第102話 美しくないもの
メアリ視点
不意に目が覚める。部屋は薄暗い。近くに黄色い灯りのランプが置いてあって、それがぼやんと部屋を照らしている。大きなベッドと、その横に小さな棚があるだけ。薄い黄色の掛け布団を被っている。
わたしは身体を起こした。アヴィルはベッドにいない。なにしてるんだろう?
寝室から出て、居間に来た。わたしはぎょっとして後ずさった。
──食べてる。
いや、いいけど。アヴィルは床に子供の身体を横たえて、身を屈めて子供を食べていた。既に死んでいるとは思う。顔がないし。でも小さいから、たぶん子供……
(子供が泣いていないから、わたしはなんとも思わないわ。ラミアが子供を食べるのは仕方がないんだっていう話も、納得できたしね)。
腹がズタズタに裂かれて、内臓が飛び散っている。とめどなく血が流れ落ちている。アヴィルはそれに口をつけて、血を飲んでいた。ごくごくと喉を鳴らす音が聞こえる。
横に落ちている腸みたいなものを手に取って、それを噛み千切った。子供の顔だったものは潰れて、ほとんど肌が剥がされたようになっている。赤色の骸骨だ。目玉が一つ床に落ちている。
アヴィルの掌は既に血塗れだ。自分の手をじっと見たあと、口の中に指を入れて血を舐めた。指を唇から離す。舌なめずりをした。
「アヴィル……」
「あ、メアリー。起きたんだ? 悪い、食ってた」
アヴィルは落ちていた細い腕を手に取った。まだ肌は白いままだ。身体から取ったみたい。折った先は骨や肉片が飛び出していて、中に肉が詰まっているのが見える。
アヴィルは指の方から口に入れ、そのまま食べていく。骨だけが露わになり、白い皮膚や肉が抉られていく。ボキボキと骨が折れるような音がした。
アヴィルが立ち上がって、わたしのほうに近付く。真っ赤な掌から、ポタリポタリと鮮血が垂れて床に落ちた。
「メアリ、大好き」
アヴィルはわたしの腕を掴んで、そのまま抱き寄せた。血で汚れるんだけど……。
それにしても、アヴィルの呂律が回ってない気がする。まだ何か食べてる? わたしが顔を上げて首を傾げると、アヴィルは口を開けた。尖った歯が並び、白く光った。
小さな目玉が口の中に入ってる。アヴィルは目玉を紫の舌で器用に転がして、わたしの方に見せた。細い二本の舌が目玉に絡み付いている。舌の隙間からギョロリと黒目がわたしを見た。
「まだこれが口ん中に入ってたからさ」
二本の舌で弄んだあと、鋭い歯でぐしゃりと潰した。紫色の液体がアヴィルの口内に流れていく。ごくんと飲み込んだ。
「もーちょい、待って」
アヴィルはわたしから離れると、また死体の方に向かった。
残っていた内臓を食べていく。血塗れの肋骨が浮き彫りになった。落ちている足や腕の肉も全部剥ぎ取って、それを口に入れている。もちろん、アヴィルの首筋には深緑の鱗が見えていた。どうやら手の甲まで鱗が出ている。
どこまで鱗があるんだろう?
(人魚とは全然違うんじゃないかな。鱗の色も形も、触った時の感触も違う感じだったもの。だから生えている場所も違う気がする)
元からこうだったのかというくらい、床が真っ赤に染まっている。大体食べ終えたのか、アヴィルは立ち上がった。肉が付いたままの骨を持っている。
それを上から掲げて、口の中に血を流し込む。
「メアリー」
アヴィルが近付いてきて、わたしをまたぎゅっと抱きしめた。アヴィルの方がずっと背は高い。そのまま抱き竦めて、アヴィルは身体をゆさゆさと揺らした。アヴィルが動くままに、わたしも一緒に移動する。何するんだろう?
