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愛した人を殺しますか?――はい/いいえ  作者: **** 訳者:夢伽 莉斗
第3巻 愛
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第51話 愛情表現と性欲と 前編

 わたしとラムズはようやく宿に着いた。そのまま階段を上って、部屋に入る。

 レオンにもおかしいと言われたし、ちゃんと部屋を変えようって言わなきゃ。ラムズが部屋に入って扉に鍵を閉めたところで、わたしは恐る恐る口を開いた。


「その……、レオンが言ってたんだけど、男女は一緒の部屋で寝ないんでしょう? だから部屋は別の方が……。それにベッドが一つしかないし」

「俺は人間じゃないし、あんたと何かしようなんて考えてないからいいんじゃないか? レオンも俺が人間じゃないことは知っているしな。それに、メアリがペラペラ『ラムズと一緒に泊まっているの』なんて話さなければ、何も問題はない」

「あ、そっか……。でも……」

「とりあえず座れ」


 ラムズに促されて、わたしはベッドの縁に腰掛ける。ラムズはわたしと向かい合わせになるように、近くの椅子に座った。


「分かると思うが、ここの宿はそれなりの値段がする。あんたの服を整えたのも、この宿に泊まったのも、俺が宝石を盗まれないようにするためだ」

「たしかにこっちの方が治安はいいものね」

「ああ。メアリのあの格好じゃここには入れなかったからな。それで、俺は本来寝る必要はないんだ。昨日はあんたがどうしてもと言うから寝たんだ」


 どうしてもってわけじゃなかったのに。寝る必要がないならそう言って欲しかったわ。なんだか馬鹿にされている感じ。


「それで?」

「高いから、俺は一つしか部屋を取りたくない。だから、悪いが部屋はこのまま一緒に使う」

「でも変だって言われたわ……」

「さっきは言わなかったが、それをメアリが気にするのはおかしい。なぜそう思うんだ? レオンのせいか? 人間は他人をも変化させると言われるしな」

「どういうこと?」


 ラムズは一息ついて、諭すように言った。


「よく考えてみろ、メアリ。メアリは人魚のままでありたいんだよな?」

「もちろんそうよ」

「それなら、人間のルールに従うのはおかしくないか? 人間の常識を人魚のメアリがそのまま従うのは違うだろ」


 わたしははっと息を飲んで、こくこくと首を振った。


「たしかに! わたしったら何を言ってたんだろう」

「だろ? つまりメアリはレオンの言葉は無視していい」

「本当だわ。分かった、無視するわね。だから部屋も一緒でいいし、一緒に寝ればいいわ」


 それを聞いて、ラムズは小さく頷いた。目線でベッドを指し示す。


「ああ。だが俺は寝なくていいから、あんたは一人でベッドを使っていい」

「えっと……ラムズは普段夜中どうしているの?」

「出かける時もあるが、まあ大抵は宝石を見ているかな」


 わたしはかなり白けた視線を送った。本当に宝石が好きね。見るだけで時間を潰すなんてわたしには信じられない。でも彼にとっては至福の時間なのかな。それを邪魔するのは確かに申し訳ないわ。


 それにしても、本当にわたしは馬鹿だったわ。そうよね。レオンの言う通りにしてたらダメだった。でもレオンは「人間の前で『ラムズと寝てる』と言うと『ラムズとセックスをしている』という意味になる」って言ってた。だから、寝てるってことさえ誰かに言わなきゃ大丈夫よね。レオンにもテキトウに誤魔化せばいいわ

(わたしは人魚でありたいもの。異論は認めないわ!)。


「ラムズありがとう。よかった、人魚のままでいられて」

「そうだな」


 ラムズはなんだか笑っている気がする。いや、(わら)ってる? どっちでもいいか。わたしの人魚らしさは失われずに済んだもの。


「そういえば綺麗にする魔法を教えてくれない?」

「浄化魔法か。水を出して、その時に体に付いている汚れや、服のシワなどが全部消えた状態をイメージしろ」

「分かったわ」


 わたしは、汗ばんでいる体や少し絡まった髪の毛が治るのを想像した。ラムズが言う。


「詠唱は、『浄化せよ。Purgaty( プルガティ )』」

「【浄化せよ、プルガティ】」

「違う。発音が違う。Purgaty( プルガティ )


 違いがあんまり分からない。もう一度言ってみる。


Purgtty( プルガティ )?」

「まだ違う。Purgaty( プルガティ )

Purgaty( プルガティ )

「そうそれだ。やってみろ」


 わたしはもう一度自分の体の汚れに意識を回した。全てが消えてなくなるところを想像すればいいのよね。あとは水を出して、それが洗ってくれるイメージ──。


「【浄化せよ ── Purgaty( プルガティ )】」


 魔法で現れた水が、体にバサッとかかる。一瞬視界が青色に揺れ、消える。体は濡れてない。


「できてるかな?」

「うーん、まだイメージが足りないかもな。もう少し練習しろ。俺がもう一回かけてやる」


 ラムズはそう言って、詠唱なしで魔法をかけた。さっきよりも綺麗になっている気がする! この状態を忘れないようにしないとね。



 部屋は昨夜と同じく、既に暗くなっていた。窓からの光も変わらない。月のぼんやりとした明かりが窓から入っていて、ベッドと机のあいだを照らしている。


 今日は疲れているから、もう寝ることにしよう。それで服を着替えようと思って、ふとさっきの話をまた思い出した。

 レオンは「人間には聞くな」って言っていたけど、それ以外の使族のことは言ってなかったわよね。それならラムズに聞いてもいいのかな? ヴァンピールはセックスをするのかしら。



