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愛した人を殺しますか?――はい/いいえ  作者: **** 訳者:夢伽 莉斗
第6巻 被謀
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第112話 使えない魔法

※メアリ、ラムズ、ヴァニラの公式イラストが後書きに記載してあります。見たくない方は挿絵表示をオフにしてください。

 ヴァニラとわたしは旅の荷物を整理し終わった。部屋は三人で泊まるにしては少し狭いけど、不便があるわけじゃない。それに女の子と泊まるのはこれが初めてだ。ちょっと新鮮。


 自分の服を見下ろす。ところどころ砂や魔植(ましょく)が付いて汚れている。髪や体も汗ばんでいるな。浄化魔法のことを思い出して、無詠唱で自分に魔法をかけようとした。

 

「あ……あれ?」

 

 おかしい。

 普段なら無詠唱でも魔力が体に巡るような──つまり、水が体内を駆けるような感覚が起こるはずなのに、何も起こらない。

 

「【浄化せよ ── Purgaty( プルガティ )】」

 

 詠唱してもダメだ。どうして?

 とにかくもう一回。


「【浄化せよ ── Purgaty( プルガティ )】」 

「【浄化せよ ── Purgaty( プルガティ )】!」

「【浄化せよ ── Purgaty( プルガティ )】!」


 嘘でしょ? どうして?

 わたしは顔を覆ってベッドに座り込んだ。絶対こんなのおかしい。こんな経験は初めてだし、魔法が使えなくなるなんて話聞いたこともない──。

 二人が近づいてきて、ヴァニラの方が口を開いた。

 

「メアリ? どうしたの?」

「魔法が使えないの……。浄化魔法を使おうとしたんだけど……」

「えっ?! 本当なの?! 他の魔法も試してみたの?」

「あ、そうね……」

 

 わたしは立ち上がって、一番使い慣れている氷柱(つらら)魔法を使おうとした。

 ──でも、ダメだ。

 体の中の魔力がピクリともしない。まるで何かに()き止められてるような、邪魔されているような──。

 

「魔力があるのは感じるの?」

「うん、あると思うわ……」

「そんな、途中から使えなくなることなんてあるのか?!」 

 

 アリスは目を瞬いて、自分の体をなんとなく見回している。ヴァニラがアリスに返した。

 

「よっぽどのことがない限り、魔力が消えることはないの。理由なしに魔法が使えなくなることもないの」

 

 わたしはよろよろとベッドに座る。いつから使えなかったんだろう? 最後に魔法を使ったのはいつ? たまたま機会がなくて、しばらく使ってなかったような気がする──。

 ヴァニラもわたしの隣に腰掛け、ベッドが少し軋む。

 

「メアリの手、触っていいかの?」

 

 ヴァニラはこちらを見て、小さく首をかしげた。ピンクのツインドリルがふわふわと揺れる。

 わたしはこくりと頷いて、ヴァニラに腕を差し出した。ヴァニラの小さな手が腕に触れる。何度か触ったあとに、ヴァニラは薄紅の唇をむっと尖らせた。

 

「他人の魔力が入ってるの。メアリが受け入れた魔力じゃないから、このせいで魔法が使えなくなったの」

「他人の魔力?」

 

 アリスはわたしたちの正面で、腕を組んで顔を(しか)めている。ヴァニラは何度か頷くと、説明をし始めた。

 

「これをやる人はあんまりいないの。やる意味はほとんどないの。お互いに心を開いている上で魔力をもらえば、特になんの問題もないの。でも無理やり流し込まれた時にの、こうやって使えなくなるの」

「そんなの初めて聞いたぜ?」


 声のトーンを上げて、アリスが驚いた。ヴァニラはゆるゆると頭を振る。

 

「ふつうはみんな知らないの。これをやるのは────」

 

 ヴァニラはわたしの方を見た。

 初めて真っ直ぐにヴァニラの顔を見た気がして、少しだけドキリとした。幼い顔つきの中に、凛とした瞳がある。可愛らしい桃色の瞳は、その射抜くような視線とは不釣り合いだ。


「ラミアなの」


 アリスがはっと息を飲む声が聞こえる。

 ラミア──つまり、アヴィルだ。

 そういえば一度、アヴィルがわたしの魔法を使えなくしたことがある。もしかしてあの時元に戻してくれなかったってこと……?