寝室に入って、わたしは仰向けに寝かされた。アヴィルが上に乗る。
アヴィルは瞳をギラギラさせながら、わたしを見下ろしている。肉片のついた骨を口につけた。唇から血が滴る。口の中が赤い血でいっぱいだ。
アヴィルはわたしの頬に手を付けて、するりと撫でる。
「カワイー。キスしていー?」
「今するの? でも口の中が……」
「ちょっとくらいいーじゃん」
アヴィルは薄く口を開けた。白かった歯が全部赤黒く染まっている。そのまま顔を近づけて、わたしにキスをする。
苦い……。変な味がする。舌がわたしの上唇をゆっくりと舐める。ぞくりとして、心臓ごと舐められたような気がした。
アヴィルが一度顔を上げて、口角をくいっと上げた。紫の舌をチロチロ見せる。彼の唇が血で赤く潤んでいる。アヴィルはまた覆いかぶさってきて、舌で唇を割った。
「んっ……だ、だめ……!」
わたしはアヴィルの肩を抑える。このキスは慣れない、怖いし……。
アヴィルはきょとんとした顔で傾げたあと、優しく笑いかける。
「大丈夫ー。優しくするから。なぁ……。メアリがかわいくて……。食ってる時に来んなよ。食いたくなんじゃんー」
アヴィルは顔を下ろして、またキスをした。血の味なのか唾液の味なのか、よく分からない。苦くて美味しくない。
──変だ。
キスをされるといつもそう思う。わたしが彼を好きになっていないからかもしれない。心がチクリと何かに刺されているような感じがする。誰かがわたしを責めている。
しばらくして、アヴィルが唇を離す。
「メアリ、本当にカワイー。なあ、俺のモノになろう?」
「……え? なにが……?」
「俺とさ、愛の契りを交わそうぜ。ちゃんと俺のモノになったって、そう思いたい」
「どういうこと? 何をするの?」
「愛し合いたい。俺のモノにしたい。早く、そうしたい。分かんねえけど、そのほうがいい気がする」
「でも、もう恋人よ? だから、よく分からないけど……」
優しく背中に腕を回し、アヴィルはわたしの身体を起こした。
アヴィルはフードを取って、わたしの頭を痛ましげに撫でる。常に震えていたはずの瞳孔が止まって、わたしを真っ直ぐに見た。鱗や尖った歯、長い耳は変わらなかった。いつもなら食べる瞬間だけに現れるのに、落ち着いている今も生えている。
彼はごくりと喉を鳴らす。真剣な声で、アヴィルは言った。
「俺はさ、ラミアだから。きっとメアリとはずっと一緒にいられない」
「どういうこと? どうして……?」
「考えてみろよ。メアリは人魚になりたいんだろ? だってメアリは高潔だから。メアリは、人魚じゃねえ自分でいられんのか?」
顔を見ていられなくなって、少し俯く。自然と声が強ばっていくのが自分でもわかった。
「それは、無理よ……。呪いが解けなくて人間になってしまったら、わたしは死ぬわ……」
「そーだよな。けどメアリが人魚になっちまったら、この家にはいられねえだろ? 海に帰っちまうんだろ? けど俺はそれが耐えられない。俺はラミアだから。俺は束縛して、メアリをずっとこの家に縛り付けておかないと、いても立ってもいられねえんだ」
「それは……そっ、か……」
わたしは人魚で、アヴィルはラミア。
わたしは“高潔”だから、海で人魚として暮らしたい。
でもアヴィルは“束縛”だから、わたしを家に閉じ込めたい。
