271話 〝赤キ月ノ夜〟10ー絶対なる悪意。
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「ノエル。功労者のディシーを労うのは大いに結構だが、そろそろ気を引き締めなおせ。私の〝波〟に反応があった。まだ遠いが……来るぞ」
赤い月が照らす夜の下。
どこか少しかたいものをにじませた端的に告げたニーベリージュのその言葉に、自身もある程度の回復をすませた僕は、にこりと微笑みながらそのとなりへと並ぶ。
「警戒と索敵ありがとう。ニーベ。君のおかげでディシーもすっかり回復できたよ。助かった」
「う、うぅ……!? あ、あたし……ま、魔力酔いしてたからって、なんであんな……!? あ、穴があったら、入りたい……! むしろ入れて、埋めちゃってぇぇぇっ……!」
後方には、すっかり酔いもさめて、いまはしっかりと二本の足で立っているディシー。なぜか全身をぷるぷると震わせて、真っ赤にした顔を両手でおさえてしまったままだけど。
「まあまあ。よかったと思いましょう? ディシー。酔った勢いとはいえ、素直ににいさまに甘えられて。……わたしも、あとで兄妹水入らずでたぁっぷり……ふふふ」
「う、うぅ……! ネヤちゃぁ〜ん……!」
なにか通じあうものがあるのか、そんな半べそになったディシーの背中を妹のネヤはなにやらぼそぼそとつぶやき微笑みながら、ぽんぽん、とやさしくたたいていた。
「はあ……。まったく、君は……」
本当にしょうがないやつだ、とでもいいたげに、ため息をつきながら横から差しだされたニーベリージュの右こぶしと、僕の左こぶしをとなり同士でコツン、とあわせる。
声音からさっきまで感じていたかたさは、すっかりとれていた。
『ビィィィィギィィィィィァァァァァァッ!』
「う、うそ……なんで……!? 思ったより、ぜんぜん効いてないよ……!? あたし、あんなにがんばったのに……!?」
それだけで全身をビリビリと震わせる叫びとともに、彼方から僕たちの前にふたたび姿を現した赤き終末の捕食粘体。
僕たちの中で真っ先に反応したのは、ディシーだった。文字どおりその身を削った渾身の魔法の一撃で決定的なダメージを与えたはずなのに、とくやしさに唇を震わせる。
その言葉どおり、災厄の威容はいまだ健在だった。おそらくいくらかは減じたとはいえ、その馬鹿らしくなるほどの巨体は、さっき半分ほど、たしかに黒球に抉られたにもかかわらず。
――考えられる理由は、ただひとつ。
「これは……!? まさか、ディシーの黒球を……つまり、攻撃した敵の魔力そのものを喰らったというのか……!? 馬鹿な……!? そんなことが可能なら、もはや倒すことなど――」
「いや、違う……! 違うよ、ニーベ……! そうじゃない……! ほら、みんなも……! 目をこらして、よく視て……!」
「……? くずれ……てる……?」
きょとん、と小首を傾げながら、となりでロココがそうつぶやいた。
その視線の先は、災厄の体。そう。僕たちがなにもしていないにもかかわらず、這うようにゆっくりと進むスライムの巨体は、薄皮を一枚一枚剥ぐようにその端から徐々に徐々にくずれ落ちていく。
『ビィィィィグィィィィィガァァァァァァッ!』
そして同時に、ものすごい速さで喰らい、再生している。この〝赤キ月ノ夜〟の下、芳醇な魔力に満たされた土くれを失った自らの体に取りこんで。
「ま、まさか……!? 常にその身を崩壊させながら、それでもなお喰らっているというのですか……!? おぞましい……! なんという、化け物……!」
その涼やかな声の中に畏怖と嫌悪をにじませながら、ネヤが叫ぶ。
――そう。いま僕たち〈輝く月〉の前に立つのは、かつてないほどの化け物だ。およそ自然の魔物ではありえないほどに。
『ビギィィィィィィィィィァァァァァァッ!』
――最初から、心のどこかで引っかかっては、いた。たしかに規格外といえる馬鹿らしくなるほどの災厄の威容。
だが、それでもなお――森を丸ごと呑んだにしては、小さい。
そして、自らを害する敵の攻撃さえも喰らうというおよそありえないこの異常。
『ビィィオォォォォアァァァァァァァァァッ!』
その答えがこの自壊、与えられた強烈な飢餓。それはあたかも穴の空けられた胃に喰らった餌を延々と送りこむかのように。
自らを害し壊す猛毒に等しい敵の魔力でもかまわず喰らえてしまうほどの、けっして満たされない強烈な飢餓。
――悪意、だ。こんな理に反した冒涜的な魔物、絶対に自然のものではありえない……!
(そして! ほんの思いつきだったがなぁ! 見ろぉ! すっかりと魔薬漬けになった俺の可愛い下僕たちを! 失った体内の魔薬成分を求めて結びつくさまを! ゲハハハハハァッ! 想像以上の成果だぁ! 見ろ! これで俺の下僕たちは無敵に近い再生力を手に入れたのだぁ!)
そのとき脳裏によぎったのは、かつて戦った、最期は自らが下僕と呼び使役した粘体たちに喰われた哀れな男。
(あはははは……! うふふふふ……!)
――その向こうに僕は、幻視する。
『ビィィィィィィィィィィィィィィィィッ!』
この災厄すらも使い捨ての道具、理も生命も――すべてを冒涜することすらなんとも思っていない、絶対なる悪意の体現者を。
ということで、災厄との後半戦開始と、間接的にですが、ノエルがその裏にある悪意に気づきました。真の邂逅はまだ先です。
余談ですが、現在新作執筆中です。
3作ほどアイデアをこねくり回してましたが、1作はなかなかいいペースで書けています。まとまったら公開しますので、ぜひ!
さて。ブクマ、高評価、いいね! などの応援いただきありがとうございます。まだの方、ぜひお願いいたします! 感想もご自由にどうぞ!
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では、次回また書き上げ次第!
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