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愛した人を殺しますか?――はい/いいえ  作者: **** 訳者:夢伽 莉斗
第5巻 玩具の街と銀の塔
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第102話 美しくないもの

メアリ視点

 不意に目が覚める。部屋は薄暗い。近くに黄色い灯りのランプが置いてあって、それがぼやんと部屋を照らしている。大きなベッドと、その横に小さな棚があるだけ。薄い黄色の掛け布団を被っている。

 わたしは身体を起こした。アヴィルはベッドにいない。なにしてるんだろう?



 寝室から出て、居間に来た。わたしはぎょっとして後ずさった。


 ──食べてる。


 いや、いいけど。アヴィルは床に子供の身体を横たえて、身を屈めて子供を食べていた。既に死んでいるとは思う。顔がないし。でも小さいから、たぶん子供……

(子供が泣いていないから、わたしはなんとも思わないわ。ラミアが子供を食べるのは仕方がないんだっていう話も、納得できたしね)。


 腹がズタズタに裂かれて、内臓が飛び散っている。とめどなく血が流れ落ちている。アヴィルはそれに口をつけて、血を飲んでいた。ごくごくと喉を鳴らす音が聞こえる。

 横に落ちている腸みたいなものを手に取って、それを噛み千切った。子供の顔だったものは潰れて、ほとんど肌が剥がされたようになっている。赤色の骸骨だ。目玉が一つ床に落ちている。


 アヴィルの(てのひら)は既に血塗れだ。自分の手をじっと見たあと、口の中に指を入れて血を舐めた。指を唇から離す。舌なめずりをした。


「アヴィル……」

「あ、メアリー。起きたんだ? (わり)い、食ってた」


 アヴィルは落ちていた細い腕を手に取った。まだ肌は白いままだ。身体から取ったみたい。折った先は骨や肉片が飛び出していて、中に肉が詰まっているのが見える。

 アヴィルは指の方から口に入れ、そのまま食べていく。骨だけが(あら)わになり、白い皮膚や肉が(えぐ)られていく。ボキボキと骨が折れるような音がした。



 アヴィルが立ち上がって、わたしのほうに近付く。真っ赤な掌から、ポタリポタリと鮮血が垂れて床に落ちた。


「メアリ、大好き」


 アヴィルはわたしの腕を掴んで、そのまま抱き寄せた。血で汚れるんだけど……。

 それにしても、アヴィルの呂律(ろれつ)が回ってない気がする。まだ何か食べてる? わたしが顔を上げて首を傾げると、アヴィルは口を開けた。尖った歯が並び、白く光った。


 小さな目玉が口の中に入ってる。アヴィルは目玉を紫の舌で器用に転がして、わたしの方に見せた。細い二本の舌が目玉に絡み付いている。舌の隙間からギョロリと黒目がわたしを見た。


「まだこれが口ん中に入ってたからさ」


 二本の舌で(もてあそ)んだあと、鋭い歯でぐしゃりと潰した。紫色の液体がアヴィルの口内に流れていく。ごくんと飲み込んだ。


「もーちょい、待って」


 アヴィルはわたしから離れると、また死体の方に向かった。

 残っていた内臓を食べていく。血塗れの肋骨が浮き彫りになった。落ちている足や腕の肉も全部剥ぎ取って、それを口に入れている。もちろん、アヴィルの首筋には深緑の鱗が見えていた。どうやら手の甲まで鱗が出ている。

 どこまで鱗があるんだろう?

(人魚とは全然違うんじゃないかな。鱗の色も形も、触った時の感触も違う感じだったもの。だから生えている場所も違う気がする)



 元からこうだったのかというくらい、床が真っ赤に染まっている。大体食べ終えたのか、アヴィルは立ち上がった。肉が付いたままの骨を持っている。

 それを上から掲げて、口の中に血を流し込む。


「メアリー」


 アヴィルが近付いてきて、わたしをまたぎゅっと抱きしめた。アヴィルの方がずっと背は高い。そのまま抱き(すく)めて、アヴィルは身体をゆさゆさと揺らした。アヴィルが動くままに、わたしも一緒に移動する。何するんだろう? 




