75話 息をするのも忘れて。
「ノエル。ロココのために、ディシーとサーシィがつくってくれた。ロココはすごく気に入ってる。どう?」
……一瞬、息をするのも忘れた。
服飾店【戦乙女】の奥の部屋でディシーと店長のサーシィさんが合作した服に着替えたロココ。
銀色の糸のように煌めく長い髪。青い月のような深く綺麗な瞳。そして赤い呪紋を刻まれた艶めく褐色の肌の上にまとうのは、肩口から足先まで流れる長い布。
白をベースに水色、金、薄いレースなど色とりどりのそれを首元と腰のリボンでひとまとめにすることで、一枚の服として完成させている。
それはいままで見たことも聞いたこともない、まるで物語にうたわれる天上の住人や妖精がまとう衣装かのようで、それを身にまとうロココはとても神秘的で――美しかった。
「……ノエル?」
すぐ近くで聞こえてきた声に、ハッと我に返る。
青い月のような瞳が少しだけ不安げに僕を見上げていた。僕は一度深く息を吸ってから返事を返す。
「……すごく綺麗だよ。ロココ。とっても似合ってる」
「……ありがとう、ノエル」
ようやく返せたのはそんな工夫もなにもない言葉だったけれど、ロココは蕾が花開くような、そんな笑顔で応えてくれた。
「うんうん! その反応、大成功だね! つくったひとりとして、あたしも大満足! ね、サーシィさん!」
「そうですね。ディシーさま」
後ろからディシーとサーシィさんが入ってきて、ロココの左右に並ぶ。それから、ふたりして説明を始めた。
「でね? ノエル。もう気づいてるかもしれないけど、戦うときはこの腰のリボンをほどくだけで、ただの長い布が何枚も首からぶら下がっただけになるから、呪紋で破いちゃう心配もないってわけ! どう? どう? あたしのこの発想! 自分でいうのもなんだけど、これって完璧じゃない?」
得意満面といった様子でディシーが自慢気な笑みを浮かべる。
……正直、本当にすごい。僕はロココには普通の服は着れないって思いこんであきらめてたけど、ディシーはその持ち前の発想力と頭のやわらかさで、あっさりとその問題を解決してしまった。
もしかしたら、これは相手にとって相性最悪の魔法を創りだせるディシーの【黒元の精霊魔女】としての能力とも関係しているのかもしれない。
「ええ。縫い合わせるのはわたくしも担当いたしましたが、本当にディシーさまの発想には感服いたしました。なにせ、とてもわたくしには思いつきませんので。一着つくるために、お店の完成品を5着も刻んでしまわれるなんて」
本当に関心した様子でサーシィさんがうなずいた。
そうか。それはたしかに思いつかないよね。いくらロココの着れる素敵な服をつくるためとはいえ、そのために完成品を5着も刻むなんて――え? 5着?
「それではノエルさま。本日もたくさんのお買い上げ、ありがとうございます。もうノエルさまはこの【戦乙女】の立派な上客です。ロココさまの完成品の作成費と刻まれた5着。それから、ディシーさまがご自身に見繕われた一式。すべてわたくしの魔力による大小の永続強化が施された逸品ですので、あわせまして――しめて1,000万Lとなります」
「いっせ……!?」
……それは一瞬、息をするのも忘れるほどの、僕にとってかつて味わったことのない種類の衝撃だった。
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※次回、「清算と、もうひとりの」
次回前半で【戦乙女】回終了です。





