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愛した人を殺しますか?――はい/いいえ  作者: **** 訳者:夢伽 莉斗
第2巻 転移者
38/145

第29.5話 人殺し

 夢のような出来事が終わって、わたしは現実に戻ってきた。

 サフィア探しのこと、最近は上手くいってなくて自分としても頑張れてない気がしてた……。だけど、“海”が言うんだもの。間違いないわ。


 わたしはこのまま、ただ自分の信じる道を行けばいい。


 シャーク海賊団には運命を感じた。だからなるべくシャーク海賊団とは離れたくない。わたしは船長ではないし、船長のラムズがフェアリーに会いに行くと言うなら、それに従おう。

 今はこれでわたしも文句ないし、その旅の途中でサフィア探しを頑張ればいい。


 なんだか二年分の心の(しこ)りが取れたような気がした。荷が軽くなったというか、少しだけ、未来に希望が持てた。

 “海”も言っていたし、きっとサフィアは見つかるわ。


 彼を殺すかどうかは──それは、まだ考えなくていい。いいえ、今考えるべきことじゃない。

 うだうだ殺すか殺さないか無駄に自問自答していても何も始まらないわ。本当に彼が見つかった時、もしくはこの問いのヒントを見つけた時に気に留めておけばいいじゃない。




 そうしてまた、わたしは久しぶりに明るい気分でサフィア探しを再開した。何軒かの店を周り(やっぱり収穫はないけど)、再び冒険者ギルドのある通りに戻ってくる。

 そろそろラムズたちのところへ行こうかしら。


「おいお嬢ちゃん。ちょっと道に迷っちまったんだが」


 うしろから、身体にまとわりつくような、粘っこい感じの声が聞こえた。


「え?」

「あっちって何があるんだ?」

「どっち?」


 わたしは男に指さされた方に少し歩いた。すると突然背中を叩かれて、狭い路地に身体を押し込まれた。


「ちょっと! なに?」

「お嬢ちゃん人魚なんだって? 足が付いてるのによぉ」


 ──ガーネット号に乗っていた人間がバラしたんだ。

 いつの間にかわたしに迫る男は四人になっている。そのうち二人は、わたしが少し前に海賊ギルドで声をかけたやつらだ。あの時小声で何か話していたの、()()()()()()だったんだ。

 

 わたしは無言で大量の水を出した。男たちは一瞬慌てて水に流されていくけど、そのうち一人がわたしの腕を掴む。


「やってくれんじゃねえか」


 わたしは彼の顔に向かって氷の氷柱(つらら)を放つ。顔面にそれは突き刺さり、とりあえずそいつは死んだようだ。

 でも残りの3人は体勢を持ち直して、わたしの方に向かってくる。一人の人間が叫んだ。


「【風よ、縛れ ── Vent(ヴェイト) Colligationコリガション 】!」


 ──まずい。

 人間の魔法で、身体が風に封じられる。周りを強い風が取り囲み、全く動けなくなった。耳元でビュンビュン風が鳴っている。

 わたしは無詠唱で呪縛魔法を解いていく。でも他の男がわたしに切りかかってきた。


 解けた!

