしつつ、森の狩猟館へ。

 まだ館には穴がある。

 ただ梁のかけ替えが済んでおり、以前より確実に修復されていた。


「これ、誰がやってるんだ? お嬢の配下の霊か?」


 サリアンは村の幽霊屋敷を思い浮かべて聞く。


「私じゃなくてゲイルの配下ね」

「あの猫、配下がいるのか」


 サリアンは正体が死神であるゲイルの所業と知りげんなりした。


(集団で活動する死神なんて嫌すぎる)


 そう思っていたら当の黒猫が姿を現す。


「戻ったか。その人間はどうした? そいつとは別にお前を探す人間が外に来ていたぞ」

「それ勇者よ。どうも神が私を巻き込みに動いたみたい。魔人も村に出たんだから」


 アンドリエイラは勇者が森を封鎖したことから話し、意気の低いサリアンは放置だ。


「あのドラゴン、やっぱり神の差し金か」

「クカカ、神鹿の奴、目つけられてんのか」


 ゲイルとラーズはさして驚きはなかった。


「本当に神の仕業かよ。それで勇者強くするって? 巻き込まれるこっちの身にもなれ」

「人間の不利益は考えないわよ、神なんて。あなただって、蟻が必死に何かしてても必要なら踏んで通るでしょ?」


 そこにいること、目的を持って動いていること、協力するだけの意識があること。

 それらを知っていても、優先されるのは自らの目的だ。

 神からすれば、人間は虫と変わらない。


(いちおう、こっちに合わせてるお嬢はましだってことか?)


 結局巻き込まれるほうが割を食う状況に、サリアンは溜め息をついた。


 これ見よがしの抗議も無視して、ラーズが話を進める。


「神鹿は自分でどうとでも。だが、人間が来ないのが長期化するのはまずいな。畑が荒れる」

「は?」


 黒猫の口から出た言葉に、サリアンは聞き返す。

 しかも森の中の話だ。

 困惑するのはサリアンだけで、話は進む。


「それは困るわ。町へ行って鉄のオーブンを買ったのよ。野菜嫌いの子にオーブン焼きを食べさせるつもりだったのに」

「新しい調理器具か? オーブンってことはまたタルトのリベンジでもするつもりなら、やっぱり畑は必要だろ」


 ラーズの指摘に、さすがにサリアンが聞いた。


「森の中に畑ってのもおかしいが、それよりも、冒険者が来ないと荒れるっていうのはなんだ?」

「あぁ、あなたたち別の呼び方していたものね」


 アンドリエイラが思い出した様子で答える。


「ダンジョンよ。あなたたちがダンジョンと呼んで出入りしてるあそこ、私の作った畑なの」


 サリアンは言われた内容がすぐには理解できず硬直した。

 ただ、それでも呑み込めてしまったことで口を動かす。


「あ、あそこが無闇に食える魔物や植物ばっかりなの、お嬢のせいか!?」

「あら、わかってる割には村の食事は簡素よね。スパイスも充実させていたのに」

「んなの、売って金にするに決まってんだろ! 商人たちのほとんどはダンジョンから出るスパイスと上質の肉狙いだぞ!」

「まぁ、せっかく美味しいのだから自分たちで食べればいいのに」


 アンドリエイラはウォーラスの貧弱な食事丞に呆れるが、サリアンのほうが呆れた表情を浮かべて見せる。


「てか、ダンジョンを畑って何なんだよ。畑みたいに植えられるのか? ダンジョンに何か植えても吸収されるんじゃないのか?」

「あそこ、もっと小さい時に私が下して、望むように食料を呼ぶ餌を生ませるようにしたから」

「は?」

「ダンジョンが人間に益のあるものを産出するのは、そうして餌を用意すれば、人間という食料がやって来るからよ。そして魔物と戦って養分になる。あれ、魔物の腹の中なのよ」


 アンドリエイラは、人間がダンジョンと呼ぶものを魔物だと断定した。

 そして冒険者がこぞって向かう先は、魔物の腹の中だと。


 知らなかった事実にサリアンはもう声もなかったのだった。


定期更新

次回:魔王四天王の誤算3

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