 

「なあヴァニラ、それってアヴィルしか治せないのか?」

 

 突然アリスがヴァニラの肩を掴んで、ヴァニラはびくりとした。慌てて首を横に振って、淡々とした声で言う。

  

「そんなことはないの。魔力を扱うのが上手な人なら、なんとか方法を知ってるし治せると思うの……」

「ヴァニラは?」

 

 わたしが問いかけると、ヴァニラは申し訳なさそうに瞳を歪めた。

 

「ヴァニはそこまでは得意じゃないの。ごめんねなの。同じラミアに頼むか──、……ラムズに頼むの」

 

 ヴァニラは少し言いにくそうにそう答えた。

 

「ラムズ?」

 

 ラムズに頼むならそんなに大変なことじゃない。とにかく治す術があるならよかった。少し焦ったけど、特に問題はないわよね。

 でもどうしてヴァニラは怪訝な顔をしているんだろう? アリスもそれに気付いたのか、ヴァニラに言った。

 

「ラムズに頼むの、ダメなのか?」


 ヴァニラはぱっと顔を上げて、瞳を見開いた。両手を体の脇について、慌てて言う。

 

「違うの! 別にラムズはいいの。でも二人がラムズのこと怪しんでるから、頼むの嫌かのって思ったの。さっきも言ったけどの、魔力を操らせるのは信頼してる相手にしかしないと思うの。失敗すると魔法が使えなくなっちゃうからの。魔力を流し込んだり、抜いたりするのは、自分の体に手を入れられているようなものなの」

 

 アリスはうーんと唸りながら、近くの椅子に座った。

 ベッドは横向きに三つ並んでいる。そのうち、わたしとヴァニラは扉に一番近いベッドで一緒に座っていた。このベッドの前には机と椅子が一ずつあって、アリスが座ったのはその椅子だ。

 アリスは、足を組んで膝の上でとんとんと指を動かしている。


「とりあえず浄化魔法はヴァニがやってあげるの」

 

 ヴァニラは短い腕を精一杯に伸ばして、わたしの方に掲げた。

 

「【浄化せよ ── Purgaty( プルガティ )】」

  