 間一髪でカトラスとカトラスがぶつかり合う。


「おい! 人魚は雷魔法だ!」


「【電撃よ、流れよ ── Tolit(トリト )Flctus( フルクタス )】!」


 黄色い電撃が、泳ぐように空気を伝ってこちらに迫る。わたしは身を(ひるがえ)して、その魔法を避けようとした。でも僅かに間に合わず、右の足首から下に魔法がかかる。


「痛い!」


 わたしは足をくじいたみたいで、がくんと膝が折れた。左足でなんとか立ち上がって、カトラスで応戦していた男の胸を刺す。そいつも倒れた。


「やってくれるな! もう一回やれ!」 

「あぁ、【Tolit(トリト )Flctus( フルクタス )】!」


 今度は(もろ)に電撃魔法を受けた。受けたところから体が黄色く光って、全身に(しび)れが回る。わたしは立っていられなくなり、地面に倒れ込んだ。


「おい、よくも仲間を殺したな。もう一度だ!」

「【Tolit(トリト )Flctus( フルクタス )】!」


 睨むわたしに怖がったのか、片方がまた電撃魔法を使う。人間だから威力はかなり低いけど、電撃ってだけで人魚は痛い。



「なんで人魚様が人間の足なんて付けてるんだ? ええ? でもそれなら、犯すこともできるってこったなあ」

「人魚の強姦なんて初めてでっせ」


 (いや)しい笑みで、男たちはゆっくりとわたしに近づいてくる。わたしは震える足で立ち上がって、カトラスを構えた。


「まだ戦うのか? 元気な人魚だな。陸の上なのに!」

「ギャハハハ」


 片方の男がわたしに向かって剣を突き出した。それをカトラスで弾くと、わたしは闇属性の魔法で彼の腕を縛った。その男の横を抜けて、後ろにいた男にも同じ魔法をかける。足と腕に魔法がかかり、男は地面にすっ転んだ。

 

 でもいつ魔法を解かれるか分からない。わたしは脚を引きずりながら、表の道まで出た。でも、ここで助けを呼んでも何の意味もない。

 ──だってここにいるのは、みんなわたしの敵なんだから。

 


「人魚が! 人魚が逃げた!」


 転んだ男が叫んだ。案の定、それを聞いた街の人たちが、わたしを不審そうな目で見つめ始める。


「メアリ!」


 わたしの腕を誰かがぎゅっと掴んだ。振り返るとジウがいた。わたしが足を怪我していることに気付いて、さっとわたしの身体を背に(かつ)いだ。



「レオン、行くよ!」


 レオンも隣にいたらしく、彼もなんとか頷く。彼はこの異様な光景に右往左往していたようだった。

 


 少し走り始めたところで、さっきの男たちが魔法を解いて追いかけてきた。ジウはわたしをその場で下ろす。


「すぐ終わる」


 ジウは男の方に身体を向けると、勢い良く飛び上がって

(距離はもちろんかなり離れているわ)

片方の男を押し倒し、馬乗りになった。その男の顔を手刀で一発お見舞すると、彼の目玉や顔が潰れて、一瞬にして死んだ。

 もう一人の男は魔法を繰り出そうと手を掲げていたが、ジウは飛び上がってそれを足で蹴り飛ばす。そして首をぐるりと回して彼のことも殺した。



 ジウは駆けて戻ってくる。


「大丈夫だった?」

「ありがとう。あの、ごめんなさい」


 助けられたのは三回目だ。最初に無人島で宝石の魔物に襲われそうになった時、ラムズの魔法で倒れた時、そして今。

 迂闊(うかつ)だった。体調は戻っていても、わたしの正体を知った人間のことなんて忘れていたわ。

 ジウはなんだか、身内には優しい性格、って感じがする。まぁいざとなったら容赦はなさそうだけど。


「いいよ。あとでノアに治してもらおう」


 ジウはそう言って、わたしのことをまた担ごうとした。



「な、なあ……」


 隣で立っていたレオンが、震える声でわたしたちに声をかけた。彼のいつもの明るい表情は消えて、わたしやジウ──もしかしたらさっきの男にも、怯えているように見えた。


「……なんで殺したんだ?」


 ありえない問いに、わたしはレオンを二度見した。常識が欠如してるってラムズたちが言ってたけど、そっか。神様のことを知らないだけじゃなくて、そんなところまで分からないんだ。

 

 ジウが呆れた声で、レオンに返事をした。


「じゃあ逆に、どうすればよかったの?」

「どうするって、そりゃ、警察とかに……」

「ケイサツってなに?」

「その、だから、国の護衛兵とか、いるだろ? 法で裁いて、あとは、そういう取り締まる人たち、とか……」

「そんなのトルティガーにいないよ。ここには法律もない。問題解決は自分たちでする。それにいてもさ、誰に引き渡すの? ()()()ケイサツ?」


 ジウは半分嘲笑うような声で言った。

 

 わたしも彼の気持ちに同感だった。

 嫌われ者の人魚の言い分なんて、誰も聞いてくれない。全ての使族を取り締まる者だっていない。

 それに、海賊なんてみんな元から悪さをしている。その海賊が、今更誰を頼って何に裁かれるって言うんだろう。そんなことしたって、自分たちも一緒に処刑台送りになるだけだ。