 わたしはベッドに腰掛けたまま、ラムズの服の裾を掴んだ

(ラムズはさっき椅子から立ち上がっていたの)。

 ラムズがわたしの方を振り向く。ちょうど月の光が当たって、髪の毛がキラキラと光った。


「ねえラムズ。ラムズはさ、わたしがセックスをしたいって言ったらどうするの?」


 ラムズは一瞬目を見開いた。そのあと唇を歪ませて、瞳に影を宿す。わたしの腕を掴んだ。薄い冷笑を浮かべながら、こちらを見下ろす。


「なぜそんなことを聞く?」

「え、だって、ヴァンピールは人間じゃないし、また違うのかなぁって……。さっきレオンとそういう話をしたって言ったでしょ」

「人間はどうだと教わった?」

「えっとー、『誘われていると思われるぞ』とかなんとか……。『変な男に気をつけて』とか」

「俺が変な男だったらどうする?」

「どういうこと?」


 わたしは首を傾げた。ラムズは瞳を細めて、唇を傾ける。片方の手で帽子を取って、机の上に置く。銀の髪が揺れた。


 前髪を払い、わたしの方を向いた。何かを企んでいるような顔──?


「仕方ないな、教えてやるか。メアリ、人間だけでなく、ヴァンピールにもその話をしない方がいい」

「どうして?」

「襲われるからだ」

「襲われる?」

「しかも今あんたはベッドに座っている。俺からしたら、メアリが俺を誘ってきたようにしか思えない」

「な、何を……?」


 ラムズはわたしの腕を掴んだまま、徐々に近付いてきた。そして彼はわたしの背中に手を回して、身体を持ち上げそのままベッドに置く。わたしは膝を立てて座った。


「仕方ないから、俺はその『変な男』を演じてやる。そしてあんたが『何を』誘ったのかも教えてやろう」

「え、あ、うん……」


 ラムズはそう言ってベッドに腰掛けた。わたしの足元で座って話し始める。


「何を誘ったかというと、その『セックス』だな。あとこれは一応俗語みたいなものだ。『性行為』の方が正式な名前だな」

「性行為って呼んだ方がいいの?」

「まあ、そうだな。どっちでもいいが」

「分かったわ。えっとそれで、せい……性行為は愛情表現なんでしょ?」

「普通はな。人魚は好き同士じゃないとキスはしないんだろ?」


 わたしは大きく頷いた。こんなの当たり前のことだ。


「そりゃあそうよ。だって愛情表現なんだから」

「だが人間は違う。好きじゃなくても性行為をするんだ」

「ど、どういうこと……? 子供を作る方法なんでしょ?」

「ああ。でも、性行為には快感が伴う。男は特にそうだ。だからとりあえずやりたがるんだ。その『性行為をしたい』という欲を性欲という。厳密に言えばちと暴論だが、まあそこまで知らなくてもいいだろう」

「えっと……せいよくね?」


 ラムズは頷いた。視線を上に向けて、考える素振りをする。


「そうだな……、食欲ってものは分かるな。例えばお腹がすいている時に目の前にアプルがあれば、メアリは食べたいと思うだろ?」

「そうね」

「性欲はそんな感じだ。男は、目の前に女がいれば『アプルを食べたい』と思うように『その女と性行為がしたい』と思うんだ」


 目を瞬いて、ラムズの方に少し顔を寄せた。


「そうなの?! つまりえっと、とにかくしたいってこと? 食欲と同じなんでしょ?」

「そうだ。普段人間は、その性欲を抑えている。例えばメアリだって、店で売られているアプルを無断で食べたりはしないだろ」

「そうね、お金を払ってから買うわ」

「それと同じで、男もいきなり性行為をしようとか、襲ってやろうとは思わないし、そうしたい気持ちを抑えている」

「なるほど」


 ラムズの方が説明が分かりやすいわ。なんでだろう? ラムズもそれを学んだ側だからかしら。

 人間からすると、その性欲とか性行為が当たり前すぎて逆に説明しづらいのかもしれないわね……。


 ラムズはベッドに座ったまま話し続ける。


「だが、もしも女の方から誘ってきたらどうする? つまり、店の店主から『このアプルあげるよ』と言われたら食べるように、人間も女に誘われたらそのまま襲いたくなる」

「襲いたく?」

「性行為をしたくなるってことだ。まあ今してやるよ」


 ラムズはそう言って、わたしの方に迫った。肩を押されて、わたしはバタンとベッドに倒れる。ラムズがわたしの足を挟むようにして膝を着き、覆いかぶさってくる。

 視界が暗くなって、彼の顔が目の前に迫る。ラムズの怪しく光る青い瞳が、わたしの脳まで射抜いた。銀の前髪がわたしの額をくすぐる。


 待って、待って。どういうこと? ちょっと──。

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