 寝室に入って、わたしは仰向けに寝かされた。アヴィルが上に乗る。

 アヴィルは瞳をギラギラさせながら、わたしを見下ろしている。肉片のついた骨を口につけた。唇から血が滴る。口の中が赤い血でいっぱいだ。


 アヴィルはわたしの頬に手を付けて、するりと撫でる。


「カワイー。キスしていー?」

「今するの? でも口の中が……」

「ちょっとくらいいーじゃん」


 アヴィルは薄く口を開けた。白かった歯が全部赤黒く染まっている。そのまま顔を近づけて、わたしにキスをする。

 苦い……。変な味がする。舌がわたしの上唇をゆっくりと舐める。ぞくりとして、心臓ごと舐められたような気がした。


 アヴィルが一度顔を上げて、口角をくいっと上げた。紫の舌をチロチロ見せる。彼の唇が血で赤く潤んでいる。アヴィルはまた覆いかぶさってきて、舌で唇を割った。


「んっ……だ、だめ……!」


 わたしはアヴィルの肩を抑える。このキスは慣れない、怖いし……。

 アヴィルはきょとんとした顔で傾げたあと、優しく笑いかける。


「大丈夫ー。優しくするから。なぁ……。メアリがかわいくて……。食ってる時に来んなよ。食いたくなんじゃんー」


 アヴィルは顔を下ろして、またキスをした。血の味なのか唾液の味なのか、よく分からない。苦くて美味しくない。


 ──変だ。


 キスをされるといつもそう思う。わたしが彼を好きになっていないからかもしれない。心がチクリと何かに刺されているような感じがする。誰かがわたしを責めている。



 しばらくして、アヴィルが唇を離す。


「メアリ、本当にカワイー。なあ、俺のモノになろう?」

「……え? なにが……?」

「俺とさ、愛の契りを交わそうぜ。ちゃんと俺のモノになったって、そう思いたい」

「どういうこと? 何をするの?」

「愛し合いたい。俺のモノにしたい。早く、そうしたい。分かんねえけど、そのほうがいい気がする」

「でも、もう恋人よ? だから、よく分からないけど……」


 優しく背中に腕を回し、アヴィルはわたしの身体を起こした。


 

 アヴィルはフードを取って、わたしの頭を痛ましげに撫でる。常に震えていたはずの瞳孔が止まって、わたしを真っ直ぐに見た。鱗や尖った歯、長い耳は変わらなかった。いつもなら食べる瞬間だけに現れるのに、落ち着いている今も生えている。

 彼はごくりと喉を鳴らす。真剣な声で、アヴィルは言った。


「俺はさ、ラミアだから。きっとメアリとはずっと一緒にいられない」

「どういうこと? どうして……?」

「考えてみろよ。メアリは人魚になりたいんだろ? だってメアリは高潔だから。メアリは、人魚じゃねえ自分でいられんのか?」


 顔を見ていられなくなって、少し俯く。自然と声が強ばっていくのが自分でもわかった。


「それは、無理よ……。呪いが解けなくて人間になってしまったら、わたしは死ぬわ……」

「そーだよな。けどメアリが人魚になっちまったら、この家にはいられねえだろ? 海に帰っちまうんだろ? けど俺はそれが耐えられない。俺はラミアだから。俺は束縛して、メアリをずっとこの家に縛り付けておかないと、いても立ってもいられねえんだ」