「そ、そっか。人間はダメか。じゃあその、他の使族のさ……」

「そんなのいないって言ったじゃん! 殺されたくなかったら殺す、それがこの世界のルールだよ。海賊じゃなくたってそうさ。人間同士だって殺し合ってる。王様を殺したら指名手配をされるけど、それ以外じゃボクたちのことなんて誰も見向きもしない! 他の使族? ルテミスだって、全ての使族と仲良くしているわけじゃない。ボクたちは周りはみんな敵なんだ。キミの世界とは違う!」


 ジウの勢いに、レオンはぐっと息を飲んだ。一歩後ずさりはしたけど、なんとか気を持っている。目を泳がせながら、小さく返した。


「でも……人殺しは悪いことで……」

「その考えじゃ生きていけないよ。船に乗っても不快な思いをするだけかもね。ボクたち、拷問だってするんだよ」


 レオンがまた何かを言い返そうとするから、思わずわたしも口を挟んだ。


「レオン、悪いけどこれがわたしたちの常識なの。わたしは人魚だから人間に襲われる。襲われたら殺す、ただそれだけよ。自分を守る術は法なんかじゃない。()()()()()()()。あなたの国は違ったの?」

「俺の国は……こんなの、なかった。人殺しとか……拷問とか、あんな、奴隷だって……。獣人(ジューマ)も人魚も、別にいいじゃないか……。それにそんな厳しいことをしなくたって、許してあげるとか、海賊行為だって犯罪だし……」


 ジウはそれを聞いて、レオンの首元をぐいっと掴んだ。レオンの足が宙に浮く。ジウの方が背は低いのに、下からの威圧でレオンは歯を震わせている。


「海賊のボクに、よくそんなことが言えるね?」


 ジウがぱっと手を放すと、レオンは地面に足をつけてよろめいた。そんな様子を、ジウは冷めた目で見ている。


「ラムズ船長はまだ甘い方だよ。街を襲ったことはないし、船の皆殺しだってしていない。普通だったら船を沈没させることもあるんだ。別に船長を褒めてるわけじゃない。ボクはむしろ甘いと思ってる。今回のメアリの件だって、石を投げた人間を全員殺せばよかったんだ。そうしたらこんなことにはならなかった」

「人間を全員殺すって……?!」


 レオンは一人、目を見開いて驚いている。なにが変なんだろう? わたしはジウに相槌を打った。


「たしかに、その方がよかったわね」

「メアリもそう思うよね。キミは、考え方が全然違うんだね。ボクはそれが分かんないよ」


 レオンがぎゅっと拳を握っている。震える声で、でも意志を持ってわたしたちに返した。


「だって命って、大切なものだろ……? どんな者でもさ……」

「そうだね。ボクは自分の命は大切だよ。命が大事だから、ボクは人を殺すんだ。メアリも同じだよ。どうして他人の命まで気にしないといけないの?」

「それは……えっと、その……」


 レオンがよく分からない。なにが言いたいんだろう? ジウの言う通りだ。そもそもわたしはさっき襲われたんだから、それを殺すのは当たり前でしょ?

 異世界転移者──だから? 価値観が違いすぎるの? なんだかレオンって、ふつうの人間よりも理解できないわ。


 わたしは下を向いたレオンに、冷たく返した。


「慣れてちょうだい。こういうことなのよ」


 ジウはレオンから顔を背けると、わたしの事を担いだ。ジウが歩き出し、後ろからとぼとぼとレオンがついてくる。



「メアリ、キミの顔みんなにバレちゃってるかもね」

「そうね、なんとかしなきゃ。魔法で髪の毛の色とか変えられないかしら」

「さすがにそんなの無理でしょ」

「そっか、そうよね……。そういえばロミューは見つかった?」

「うん、もう宿にいるよ。ルテミスたちには出航の日を伝えた」


 わたしたちは取り留めもない会話を始めたが、レオンはいつまでも、顔を上げなかった。

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