わたしがもしもサフィアを殺して人魚になったら、アヴィルとはいられない……。でもアヴィルはそれが嫌だから、つまり──。
アヴィルはわたしの髪にするりと指を通して、困ったように笑った。
「俺だって思ったよ。メアリが人間になればいいってな。二年間閉じ込めておけばいいって」
「そんな……」
「しょーがねえだろ? メアリが好きなんだから。俺はずっと一緒にいてえもん。けどさ……そんなの、メアリじゃねえじゃん」
「どういうこと……?」
「俺は、人魚のメアリに惹かれたんだ。高潔で人魚に戻りたがってるメアリに惹かれたんだよ。けど、人間になっちまって、高潔の心を失ったメアリはメアリだって言えんのか? そんなメアリを俺は愛せるのか? 人間になったメアリは、もうメアリじゃねえだろ?」
「そう、ね……」
「俺さあ、メアリに出会わなきゃよかったなあ?」
アヴィルは笑って、わたしの身体を引き寄せた。細い腕の形が分かるくらい、強く抱きしめられる。アヴィルは嗚咽を押し殺して、わたしの耳元で話し続けた。
「メアリのこと好きだよ。だから、俺は束縛したいし、離したくない。人魚であるメアリが、好きだ。けど人魚になっちまったら俺はどうしたらいい? 毎日ここにメアリがいないことに耐えらんねえよ」
「アヴィルもわたしと同じなの……?」
「そーだよ。メアリが人魚じゃないことに耐えられねえのと同じ。人間になったら死ぬのと同じ。俺は束縛するのをやめることはできねえよ。こんなの全部やめて放り出して、たとえ遠くにいても海にいても愛せたらって思うよ。だけどさぁ、無理だろ?」
声が震えて、掠れている。涙に濡れた言葉が、わたしの心に落ちた。
「こんなん、無理じゃねーか」
────無理、か。
アヴィルは何も言わなかった。永遠に感じられるような沈黙が、わたしたちを包む。柔らかい沈黙、部屋を照らす黄色い灯りのようだった。
わたしを抱く腕がまた強くなる。アヴィルの熱い息遣いが間近で聞こえた。
「期限付きだよなあ? 俺たちは期限付きの愛なんだよ。けどさ、けどさあ。これが本当に愛だったって、俺はそう思いてえんだよ」
「……わたしは。わたしは、でも、ほんとは……」
「知ってるよ、ずっと知ってる。分かってたぜ。メアリが本当に俺を愛してない──」
アヴィルはそこで少し笑って、言葉を言い直した。
「愛してるかどうか、分かんねーことくらい……な?」
彼の声が涙に混じって、震えている。彼の心臓の鼓動がいつも以上にうるさくなって、わたしのところまで響いている。首筋に濡れた感覚がした。
「ごめんな、メアリ……。けどこうしなきゃいけねえって思ったんだよ。俺も時の神ミラームに創られた使族だからさぁ」
わざと明るい調子で、アヴィルは言葉を繋ぎ続ける。
「ずるいの分かってっけどさぁ、俺のモノにしたかったんだよ。どーせ期限付きの愛なら、少しのあいだだけでも、俺に浸らせてくれよ。これが本物だって、俺に思わせてくれよ? メアリ。嘘でいいから、俺のことを愛してくれよ。頼むよ、もう、これで終わりにすっからさあ」
アヴィルが顔を上げて、わたしのことを見た。血の混じった薄い赤色の涙が、アヴィルの頬に流れている。切れ長の眼が細く笑う。アヴィルはくしゃっと破顔させて、わたしの頭を撫でた。
「──なあ、メアリ。好きだよ」
熱い視線がわたしの心臓を打った。心が痛い。心臓の奥の奥が、痛い。今までの違和感とは違う。これは、なに?