「それは……そっ、か……」


 わたしは人魚で、アヴィルはラミア。

 わたしは“高潔”だから、海で人魚として暮らしたい。

 でもアヴィルは“束縛”だから、わたしを家に閉じ込めたい。


 わたしがもしもサフィアを殺して人魚になったら、アヴィルとはいられない……。でもアヴィルはそれが嫌だから、つまり──。


 アヴィルはわたしの髪にするりと指を通して、困ったように笑った。


「俺だって思ったよ。メアリが人間になればいいってな。二年間閉じ込めておけばいいって」

「そんな……」

「しょーがねえだろ? メアリが好きなんだから。俺はずっと一緒にいてえもん。けどさ……そんなの、メアリじゃねえじゃん」

「どういうこと……?」

「俺は、人魚のメアリに惹かれたんだ。高潔で人魚に戻りたがってるメアリに惹かれたんだよ。けど、人間になっちまって、高潔の心を失ったメアリはメアリだって言えんのか? そんなメアリを俺は愛せるのか? 人間になったメアリは、もうメアリじゃねえだろ?」

「そう、ね……」


「俺さあ、メアリに出会わなきゃよかったなあ?」


 アヴィルは笑って、わたしの身体を引き寄せた。細い腕の形が分かるくらい、強く抱きしめられる。アヴィルは嗚咽を押し殺して、わたしの耳元で話し続けた。


「メアリのこと好きだよ。だから、俺は束縛したいし、離したくない。人魚であるメアリが、好きだ。けど人魚になっちまったら俺はどうしたらいい? 毎日ここにメアリがいないことに耐えらんねえよ」

「アヴィルもわたしと同じなの……?」

「そーだよ。メアリが人魚じゃないことに耐えられねえのと同じ。人間になったら死ぬのと同じ。俺は束縛するのをやめることはできねえよ。こんなの全部やめて放り出して、たとえ遠くにいても海にいても愛せたらって思うよ。だけどさぁ、無理だろ?」


 声が震えて、掠れている。涙に濡れた言葉が、わたしの心に落ちた。



「こんなん、無理じゃねーか」



 ────無理、か。

 アヴィルは何も言わなかった。永遠に感じられるような沈黙が、わたしたちを包む。柔らかい沈黙、部屋を照らす黄色い灯りのようだった。



 わたしを抱く腕がまた強くなる。アヴィルの熱い息遣いが間近で聞こえた。


「期限付きだよなあ? 俺たちは期限付きの愛なんだよ。けどさ、けどさあ。これが本当に愛だったって、俺はそう思いてえんだよ」

「……わたしは。わたしは、でも、ほんとは……」

「知ってるよ、ずっと知ってる。分かってたぜ。メアリが本当に俺を愛してない──」


 アヴィルはそこで少し笑って、言葉を言い直した。


「愛してるかどうか、分かんねーことくらい……な?」


 彼の声が涙に混じって、震えている。彼の心臓の鼓動がいつも以上にうるさくなって、わたしのところまで響いている。首筋に濡れた感覚がした。


「ごめんな、メアリ……。けどこうしなきゃいけねえって思ったんだよ。俺も時の神ミラームに創られた使族だからさぁ」


 わざと明るい調子で、アヴィルは言葉を繋ぎ続ける。


「ずるいの分かってっけどさぁ、俺のモノにしたかったんだよ。どーせ期限付きの愛なら、少しのあいだだけでも、俺に浸らせてくれよ。これが本物だって、俺に思わせてくれよ? メアリ。嘘でいいから、俺のことを愛してくれよ。頼むよ、もう、これで終わりにすっからさあ」


 アヴィルが顔を上げて、わたしのことを見た。血の混じった薄い赤色の涙が、アヴィルの頬に流れている。切れ長の眼が細く笑う。アヴィルはくしゃっと破顔させて、わたしの頭を撫でた。



「──なあ、メアリ。好きだよ」



 熱い視線がわたしの心臓を打った。()()()()。心臓の奥の奥が、痛い。今までの違和感とは違う。これは、なに?

