262話 〝赤キ月ノ夜〟のはじまりと、姉妹姫の戦い。※
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意外な別視点より、いよいよ〝赤キ月ノ夜〟がはじまります。
紅→赤に修正。普段、青い月と呼んでいたので対比として。
本日もよろしくお願いいたします!
『天に昇る月が赤く満ち、此の地を赤く照らす夜。蠢く赤い波が災厄となりて、地を呑みこまん。立ち向かうは、希望。此の地に伝わりし、そして集いたる彼方よりの――』
――そこで、妹姫ププルフェの声は途切れました。
よく覚えています。このすぐあと、糸が切れたように妹は倒れてしまったから。
あわてて抱きかかえたその体の軽さと、浅い呼吸をくり返す、その苦しそうにゆがむ表情も。
「レーねぇ……。だめ……。いっちゃ、やだぁ……」
「大丈夫……。私はちゃんとここにいるよ……。ププルちゃん……」
あやす私の胸もとをつかむ小さな指。予言を告げるさっきまでの抑揚のない流暢な〝声〟とはうってかわった、あまえるような、懇願するような、その声も。
……神さまも意地悪です。お役目が終わったあとなら、せめて楽しい夢を見せてくれてもいいのに。
なんにしてもこれは、ひとつの意味を指します。その予言にまつわる夢で体験した未来が妹にとって相応の負担を強いる、つまりこのまま放置すれば、多くの人々を悲劇に巻きこむものであることを。
妹がこれほどの消耗を見せるのは、結果的には〈輝く月〉のみなさまをはじめとする冒険者の方々の活躍で最小限の被害におさえられた、先日の【死霊魔王】による〝死霊行軍〟を予言したとき以来でしょうか。
『天に昇る月が赤に満ち、此の地を赤く――』
光量をおさえた灯りが照らす、全面が窓で覆われた、もちろん外の光を通さない特殊な処理が施された部屋の中。
椅子に座る私は、テーブルの上に二台並ぶ魔力録音器のうち、ひとつを操作し、ふたたび妹の声をくり返しました。
これは、いつ予言をはじめるかわからないププルフェに備えて、私たちの生活区域の各所に配置され、常に稼働しつづけているものの一台。
この魔力録音器が開発されるまでは、代々の予言姫には常に女使用人が交代でそばに侍り、いつ予言がなされてもいいようにしていたのだと、前に国王であるお父さまから聞きました。
……本当によかったです。お城で働く女使用人の方たちの負担を減らすことができて。
そしてなにより、姉妹ふたりだけの大切な時間を邪魔されずにすんで。
『そして集いたる彼方よりの――』
ここに至るまで何度も聞きこんだ、妹の声がまた途切れます。
……ププルフェの予言の意味を正確に読み解くことは、とても難しいです。
たとえば、〝黒の花〟。あのはじめての〈輝く月〉のみなさまとのお茶会のとき、闇の勇者であるノエルさんの妹さん――いまはわたしのお友だちのひとりとなったネヤちゃんのことを予言したときみたいに、ちゃんと伝えるべき人に伝えられれば話は別なんですが。
お城に勤める文官や学者をはじめとするたくさんのひとが、ププルフェの予言をさまざまな文献、過去の事例をもとに推論を重ね検証しましたが、結局、期日までに読みとりきることはできませんでした。
そこで結論としてなされたのは、とりあえずはいままでどおりの対処。
〝赤キ月ノ夜〟当日よりも事前に、冒険者ギルドを通じて依頼して、強い魔物を狩れるだけ狩っておく。戒厳令を布告し、数日前から王都への出入りを制限。
そして、当日の今夜は、ゴルドー騎士団長やシルヴァナ副団長をはじめとする王国騎士団が王都の外に陣を張り、厳戒体制を。
さらに、不測の事態に備えて、冒険者の方々にはごく一部をのぞいて待機指令が下されているはずです。もちろん、〈輝く月〉の方々も含めて。
窓の外、黒々とした空に浮かぶ赤い月を見上げます。
――怖い。
いつもは青く優しく照らしてくれる空の月が今夜は毒々しいまでの赤に染まり、禍々しい光を放っていました。
そっと、テーブルの上のさっきまでとは違う、横に並ぶもうひとつの魔力録音器を――私の宝ものを再生します。
『レーねえ〜。だっこ〜。だっこ〜』
屈託なくあまえる、最愛の妹の声。それを耳にしながら、また魔力録音器を操作。
『あはは! 楽しいね! レーヤ! ププルちゃん!』
『レーヤがつくったこれ、おいしい。ププルにも食べさせてあげる』
『わたしもがんばります。レーヤ姫。糸と組み合わせて、いま見せていただいた、至上の無手の技に近づけるように。あの……そのときは、お手合わせいただいてもいいでしょうか……?』
次々と流れる、大切なお友だちの声。そのとき感じていた、あたたかな気持ちを思いだしながら、さらにもう一度。
『ありがとう。レーヤ姫。今日もすごく美味しかったし、みんなも、もちろん僕も楽しかった。じゃあ、また近いうち……そうだね。無事〝赤キ月ノ夜〟を越えた暁に』
トクン、と胸が高鳴ります。闇の勇者ノエルさん。肉親と関係者以外ではじめて出逢った、とても優しい黒の瞳をした男の子のお友だち。
それだけじゃなく、もしかしたらいつか私に触れ――いえ。ぶんぶんと首を振ると、いまはただぎゅっと、大好きな妹とお友だちからもらった勇気をにぎりしめました。
それから右手で、いつもつけている眼鏡型の魔力抑制器を外し、左手には小型の魔力通信器を手に、禍々しく浮かぶ赤い月をキッとにらみつけます。
『お父さま。聞こえますか? 千視姫レーヤヴィヤ・ディネライア。これより夜明けまで〝赤キ月ノ夜〟の巡視のお役目に入ります。なにか見つけ次第、一報しますので、即応を』
『うむ。頼むぞ。レーヤ。……ププルともども、苦労をかけて……すまぬ』
国王であるお父さまの精いっぱいの、不器用な謝罪と愛情。
思わずくす、と吹きだし、つぶやいてしまいました。
「いまの聞いた? ププルちゃん。ふふ。起きたら、貴女にもちゃんと伝えてあげるね――【千視・地平の眼】」
あふれ出る魔力を調節し、全面に覆われた窓ごしに到底肉眼では見通すことのできない彼方まで。
「レーねえ、がんばるからね……! ププルちゃんに、負けないくらい……!」
――この部屋が私の戦場。
こうして、ここでただ視ることしかできない私の精いっぱいの戦いは、はじまりました。
最愛の妹から引き継ぐかたちで、この昏い赤き月の夜明けを目指して。
ということで、ひさしぶりの登場の千視姫レーヤの視点から〝赤キ月ノ夜〟開始です。まずは導入。
直接戦うことのできないレーヤとププルの姉妹姫も、それぞれの戦場で戦っています。
どうやら騎士組は一線を引いているせいか、お友だち認定されていないようです。それなりに大切には思われているはずですが。
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では、次回「〝赤キ月ノ夜〟2ー叫び、嗤い、笑う」にて。
12月4日公開予定!
それでは、今後ともよろしくお願いいたします!