アヴィルはわたしの髪の毛に何度も何度も指を滑らせて、撫でた。
「メアリ、俺と愛し合って。今日じゃねえといけない気がすんだ。これも時の神のせーなのかな? 知らねえけど」
「アヴィル……愛し合うって、その」
「メアリ、愛してるよ」
アヴィルは細い指でわたしの顎を掴んだ。長い睫毛が瞳に蓋をする。ゆっくりと顔を近づけてキスをした。優しいキスから、いつの間にか深いキスに変わっている。アヴィルの腕を掴んで、わたしは彼に任せた。
一度顔を離したあと、アヴィルはわたしの身体をベッドに寝かせた。
「俺の血、飲んで?」
アヴィルは長い黒爪を、自分の鎖骨の上の皮膚に突き刺した。そのまま皮膚を抉る。引っ掻き回すようにして、傷を深く広げていく。骨の浮き出るような鎖骨の皮膚から、胸元へ血が流れていく。
人差し指を傷から抜いた。アヴィルは血のついたそれを、わたしの口の中に思い切り押し込む。
アヴィルは一度抜いて、また血をつけて、そしてまたわたしに飲ませた。細い指がわたしの口内を犯した。爪が頬の裏を引っ掻く。唾液を絡めとって、それをアヴィルが舐める。今度は自分の血をつけて、わたしに舐めさせる。アヴィルの口の中が真っ赤に染まって、唇から血が流れた。
「んっ、え、えっ……と……」
「俺の飲んで。本当はラミアはお互いを食うって言っただろ。けどメアリは歯が強くないし、だから俺が飲ませてやるから」
「おいしくないよ……?」
「それでもいーの。飲んでくれたら嬉しい。このまま飲んでもいーよ」
アヴィルは傷口をもう一度抉った。放っておくとすぐに治ってしまうみたいだ。
わたしの身体を抱えて、その傷にわたしの顔を押し当てる。わたしは彼の背中へ腕を回した。
「このまま舐めて。お願い。俺の血飲んで」
「わ、分かった……」
恐る恐る唇を近づけて、舌で血を舐めた。しなやかな肌の感触と、ざらっとした食感を感じた。血は少し甘くて、でも酸っぱい。わたしの血とは違う味な気がする。ザラザラの粒があるけど、血液自体はさらさらだ。
美味しい? 分からない。でも、気持ち悪くない。甘いけど、変な味で、でも、──嫌じゃない。
わたしは顔を上げた。アヴィルがわたしの頭をゆっくりと撫でる。優しい声で囁く。
「もーいーよ。ありがと。俺も食わせて」
アヴィルはわたしの首筋に歯を突き立てて、ガリっと噛んだ。痛い。歯で肉を掬うような感覚がした。柔らかい唇と、舌と、鋭い歯が交互にわたしの首を傷つけた。
血が流れている。じんじんする。全身が痛みで疼いて、熱くなってくる。
──でも、嫌じゃなかった。
「アヴィル……?」
「もう少し。甘い、美味しい」
「美味しいわけないでしょ……」
「いーの」
アヴィルの歯が首筋を撫でる。時折歯が立てられる。ビリビリした痛みが体中を巡る。舌が傷の中を掻き回して、肉や血を絡めとった。
顔を上げて、アヴィルが上の服を脱いだ。腕を動かす時に、ところどころ筋肉の筋が浮かぶ。体つきは細くて、無駄な肉はない。上半身には新緑の鱗が生えている。腕は手の甲から肩にかからない辺りまで。胸の上から腰までは、ちょうど左右の脇の横辺りに現れている。
わたしが鱗を見たのに気付いたのか、アヴィルが自分の身体を見下ろした。
「変か?」
「ううん、変じゃないわ」
「人魚は鱗を交換すんだろ。やる」
アヴィルは腕に生えている緑の鱗を、思い切り剥ぎ取った。ビリっと音がして、鱗の下の皮膚が赤く染まった。苦々しい顔をしている。絶対痛かったはずだ。
「痛って。ハイ。メアリのもちょーだい」
「本当に?」
「当たり前だろ」
「痛いよ……」
「頼む」
「う、うん……分かった……」
わたしは腕を捲った。すると、はっと息を飲んだ声が聞こえた。顔を上げると、アヴィルがわたしの腕を凝視している。