 アヴィルはわたしの髪の毛に何度も何度も指を滑らせて、撫でた。


「メアリ、俺と愛し合って。今日じゃねえといけない気がすんだ。これも時の神のせーなのかな? 知らねえけど」

「アヴィル……愛し合うって、その」

「メアリ、愛してるよ」


 アヴィルは細い指でわたしの顎を掴んだ。長い睫毛が瞳に蓋をする。ゆっくりと顔を近づけてキスをした。優しいキスから、いつの間にか深いキスに変わっている。アヴィルの腕を掴んで、わたしは彼に任せた。



 一度顔を離したあと、アヴィルはわたしの身体をベッドに寝かせた。


「俺の血、飲んで?」


 アヴィルは長い黒爪を、自分の鎖骨の上の皮膚に突き刺した。そのまま皮膚を(えぐ)る。引っ()き回すようにして、傷を深く広げていく。骨の浮き出るような鎖骨の皮膚から、胸元へ血が流れていく。

 人差し指を傷から抜いた。アヴィルは血のついたそれを、わたしの口の中に思い切り押し込む。


 アヴィルは一度抜いて、また血をつけて、そしてまたわたしに飲ませた。細い指がわたしの口内を犯した。爪が頬の裏を引っ掻く。唾液を絡めとって、それをアヴィルが舐める。今度は自分の血をつけて、わたしに舐めさせる。アヴィルの口の中が真っ赤に染まって、唇から血が流れた。


「んっ、え、えっ……と……」

「俺の飲んで。本当はラミアはお互いを食うって言っただろ。けどメアリは歯が強くないし、だから俺が飲ませてやるから」

「おいしくないよ……?」

「それでもいーの。飲んでくれたら嬉しい。このまま飲んでもいーよ」


 アヴィルは傷口をもう一度(えぐ)った。放っておくとすぐに治ってしまうみたいだ。

 わたしの身体を抱えて、その傷にわたしの顔を押し当てる。わたしは彼の背中へ腕を回した。


「このまま舐めて。お願い。俺の血飲んで」

「わ、分かった……」


 恐る恐る唇を近づけて、舌で血を舐めた。しなやかな肌の感触と、ざらっとした食感を感じた。血は少し甘くて、でも酸っぱい。わたしの血とは違う味な気がする。ザラザラの粒があるけど、血液自体はさらさらだ。

 美味しい? 分からない。でも、気持ち悪くない。甘いけど、変な味で、でも、──嫌じゃない。


 わたしは顔を上げた。アヴィルがわたしの頭をゆっくりと撫でる。優しい声で囁く。


「もーいーよ。ありがと。俺も食わせて」


 アヴィルはわたしの首筋に歯を突き立てて、ガリっと噛んだ。痛い。歯で肉を(すく)うような感覚がした。柔らかい唇と、舌と、鋭い歯が交互にわたしの首を傷つけた。

 血が流れている。じんじんする。全身が痛みで(うず)いて、熱くなってくる。


 ──でも、嫌じゃなかった。


「アヴィル……?」

「もう少し。甘い、美味しい」

「美味しいわけないでしょ……」

「いーの」


 アヴィルの歯が首筋を撫でる。時折歯が立てられる。ビリビリした痛みが体中を巡る。舌が傷の中を掻き回して、肉や血を絡めとった。



 顔を上げて、アヴィルが上の服を脱いだ。腕を動かす時に、ところどころ筋肉の筋が浮かぶ。体つきは細くて、無駄な肉はない。上半身には新緑の鱗が生えている。腕は手の甲から肩にかからない辺りまで。胸の上から腰までは、ちょうど左右の脇の横辺りに現れている。

 わたしが鱗を見たのに気付いたのか、アヴィルが自分の身体を見下ろした。


「変か?」

「ううん、変じゃないわ」

「人魚は鱗を交換すんだろ。やる」


 アヴィルは腕に生えている緑の鱗を、思い切り剥ぎ取った。ビリっと音がして、鱗の下の皮膚が赤く染まった。苦々しい顔をしている。絶対痛かったはずだ。


()って。ハイ。メアリのもちょーだい」

「本当に?」

「当たり前だろ」

「痛いよ……」

「頼む」

「う、うん……分かった……」


 わたしは腕を(まく)った。すると、はっと息を飲んだ声が聞こえた。顔を上げると、アヴィルがわたしの腕を凝視している。


「どうしたの?」

「いや、まぁそれなら、アイツの言いてえことも分かると思って。人魚の鱗は綺麗だ。ラミアとは大違いだな。もっと見せて」


 アヴィルはわたしの身体を起こして、上の服を脱がせた。アヴィルはじっと鱗や肢体を見ている。この前もアヴィルの前で裸になったけど、あの時とはどこか違う。なんだか落ち着かないわ。