 ふわっと空中で水が生まれて、それに包まれた。柔らかい水がさあっと消える。確認してみると、体の汚れは消えているみたいだ。すっきりした。

 ヴァニラは自分とアリスにも同じ魔法をかけた。


「わ! ありがと! すげーな、これ!」


 アリスは目をキラキラさせて自分の服を見ている。そのあと、わたしたちの方に視線を向けた。躊躇いがちに声を出す。


「ラムズのことだけどー……」

「ラムズ、アヴィルのことを怒ってたんでしょ?」


 わたしの言葉に、隣でヴァニラがふんふんと頷いた。ツインドリルがわたしの肩に当たる。


「ラムズはすごーく怒ってたの。拷問までするって言ってたから、ヴァニが頑張って止めたの」

「そうそう。そこまではよかったんだけど、そのあとがなー」

「そのあと? 何があったの?」


 わたしがそう言うと、アリスは顎をさすって唸った。重そうな口を開く。


「ラムズは、アヴィルとメアリがキスとかしてても気にしないんだってさー……。だから変だなって思ったんだけど。ヴァニラはどう思う?」

「うーん。ヴァニは恋愛とかよく分からないの。まだ子供だからの!」


 さっきとは打って変わって、明るく子供らしい声で返した。ヴァニラはにこっと笑って、手に持っていたお酒を飲む。

 瞳をくりくり回したあと、ヴァニラはこちらを見た。


「でものー。ヴァニは、たぶんラムズはメアリのことが好きなんだと思うの。だってあんなに必死なラムズは見たことなかったの」

「必死? どこかだよ!? 最初に怒ったのが落ち着いたあとは、めちゃくちゃ平然としてたじゃんか!」


 アリスは瞠目してそう吐き捨てる。ヴァニラが足をバタバタさせた。


「それはアリスが寝てたから知らないだけなの~」

「知らないって、何を?」


 わたしが尋ね、ヴァニラが返す。


「ラムズは、みんなが寝てる時ずうっとラプンツェルを編んでたの。ラプンツェルは魔法で編んじゃいけないの。だからラムズは手でずっと編んでたの」

「えっ、だからあんなにできるのが早かったのか! おかしいとは思ってたんだけど……」


 アリスがそう唸って、眉間に皺を寄せる。

 ラプンツェル、ラムズがそんなに編んでてくれたんだ

(ラプンツェルっていう魔植(ましょく)を編んで、わたしのことを銀の塔(ラミアの塔)から助け出してくれたのよ。金色のラプンツェル──それで作った(つな)じゃないと、塔を登れないんだって)。


 ラムズはそんなこと、全く言ってなかった。まぁ伝えるタイミングがなかったのかもしれない。わざわざ言うことでもないからね。

 わたしはそう納得したけど、アリスは唇を尖らせている。


「けどさ、じゃあなんでそれをみんなに言わないんだよ? そうしたらラムズの評価だって少しくらいは変わるだろ?」

「評価? どういうことなの?」

「だっていつもは冷たいラムズが、メアリのために頑張ってるってのは……いいことじゃん。ラムズがメアリを好きかどうか、あたしが疑ってるってのは知ってるわけだし」


 ヴァニラはコテっと首を傾げ、躊躇いがちに頷いた。いつもより真面目な口調で話す。


「そういうことかの。でもそれは、アリスが期待してるラムズの姿なの。ラムズは別にいい人じゃないの。ただ自分のために頑張ってるだけなの。それを誤解されるのが嫌なんだと思うの」

「どうして嫌なの? わたしのことが好きなら、当然だと思われる行動なんじゃない?」

「メアリそんなこと自分で言うのかよ」


 アリスはからかうように言った。

 なんのことだろう? わたし、変なこと言ったかしら。ヴァニラもぽかんとしている。ヴァニラが頭を振って、気を取り直して口を開いた。


「分かんないけどのー。ラムズは期待されるの嫌なんだと思うの。好きだからアレをやってとかコレをやってとか、こうすべきとかああすべきとか、そう思われるのがの。実際、ラムズは自分のためにやってるの。でも、メアリのことは好きだと思うのー!」


 ヴァニラは高らかにそう言って、両手を上にあげた。そのままバタンと布団に寝転がる。わたしは足を組んで、自分の髪の毛を()いた。アリスも同じく足を組んでいる。


「そういえばさ、ヴァニラの使族はなんなんだ?」

「わたしも気になってたわ。お酒が好きな使族なの?」


 わたしは体を傾けて、ヴァニラの方を見た。ヴァニラの桃色の瞳がぐるぐると渦巻いているように見える。瞳の中に何か──、液体みたいなものが(うごめ)いている、そんな感じが──。

ついに愛殺を書籍化するプロジェクトを行いました! 本格的な海外児童書ファンタジー風の本にすることができました。


挿絵(By みてみん)


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1・2巻それぞれ300p、500pのカバー付B6本です。詳しいことは公式ブログや活動報告を見てください。

なお、このプロジェクトは終了しましたが、まだ本は余っているので購入可能です。気になる方はTwitterDMへご連絡をお願いします。


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└夢伽莉斗公式ブログ


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└なろう活動報告


https://twitter.com/rito_mytha?s=21

└Twitterアカウント (@Rito_mythA)



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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり、とても表現が丁寧と感じます。 ヴァニラの言う「疑っている」と、アリスとメアリの疑いがそれぞれ異なる感じが何とも……使族が人間、もとい人間社会から隔絶した考えだという表現が、まるで…
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