「どうしたの?」
「いや、まぁそれなら、アイツの言いてえことも分かると思って。人魚の鱗は綺麗だ。ラミアとは大違いだな。もっと見せて」
アヴィルはわたしの身体を起こして、上の服を脱がせた。アヴィルはじっと鱗や肢体を見ている。この前もアヴィルの前で裸になったけど、あの時とはどこか違う。なんだか落ち着かないわ。
アヴィルは優しい手つきで、わたしの鱗に触れた。つうっと撫でるようにして指を動かす。アヴィルは顔を近づけて、鱗をペロリと舐めた。
「ちょっと……。アヴィルって、舐めるの好きなの?」
「好き。メアリは嫌だ?」
「いやじゃないけど……」
身体中の鱗を舐めたあと、アヴィルが顔を上げる。腕にある一枚の鱗に黒い爪を立てた。
「剥がしていー?」
「うん……。痛いの、やだな」
「こーゆーのは、痛いからいーんだよ。我慢して」
アヴィルは片方の手でわたしの頭を引き寄せ、ゆっくりとキスをする。わたしはぎゅっと彼の腕を掴んだ。爪で鱗が剥がされている。い、い、痛い……。
電撃が走ったような感覚のあと、鱗が取れた。
「は、ハァ……。痛かった……」
「俺もさっき痛かった。けど、痛いのいーだろ?」
アヴィルは茶目っ気のある瞳で笑う。わたしの頭を撫でて、そのまま胸に押し当てた。心臓の音が聞こえる。アヴィルはいっつも鼓動が早い。わたしよりも、ずっと。
「なんでこんなに早いの?」
「心拍が?」
「ええ、いつも早いわ」
「いつもドキドキしてるから」
「……わたしに?」
「そーだよ。カワイーっつってんじゃん。メアリのこと好きだから、そんくらいドキドキする」
「そっか……」
わたしは片手を背中に回し、もう片方の手でざらざらした鱗に触れた。額を熱い胸板に当てる。アヴィルが腰に手を回して、ぎゅっと抱きしめる。
温かい腕だった。抱き締められているのが凄く自然で、こうあるべきだって、そう思える。こんなこと今まで思ったことがないのに。今日はどうしたんだろう。
長い時間、そうされていた。アヴィルは何も言わず、わたしの背中越しで泣いているみたいだった。
──期限付きの愛。
わたしとアヴィルは、愛し合えなかったんだ。
わたしが人魚になったら、アヴィルはわたしを愛せないから。束縛をやめたアヴィルは、アヴィルじゃないから。
わたしが人間になったら、わたしは死ぬしかないから。人魚じゃないわたしはもう、わたしじゃなくなるから。
奇跡みたいだ。わたしが呪いで人間の足になって、そんなわたしをアヴィルが好きになるなんて。本当は出会うことはなかったのかもしれない。
出会わなかったら、アヴィルは泣かなかったのかもしれない。傷つくことはなかったのかもしれない。
アヴィルは悲しんでる? 辛いのかな。
それとも、幸せなのかな。わたしと少しの時間でもこうできて、幸せだったのかな。
わたしは何をしていたんだろう?
本当に好きじゃない相手と、愛し合うとか、鱗を交換するとか、本当はいけないのに。わたしは彼を好きじゃないのに。本当の愛じゃないはずなのに。
──それなのに、
それなのになんで、
どうして、こんなに温かいんだろう?
どうして嫌じゃなかったんだろう?
アヴィルの血の味も、アヴィルと深いキスをするのも、アヴィルに食べられるのも、どうして嫌だと思わなかったんだろう? なんでこんなに心臓が熱いんだろう?
彼の突き刺す視線が、
どうしてこんなに痛いと感じたんだろう?
アヴィルが小さく囁いた。
「俺のこと、忘れないで。俺が愛したことを」
大きく息を吸いこんで、アヴィルは身体を放した。わたしの目を見て、優しく笑いかける。涙で潤んだ赤い目が、キラキラ光った。
「メアリ、ありがとう。俺を愛してくれて。俺を食ってくれて、ありがとう」
──愛してるよ。




