261話 前夜祭(3)。※
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別視点。あちらの視点、これでひとまず最後です。
本日もよろしくお願いいたします!
ぱしゃっ。
「人間たちはたしかにその知恵と知識をもって、〝魔物大行軍〟を事実上克服し、いまや災厄は名ばかりのものとなった。でも、そんな予定調和じゃつまらない――そうは思わない? 〝E〟」
「……で? だから、お前がひっかきまわしてやろうとでも? いったいどういうつもりだ? 【錬金魔王】アーリケ・リリミエスタ。こんな夜半に俺を、それもこんな浴場まで呼びだしておいて」
「あら? どうしたのかしら? うふふ。ちっともうれしくなさそうじゃない? せっかくわたしという淑女がふたりっきりで、こうしてあなたの前にやわ肌を惜しげもなくさらしているというのに」
ふわりと湯気を立てる白い石造りの豪奢な浴場。
薄桃に染まる湯に浸かるアーリケはちゃぷ、と腕をのばすと、艶めく白い肌をこれ見よがしにつう、と指でなぞる。
その浴槽のすぐそばには、小テーブルと椅子が備えられ、主人のためにグラスと瓶を用意したメイド服を着た女使用人が控えていた。
ただし、その顔には感情が欠落したかのように表情がない。
石造りの壁によりかかる剣士風の装束を着た仮面の男〝E〟は、ちらりと女使用人に目を向けてから口を開いた。
「ふん。先に出立したあの【魔将】とかいう空虚な称号を与えられて悦に入る低俗な魔物ども二匹ならいざ知らず。数百年以上生きているという実態はどうあれ、この俺がお前のような幼い少女姿の裸身に興味などあるか。ましてや、わけもわからないモノが立ち並ぶ腑分け場も同然の薬品くさいお前の実験室に、辟易するような血と死臭のこびりついた洗い場を通り抜けさせられたあとなら、なおのことだ」
「あら? しかたないじゃない? 〝E〟。だって、これが一番合理的な構造なのだもの。それに、うふふ。わたしは、とてもとてもいいにおいだと思うのだけれど。この浴場に漂うかぐわしい花の香油も、実験室や洗い場に染みついた血や腑に死臭、すえた薬品も、うふふ。どれも等しくわたしの胸を高鳴らせる、すばらしいにおいだわ」
ぱしゃんっ。
薄く濁る桃色の湯を両手ですくいあげ、うっとりと目を細めて嗅いでから、戯れにそれを左右にまき散らす。まるで引き裂くような動作のそれは、どこか鮮血を思わせた。
「……凶人が。さっさと用件をいえ。それが済めば、もう俺もこの城を出立する。半日以上経ったいまなら、先行するいまいましいあの二匹に道中で遭遇することもないだろうからな」
「あら。そういえば、昼間はずいぶんおとなしかったわね? 〝E〟。ハルヴとキュレの前であなた、ひと言も発そうとしなかったじゃない?」
「その必要を感じなかっただけだ。いいから勿体ぶらずに、さっさと用件をいえ」
「うふふ」
ばしゃっ。
薄く笑みを浮かべながら水音とともに立ち上がり浴槽を出ると、女使用人にうやうやしく差しだされた肘かけのついた椅子にぺたりと腰かける。
そのまま雫の滴るその体を隠そうともせずに足だけを組むと、アーリケは悪戯っぽい視線を仮面の男に向けた。
「ハルヴに胸ぐらをつかまれたときも、抵抗するそぶりすら見せなかったものね。〝E〟。傲岸なあなたのことだから、てっきりわたしが与えたその右腕で闇の魔剣を抜き放ってしまうのではないかと、ついあわてて止めてしまったのだけれど、うふふ。もしかして怖くて縮こまってしまったのかしら?」
「……何度もいわせるな。いまはその必要を感じなかっただけだ。それに、与えただと? 恩着せがましいことを。これは、俺がお前との取引で勝ちとった俺自身の力。なにも引き換えにせずただ因子とやらを与えられて、嬉々としてお前に尻尾を振るあの二匹といっしょにしないでもらおうか。もういい。これ以上無駄に焦らすようなら――」
「うふふ。せっかちね。ほんの軽い冗談なのに。〝E〟。あなたに頼みたいのは、これ」
かざしたアーリケの左手の指輪の先、亜空間収納が展開する。
中空からぼとりと落ちてきたのは、彼女自身の魔力の膜に何重にもつつまれた紅いひとかかえもあるほどの丸い丸い物体。
「これは……粘体? だが亜空間収納には制限により生物は入れられないはず――」
「うふふ。おどろいてくれたかしら? わたしが研究した、特別に調節した魔力で何重にもつつむことで生物でないと偽装する最近実用化したばかりの技術。もっとも意志薄弱な粘体くらいじゃないと暴れられてすぐに破れてしまう程度の脆弱なものなのだけれど」
カツン。
「ふん。なるほどな。で、これを俺にディネライア王国のどこかに撒いてこいというわけか。それにしても、お盛んなことだな。【創魔争喰祭】とかいう王都を巻きこむ乱痴気騒ぎを控えておきながら、お前のいうところのその前夜祭である〝赤キ月ノ夜〟にまで横やりを出さずにいられないとは。ふん。人間どもを苦しめる機会は一度たりとも逃せないというわけか? 【錬金魔王】アーリケ・リリミエスタ」
話している合間に女使用人が用意した、トクトクと芳醇に香る赤い液体がそそがれた細長いグラスをアーリケが右手でつまみ、左右に揺らす。
「うふふ。そんなに褒めてもなにもでないわよ? 〝E〟。まあ、といってもそんなにたいしたものではないわ。今回用意したそれは、ほんの片手間の研究でつくりあげた、せいぜい嫌がらせにしかならない程度。なにせ、たまたま観測用のわたしの〝眼〟がとらえた小さな事件で目にした、もとはあなたと同じ人間が考えた代物をわたし好みにほんの少し改良しただけのものだもの。ああ。でも、その事件ではじめて目にしたのよね。あなたと同じ可能性を持つ、あなたがご執心のあなたの対となる闇の勇者を」
「っ……ノエル・レイス……!」
アーリケのその単語を耳にしたと同時、仮面の奥の男の形相が凄絶にゆがんだ。
拾いあげた魔力の膜につつまれた紅い粘体を左手の腕輪の亜空間収納にしまいこむと、グラスを揺らしもてあそぶアーリケに向きなおる。
「うふふ。とてもいい表情ね? 〝E〟。そうそう。その事件であの子はたしか、それの基になったものをこう呼んでいたわ」
右手の赤い液体をあおり、アーリケの白い喉がひと息に飲み下した。
「そう。超大暴食黒粘体と」
――そして、〝赤キ月ノ夜〟は訪れる。
ということで、【錬金魔王】アーリケ・リリミエスタの入浴回という名のパワハラ第2弾でした。
会話ばかりで絵面が地味なので、そうだ! お風呂に入らせよう! と思ったまではいいのですが、〝E〟の人物像、アーリケとの歪んだ関係性、〝赤キ月ノ夜〟の前振り、と全部まとめるのに四苦八苦。あと感情の欠落した女使用人も。
結果、4回ほど書き直すことになり、おとどけするのが遅くなってしまいました。すみません。
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では、次回
「〝赤キ月ノ夜〟のはじまりと姉妹姫の戦い」にて!
前振りも終わり、2章最終盤の〝赤キ月ノ夜〟の戦いへといよいよ突入します! 11月22日公開予定!
それでは、今後ともよろしくお願いいたします!





