272話 〝赤キ月ノ夜〟11ーそして集う希望(ひかり)。
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毒々しいまでの赤い月が照らす夜の下。
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィォォッ!』
自らの体を少しずつ崩壊させながらも同時にこの〝赤キ月ノ夜〟の効果で魔力に満ちたあたりの土くれを貪欲に食らい、その巨大な威容を保つ赤き終末の捕食粘体。
一度めの攻防を経て、僕たち〈輝く月〉はふたたび、その災厄と対峙していた。
「さて。どうする? ノエル」
「そうだね……」
傍らに立つニーベリージュに問われ、闇の聖剣をちゃきっとかまえながら、僕は思考する。
この赤き終末の捕食粘体は、圧倒的な巨体と力を持ちながらも、自壊という致命的な弱点を抱えたいわば欠陥品だ。……おそらくは、なにものかの悪意によって生み出された人工魔物であろうことを差し引いても。
ただ、対する僕たちの側にも決め手はない。魔力回復薬を二本も飲んでもらい、魔力酔いまで余儀なくされたディシーの大魔法すらも、時間経過で再生を許したいまとなっては、そのリスクに見合った効果を発揮したとは言い難かった。
もちろん、まったく効いていないとは言わないけれど。
……なら、やはり。
「よし……! みんな、聞いてくれ! 僕たち〈輝く月〉はここで、この災厄を夜明けまで足止めする! それができれば、僕たちの勝ちだ!」
――そう。僕たちはすでに半ば目標を達成していた。
当初、緩慢でありながらも王都へと侵攻しつづけていた災厄を、僕たちの作戦の要である妹ネヤの甘い蜜のような魔力によってまったく別方向へと誘引することで。
おそらくは、創造した悪意をもったなにものかの意思によって動かされているであろう、この災厄。
けれど、その意識づけは、けっして強固で絶対的なものではない。一度吹き飛ばされたあとに王都への侵攻を再開せず、いまこの場で僕たちと対峙しているのがいい証拠だ。
もしかしたら、優先目標が僕たちに変わっただけなのかもしれないけど、それならそれで一向にかまわない。
あとは、ここで夜明けまで、あるいは倒しきれるくらいにその身を減じるまで僕たちがもちこたえさえすれば――!?
そのとき。
「んっ……!?」
「えっ……!? なにか……!? く、来るよ……!?」
「も、ものすごい速さです……!?」
「この魔力の感じ……!? 闇ではない……!? では、魔物では……!?」
バッと、その彼方から超高速で飛来する魔力を感じ、僕たちは全員で赤く染まる夜空を見上げた。
そして、瞬く間にその存在を、姿を視認できるほどまでに高速で空を縫ってやってきたのは――ひと……!?
「あっはははははははぁっ!」
キュドドドドドドドドドドドッ!
驚く僕たちの上空。
現れた、その僕よりも少し幼く見える緑髪の少年は高笑いを上げながら、地上の災厄に向けて、無数の――そう、まさしく無数の魔力の矢を撃ち放つ。
我がもの顔で空中を縦横無尽に旋回するその小柄な体には、色濃く緑の、風の魔力がまとわれていた。
その手には、弓。どこか荘厳な、神聖さを感じさせる意匠の――そう。まさしく聖剣のような。
ヴォンッ……!
「えっ……!?」
だが、状況の変化は、その少年の乱入では終わらなかった。
僕たちからわずかに離れた地点。空中を飛びまわりながらいまも魔力の矢を撃ち放ちつづける緑髪の少年が最初にこの戦場に現れたその真下に、転移の魔法陣が浮かび上がる。
そして、その転移の光も止まぬ間に、空中に向かってがなり立てる、僕にとって聞き覚えのある声が耳にとどいてきた。
「ちょっと! なに考えてんのよ! 風の勇者ウィディオ! 王都から転移したと思ったら、独りで勝手に先行してっ! おかげであんたのために、帰還用のはずだった使い捨ての転移石までこうやって使うはめになったじゃないっ!」
「あっはははは! えー? 別にいーじゃない! つまりそれって、先行したボクのおかげでこうしていち早く全員が現場に駆けつけられたってことでしょ? まあ、別に頼んでないし、来なくてもボクひとりで十分だったけどね! こんな図体だけのデカブツを倒すくらい! あははは!」
「こ、この小生意気な子どもは……!」
「……ここは自分たちが引くべきだろう。ウィディオ殿はああ言っているが、敵は紛れもなく災厄級。それもこのディネライア王国王都を滅ぼしかねないほどのもの。我ら全員一丸となって挑まねば、危険だ」
「ふん! 見くびらないでほしいわね! 地の勇者アズース! あたしだって、時と場合くらいわきまえるわ!」
「……すまない。礼を失したようだ」
「ふふん! それに心配しなくても、この戦いが終わったあとであの小生意気な子どもはあたしがギッタンギッタンにシメてやるわ……!」
「そ、そうか……」
「えっと〜、それで、結局ここは〜どういう作戦でいくんです〜?」
「もちろん先に決めたとおり、各々の国からのバックアップも受けつつ、勇者全員で確実に倒すわ! さあ、まずはあんたからよ! 水の姫勇者ウォルテラ! あんた得意のデカいの一発ぶちかましてもらうから、準備しなさい!」
「は〜い。というかわたし〜、どうせそれしかできませんから〜。細か〜い出力調整とか〜、すご〜く苦手なので〜」
「さて。こんなところかしら。あとは――」
そのとき。転移の光が止み、大勢の人々がその姿を現した。その中心で騒ぎひときわ目立つ、率いるように中心にいる少女と僕の目が合う。
手には燃えるような赤い剣、燃えるような赤い髪と瞳をした、ふたつ結びの少女と。
「フラ……レム……!?」
「ふふん! また会ったわね? ルノ――闇の勇者ノエル・レイス! ええ、そうよ……!」
そこまでを言うと、いつかのように掲げた刃で虚空にいくつもの赤く美しい軌跡を描き、そのしなやかな肢体とまとう炎をフラレムが躍らせる。
そして、やがてピタリと止まると切先を災厄へと突きつけ、宣言した。
「絢爛! 流麗! 才色兼備! 火の大勇者たるあたし、フラレム・バーンアウトと! その率いる風と地と水の勇者連合! 友好国たるディネライア王国の危機を救い、そして〝赤キ月ノ夜〟の災厄を討ち果たすため、いまここに参戦よ!」
――こうして、いまここに希望は集った。孤軍奮闘していた僕たちの予期せぬ、とても強くまぶしい希望が。
ということで、各国の勇者たちという希望がいまここに集いました。今回はさわり程度で、容姿や能力の詳細はまた次回。ちなみに地の勇者は男です。ムキムキです。
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