 アヴィルは優しい手つきで、わたしの鱗に触れた。つうっと撫でるようにして指を動かす。アヴィルは顔を近づけて、鱗をペロリと舐めた。


「ちょっと……。アヴィルって、舐めるの好きなの?」

「好き。メアリは嫌だ?」

「いやじゃないけど……」


 身体中の鱗を舐めたあと、アヴィルが顔を上げる。腕にある一枚の鱗に黒い爪を立てた。


「剥がしていー?」

「うん……。痛いの、やだな」

「こーゆーのは、痛いからいーんだよ。我慢して」


 アヴィルは片方の手でわたしの頭を引き寄せ、ゆっくりとキスをする。わたしはぎゅっと彼の腕を掴んだ。爪で鱗が剥がされている。い、い、痛い……。

 電撃が走ったような感覚のあと、鱗が取れた。


「は、ハァ……。痛かった……」

「俺もさっき痛かった。けど、痛いのいーだろ?」


 アヴィルは茶目っ気のある瞳で笑う。わたしの頭を撫でて、そのまま胸に押し当てた。心臓の音が聞こえる。アヴィルはいっつも鼓動が早い。わたしよりも、ずっと。


「なんでこんなに早いの?」

「心拍が?」

「ええ、いつも早いわ」

「いつもドキドキしてるから」

「……わたしに?」

「そーだよ。カワイーっつってんじゃん。メアリのこと好きだから、そんくらいドキドキする」

「そっか……」


 わたしは片手を背中に回し、もう片方の手でざらざらした鱗に触れた。額を熱い胸板に当てる。アヴィルが腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。

 温かい腕だった。抱き締められているのが凄く自然で、こうあるべきだって、そう思える。こんなこと今まで思ったことがないのに。今日はどうしたんだろう。


 長い時間、そうされていた。アヴィルは何も言わず、わたしの背中越しで泣いているみたいだった。




 ──期限付きの愛。


 わたしとアヴィルは、愛し合えなかったんだ。


 わたしが人魚になったら、アヴィルはわたしを愛せないから。束縛をやめたアヴィルは、アヴィルじゃないから。

 わたしが人間になったら、わたしは死ぬしかないから。人魚じゃないわたしはもう、わたしじゃなくなるから。


 奇跡みたいだ。わたしが呪いで人間の足になって、そんなわたしをアヴィルが好きになるなんて。本当は出会うことはなかったのかもしれない。

 出会わなかったら、アヴィルは泣かなかったのかもしれない。傷つくことはなかったのかもしれない。


 アヴィルは悲しんでる? 辛いのかな。


 それとも、幸せなのかな。わたしと少しの時間でもこうできて、幸せだったのかな。



 わたしは何をしていたんだろう?


 本当に好きじゃない相手と、愛し合うとか、鱗を交換するとか、本当はいけないのに。わたしは彼を好きじゃないのに。本当の愛じゃないはずなのに。


 ──それなのに、

 それなのになんで、

 どうして、こんなに温かいんだろう?

 どうして嫌じゃなかったんだろう?


 アヴィルの血の味も、アヴィルと深いキスをするのも、アヴィルに食べられるのも、どうして嫌だと思わなかったんだろう? なんでこんなに心臓が熱いんだろう?



 彼の突き刺す視線が、


 どうしてこんなに()()と感じたんだろう?





 アヴィルが小さく囁いた。


「俺のこと、忘れないで。俺が愛したことを」


 大きく息を吸いこんで、アヴィルは身体を放した。わたしの目を見て、優しく笑いかける。涙で潤んだ赤い目が、キラキラ光った。



「メアリ、ありがとう。俺を愛してくれて。俺を食ってくれて、ありがとう」


 ──愛してるよ。




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