7話 最悪の魔物。
……なんだ、いまの感覚?
いや、わかってる。なんの後ろ盾ももたないんなら、【闇】属性のあつかいなんてこんなものだ。
それに、この条件であの冒険者パーティー【猟友会】に入ったのは、あの呪紋使いの少女自身。
なら、僕がとやかくいうことじゃない。
唇を噛みしめながら、僕はそっと衝動をおさえた。
冒険者には、パーティー内の問題には他のパーティーは干渉しないという暗黙のルールがある。
もし下手に他のパーティーの問題に手をだせば、それはパーティー同士の全面戦争に発展しかねないからだ。
僕が手をだしてなんになる? たとえば、ひどく消耗したあの娘のために、僕の持っている上級ポーションを渡したからってなんになるんだ?
下手すれば、あの娘があのパーティーにいられなくなるだけだろう? だから、いいんだ。これで。
だって、あの娘だってきっと独りでいるよりはずっといいって、あのパーティーにいるんだから。
ふたたび僕の中でズクリ、となにかが軋んだ。
……さっきからなんだ、いまの?
まあいい。それより、気づかれる前に早くここから離れよう。
いつのまにか完全に夜が明けている。となると、この【妖樹の森】がその真の姿を現す時間だ。あれだけ派手に魔力をばらまいた以上、もうすぐ、きっとここには――
「ブフォッ!? な、なんだ!? なんだ、これはぁっ!?」
――ああ。どうやら、もう遅かったみたいだ。
「な、なんだよ!? じ、地面がっ!? も、盛り上がって!?」
「う、うわあっ!? オ、オレたちの戦利品が!?」
完全に夜が明けた朝日が差しこむ【妖樹の森】の中。
泉のある開けた広場に、男たちの野太い悲鳴が響き渡った。
泉のほとりにある大木の樹上にいる僕からは、眼下で起きている変化がはっきりと見てとれた。
ミシミシと地面が次々と割れ、太い根が顔をだした。
魔狼たちの死体を巻きこみ、その地割れから伸びる幹が、枝が、どんどんと組み上がり、上へ上へとのぼっていく。
【妖樹の森】。その名のとおり、この森の中にはいたるところに妖樹の種が埋められていて、虎視眈々と発芽のときを狙っている。
日光と、森の中で死んだ人間や魔物の遺した魔力。それと、放たれて間もない大気に還る前の新鮮な魔力を養分にして。
でも、ちょっと待ってよ……!? この大きさ、まさか……!?
僕の嫌な予感を裏付けるようにブッフォンが野太い叫び声を上げる。
「ブッフォォォォォォッ!? な、なんだ!? この巨大な化物は!?」
『ギュィィィィィィィィィ!』
「【大妖樹】……!」
現れたのは、いま僕が樹上に隠れる大木と勝るとも劣らない巨体。
その目と口を模した裂け目のような虚から複雑な響きの咆哮が上がる。
……この【妖樹の森】の中で最大最悪の魔物がいま、その姿を僕たちの前に現した。
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